15話 ゲーム少女は傭兵に認められる
フワうさぎが10羽カウンターに並んでおり、女団長はそれを見ては悩んでいた。どう扱えば良いかわからないからだ。なので判断はおいて置いて、アリスへと質問をすることにしたのである。
「嬢ちゃん、このフワうさぎを全部買って来たのかい?」
フワうさぎはそこそこ高級品である。しかも毛皮つきならば、いい値段がしただろうに、この靴も履いていない少女がどうやって手に入れたのかを疑問に思い、女団長は尋ねた。
アリスは平然とした表情で、女団長をぱっちりお目々で見ながら、フンスと胸をはってドヤ顔で教えてあげた。
「全部で金貨3枚のところを、金貨2枚まで負けさせて買いました。なんと定価の値段も出していないのに、肉屋さんは全員交渉スキルをもたないというアホさでしたので、情け容赦なく交渉で負けさせたんです」
凄いでしょと満足げで語る。あんなにふんだくれるお店があるなんて、さすが辺境であると感動していた。
だが、女団長は別のところに食いついた。
「金貨? あんた金貨を支払ったのかい! どこにそんな金を持っていたんだい?」
食いっぱぐれの哀れな人間族の少女と考えていたのに、金貨を使ったと聞いて驚く女団長。チャシャたちへと視線を向けて、お前らが払ったのかという意味をこめて睨む。
それに気づいて、チャシャたちは慌てて首をブンブン振って否定した。
「私たちはお金なんて使ってませんよ! それどころか今回の報酬は全部助けて貰った神官様に渡してしまって金欠なんです!」
その言葉に嘘をついていないと感じた女団長はアリスがようやくもしかしたら本物の神官である可能性に辿り着いた。辿り着くまでに遅いと言うなかれ。治癒魔法の使い手はこの街に一人しかいない程に貴重なのに、こんな年端もいかぬ少女が使えるとは考えていなかったのだ。
恐る恐るアリスへと本物か確かめるためにお願いをしてみることにする。近くに座っている部下を呼んでアリスの目の前に座らせる。
「あ〜。神官様? もし良かったらこの男の傷を治してくれないかね? ポーションタイプの効きが悪くて左手がまだ治らないんだ」
ふむとアリスが目の前にきた男の左手を見ると、確かに包帯を巻いており、血が滲んでいる。
『ヒール』
紅葉のようなちっこいおててをかざして治癒術をつかう。ポワンと男を光が覆って消えていく。
周りの団員たちがそれを見て、おぉっと叫び驚く。まさか本当に治癒魔法が使えるとは考えていなかったのだ。
包帯を慌てて取る男性は包帯下にあった傷が無くなっていることに歓声をあげた。
「本当に治癒魔法を使えるのか!」
「凄いぞ、俺らの団は神官様が所属することになるのか!」
「少し無理めな依頼もこれで問題ないな」
好き勝手言う団員たち。それを見て驚きから戻り女団長はアリスへと笑いながら話しかけた。
「ハハッ! まさか本当に神官様とはね! これを最初から見せてくれれば問題はなかったんだけどね」
そして膝をパンと叩いて、皆に聞こえるように宣言した。
「良いだろう。ようこそアリスだったかね? 私はこの傭兵団猫まっしぐらの団長、レイダだ。よろしくね神官様!」
よろしくなと他のキャットニュートもアリスを囲んで笑顔で、挨拶してくる。先程とは大違いだ。
おっさんフェアリーが苦笑いしながら、アリスに話しかけてくる。
「さっきまでは、アリスを下に見ていたのに都合の良い奴らだ。そう思わないか? あと猫まっしぐらって、凄いネーミングセンスじゃない? アリスも猫まっしぐらに所属していますと周りに言わないといけないのかな?」
「よくあることです。私がクエストをクリアすると、皆の態度が変わるというやつは。それに猫まっしぐらでも、犬まっしぐらでも構わないですよ。私はネーミングにこだわることはしないので」
そんなイベントは腐るほど体験しているアリスだ。そこに動揺はない。今までもちょっと力を見せたら態度がコロッと変わる人々を見てきたのだから。あと、ネーミングセンスの酷さも経験済みだ。何しろ自分の超級戦艦は絹ごし豆腐であるからして。
なので私は気にしませんよと言いながらも、ふんふんと鼻息荒い得意げなゲーム少女であった。ちやほやされるのが結構好きなアリスである。いつもはスキップしているので、ますます嬉しいのだ。
「だけどどうしようかね? 悪いけど、フワうさぎの支払いは私はできないよ?」
あくまで腕を見る試験だったのだ。買ってくることは想定にない。レイダが困った表情でこちらへと言ってくるが、反対にアリスは首を傾げて不思議な顔で聞き返す。
「物納クエストなのですから代金なんていらないですよ?」
「金貨払いをしたんだろ? 良いのかい?」
その答えに戸惑うレイダ。貧乏くさい娘だ。靴も履いていない。それなのに気にしない?そこで違和感に気づいた。金を持っているのに、なぜ靴を履いていないのかを。
「金に困っていないのかい? それならなんで靴を履かないんだい? 信仰かなにかかい?」
それなら理由はわかるとレイダは見てくるが、首を振ってあっさりと否定する。
「いえ、単に今は履けない靴なんです。もう少ししたら履けるようになるんですが」
レベル10は欲しいですと思いながら話を続ける。
「それにいつでも私は金欠です。幾ら増えても金欠ですので、誤解なさらないように」
守銭奴なアリスの発言にレイダはこの娘が金に困っていないと判断した。なにか理由があって靴は履かないのだろうと推察した。
アリスはその言葉で話を戻すことにする。
「これで私は入団できたわけですね。早速クエストください」
目当てはクエストだ。討伐クエストを受けて、クエストをこなしつつ、他のアストラル体を倒してレベル上げをしたいのだ。
う〜んと困ったような感じで、髪の毛を撫でながらレイダが言う。
「たしか神聖魔法も使えるって話だよね? それなら夜に現れるゾンビやスケルトン退治をお願いしたいんだけど」
ふむと頷いて、おっさんフェアリーへと尋ねるアリス。
「ゾンビって、なんですか?」
聞いたことのない敵だ。なんだろうと疑問に思う。すぐに鏡はフフンと笑いながら教えてくる。
「ダークアストラル体が憑依したやつだよ。死んだ奴を動かすエネルギー体だな」
「あぁ、死体を操るやつですか。黒いガスト状のやつがとりつくやつですね」
ふむふむと可愛く頷くアリス。それなら何回も倒したよと安心した。墓場から現れるのかと思い至る。
「ならカモがネギを背負って鍋に入っている状態ですね。一気にレベル上げができそうです」
あれは通常攻撃だと倒したら、中のガストが出てくるので、もう一回倒さないといけない面倒なやつである。術で倒すと一回で倒せて楽勝であり、さらに治癒術なら特効だ。
「ガストアストラルと私たちは呼んでいましたが、あれなら楽勝です。わかりました、受けましょう。報酬は?」
「あぁ、助かるよ。あいつらは弱いけど倒すと腐臭で武器防具が臭くなるし、粉々まで砕かないと倒せない面倒なやつらだからね。神聖魔法なら汚れないで倒せるだろう? 報酬はソンビ20体を綺麗に倒してくれれば大銀貨5枚だ」
なかなかの金額ですが、やはりこの星のクレジット払いに通貨がなるんですねとアリスはがっかりする。
ちなみにもうフワうさぎを買う際に通貨の価値は聞いておいた。大金貨▷金貨▷大銀貨▷銀貨▷大銅貨▷銅貨らしい。10枚単位で通貨の大きさが変わるそうな。ただし、この国のレートに従うから他で発行している金貨とまた価値が変わるとか。正直面倒くさい。マテリアルを使えないのは痛いアリスである。
金貨1枚で4人家族が1月暮らせるとか。もう基準がさっぱりな感じなので、気をつけながら交渉スキルをフルに使おうと決意した。
まぁ、所詮ここでしか使えない通貨だ。貯めても仕方ない。目的はレベル上げとマテリアルを稼ぎ、珍しい素材を集めることなので、提示された報酬で構わない。
「わかりました。それでは墓場の場所を教えて貰えますか?」
「あぁ、わかった。チャシャ、墓場の場所へと案内をしな!」
レイダがチャシャに、顔を向けて怒鳴る。
「はい! わかりました!」
元気よく返事をして、チャシャが笑顔でアリスを見る。
「それじゃ、墓場に案内をするね。そろそろ夕暮れだし、ちょうど良いね」
「ナイスタイミングですね。夜間戦闘は危険ですが、ガスト中心なら問題はないでしょう」
わくわくした顔になるアリス。むふふ、ガストならカモだよねと、稼ぎに期待している笑顔を浮かべている。
そうして、チャシャチームの案内でアリスは墓場へ向かうのであった。
てくてくと歩いて行くと、町外れに出る。だんだん家々が無くなり、石の柵でできた場所へと移動する。
人気が無くなり、多少の怖さを感じるアリス。
「こういう怖さは楽しいですね。ドキドキします。突如敵が出てきたときとか面白いですよね」
怖さも楽しみにしている戦いに慣れすぎているゲーム少女だ。そわそわと周りを見ながら、どれぐらい稼げるだろうかとドキドキしている。
「頼もしいです、神官様。ゾンビやスケルトンは弱いのですがとにかく数がいますし、耐久が高すぎて倒しにくいんです。いつでも逃げれると油断して倒される傭兵も多いのですよ」
ふむふむと頷いて答えるアリス。
「貴女は重要人物だったのですね。一回しか話さないランダムクエストの人だと思っていました」
普通に酷いことを考えるアリスである。そして普通にチャシャの発言をスルーもしていた非道なる少女であった。
「この惑星の人々も、アストラル体も皆生活をしているし、皆重要人物になるかもしれないからな。注意しろよ?」
おっさんフェアリーが、アリスへと教え込むように言う。ほいほい、わかりましたと頷くアリス。適当な娘なので、あとで同じことを考える可能性は高い。
「え、えっと神官様?」
また意味不明なことを言うアリスに戸惑うチャシャ。そのチャシャは好感度があるかもと、考えて普通の人へ対応することにしたアリスは笑顔で伝えた。
「私はアリスと呼んで下さい。名前呼びでお願いしますね」
「あ、わ、わかひました! えぅ、噛んだ…。わかりました、アリスちゃん!」
「よろしくお願いしますね、チャシャさん。クロームさんとブチーダさんも」
その挨拶で黒、ぶちコンビも嬉しそうに表情を笑顔に変えて挨拶を返す。
「あぁ、よろしくな!」
「よろしくお願いしますね、アリスさん」
コクリと頷き、あとは好感度があれば良いなぁと考えながら、ようやくいつものクエストらしくなってきたと楽しくなってきて、墓場へと足を踏み入れるゲーム少女であった。




