19話 ゲーム少女は地球の戸籍を手に入れる
ポチャリとちっこい手のひらからお湯を零しながら、むふふとアリスは小さく微笑みを浮かべた。ちゃぽちゃぽとお湯に手を入れて、水遊びのように遊ぶ。
「良いですね。とても気持ち良いですね。旧型でもお風呂はそんなに変わらないですね」
顔を少しお湯につけて、ぶくぶくと息を吐いてご機嫌だ。
そんなアリスはどこにいるのかというと、地球は日本、鏡の家のお風呂に入って寛いでいた。
きめ細かい美しい傷一つ無い肌を見ながら、お風呂は気持ち良いですねとご機嫌なアリス。時間は真夜中だが、一軒家であるし、結構な豪邸なので、特に夜中にお風呂に入ることに抵抗はない。
旧型であるが、機械と名付けられれば全て機械操作スキルによりレベルに応じた操作ができるため、なんの苦もなくお風呂を沸かしたのであった。
髪の毛までもお風呂につけているアリスであるが問題はない。艷やかであり、枝毛もできないし、肌だって染み一つ作らない世の女性が羨むゲーム仕様の少女であった。
「さて、身体を洗ったらしばらく温まって出ましょうか」
そう呟くと湯船からザバンと出て石鹸を手に取るのであった。
しばらくしてから、ようやくお風呂から出てくるアリス。長風呂が大好きなので、小柄なちっこい身体から湯気をたたせて幸せそうにリビングルームへと入ってきた。
リビングルームでは、のんびりと空中に浮きながらおっさんフェアリーがテレビを見ている。深夜なのでいまいち面白味がなさそうな表情だ。アリスが戻ってきたのを見て、声をかけてくる。
「おぉ〜、ようやくでたか〜」
覗こうとは思わなかったおっさんフェアリー。さすがに美少女にそれをやるのは洒落にならないので。おっさんは常識を持っているのでアニメとかの殴られ役みたいには行動できなかったりする。
「良いお湯でした。気持ち良かったです」
以前は裕福な生活になったら、結構頻繁にお風呂に入っていたので。なぜならば汚れていると、相手に嫌がられて、会話の選択肢が良い物が出ないときがあるからだ。
そうしてリビングルームで、アリスが髪の毛をサッと手漉きすると、不思議なことにあっという間に乾いてしまう。ゲーム仕様なので、水に濡れたりしても30秒ぐらいで乾くのだ。汚れは落ちない仕様なので、そこは面倒なのだが。
その様子を感心しながら見て、鏡はゲーム仕様すぎて呆れてしまう。
「他人と海とかプールにはいけないかもな、これは」
数十秒で髪の毛が乾く生命体など、地球人ではあるまい。気をつけないといけないねと苦笑しつつ、鏡は覚えておくことにした。
まぁ、そんなことは滅多に起きないだろうと考えながら、テーブルに置いてあるパソコンを指差す。
「それじゃ戸籍の偽造ができるか試してみてくれ」
アリスの顔を見ながら、鏡は真剣な表情を浮かべて真面目な声音で語る。
「了解です。レベルも10を超えました。とりあえず必要レベルには達しましたので、確認してみましょう」
偽造は慣れているアリス。敵の基地に侵入したり、敵対国家へ入る際に何度も作ったからだ。この惑星の科学レベルはいくつかなと思いながら行動を開始する。
紅葉のような、ちっこいおててをパソコンに翳して、スキルを発動させた。超常の力が発動して空気が僅かに陽炎のように揺らめく。
『電子解析』
一瞬波動の波がパソコンへ向かうがすぐに消えていく。そしてあっさりとこの惑星の科学レベルを示す解析結果が表示された。
『クラッキング必要レベル5』
それを見て、まぁ大体は予想通りだねと頷くアリス。序盤のクエストでそんなに高レベルの電子操術は必要ないと想定していたからだ。
「それでもこのレベルは予想外です。玩具の電子金庫並みですね」
これでは偽造し放題だねと呆れながら、次なる行動に移す。
『クラッキング』
自らの戸籍を偽造するためだ。偽装スキルの補正ボーナスもあるので成功率はかなり高い。
スキルを発動させてクラッキングが行われる。相手のサーバーへ侵入して、情報を書き換えようとするアリス。
そんなアリスの眼前にパズルゲームが現れる。難易度はイージーと表示された。時間内に決められた形にすれば成功となるパズルゲームだ。
「これなら楽勝ですね。ほいほいっと」
パズルゲームを始めるアリス。それを後ろから呆然とした表情で見守るおっさんフェアリー。
「マジかよ。え? ミニゲームになっちゃうの? ゲーム仕様のクラッキングになるわけ?」
ミニゲームはあらゆる成功判定に行われるAHOの判定ゲームである。クリアしたら成功するのだ。
現実世界でもそうなのかよと、驚き呆れるおっさんフェアリーを放置しながらアリスは簡単そうにほいほいっとミニゲームをクリアした。
ミニゲームがクリアされると同時にクラッキングは始まる。それは相手のサーバーに操作ログも侵入ログも残さない。それどころか、制限されたネットワーク帯でしか接続できないはずなのに、ネットワークが繋がっているところであれば、簡単に侵入してパスワードすらもあっさりと解読してしまった。
そうして、アリスの戸籍は簡単に作られたのである。この状況を政府関係者が見たら絶叫することは間違いない。今の世の中で完全にネットワークと接続しない機械など、ほんの一部であるからして、この力がバレれば世界は崩壊するかもしれない。
まぁ、見た目は可愛らしい少女が、んしょんしょとゲームを遊んでいるだけに見えるのだが。
「鏡、戸籍が完成しましたよ」
「ほう、どれどれ?」
二人でパソコンに表示された戸籍の内容を見る。
「魔風アリス。15歳。母親が死亡してようやく認知した父親である俺に引き取られる。中卒か………」
ギギィッと首をアリスへと動かして
「これだけ見ると、俺は最低野郎じゃない? 金はあるのに認知しないで、子供を高校にも進学させないなんて? どう考えても最低野郎だよね? 俺の社会的地位が消えそうな勢いなんだけど? 親や妹には見せれない関係だよね?」
「よく意味がわかりませんが、自由に行動できて、かつ金がある人間と考えたら、これが作成されました。なので、問題はないかと」
可愛く小首を傾げて、なにが不満なのやらとおっさんフェアリーの苦悩をまったく考慮しないアリスは成功だねと満足した。
はぁと深く何かを諦めるため息を吐いて項垂れるおっさんフェアリーを放置して
「では、おやすみなさい。私は寝室のフカフカベッドで寝ますね」
ちょこんと頭を下げて挨拶をしたら、アリスは寝室へと就寝に向かうのであった。
「まずいな……。いつも小遣いをせびりに来る姪がきたりして、アリスが出会うと確実に親父たちまで連絡いくよな………。あとでなにかしら考えないと……」
なんだか困ったように、考え込みながら呟く鏡を放置して。
チュンチュンと雀が鳴いて、カーテン越しに陽射しが入ってくるので、アリスはふわぁと可愛くあくびをして起床する。
寝るときはパジャママクロを使用して、ジャージ姿となっている。なので、新規に作成したハンターマクロを使用して、瞬時に装備を入れ替えてリビングルームへと移動した。
リビングルームには空中に器用に浮かびながら、横になり寝ている鏡がいる。起こそうかと迷ったが別に良いだろう。
そう考えて気づく。くぅとお腹が鳴いている。むむっとステータスボードを見ると満腹度は5%であった。あんまりにも満腹度が低いと可愛くお腹がなっちゃうのであるゲーム少女だ。
「お腹が空きましたが……。冷蔵庫は空ですね」
自分で氷すらも格納して空にしたのだから当然である。
「この金貨というやつは使えるのでしょうか?」
どうも文明度が違うが、同じ惑星なら使えるだろうとアリスは寝ているおっさんフェアリーを放置して外に行くことにした。おっさんフェアリーは範囲外に出ると引きずられるようについてくるが、起きる様子はない。壁も何もかも透過してしまうためである。
「では、辺境のご飯を味わってみましょう!」
わくわくしながら呟いて、家から出る。るんるんとスキップしながらの移動である。
近所の人々はまだ朝早いために外にはいなかった。アリスというか、おっさんフェアリーには幸いだっただろう。
そして、アリスは鏡の家からは豪邸ですねと外から見た感想を呟いて、このクエストがクリアできれば私の物になるのですねと嬉しく思い、地球は日本の街中へと歩いて行くのであった。




