17話 ゲーム少女のアンデッド退治
既に日は落ちて、墓場は暗闇が支配している。明かりの魔法など望むべくもない平民では、松明の心許ない灯りを頼りに歩いていた。
墓場には常に瘴気とも、怨念とも、無念とも言われる力が発生しており、浄化の神聖魔法を定期的に使用しなければ、聖水で清めることをしていない死体が夜な夜な墓から蠢き徘徊するのだ。
そのために町外れの墓場には常に墓守か兵士が外にゾンビたちが出ないように見張っていた。
しかし、ある程度のゾンビが生まれた場合は、倒さなければならない。だがゾンビは四肢を切り飛ばし身体を砕かなければ倒せなかった。魔法であれば一撃で倒せはするが、そんな汚れ仕事を魔法使いがやるわけがない。
大きい街ならば神官が昼間に浄化をしていく。そうして墓場の安寧は保たれる。もちろん、そこそこ大きいこの街にも神官はいる。だが、もう高齢の神官のために最近は浄化を行えないために誰かが汚れ仕事をしなければならなかった。
その汚れ仕事をするのが、日雇いの食い詰め傭兵たちである。
はした金で働く傭兵は簡単かつ安く使えるために、いつもの如く依頼を領主が出したのだ。放置すれば強力なアンデッドになる可能性もあるために、定期的に出している依頼であった。
ゾンビはそこまで強くはない。腐臭で汚れることを気にしなければ、そこそこ簡単に金を稼げるので、新米傭兵たちがやってきたと門兵は考えた。
明らかに最近になって、傭兵になったとわかる猫人族が3人来たのだ。しかし奇妙なことに、人間族の子供と思わしき少女を連れてきたのだ。
報酬は変わらないために、誰が来ても問題はない。しかし幼さが見える子供を連れてくるのはいくらなんでも酷いのではないかと思い、非難の声で問いただしたところ、猫人族の少女はこの子供を神官だと言う。
ここまで幼い子供が神官だとは聞いたことはない。せめてあと5年は必要だ。簡単な嘘をつくほど、貧乏なのだろうと哀れに思った。よくよく見れば美しい少女であったが、服装は簡単な布の服、そして武器は無く、裸足であったからだ。
子供を連れてくるのは賛成できないが、それだけ貧乏なのだろうと思い、墓場で何もしなくても、見てみぬふりをしてやろうと思っていた。
だが、そんな思いはあっさりと打ち砕かれた。それはまさに簡単な証明の仕方。すなわち、子供と思わしき少女は神聖魔法を使ったのである。門兵は光る神聖魔法を見て、口をポカンと開けて、唖然としたのであった。
アリスは目の前を徘徊しているゾンビとやらを、のほほんと危機など何もないといった感じで見つめて、いつもの力を使う。
『解析』
あっさりと敵の力は超常の力により判明した。
『戦闘力61』
ふむとちっこいおててを顎にあてて、考察する。
「あれはとても弱そうに見えますが、数値の罠というやつですね」
「あぁ、そうだな。ゾンビは多分体力が高く、筋力がそこそこ、他はクズなステータスだろ。普通なら倒しにくい敵だな」
サポートキャラの鏡がゾンビとやらの強さを説明してくれる。なるほど鏡は役に立つねと頷くアリス。既にアリスの中では鏡はサポートキャラ確定である。鏡はこれっぽっちもそんな扱いを受けているとは知らないが。
「ですが、ダーク系な敵なんですよね? 治癒術が特攻な敵なんですよね?」
一応確かめる。ガストと同じなら回復系の術が特攻になるからだ。特攻ならば2倍ダメージは確実。クリティカルが入ればそれだけで戦闘終了かもしれない。
低レベル帯はHPが少ないために、簡単に戦闘が終わる敵がいるのだ。今まさに目の前にいるゾンビとかいうやつみたいに。
腕を組んでおっさんフェアリーが考えながら、答えてくる。
「たぶんな〜。まぁ、アンデッドだから、ガスト系と同じ扱いだろ。とりあえず試してみろよ」
「そうですね。考えるより、攻撃した方が簡単ですし」
脳筋アリスは常に力押しをモットーとしているので仕方ない。謎解きをしないと開かない扉があれば、謎を解く前にドアを破壊するスキルを取るスタイルであるからして。
なので、こちらへと気づいてのそのそと歩いてくるゾンビへと、紅葉のような可愛らしいおててを翳す。
『ヒール』
ぽわんと淡い光り、ゾンビを包み込む。その光りの力によりゾンビはボロボロと身体を崩して灰になっていった。
あっさりと撃破である。チャシャたちはゾンビの前に立ち、アリスを守る。そしてアリスが神聖魔法を使うというスタイルをしようと考えていたので、走り出そうとしていた構えのままポカンと口を開けて唖然としていた。
アリスも驚いていた。なぜ、攻撃をしたアリスも驚いているのかというと
「驚きました。ヒールだけで倒せるとはゾンビはガストよりも遥かに弱い敵なんですね」
予想外にあっさりと倒せたので、ふんふんと鼻息荒く興奮して、鏡へと話しかける。
それを受けて、鏡も今の攻撃で倒れたゾンビの力を考察する。
「そうだな。あんなに弱いとは思わんかった。HPは30以下かぁ? よくわからんがヒールはそれぐらいの回復力だっけ?」
「いいとこ30です。私なら20は最低値を期待できますが」
考えながら、アリスは答える。ステータスは平均なのでそこまでは計算できないけど、低レベルの計算式は簡単なのでさすがに覚えていた。そんな感じだろうと予測する。
そして、輝く笑顔で喜んだ。やった〜とジャンプしたいが我慢をする。
「やりましたよ。これで簡単にレベルアップできます。できちゃいます。なにせあんなに弱い敵です。ここでレベル上げをしましょう!」
経験値は美味しくないが、この墓場にはそこらへんを彷徨いているゾンビとやらが、そこそこ見える。ならば塵も積もれば山となる作戦開始である。ここのゾンビを全て倒せば、レベル10ぐらいは簡単ではなかろうか?
「むぅ……。そこはかとなく、なにか不安を感じるが、まぁ良いだろう。レベル上げ開始だな!」
なにが不安かはわからないが、このおっさんフェアリーはいつも不安を抱いていそうなので、問題はないと思う。
この狩場は頂きですと、アリスは猛然と走り始めるのであった。
猛然とダッシュし始めたアリス。それに気づいてチャシャたちもついてくる。
「ま、待ってくださ〜い。アリスちゃん」
「はえぇ〜! あいつ本当に人間族か?」
「ちょっとこんなに暗いところで走ったら、あぶべっ!」
クロームが木の根っこに足を取られてコケるが、そんなことは気にせずにアリスは敵を探す。
「いました! あそこにカモがいます! ねぎをしょっていますよ!」
叫ぶアリスの目の前には肉がとれ、白目を向いた骨がそこかしこの肉体から覗いているゾンビがいた。普段ゾンビと出会ったら鏡なら見てみぬふりをして、ダッシュで逃げるだろう。とりあえず恐怖という感情は持っていない様子のアリスである。
しかし今回は話が違う。急がないと他のハンターに狩られてしまうかもと、いつものレベル上げの癖で考えるアリス。この惑星はリポップなし。敵も適当にうろついていないので、極めて経験値を稼ぎにくい。
なので、大体美味しい狩場は他のハンターがいたりする。狩場は占有が難しいのだ。他のハンターに良い狩場だと気づかれる前に稼がないとと思って、また見つけたゾンビへと治癒をかける。
『ヒール』
『ヒール』
『ヒール』
『ヒール』
『ヒール』
連続で治癒術を使っていき、墓場は淡い光りに覆われるようになっていく。その光景を見て、驚く門兵たち。詠唱もなしに、強力な治癒術を使う姿を見て驚いている。
「SPが尽きました」
ヒールを使いまくったアリスは当然の如くSPが尽きる。なのでポツリと呟き、アリスは片膝を立てながら、ちょこんと座る。
はぁはぁぜぇぜぇと、息を辛そうに吐きながら、ダラダラと汗をかくチャシャたち。ようやくアリスに追いついたと思ったら、片膝をついて目を瞑るので驚く。なにか信仰している神様への祈りなのだろうか?
「えっと………。アリスちゃん、それはいったいなんの儀式かな?」
おずおずとチャシャが尋ねてくるので、答えてあげる。仕方ないなぁ、辺境の中の辺境はと思いながら。
「これはハンターに伝わる回復する格好です。この格好で休むとSPが30分で全快します」
体力は全然回復しないけどねと、内心で呟く。その言葉を首を傾げながら、不思議そうにチャシャは尋ねてくる。
「SPって、なぁに?」
「術技を使う力ですよ。この惑星では別の呼び方で呼ばれていそうですが」
そろそろこの惑星のしきたりというか、やり方も見えてきた。恐らくは全ての名称に違うこの惑星独自の名称がついているのだと気づいたのである。
「えっと……。魔力って、ことかな? 30分って、どれぐらい? 私たちがその間、アリスちゃんを守るからね!」
トンッと結構ありそうな胸を叩くチャシャ。どうしても役に立ちたい模様。鏡に言わせると下心ありらしいが。
「なるほど、なるほど。確かにゲームの中は、現実世界の6倍の時間経過だったな。そんで5分座っていたら全快するから、6倍で30分な。よくできているや」
感心したようにおっさんフェアリーは頷いているが、スルーして目を瞑るアリスであった。ちなみに話したりしても、この態勢でいれば全快するのである。さすがのゲーム仕様、通常ならばありえない回復速度である話だ。
そして、特に敵は休んでいる間は出てこなく、回復したらまたゾンビ退治。SPが尽きたらまた回復をと繰り返していき………
真夜中となって、ゾンビたちは全滅していた。そこまではいなかったが、アリス的には満足顔である。
「レベル11になりましたね。あとでスキルの取得とステータスアップをしておきましょう」
結構レベル上がりましたねと満面の笑顔になり、ホクホク顔であるアリス。いつもなら簡単なレベル上げだったが、この惑星は敵を探すのが面倒なのであるからして。
まずは職業スキルを取得しないといけないですねとステータス一覧を見て考えるゲーム少女であった。




