18話 ゲーム少女は宿屋に戻る
てこてこと歩きながらアリスはステータスボードを確認していた。先程レベルが予想外に11となったことを確認してご満悦な微笑みを浮かべており愛らしい。
「リポップしないと鏡は言っていましたが、どうやらゾンビはリポップするみたいですよ?」
総数50を超えたゾンビを倒したアリスはおっさんフェアリーへと、先程門兵から聞いた内容を伝えて、非難の視線を向けて話しかける。
「あぁ、あれはリポップじゃなくて、新たに発生するの。どうやら大きな墓場では起きやすい現象らしいぞ?」
「リポップではないですか。この惑星独自の言い方を先程の門兵は言っていたのでしょう」
腕を組んで、きっとそうに違いないと、可愛らしく頷くアリス。そう言われると同じにしか聞こえないなと鏡も苦笑をする。
アリスは残念そうな顔で、話を続ける。
「ですが、リポップは半年は待たないといけないとか。ここのリポップ率っておかしいですよね? 普通は最大で1週間でしたよ。他の惑星では。しかも物凄い貴重なアイテムを持っているレアなアストラル体でした。雑魚なのに、半年っておかしいですよね?」
不満そうに可愛いお口を尖らせて、アリスは愚痴を言う。でも、経験値は低いからもうあそこはいいかな、それにアイテムドロップは無いしと気を取り直した。
「では、ステータスを平均に割り振ります。そして、スキルを取得っと」
ポチポチとスキル一覧を叩いて取得する。取得するのは、「弓術、偽装、鷹の目、狩人」である。そしてステータスボードの表示をカスタマイズして完成だ。
こんな感じになった。スキルのレベル表示は消した。何故ならスキルレベルがカンストしているので、基本レベル=スキルレベルなのだから必要ないと感じたのだ。
LV11(-989) next1000MP
ステータスポイント0 スキルポイント0
種族:ロイヤルニュート
状態:体内マテリアル劣化に伴うレベルダウン中
筋力:30
体力:30
器用度:30
超力:30
精神力:30
スキル:【職業】狩人
【物理】銃術、体術、弓術
【超力】空間術、念動術、治癒術、精神術
【感知】気配感知、隠蔽、鷹の目
【看破】解析、目利き
【生産】料理、調合、
【操作】機械操作、電子操術、
【耐性】状態異常耐性
【補助】交渉、演技、偽装
弓術は見たまんま弓を使える。偽装はあらゆるモノに対して偽の存在を見せる事ができる。鷹の目はレベルに応じた遠距離命中率がアップする。
そして職業スキルだが、一定の決まったスキルを取得することによりアンロックされるスキルだ。このスキルは専用武器の性能を100%アップさせる必須スキルである。それと専用に狩人の目(エリア範囲の色々なものを索敵する)を使用できるのである。今回は弓術、気配感知、鷹の目、解析を取得することによりアンロックされたのだ。
本当はガンナーを取得する予定であったが、敵を見つける事が難しいので仕方なく方針を変更させたアリスである。これでレベル上げが格段に簡単になるだろう。
ふんふんと機嫌良く鼻歌を歌いスキップしながら、真夜中の街中を歩くアリスである。
「しかし、ロイヤルニュートは凄い早さでレベルアップするなぁ。さすが最高レア種族だよ、まったく」
鏡はアリスを見ながら、そう声をかけると、ドヤ顔でアリスも答える。
「ふふん、ロイヤルニュートの経験値テーブルは500MPで10レベルまで上がります。以降は10レベル毎に500ずつ必要になるだけですからね」
むふふと口元をによによさせて、胸をはる。褒められるのは大好きなアリスであるからして。
「ロイヤルニュートを出すのに、いくら課金したことやら………」
鏡は肩をおとして呟く。当時、500レベルが限界のAHO。そこに運営が投入したのが、レベル制限突破クエストではなかった。なんと、新たな種族をぶちこんできたのだ。600、700、800、900、1000をレベル限界とする種族の投入である。もちろん一から育てないといけない。しかも課金ガチャであった。
運営はとち狂っただろと、掲示板では荒れまくった。鏡も憤慨したものだ。アイテムや金は今のキャラから送付すれば問題はない。しかし、名声度や友好度、クエストの進行などは全てリセットされるのだから。
もはやこのゲームも終了だねと、噂になったがインフレが激しいゲームである。宇宙艦隊やら何やらを作成できるようになり、コアなファンが運営の掌に踊らされる形で課金を渋々したのであった。もちろん鏡も踊らされて、狙うは1000レベルのロイヤルニュート。数万つぎ込んでようやく出たのがアリスであった。といってもデフォルトなので、顔や姿は作成時に変更をしたのであるが。
そんなロイヤルニュートは500レベルまでは、恐ろしく少ない経験値テーブルであったのだ。運営の僅かな良心だったのだろう。
ドヤ顔のアリスを見て、ロイヤルニュートであることを誇りに思っているのは明らかなので、苦笑交じりにおっさんフェアリーは可愛い美少女を眺めるのであった。
てってこと歩いて、黄金のなにやら亭につくアリス。もうこの酒場兼宿屋の名前は忘れたのである。これから先も色々な宿屋とかに泊まるのにいちいち覚えていられないというアリス理論。まぁ、ゲーマーで全ての街の宿屋の名前を憶えているコアな人もいないと思うので当たり前であろう。
「あぁ、アリスちゃん。部屋にも案内していなかったよね。こっちだよ」
チャシャが宿屋のドアを開けながら、アリスへと顔を向けて声をかけてくる。
「そういえば、部屋も用意しなくてクエストに行っちまったな。これからは気をつけないとな」
鏡が失敗したなという表情で言ってくる。ん?とその問いに疑問に思うアリス。
「宿屋はいつも人がいますから、用意するなんてことは必要ないですよ」
寝るとステータスボーナスが6時間つくので、大体は睡眠をとるアリスである。寝るのは必須だとは考えるが、別に泊まりたい時に泊まればいいでしょうと思う。
かぶりをふって、否定する鏡。宿屋の中へと指さす。
「いや、すぐにわかるよ。………ほらな?」
中は真っ暗であり、宿屋の主人はカウンターにいなかった。
「あれ? もしかして早くもクエストが」
「クエストじゃないからな。たんに寝ているだけだろ」
宿屋の主人がいないのは、クエストではと期待するアリスへと、すぐさまツッコむおっさんフェアリー。まぁ、確かにゲームならクエストが発生する内容だが。
「でも安全管理という点ではやばいよな。押し込み強盗し放題じゃないか」
傭兵団の定宿だから、こんな経営なのかとも考える。ぼろい宿屋だからこそ、真夜中も扉が開いているのではなかろうか。それに傭兵団が大勢いる宿屋には強盗も入るまい。
「その時はクエスト発生ですね。押し込み強盗は大歓迎です」
アリスは強盗が来る方が嬉しい。有名な強盗だと良いアイテムを持っているしとワクワクする。
現実世界なら、レアなアイテムを持っていればそれを売って暮らすだろうから、そんな強盗はいないであろう。
小説みたいに、金貨1000枚はする切り札を喰らえとかいう盗賊はいないのである。その場合、自分の人生をアイテムを売った金貨で食らわすことは間違いない。
そんな宿屋のカウンターは誰もいない。そう思っていたら、ギシッと木の床を踏む音がして奥から筋骨たくましい中年を超えた強面の男性が出てきた。
「意外と遅かったな。お前らのためにドアを開けておいたんだ。上手くいったのか?」
どうやらいつもは戸締まりをしていたらしい。
「アハハ……。凄い数のゾンビを倒してきたので……。私たちは役に立たなかったような感じもするけど……」
空笑いをしながらチャシャたちが言う。ちょっとしょげてもいる。なにせ回復中の護衛しかしていなかったのだから無理はない。
「いえいえ、今日はありがとうございました。回復中の護衛は助かりましたよ。回復中は完全に無防備となるので」
野花のような可愛らしい微笑みを浮かべて、アリスはちょこんと頭を下げてお礼を言う。回復中はどんな攻撃でも受けたら、回復中止となるので、非常に助かったのである。
「えへへ。そう言われると嬉しいな。こちらこそ、助けてくれたお礼だよ」
耳をピコピコ動かしながら喜ぶチャシャ。照れており、頬を少し赤くしている。
「あれぐらいなら楽勝だな」
「次の依頼の時によかったら、一緒にやりましょう」
クロームとブチーダが、それぞれ返答するがさり気なく依頼の誘いも入っているちゃっかり者であった。
話し合う姿を見て、ウンウンと感慨深く頷く宿屋の亭主。新米たちが力を合わせて戦ったのだと思っているのだろう。
しかし、実際はアリスがヒールで敵を倒しまくり終了という、極めてイージーな依頼であった。
「で、お前ら部屋はとるんだろう? 皆同じ部屋で良いか?」
宿屋の亭主が新米は貧乏だから、聞くまでもないという感じで一応尋ねてくる。
「いえ、私は個人部屋でお願いします。一人が良いので」
一応考えているアリス。個人部屋ではないとまずいと考えたので。
「ん? なら銀貨3枚だぞ? 大部屋なら大銅貨5枚だが、良いのか?」
疑問顔で尋ねる宿屋の亭主。靴も履いていない貧乏そうな少女だと考えたからだ。
「銀貨3枚ですね。これでお願いします」
ホイッと、金貨を1枚手渡す。
その無頓着な様子に戸惑いながら受け取り、お釣りを渡す宿屋の亭主。どうやらアリスが神官だとは聞いていないのかもしれない。たんに依頼で遅くなる奴らがいると聞いているだけっぽい。
「2階の奥から2番目の左部屋だ。」
「では、おやすみなさい。チャシャさんたち」
ペコリと頭を下げて、暗闇も気にせずに、てくてくと部屋へ向かうアリスであった。
そうして、部屋についてベッドを見る。藁に布が被さっているだけの粗末なベッドであった。
はぁ〜と嘆息するアリス。大体予想通りでもあったから、驚きはない。なので、寝ることはせずに、ポチリと亜空間倉庫から装備を取り出す。
「レベル10なら普通の装備にできますからね」
ぽいっと服を脱いで亜空間倉庫にしまい、真っ裸になり出てきた装備を着込む。その前におっさんフェアリーへと眼光鋭く睨んで、部屋から出すことも忘れない。
ごついライダースーツみたいな黒い服を着込む。ポケットもあり、ホルスターも完備している。
んしょんしょと可愛らしい小柄な体躯に着せていく。どことなく覗いた人間が背徳感を感じそうな着替えの風景であった。
ピシリと装備を整えたアリス。ようやくチュートリアル終了で、まともな装備となったゲーム少女である。
こんな装備へと変更させた。
装備:無限ハンドガン(攻撃力1)
エネルギーガン(攻撃力30)
ハンタースーツ(防御力20)
ハンターブーツ(防御力5)
ハンターグローブ(防御力5)
白の下着(防御力2)
総合戦闘力213
レベル10から装備できる一式で、自動修復装備もついているユニーク装備でもある。下着以外は。
自分の姿を見て、ようやくまともな装備になったねと、満足して頷くアリス。さすがにジャージ姿で靴なしは卒業だ。
「鏡、戻ってきてください」
声をかけると、壁を抜け出しおっさんフェアリーが出てくる。
「では、鏡の家に戻りましょう。とりあえずは偽装ができるかの確認ですね」
ニッコリと微笑んで、フカフカベッドで最低寝たいよねと考えるゲーム少女であった。




