172話 蛇退治は終了のゲーム少女
アリスはてこてこと歩き回り、ドロップアイテム以外の物を亜空間ポーチに仕舞っていた。ドロップアイテムは自動的に亜空間ポーチに入るが、敵の死骸などは触れないといけないのだ。
誰にもこの餌は渡さないぞと、子犬のように愛らしいゲーム少女は、欠片も残さずに回収していく。機動兵器関連はその全てがお宝である。逃すことは絶対にしない。
ハイエナが横取りしてこないように、エンジェルガンを手にして、ムシュフシュとの戦闘時よりも警戒して、ペチペチとちっこいおててで、残骸を集めていく。奪おうとする敵はガルルとバウンティハンター流のお仕置きをしてあげる予定である。
「マテリアルと経験値はウマウマでした。もう一匹現れないでしょうか」
残念ながら機動兵器のマテリアルは経験値にはならない。それでも経験値もマテリアルも膨大だ。本来は6人パーティーで倒す敵だったような気もするが、倒せたので問題ないですねとスキップスキップランランランのご機嫌アリス。
レベルは一気に上がって211になっていた。かなりの強敵だったのだろう。
『ムシュフシュの宝玉核入手』
「おぉ! 初めて見るアイテムです。やりました。やっちゃいました」
これはレアアイテムだよと、アリスはいそいそと亜空間ポーチに手に入れたアイテムを入れる。こんなアイテムは見たことも聞いたこともない。とんでもないレアアイテムだと大喜びで、花咲くように満面の笑みだ。
『ムシュフシュの宝玉核7個』
「………あれ?」
一個しか手に入らなかったのに、バグかしらん? コテンと首を傾げて不思議そうな表情になるゲーム少女。なんでこんなにたくさんあるのかしらん。
「いや、あいつは2桁台で倒しているぞ。そのアイテムは可変ロボットに使える素材だな。勿体ないから、昔に一機制作しただけだけど」
溶岩フィールドで泳ぎを堪能していたおっさんうさぎがジト目で歩いてくる。黒焦げだったのだが、既に回復済みだ。ダメージ痕は10秒程度で消えるのがバウンティハンターの特徴である。耐久力は大きく減っているけど。
「え〜。あのボスは戦ったことがあるんでしたっけ?」
「ファクトリーに使うレア素材をこのボスはたくさん落としたからな。何回も倒していた。忘れていたのか」
やっぱりなぁと、嘆息する鏡。そんなことを言われてもと、ケロリとした顔で頷くアリスである。サブクエストで倒した相手など、ほとんど覚えていない。
「古代ネットワークにその自我を移した者の末路ですよね。どこかで蘇って、あっという間にバウンティハンターに襲われるまでがパターンです」
古代ネットワークに自我を移した存在は何度も古代兵器が稼働するたびに、その機体に自我を移して復活する。哀れ、ギャラクシーライブラリはすぐに感知して討伐クエストを発行する。バウンティハンターはすぐにクエストを受領して、勇んで退治しに行く。憐れなる死のサイクルに入り込んだのが、禁忌の技を使った者の末路であった。
鏡はそういう設定でマラソンできるボスがいたんだと知っている。アストラル体は勝手にポップするが、人間などはポップしないので、そのような設定になっていたのであった。
やっぱりアリスは忘れていたのねと呆れつつ肩を竦める。
「やれやれだぜ。仕方のない子犬ちゃんだ」
フッと無駄にダンディな笑みを浮かべるが、リアルなうさぎがスンスンと鼻を鳴らすようにしか見えないので不気味である。もちろんおっさんの姿の時は不気味ではない。モザイクがかかるだけである。
おっさんうさぎはリアルすぎて可愛くないですねとアリスは思いながら、考え込む。ミッションクリアの報酬は高複合剤Ⅳ。どんなアイテムの制作時にも使える優れ物だ。良い物を手に入れたとは考えていた。金属屑もエンシェントミスリルⅢを中心に、アダマンタイトⅢやオリハルコンⅢまである。ウハウハであると言えよう。
だが、この基地も欲しい。アイアンマテリアルⅢが使用しており、アリス鉱山の鉱石よりも高価だ。バウンティハンターは全てを回収するのだ。特にアリスはペンペン草まで回収しちゃうのだ。なんなら土地も回収するのだ。
「鏡。ここの基地を解体して回収したいのですが、どうしたらいいでしょうか? この砦に住む山賊を皆殺しにして、確保するのが良いでしょうか?」
外からは悲鳴が聞こえ、黒煙がもうもうと立ち昇っている。ムシュフシュロードの被害はまだ続いているらしい。やはり辺境なのだろう。だいたいボス戦が終了すると、普通なら鎮火するのだが、この惑星は色々おかしいですねと気にしない。
それよりもこの地を確保しなくちゃと、平気な顔で非道なことを口にするアリスであるが、全滅が拠点確保の条件は数多くあるので、ゲーム少女は気にしない。ここは盗賊団の拠点だし。
「う〜ん。どうするかね。ちょっと可哀相な気もするが」
人間族を奴隷にしてこき使っていた国だ。心情的には問題はないが、それはこの世界の文化が低いからだ。地球だって奴隷制度は過去にあった。だからといって、一般人も皆殺しとなると、罪悪感がわく。
早くもアリスはトンテンカンテンと疾風の修理を終えて弾薬を補給している。この街の住人をバギーで皆殺しにするつもりだ。ケチケチアリスは時折赤字になっても、面倒くさいと機動兵器を使っちゃうことが稀にあるのだ。盗賊団とギャラクシーライブラリからは認定されているので、善行が貯まると困るなとも思っていた。
どう止めようか。止めなくて良いかなと、おっさんうさぎも考えるのが面倒になり、アリスを止めることはしない。アリスは鏡の性格を、ゲームの行動を反映した存在だ。即ち、アリスがこうと決めたら、鏡も同様に考えるのである。傍迷惑な二人であった。
だが、非道なことを平気でするアリスたちを呼び止める声があった。
「こ、この街の住民を皆殺しにするというのか」
瓦礫と化したホールにて、崩れた瓦礫の中から老ナーガが傷ついた身体で現れたのだ。ヨロヨロとよろけながら、こちらへと恐怖の表情で聞いてくるので、アリスは素直に頷く。
「細かいアイテムを逃すかもしれませんが、ここまで来るのに倒した盗賊からはゴミしか手に入りませんでしたし。別に良いかなと思っています」
私はなんて太っ腹なのだろうと、うんうんと小柄で細身の身体なアリスは答えてあげる。老ナーガは信じられないと言った口調で喚く。
「殺した後の略奪など誰も聞いておらぬ! 本当に皆殺しにするつもりなのかと聞いているのだ!」
「はい。盗賊は皆殺しが基本ですし。何か問題が?」
老ナーガとやり取りをしながら、これはクエストですね。クエストに決まってます。早くも新しいクエストが始まりそうですと、そわそわアリス。スキップをしないでやり取りを珍しくしていた。
平然とした顔で皆殺しとあっさりと口にする少女を見て、ぞわりと総毛立ち老ナーガのオハラは、目の前の人間が、決して人間などではないと理解した。少女の瞳には特に罪悪感や嗜虐感は見えない。雑草は刈りますと言った日常の仕事のように考えているのだろう。
いかなナーガでも他種族を全滅しようと考える者はいない。いたとしても、狂っているか、復讐か、何らかの要因がある。
だが、目の前の人間の姿をした者にはなんの色も見えなかった。ナーガを石ころだとでも思っているのか、気にする様子は見えない。
ゴクリと喉を鳴らして、人間族の女神が降臨したとの噂を思い出す。もしも神が居たならば、下界の者などはアリのようなものだと考えるかもしれない。いや、まさにそのような存在が目の前にいる。
アリスに立ち向かう際に、オハラだけは部下たちと離れた場所にいた。そのために初撃において、部下は一瞬で死んだが、オハラだけは瓦礫に埋まって助かったのだ。
我らが神を倒した信じられない存在を前に、オハラは悟る。自分がなぜ奇跡的に生き残ったかを。この時のためだ。ナーガ族が全滅しないようにするためだったのだ。
「アリス様! 降伏致します! この拠点は明け渡し、これまでのアリス様への謝罪を込めて、ギゲン王の神器をお渡しも致しましょう」
オハラは額をガツンと床にぶつけて這いつくばって謝罪する。神器を渡すことは王権の放棄を表すので、ギゲン王は話を聞いてくれない可能性は高い。だが、神を相手では神器などは役に立たないと先程の戦闘を見て痛感した。神話の戦いはこれまでの常識を砕き、恐怖で心を上書きしてきた。
「わかりました。降伏を受け入れましょう。受け入れました。信じていました。貴方はきっと神器をくれる蛇さんだと」
あっさりと謝罪を受け入れるアリスである。神器と名の付く物だろうから、きっと凄いアイテムだと小躍りしちゃう。実際にやったぁと、ニコニコスマイルでダンスを踊っちゃうアホ可愛いゲーム少女である。
「これはまたあっさりと……まぁ、良いか。やれやれだぜ」
ていていと、くるくると踊る癒やされアリスを見て、やれやれ星人は肩を竦める。なぜアリスが踊るかは、時折エモーションコマンドで『踊る』を選択していたおっさんのせいである。
「で、では直ぐに王を説得しに帰ります。この拠点の住民は皆連れていきますがよろしいでしょうか?」
「もちろんです。どうやら、拠点として認定もされそうなので、さっさと私の物にしておきますね」
アリスは金銀の鎖が宝石に絡んでいる自分の紋章か描かれた旗を取り出す。3メートルほどの旗だ。
てこてこと歩いて、トントンの壁をよじ登ると屋根に辿り着く。そうして山頂に辿り着いた登山家のように、エイッと旗を突き刺した。
その瞬間、空中には人々に見えるように大きなホログラムが描かれる。
『魔風アリスの拠点となりました』
『敵対勢力は追放されます』
と。そうしてヒュルルーと、どこからか花火がドーンドーンと上がる。大輪を夜が明けて間もない空に咲かせる花火を見上げて、オハラはなんだと驚き、その輝きを目にして
「こ、ここは?」
いつの間にか自分がドームの外にいたことに気づいた。見ると周りにはドームの外縁で見張りをしていた戦士たちもいて、戸惑っている。
「まさか……一瞬で我らを拠点から追い出したのか……」
信じられないことだが、あの少女は一瞬の間に自分たちを外に運んだらしい。その奇跡の力にワナワナと身体が震える。今更ながらに命があったことが信じられない。
「貴様っ! 要塞内に戻ってはならぬ! それよりも街の消火に努めよ!」
戦士の一人が中に入ろうとするので、鋭く叱責する。冗談ではない。要塞内に入ったら、約定を破ったといわれて、今度こそナーガ族は皆殺しにあうかもしれないのだ。
地面には神の一撃であろう。大きく地面が遥か森林まで一直線に抉れて、深い崖になっており、ジュウジュウと熱を発し煙が吹いている。これほどの力を見せた神に反抗するのは危険極まりない。
なにより、オハラは聞いていた。あのうさぎの化け物と少女の会話を。ムシュフシュ様を何度も殺したらしい。即ち神であり神殺しの存在なのだ。
ギゲン王にこのことを伝えねば、国ではなく種族の危機だと思いながら、強く決意をして、部下を集めて指示を出すのであった。
数日後、イーマ王国はアリスシティの属国になるとの使者がアリスシティにやって来た。ナーガ族の名君は、その種族を統一するという野望を頓挫されたのであった。
ちなみに、アリスと鏡の皆殺しは、オハラの恐れていた内容ではない。100人程倒すと、全滅していないのに、盗賊団は全滅しましたとゲームではなるのである。よくあるゲーム設定だが、オハラはもちろんのこと、それを知ることはなかった。
まぁ、現実にそれをするとどうなるか恐ろしい結果となりそうなので、防いだのは賢明であった。




