198話 ジャッカルと出会ったら逃げるウサ
ハワワとステールに変装しているカナタは慌てていた。カナタは非日常を求めている。怪奇現象から、宇宙人との出会いまでドンと来いだ。呪いのビデオがあれば見に行って、もう再生できる機器が無いよとテープを見て嘆き、宇宙人を呼び出すとオカルト研が口にすれば、ベントラーベントラーと、ダンス大会で入賞できるレベルの踊りを披露する。
鶴城カナタはそれだけ非日常を求めていた。まぁ、学校の自己紹介ではっちゃけるほど、非常識ではないが。
だが、その中に王族との会談はなかった。異世界で王族に会うのは楽しそうなので良いが、地球のお偉いさんである王女と会談することはカナタ的に非日常の枠には入れてなかった。
連合の大統領とか、王国の王女様とか、緊張するだけで面白くないのであるからして。守里やサラスとお茶を飲む方が遥かにマシだよと、口元を引きつらせて背筋をピンと伸ばしちゃう。
私よりもミニウサギたちに目を向けて欲しいんだよね。だって彼らは宇宙人。私はただのどこにでもいる女子高生なんだよと、目を彷徨わせるが、がっちりとロックされている気配をビシビシ感じてしまう。
もちろんエラ王女は逃すつもりはない。守里もサラスも逃すつもりはない。出雲大尉たちは、さて宇宙人の食べ物を食べるかと、そっぽを向いていた。大人たちは厄介な匂いを感じで逃げに入った。ご飯奢ったのに酷いよとカナタは頬を膨らませる。
「私の名前はエラ・サンドリヨン・フランクと申します。フランク王国の第一王女です。素敵な殿方のお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
わぁ、王女様だと、カナタは破れているスカートの裾を持ち、カーテーシーをして見せるエラ王女に感動した。子供の頃から身についた上品な所作は、ボロ布を纏っていても隠せるものではなく、高貴な人って本当にいるんだなぁと。
こちらをじっと見つめて、ふわりとした花のような笑みを浮かべるエラ王女。素敵な殿方って誰なのかなとカナタは隣を見るが、知り合いでもある出雲のおじさんは豪快とは言えるけど、素敵なとは言えないよねと、結構辛辣な評価をして、キョロキョロと周りを見渡す。もしかしたら鏡さんがいるかと思ったのだ。
「きっと君のことウサ。男に変装しているの忘れているウサね」
「え? はっ、そうだったよ!」
ロロがちまちまとチーズケーキをフォークで小さく切り分けながら、空いた片手でカナタの脇腹をつつくので、ハッと思い出した。たしかなんとかさんに変装していたんだ。
「ロロちゃん、私の名前はなんて言うのかな?」
「たしか………ロミウサ?」
なんとかさん、ほら、あの、なんとかさんと、名前をすっかり忘れた格闘少女はロロへと尋ねて、コテンと小首を傾げて、適当極まる返答をするミニウサギ。たんに人参が食べたいだけのウサギである。というか変装時の名前なんか知らないウサ。
そして、その話し合いは目の前のエラ王女たちにもばっちりと聞こえていた。え、なんだってと聞き直してはくれないタイプである。それどころか、ギラリと目を光らせる。守里とサラスはカナタをジロジロと見て、どこか綻びがないか観察してきた。
「なるほど。そうですわよね。まさかその姿で出歩くわけにはいきませんもの。それでは、お名前をお聞きするのは無理でしょうか?」
目の前の人は異星人に雇われている。たしかに無防備に外を歩けば、ダース単位でスパイや政府の者が群がるだろう。まさかその姿が本物であるわけではなかったのだ。迂闊と言えよう。
そして、エラ王女は言葉の端を掴んで理解したことがある。役に立たないウサギ星人の利用方法を。
「あ〜。すいません。名前はオフレコでお願いします」
アハハと空笑いをして、名乗ってもいないのに、オフレコと言うパニクリ少女に、微かに首を傾けて、エラ王女は皆が見惚れる笑みで、ロロへと話しかける。
「この方はお知り合いなのでしょうか、ロロ様?」
「宇宙港が完成したらすぐに来たウサね」
「そうなんですか、どなたがお雇いになられたのでしょう?」
「この娘の雇い主ウサ。強化人間は便利ウサね」
ペラペラと喋るロロ。今までの秘密主義が嘘のように立て板に水と話す。その様子を見て、カナタは名前は言わないでねと焦るが、さすがにそこは理解しているので話すつもりはない。アリスにうさぎのソテーにされたくないので。
反対に名前以外なら、話しても構わないウサねと気にしないミニウサギ。
エラ王女はやはりと目を光らせた。このミニウサギたちは地球人を同じ知性生命体と考えていない。だから、その情報を気にすることもないのだと理解した。その差別主義には閉口するが、今回はそれが上手く働いていた。
僅かな会話から、そのことに気づくのは、権力争いで激しい王族だからだと言えよう。
「強化人間ですか。どちらの強化人間でしたのかしら?」
多少は目の前の異星人に雇われている人の不興は買うだろうが、大金と高待遇で引き入れることに決めている。王族だからこそ、他の国では行えない贅沢な高待遇を約束できるのだ。なので、エラはまずはこの人の正体を探るようにした。
「どこだったかなぁ。わすれたなー」
棒読みで日本語を口にするカナタ。誤魔化すつもりなら、日本語で話すのを止めたらどうだろうか。しかし、カナタは英語はいまいちだった。きっと日常会話では、アイキャンノットイングリッシュとしか言えないだろう。
「むむ、あからさますぎて怪しいね」
「う〜ん、隠蔽してるのでしょうか〜?」
深読みをしすぎて、天才科学者たちはステールと名乗る男の正体が誰なのかとますます疑り深くなる。しかし、エラは違った。強化人間というのは本当のことなのだろうと推測する。ロロは嘘をつかないと信じていた。伊達に週1でやる気のないうさぎ公務員と毎日お茶をしていないのだ。このミニウサギは嘘をつくほど、地球人に気を遣うことはない。
そして、持ち前の王族特有の観察力から、この男が本当は女性。しかも年若いと推測した。それに加えて強化人間となれば、どこで拾われたのかも探せるかもしれない。
エラ王女は少しばかり想像を逞しくして考える。変装しており、一見男のように聞こえる話しぶりだが、言葉の端々で年若い少女のような感じを与えてくる。
普通はそこまで若い強化人間はいない。強化人間はこの時代では廃り、兵器開発に力を入れられているからだ。優れた肉体を持つ強化人間よりも、優れた機械を作り上げる方が遥かにローリスクでハイターンであるが、しかし、北米連邦などは僅かながらも強化人間を作っているらしい。
強化人間は精神が不安定であり、道具扱いもされるのだとか。この少女はその研究所の中の一人なのではないだろうか?
悲惨な境遇の研究所、実験体として、道具として使われて、酷い待遇で暮らす少女は、ある日異星人がやってきて、救われる。それは地球を裏切り、異星人に魂を売る行為であったが、少女は地球には憎悪と嫌悪しか持たないので、まったく躊躇うことなく、異星人の部下になるのであった。
多少妄想逞しいが、少し頭が足りなさそうだし、ろくな教育も受けていなさそうなので、当たらずとも遠からずだろうとエラ王女は考えた。
守里たちには劣るが、それでも最高の教育を受けてきた才能溢れる王女は自分を基準に、一般的な女子高生の頭を、ろくな教育を受けてこなかったのだろうと決めてしまうのであった。
実際にロロは嘘をついていない。強化人間とは、宇宙港に雇われた際に強化されるから強化人間となるのだ。警備員は宇宙港にいるか、宇宙港関連の仕事の時だけ、警備員としてのレベルを付与されるのだから。
そんなこととは思いもよらないエラ王女は世界各地の強化人間の研究所を調査して、該当する少女がいないかと考えて、その様子を見ていた守里もサラスも、ロロが嘘をついていないと悟り、同じことを考えた。地球人を知性生命体と考えていないからこそ、嘘はつく必要もないのだろうと。
3人がバチバチと火花を散らし、少しでも情報を得ようと行動に移す。何しろ銀河共通通貨を持っている存在だ。これまでの苦労を解決できるキーパーソンなのだから。
カナタはそんな3人を見て、内心で胸を撫で下ろす。やっぱり地球人よりも異星人を気にするよねと、話しかけられないことに安堵の息を吐くと、自分が買った白玉あんみつをパクリと食べる。
「なにげに、異星人の食べ物は初めてだよ。アリスちゃんは食べ物はくれないから」
宇宙語が読めれば、レベル18白玉あんみつと書いてあるのが読めるだろうが、とりあえず地球のあんみつと同じ見た目だと思っていた。口に入れるまでは。
「な、なにこれ!」
驚愕で瞠目して、手が震える。気づくと周りもシンと静まり返っていた。エラ王女たちも、周りの様子に怪訝に思い、皆が異星人の料理、たぶん地球に合わせて作られたのだろうアイスやケーキを口にして驚いていることに気づいたので、自分たちも食べてみる。
「な、これは!」
「はっ、まいったね、これは」
「おぉ〜………次元が違いまーす」
美味しい。そのレベルは10を超えている料理。ステータス補正がはっきりと現れるレベルとなる10を超えた料理の味に地球人は驚いた。
白玉を噛むと身体全体で、その柔らかな感触を感じ、その味ははっきりと口に残る。味が薄い、濃いというのではない。はっきりとわかるのだ。普通なら食通ならば見分けることができるかもしれない料理だ。隠し味やら、その味の組み立てはよほど鋭敏な舌を持たなければ、わからない。
だが、目の前の白玉あんみつは違う。どのような味かわかるのだ。何が使われているのか理解できて、しかもはっきりとわかるのに、味が搗ち合い争うことはない。全身で味を感じることができるという不思議な感覚と美味さに陶然となる。
エラたちも驚愕し、陶然となり、会話も忘れて夢中になってバクバク食べ始めた。
「ど、どうして、あの娘はこんなにも美味しい食べ物があるのに、あかさたなの料理が食べられるのかな?」
カナタは疑問でいっぱいとなるが、アリスの主食はりんごか腐った料理なのであたりまえである。レベルが高い腐った食べ物は、それはそれは不味いのだ。なので、アリスはあかさたなの料理も美味しく食べられるのだ。だいたい鏡が悪いということである。
エラ王女はなぜミニウサギたちが王国の宮廷料理人が作ったお菓子を不味そうに食べるのか理解して羞恥で赤面した。この味を日常的に食べているのなら、地球の食べ物は不味いに決まっている。予想よりもミニウサギたちは優しいらしい。
フロンティアでもこんなにも美味しい料理はなかったなぁと首を傾げるカナタだが、料理スキルを持たないので、レベルの付いた料理は作れないのだから当たり前だった。
思いがけず、皆が料理に夢中になり、カナタの正体探しが有耶無耶となる。
「もっと教えてあげるウサ。このタブを押すと、デザートから軽食に変わるウサよ」
デザートをペロリと食べて、ミニウサギが親切めかして、軽食をポチポチと押下する。ウサもウサもと教えてあげるウサと、集るハイエナうさぎたち。
カナタは他の人に比べると食べ物の耐性はあるので、こっそりとカードを犠牲にして逃げ出すことに決めた。廊下を駆けながらヘルプミーと通信を送る。
「こちらカナタ! アリスちゃん、こっちはまずいことになっているよ、早く合流しようよ〜」
「それが敵が強いんです。苦戦確実なので、駆逐するまで頑張るので、少しお待ちを。今日は黒字確実です」
むふふと鈴を転がすような可愛らしい声音のアリス。苦戦を楽しむ声だ。その声を聞いて、絶対に暫くは合流できないだろうなと嘆息するのであった。
なんにせよ、カナタの夏休みの冒険は終わりらしい。自由研究はこのことを書こうかなとか考えて部屋に閉じこもることに決めるのであった。




