12話 ゲーム少女は異世界の街に行く
てくてくとアリスは土の道を歩いていた。たまに立ち止まっては周りを見るが、不思議そうに首を傾げて、また歩くことを再開するのであった。
その姿を見て、チャシャが声をかけてくる。この美少女の神官様が、何を気にしているのか気になったからだ。
「あの、何か気になることでもあるんでしょうか?」
アリスはチャシャを見て、首を傾げて不思議そうに戸惑いながらを返事をした。
「アストラル体も動物も全然いないんです。街道沿いとはいえ、ノンアクティブのやつは絶対にいると思ったんですが」
小銭を稼ぎながら歩こうと思っていたんですと、周りを見渡す。
これぐらいの土地なら絶対に他の惑星ならノンアクティブのアストラル体がウロウロしている。低レベルなレベル7でもあるので、稼ぎながら歩きたかったのだが。
「あ〜、アリスさんや? さっき言ったとおりに、ここのアストラルは生活をしている。死なないために隠れているんだよ」
したり顔で、嬉しそうに興奮しながら忠告をするおっさんフェアリー。他人に視えないのを良いことに、チャシャの頭に乗っかっている。耳を触ろうとしているが、スカスカと手が通り抜けるのが哀愁を誘う。
「くそっ! せっかくの猫耳なのに触れないとは! なにか触る方法がないかなぁ」
耳に触れないことに悔しがっているおっさんフェアリー。それは残念でしたねと適当に相槌をうって、アリスはなんとも奇妙な惑星に来たと考えるのであった。
「神官様。そろそろダイショーの街に着きますよ」
黒のキャットニュートがこちらを見て、笑顔で言ってくる。だが、男性の笑顔なんか別にいらないねと、華麗にスルーして見えてきた街を観察する。
そう、アリスたちは今このキャットニュートの案内で近場の街を目指して歩いていたのであった。
街は石でできた原始的な街壁で囲まれていた。5メートルぐらいの高さの石壁で周りの敵の侵入を防いでいるのであろう。
街の入場門には兵士らしき者が2人立っており、数人の商人と思われるグループと楽しそうに話し込んでるのが見える。
「だいぶ緩い防衛ですね。それに物凄い原始的な装備です。いくらお金がもったいないからと言っても限度があります。せめてバッテリー式の武器を装備するべきですね」
バッテリー式はエネルギーを消耗するが、そのぶん普通の武器よりも強い。兵士たちの標準装備である。様々な武器と連結できて、エネルギーを送り込むので使い勝手がかなり良い。私は消耗する武器はあんまり作らないので使わないのだが。
「いや、たぶんあれが標準なんだ。たぶんな」
「はぁ、さすがは辺境の中の辺境。装備も私が最初にいた街よりも低いとは驚きです」
もうなにもかも珍しいねと、アリスは周りをキョロキョロしながら門の前に歩いていく。
門前には、馬に牽かせた馬車らしき物と数人の護衛に商人がまだ門の兵士たちと話していた。仲が良さそうだから、顔見知りなのだろう。
そこへチャシャが門の兵士たちへと、笑顔を浮かべて元気よく声をかける。
「こんにちは。中に入っても良いですか?」
門の兵士はウルフニュートであった。ブルドッグ型の耳をしたごつい身体の兵士だ。
強面でもあるが、アリスは平然としていた。なにせ装備がしょぼい。鉄の短槍に皮の盾に皮の鎧。しかも見た感じ力をなにも感じなかったからだ。この地の敵の弱さが想像できますねと苦笑しながら、兵士たちをスルーして中に入ろうとする。
それを見て、慌てた様子で兵士の1人が立ち塞がって声をかけてきた。
「おいおい、さすがにスルーは駄目だよ、お嬢ちゃん。一応新顔みたいだし、何をしにきたのか教えてもらえるか?」
「なるほど。たまにある街の兵士の説明ですね。どうぞ聞きますので」
平然とした表情で、のんびりと聞く態勢をとるアリス。スキップが効かないから仕方ないですねと、この街の施設でも教えてくれるのだろうと思っていた。
だが、兵士はかぶりを振って、苦笑しながら小さい子供に教えるようにゆっくりとした口調で尋ねてきた。
「違う違う。お嬢ちゃんがここにきた理由だよ。一応新顔には尋ねているんだ」
お子様にしか見えない可愛らしいアリスである。おっさんフェアリーなら怪しいおっさんめと、とっ捕まってしまうが美少女なので問題ない。
ありゃ、会話型の説明かと思いながら、ニコリと微笑んで挨拶をする。
「私は流れのバウンティハンター、魔風アリスと言います。子猫探しから、超大型のアストラル体の退治まで全てを卒なくこなすやり手です」
小首を傾げて可愛く印象づけるように。
おぉ、と少し顔を赤くして兵士はその可愛らしさに見惚れる。周りの人々も同じように見惚れる中、アリスは挨拶は終了とまたスタスタ歩き始める。
「あぁ、待て待て。バウンティハンターとはなにかな、お嬢ちゃん?」
皆が見惚れるその中で、詰め所から爺さん兵士が出てくる。しっかりとした足取りなので、責任者だろうか。
その言葉にハッと気を取り直して、最初に声をかけてきた兵士もアリスを見つめてくる。
結構長い門番との会話イベントだなぁと思いながら答えようとすると
「この人は神官様ですよ! 死にそうなブチーダを助けてくださったんです!」
チャシャがニコニコした笑顔でアリスへと手を振って、代わりに答えてくる。
その言葉に驚く兵士たち。神官が随分珍しいんだろうかなと首を可愛く傾げて疑問に思うアリス。
「ほほぉ。神官様とは珍しい! 神聖魔法をお使えに?」
その言葉に反応して、急に声を横からかけてきた商人である。物珍しいようにアリスを上から下まで舐めるように見てくる。フォックスニュートなのだろう。中年で少しばかり太っているが、狐の耳と尻尾を持っていた。
「そうなんです! 凄い魔法でした!」
それにのったチャシャたちが頷いて騒ぐ。もぅ、そろそろ街に入りたいんですけどとアリスは肩を落として項垂れた。
「田舎の街にきた都会人って、扱いだねぇ」
鏡も苦笑して、騒いでいる人々へと苦笑いだ。その様子は寒村に来た都会人をみんなで囲んで珍しがる姿そっくりであった。
ようやく兵士たちから解放されて、アリスは街の中に入った。やっぱり石造りでの家々。たぶん大通りだから、店を兼ねているのだろう、2階建てがたまに目に入る。
大通りの真っ直ぐ先には三階建ての館が見える。たぶん領主か代官の屋敷だ。
そんな風景を物珍しげに眺めながら、鏡は感想を呟く。
「大通りの店にも窓ガラスがない……。しかし、大店には硝子の器が原始的だがある……。ガス灯は無し。とするとだいぶ文明が低いか、魔法で文明度を底上げしているかだな……」
「なんだか解析班を見ているようです。あの人たちもそんな感じでいつも計算ばかりしていました」
「あぁ、ゲームの中の他のプレイヤーがアリスの目にどう映っていたか気になるところだなぁ」
アリスの感想をスルーして、おっさんフェアリーは胸を張り得意げな表情で言う。
「まぁ、いいや。アリス、これから俺の言うとおりに行動するように。そうしたらがっぽりお金が儲かるからな」
「わかりました。了解しました。さすがはフェアリーアストラル。やるときはやると信じていました。さっきまではへんてこなフェアリーとしか思っていませんでしたけど」
グイグイとおっさんフェアリーに顔を近寄らせて、静かなる威圧を持っておっさんフェアリーを褒めるアリス。よく聞くと全然褒めてはいないが。
「なら、まずは冒険者ギルドだ。そこに行くと色々イベントが発生するぞ!」
さすがはサポートキャラ、頼りになりますねとチャシャへと顔を向けてアリスは声をかけた。
「冒険者ギルド一丁お願いします!」
ラーメンかなにかと勘違いをしているアリスであった。
そんなアリスへとチャシャが疑問顔で反対に尋ねてくる。
「あの……。冒険者ギルドってなんですか?」
どうやら異世界定番のギルドはない模様。それを聞いて叫ぶ鏡。無い場合、ハードな異世界である可能性が高いからだ。
「え〜! 冒険者ギルド無いの? マジかよ、簡単で一番時間がかからないイベントの発祥地がない世界なのかよ〜」
がっくりと肩を落とすおっさんフェアリーをジト目で見て、どうやらあんまり頼りになりそうにないねと思ったアリスであった。
「それじゃ、冒険者ギルドがなければ、どうやって、ま、魔物で良いのですか? それを退治しているんですか? やっぱりバウンティハンター?」
首を可愛く傾げながら尋ねるアリス。
「いや、ハンターとは言うなって言っただろ! 余計なことを言うなよ、アリス!」
おっさんフェアリーがなにか言っているが華麗にスルー。だって、アストラル体狩りはバウンティハンターの花形だ。この惑星では魔物と呼んでいるらしいけど。
「えっと、基本大きな魔物は領主様の軍隊。細かい魔物は私たち傭兵がやっているんです。食いっぱぐれた人たちの集まりなんですが」
エヘヘと頭をかきながら笑うチャシャ。それを頷きながらさらに話を掘り下げるアリス。
「傭兵……。私たちは戦争に出るときだけ傭兵と貴族から呼ばれていました。ここではハンターは傭兵と一緒にされているんですね」
「本当に神官様が傭兵なのか? ちょっと俺信じられないんだけど」
クロームがこちらを見ながら、本当かよという感じでアリスを見てくる。ブチーダもウンウンと頷いている。
「そんなに神官は珍しいんですか?」
普通のハンターなら必ず治癒術は取得する。高レベルは面倒なクエストが多いので大体のハンターは300レベル程度でスキル上げをやめるが。
コクコクとチャシャは激しく頷いて、こちらへと尊敬の眼差しで見てくる。
「神官様はこの街に1人しかいません。娘さんが見習いでいるらしいですけど、王都で修行をしているらしいです」
「ポーションじゃ、気休め程度にしか治らないしな」
ふ〜んと今の情報を咀嚼する。それならば神官様、神官様と皆が敬うのはわかる。
「もしかして………この地はアストラル体をマテリアルへと変換をできる人が少ないんでしょうか……」
それならば話はわかる。金貨だかなんだか知らないが、マテリアルを寄付しなければ神官にはなれない。すなわちマテリアルを集められない人々は神官にはなれない。
考え込むアリスへと、深刻そうに鏡が真面目な表情を浮かべて声をかけてきた。
「その推測はたぶん間違っている。この惑星は別の手段で治癒術を確保しているはずだ」
そして周りを見渡して、話を続けた。
「この街では俺の言う事を聞くんだぞ? わかったな?」
「えぇ、わかりました。できるだけ言う事を聞きますね」
アリスも真面目な表情で返事をする。
「まずはサブイベントを発生させるために、街の人たちに話しかけるところからですね」
始めてくる街は必ずすぐにイベントが始まるのだと、期待をするアリス。未知の素材が手に入らないかな?
「ダメだから! 絶対にダメだからな! 不審者扱いされるからな! 必ず行動する前には俺に問題ないか確認しろよ?」
え~、そんなにこの惑星は他の場所と慣習も違うんですかと、頬を膨らませて不満顔になるゲーム少女であった。




