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ゲームの国の異世界アリス〜異世界と日本を行き来してゲームを楽しみます  作者: バッド
13章 夏休みの大冒険?なゲーム少女

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179話 夢を語る天才少女とゲーム少女

 夜空に星の光が輝いている。既に海遊びは終えて、夕飯も食べ終わり、波の音がザザァンと聞こえてきて、ホテル内のザワザワとした生活音が後ろから聞こえてくる。


 のんびりとした空気の中で、守里はホテルの最上階のテラスに出て、空を見上げていた。


 手に持つ缶ジュースに時折口をつけて、遠い目をして小さくため息を吐く。


「まさかこんな時代が来るなんてねぇ」


 まだ年若い才媛は、皮肉めいた口調で口元を歪めて、また缶ジュースに口をつける。


「なにを黄昏れているんですか〜?」


 手すりにもたれて呟く守里に聞き覚えのある声がかけられる。


「なんだ、サラスか。もう子供たちとの遊びは終わりかい? それともあの男性に振られたかな?」


 振り向くと、ラフな格好のサラスがその健康的な褐色の肌を露出気味に立っている。最近よく一緒に行動を取るようになった美女は守里が羨む豊満な胸を揺らして、ニヤリと笑い近づいてくる。


 わざとらしく自分のスタイルの良さをアピールするのはこの女性の習慣だねと、少し面白くない。自分は成長期という言葉が唯一の希望であるが、薄々もう成長期は終わっていると気づいているので。


「ふふっ。カードゲームは惨敗でーす。あの娘は本当になんでもできるんですね〜。ど〜もイカサマ臭かったでーす。大きく賭けた時に限って、あの娘は必ず良いカードがいきまーす。お陰で持ってきたおつまみを全て奪われました〜」


 肩を竦めて苦笑いをするサラスに、手品も上手いのかと守里も苦笑してしまう。自分は才媛だと多くの人々から言われていたが、あの娘は何でもできそうだ。


「で、なにを黄昏れていたのか教えてくださーい」


「あぁ、この夜空を見てね。少し自分は思い上がっていたと身に沁みていたのさ」


 手を振って守里は空を指し示す。都内から少し離れた海水浴場のホテル。周りは多少は薄暗いが家屋や店舗、他のホテルの放つ光で星の光はそこまで地上まで届いていない。


 太平洋連合の科学者たる守里は様々な場所に行ったことがある。その中には都市から離れた研究所もあった。なので、満天の夜空を見たこともある。この程度の夜空は珍しくともなんともない。以前ならば。


「おぉ〜。詩人ですね、守里。もしかしてこっそりとポエムを綴ったりしてます?」


 サラスは守里が言いたいことを理解して、からかうように笑いながら、隣へと立つ。


「ポエムを書く才能は残念ながら無いよ。でも、この夜空を見ると思ってしまうんだ」


 缶ジュースを振って黄昏れる。自分が最高の頭脳を持っているとは思わなかった。だが、説明をされれば、学べれば、これからの年月を科学者として精進していけば、自分は最高峰の頭脳を持つと、歴史書に名前が残る人間となるだろうと確信していた。夢ではなく、確信していた。それだけ自惚れていた。


「都内でも見れますからね〜。新たな天の川は」


 サラスも守里と同じ気持ちなのかもしれない。自分の頭脳に自信を持っていたからこそ、同じ気持ちであるのだろう。


 夜空には宇宙港から放たれた金色の川が、まるで天の川のように煌々と輝いていた。宇宙人の技術だ。地球人では逆立ちしても不可能な技術。地球上空に建設された宇宙港。理解不能な技術を形にしたもの、光の川だ。観測結果によると3つの宇宙港を繋げているらしい。どのように地球を取り巻くように作り出したのかは不明。その用途も不明。不明尽くしだ。


 その光は地球人などは矮小でたいしたことのない存在だと教えるようだ。


「僕はもう歴史書に残るどころか、有能な科学者とも言われなくなると思うと寂しくてね。意外なことにこれでもプライドがあったらしい」


「秘密裏に宇宙人が動いてくれれば良かったんですけどね〜。これだけ世界中に堂々と姿を現したら、私たちはお払い箱になるかもしれないですね?」


「その通りさ。だから少しだけ黄昏れていたわけ。でもワクワクしてもいるんどけどさ。複雑な乙女心というやつかな」


「お〜、乙女心なら私もわかりますよ」


 ふふふ、クスクスと二人で笑い合う。歴史書に残らない人間となるのは残念だが、まさしく新たな宇宙人の技術を学ぶことができると思うと複雑な気持ちになるのだ。


「これから回想するんですね、わかります。スキップ」


「………なんで君がいるんだい?」


 いつの間にか二人の間にちょこんと座っている最近頭角を現した少女、魔風アリスへとジト目で返す。


 アリスはワクワクと目を輝かせて、二人を見ている。何かを期待している顔だ。何を期待しているのかさっぱりわからない。


「イベントある所にバウンティハンターありです。本当は柱の影などから、偶然聞いてしまう形をとるんですが、面倒くさいので、目の前で聞こうかと。スキップ?」


 コテンと首を傾げちゃう美少女バウンティハンター。夜にこうやって話し合う何か重要そうな人物たち。自分の過去や将来の夢を話し合うイベントだ。だいたい、その後にバウンティハンターが巻き込まれるクエストが発生するのである。


 なので、アリスはイベントは逃さないのだ。カードゲームをしていたら、てこてこと、部屋を出て行った守里とサラスを追いかけたのである。


 ちなみにどこかのおっさんはロビーで鶴城母に子育てとは何かをこんこんと説明されています。おっさんフェアリーはアリスに助けを求める視線を向けて来たが、おっさんフェアリーはいつも窮地に陥っているよねと放置しました。


「相変わらず、君の病は治る兆しはないよね。まぁ、いっか。僕の話を聞いてくれるかい?」


「わかりました。聞きましょう。スキップ」


「それ流行ってるんですか〜?」


 聞きましょうとニコリと可憐な笑みで答えながら、スキップスキップと繰り返して聞く気のまったくないゲーム少女。しかし、いくらスキップと繰り返してもイベントがスキップされないので、う〜んと小首を傾げちゃう。なんどスキップと繰り返してもイベントがスキップされないので、辺境惑星は仕方ないなぁと体育座りをして話を聞くことにする。


 眠くならないように気をつけなくちゃと、睡眠耐性の指輪をこっそりと嵌めたりもした。何日徹夜をしても大丈夫なバウンティハンターだが、会話イベントは眠くなるのだ。


「まぁ……良いか。そうだね、僕は……」


 盾野守里。総合科学部門の若き天才。昨今設立されたあらゆる知識を扱う最も難しいと言われる総合科学部の博士号を最年少で取得した才媛だ。


 守里は幼い頃から類稀な記憶力と理解力、そして応用力を持っており、世界史などは小学生低学年で全て暗記して、SRの構造を小学生高学年で理解した。そして、その才能は太平洋連合が目をつけたのである。


 両親は平凡な人たちで、共稼ぎで他の一般家庭と同じように、そこそこ仲が良く、ベタベタとはしていないが、時折給料日には外食に行くかと、一家揃って出掛ける。極々普通な家族であった。


 守里が頭の良さを見せるまでは。


 守里が、その頭の良さを太平洋連合の知能テストにて見せるまでは。


 あとはお決まりのパターンだ。その頭の良さに守里は政府に売られて、その大金を手にした両親は仕事を辞めて遊び呆ける。守里の存在で、そこそこ幸福であった家庭は崩壊したわけだ。


「よくある話ですね〜」


「ごめん、嘘だ。実際はもっと酷かった」


 後ろ手に胸を反らし、サラスが同情の欠片もない声音で言う。子供が天才の場合はよくある話だ。アリスは舟を漕いで後ろにコロンと転がっていた。数分でも眠くなるバウンティハンター。睡眠耐性の指輪は意味がなかったらしい。


「実際はアナログの目覚まし時計を僕の目の前に置いたんだ。ワクワクした顔でね。期待感に溢れる表情の両親は、わかりやすい結果を目にしたかったんだよ」


「で、どうなったのですか?」


 ニヤニヤと意地悪そうに笑うサラスにジト目で向ける。その結果を予想しているのだろう。


「僕は分解できたが、その時点でバネやネジは足りなかった。頭が良いのと器用であることは別の話と言うわけさ。で、僕は自分で言うのもなんだけど、論文や研究結果で成果を出した。でも、画期的な発明で特許をとることもなかったし、高給ではあるが両親は遊び呆けるほどに金持ちになることもなかった。今も普通の家庭さ」


 アナログの目覚まし時計を分解して、また元に戻すなど不可能であった。時計職人ではないのだ。両親は笑ってたいしたことはないなと言って、頭を撫でてくれたのが悔しい反面嬉しかった。


 家庭が崩壊する話はいくらでも噂で聞いてきた。なので、守里は自分の家庭が崩壊するのを恐れていたが、自分の両親は変人だった。それか、とっても優しい人たちであった。


「この話がどんな意味を持つんですか〜?」


「僕は幼少の頃に挫折を良い感じで乗り越えたから、今回も乗り越えられると言う話さ」


 ニヤリと笑い返して、守里は思う。普通の家庭に育って良かったと。なので、今回の出来事に多少の落胆はしても、すぐに気を取り直すことができる。守里は両親に感謝をしている。


「今後、宇宙人との交流は深まり、地球の技術はこれまでとは大きく変わる。知っていると思っていた物理学は上書きされて、科学技術も様相を変えるだろう。アリス君。ちょうどここにいたのは僥倖だった。僕たちと共に宇宙人の技術を学び解明していこうじゃないか」


 宇宙人が作り出した光の川が煌々と地上を照らす夜空の下で守里はアリスへと凛々しさを感じさせる笑顔で手を伸ばす。アリスはもはや寝っ転がりスヤスヤと寝ていたが、第六感というのか、話が終わりそうだと勘付いて、ちょうど起きていた。


 サラスがその光景を見て、目を細めてフフッと笑う。あんまり感動的でもなかったので、守里は話が下手ですね〜と思っていたが、空気を読んだ。読んだので、第三者目線の感動的光景に見えるようにした。


「お断りします。前も言いましたが私は昔から企業には属さないと決めているのです」


 残念ながらアリスは空気を読んでくれなかったが。


「いや、太平洋連合だよ? 地球で1番の国だ。企業ではないよ?」


 自信があったのだろう。アワワと守里は慌てて、サラスはこうなるだろうなと呆れた。このアリスという少女は見た目も幼いが、その思考も幼い。自分の好き勝手に生きるのが大好きなのだ。残念ながら勧誘はうまくいかなかった。


 やはり親を落とさなくては駄目ですねと、フワァとあくびをして部屋に戻るかと踵を返して


 ピピピと音がしたので眉根をしかめる。


「この音は緊急時用の音でーす」


 胸元からスマフォを引っ張り出す手品を見せて、内容を確認して苦虫を潰したような顔になる。見ると守里の方からも同じ音が響く。


「おー。大変ですよ。沖縄が謎の組織に攻撃されているようでーす」


 その内容は突如として沖縄が攻撃を受けているとのメッセージであった。守里もアリスをなんとか誘おうとしているが、アラームが響いてスマフォを見ていた。


「沖縄だけじゃない。北海道、大阪、九州。同時多発攻撃だね。でもSRは使われていない。全て白兵戦のようだ。各基地に攻撃を仕掛けてきている」


「SRを使っていなければ大丈夫ですか……。でもなんのために?」


 すぐに鎮圧されそうな攻撃だと二人は顔を見合わせて戸惑う。意味がない攻撃である。SRが出ればすぐに終わる話だろう。各基地へとSRはすぐに駆けつけているはずだ。


「失敗するのがわかって攻撃してきたのですかね?」


「陽動ですね。各基地にSRを展開。再度の攻撃に警戒するために待機します。そのため、他の場所に動かせることに躊躇している間に、重要人物を拉致する作戦です」


 アリスがフンスと立ち上がり話に加わる。その答えに守里たちは意外そうに幼さの残る少女に注目する。この娘は軍事にも才能があるのかと。


「守里さんたちの所にも直に盗賊がやってくるでしょう」


「それが本当ならまずいですね〜」


「うん。急いで護衛を呼ぶとしよう」


 守里たちは真剣な表情で駆け出そうとして


 タタタと乾いた銃声が響くと、バタバタと足音荒く戦闘服を着込んだ兵士たちがアサルトライフルを片手に入ってくる。


「動くなっ! 両手をあげて膝をつけ!」


 こちらへと銃口を向けてくる兵士たちに、守里たちは苦々しい顔で両手をあげる。慣れている誘拐未遂だが、今回は規模が違いそうだと思いながら。


 か弱いアリスも両手をあげて、満面の笑顔で膝をつく。今回は抵抗する気ゼロである。


『中東誘拐団が大規模な拉致を開始した。潜水空母で無人島の秘密基地に運ばれた誘拐された人々を助けろ!』


 クエストが発生していたのだ。依頼内容はもっとこまめで、先程説明した裏が書いてあった。なので、さっくりとわかったゲーム少女である。いかなる隠蔽工作も無効化するゲーム少女だ。


「潜水空母とは楽しみです。ワクワクしちゃいますね。格好良いのを希望します」


 無人島とは楽しみだと、むふふとアリスは笑う。バウンティハンターのお出ましだと。

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[良い点]  イベント発生にワックワクのアリスと読者!見せてもらおうか惑星あかさたなの拉致イベントをwww( ̄∀ ̄)カモネギ1丁入りまーす! [気になる点]  アリスのログで犯人丸わかりだけど「中東誘…
[良い点] ロイヤルニュートだし水圧程度では潰れないんだんろうなという安心感 [気になる点] おっさんも捕まってしまったんだろうか…!
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