13話 ゲーム少女は傭兵に会う
そこは2階建ての広さはある石の家であった。看板にジョッキが描かれているので、酒場なのだろう。
チャシャはその酒場へと手を振って、アリスへと満面の笑みで告げてきた。
「ここが私たちが定宿にしている黄金のたてがみ亭です。ここに私たちの傭兵団が住んでいるんですよ」
冷めた目でアリスは紹介された宿屋を観察した。やはり窓には窓ガラスもなく木の格子が嵌っている。少し離れた場所に厩舎があり、数台の木でできた馬車が置いてあった。
「そうですか……。とりあえずクエスト紹介所を案内する。それまでが、このキャットニュートたちのクエストだったんですね」
ウンウンと頷いて納得した。ランダムに見えたクエストであったが、実はどこの勢力に入るかの選択クエストだったのだ。油断しましたと反省する。危うくクエストを台無しにするところだったからして。
「アリスさんや、貴女の考えていることはたぶん間違っていると思うが……。まぁ、いっか」
なにかを諦めた様子のおっさんフェアリーがため息をつきながら言うが、なにか間違ったのだろうか?もしかしてもっと良い勢力に入れるクエストがあったのかもと思うが、もう遅い。
新しく勢力選択のクエストを探すのも面倒だ。ここで良いだろうと決めた。厳密に言うと、アリスは今は宇宙樹を信仰する国に所属しているが気にしない。クエストを受けるためにひょこひょこ所属を変えていたのだからして。
最終的に今の所属する国を選んだのは最初の地がその国所属だったことと、国を支配する星巫女が可愛かったからである。愛国心はない。
なので、国の所属を変えろと言われたら莫大な契約金を提示されれば変えるかもしれないアリスだ。
ぎぃと木の扉を開けて、中に入ると窓が開け放しであるので、まだまだ明るい酒場が目に入った。丸いテーブルに背もたれのない椅子が何脚も置いてあり、15、6人の人が酒を飲んでたむろしていた。
奥にはカウンターがあり、樽がカウンター越しに置いてあるのが見える。アリスたちが入っていくと、ちらりとこちらを見てくる。
「ただいま帰りました〜」
「戻りました」
「ようやく戻ってこれた……」
3人が挨拶をしながら、中へと進む。アリスもその後ろをのんびりと歩いていく。ついていく中で、珍しそうにアリスをジロジロと見てくる人たち。
その人々を見て、ぼそっと呟く。
「キャットニュートばかりですね」
「そうだな。ここはキャットニュートの傭兵団なんだろうな」
フヨフヨと浮きながらついてくる鏡も同意する。アリスはノーマルニュートの傭兵団を探したほうが良いかなと思いながら、面倒な傭兵試験とかがあるクエストなら入るのを止めようと考えて歩みを進める。
チャシャたちはカウンターにいる片耳が欠けたバーのマスターっぽい中年のキャットニュートの男性に話しかけていた。
「参りました。魔法茸を取りに森に行ったら、オーガと出会ったんです」
その言葉に少し目を見開くマスター。驚いた様子で
「オーガと出会った? お前ら、よく生き残ってこれたな」
「いや、ブチーダは死にかけましたよ。大変でした。死ぬかと覚悟をしちゃいましたもん」
「それじゃなんで生き残っているんだよ? ブチーダも鎧は壊れているようだが、ピンピンしているじゃないか」
マスターが驚きの表情で尋ねてくるのを、そこそこある胸を張り、チャシャはフフンと自慢げにアリスへと手を振る。
「神官様の治癒魔法に助けて貰ったんです。そしてそして、なんと神官様は傭兵団に入りたいそうです!」
チャシャの言葉に、周りがざわつく。驚きの声音で会話をしている。
「神官様?」
「治癒魔法を使えるのか?」
「いや、これ本当なのか? 人間族だぞ?」
人々たちが騒ぐ中で、アリスは紹介を受けたようなので、マスターへと一歩近づく。
「初めまして。私は安心格安、確実に依頼をこなすバウンティハンター、魔風アリスと言います。よろしくお願いしますね」
頭を軽く下げて、可愛らしくニパッという微笑みでの挨拶だ。
マスターはその可愛らしさに少し頬を緩めるが、すぐに疑わしい表情をしてアリスを見てくる。そしてチャシャへと顔を向けて
「本当なのか? この少女は人間族だろう? 治癒魔法を使えるのか?」
「ブチーダを見てくださいよ。皮の鎧の留金が壊れているでしょう? あれはオーガに殴られたからなんです。死にそうなところを神官様が助けてくれたんです」
疑問顔のマスターに抗議をしているチャシャ。信じてくれないのが不満なのだ。まぁ、それはわかる。見かけは子供のような美少女で脆弱そうに見えるのだから。
「それだけでは無いんです! オーガも簡単に倒しちゃう神聖魔法の使い手なんですよ!」
チャシャのその言葉にいよいよ不審げになるマスター。そんな凄腕には見えないからだ。
そんな言い合いを早く会話イベント終わらないかなと、ボーッと見ていたアリスの肩が掴まれる。掴んだ相手をアリスが見るとキャットニュートの男性で190センチぐらいの大きさである。
「おいおい、嘘をつくなよ、チャシャ。お前らのチームに入るやつがいないからって、どこの村から拾ってきたガキだ? 人間族なんて役には立たねえぞ?」
ヘラヘラした笑いで、馬鹿にしたような口ぶりに、アリスはにっこりと笑った。イベントが発生したのだから。
『解析』
目の前のキャットニュートをすぐさま解析する。これは戦闘前の癖のようなものだ。
『戦闘力81』
現れた結果にアリスは呆れると同時に笑った。
「どうやら腕をみせないといけないイベントですね」
ぱっちりお目々を肩を掴んでいるキャットニュートへと向けてからかうように言う。
「やられ役お疲れ様です。ニャーと泣かせれば良いのでしょうか? ニャーですよ。ニャーと泣いてください。ほら、ニャー」
平然とした声音で、煽るアリスである。こういう腕試しイベントは腐るほどやってきているのだ。煽り文句も慣れたものである。
予想通りに相手の顔は真っ赤に染まり、右腕を振り上げて殴りかかってきた。
「このガキッ! お前が泣けや!」
その攻撃をそっと右手を上げて、受け流す。殴られる寸前にちっこいおててを相手の拳にそえて、多少の力をこめて軌道を反らし、自らも身体を僅かにずらしての回避である。
アリスの眼前を受け流されて、たたらを踏んで通り過ぎるキャットニュート。隙だらけの背中へと、左足を強く床に踏み込んで、右足を突きこむように打ち出した。
態勢を崩したキャットニュートはその一撃を受けて、吹っ飛んで壁へと激突して静かとなった。
簡単に終わりましたねとその様子を見て、満足げに頷いて
「ニャーと泣かすことはできませんでしたね。まさか気絶するとは思いませんでした、ドラ猫さん」
ふふっと笑顔で戦いを終えるアリスであった。
その姿を見て鏡が感心して感動していた。
「はぁ〜、現実に見ると凄い動きだなぁ。こんなふうに現実ではなるのか」
ウンウンとなにか納得したように頷いていた。
酒場はシーンと静寂に包まれていた。まさかあっさりと仲間がやられるとは思っていなかったからだ。
「まさかポーが!」
「このガキ、よくも!」
「ただですむと思うなよ!」
ガタンガタンと椅子から乱暴に立ち上がるキャットニュートたち。怒声を張り上げて、アリスに向かってこようとする。
予想外の展開にチャシャたちも慌てていて役に立ちそうにない。
だがアリスは慌てなかった。よくあるイベントルートであるからだ。予想どおりならばこのタイミングで……
「待ちな! お前ら、無様に負けたやつの敵討ちをしようっていうのかい? あっさりと喧嘩に負けたアホの!」
2階からギシギシと木の軋む階段の音をたてながら、新しいキャットニュートが2人降りてきて、怒声を発する。
その言葉に気まずそうにお互い顔を見合わせて、アリスへと視線をちらりと向けて、壁に叩きつけられて気絶している男を見て、小さく頷いておとなしく座る面々。
「そうだよな……。あっさりとあいつ負けすぎじゃね?」
「あぁ、戦場じゃ組みたくないよな」
「普通の依頼だって嫌だぜ」
「あの美少女に蹴られたい」
最後の発言者が気になるアリスだが、イベントが続いているので、ぐっと我慢する。どうやら今倒したやつの株はストップ安確定の大暴落となった模様。
階段から降りてきたのは中年の男女。やはりキャットニュートであった。女性が180ぐらい。金色に近い耳と尻尾を生やしている。片目に傷が入っているが、まぶたで止まっているのだろう。目は見えている模様。強面でニヤリと笑うと怖そうな、なんだかライオンみたいな女性である。今の怒声もこの女性からだ。
もう一人は黒い耳と尻尾。艷やかな色をしており、目が常に威圧的な男性である。
その女性はチャシャを見て怒鳴る。
「チャシャ! 魔法茸は取ってこれたのかい?」
その怒声に、ぴょこんとびっくりして跳び上がるチャシャ。急いで返答する。
「はい! 依頼よりも少し多めに取ってきました!」
リュックからざらざらと黒い茸を取り出して女性に見せる。
「よしよし、それでなにかい? 新しい団員希望者も連れてきたと。そういうわけかい?」
「はい! 神官様です!」
チャシャがこちらをちらりと見てくる。どうやら挨拶をしてくれという意味らしい。
なので、花咲くような微笑みで女性へと顔を向けて挨拶する。
「初めまして。私は安心格安、確実に依頼をこなすバウンティハンターの魔風アリスと申します」
ペコリと頭を下げて話を続ける。相変わらずの愛らしさである。
「私の入団条件は簡単です。私が好き勝手依頼を受けて解決したり、強制依頼はなし。ここへの顔出しもたまに気が向いたときで大丈夫です」
周りがその発言を聞いて唖然とするが、アリスはもちろん気にしない。
「ね? 簡単ですよね? 入団会見はどこにしましょうか?」
いつものアリス理論で話を進めようとするゲーム少女であった。




