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ゲームの国の異世界アリス〜異世界と日本を行き来してゲームを楽しみます  作者: バッド
10章 混乱の時代が始まる

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118話 あかさたなの選択とゲーム少女

 ふ〜んと、アリスは感心していた。あかさたな人。アリスが頭を捻って考えたこの惑星の名前だ。よくできていると思うが、この惑星の人が気にするとは思っていなかった。気にしないと思っていたのは明らかで目の前のスーツ姿の男たちはそんなことを言ってたかと、顔を見合わせて戸惑っている。


 でも隠すことでもない。正直に答えてあげることにする。アリスは基本優しい娘なのだ。何しろカオスに落ちることを気をつけているのだから、相対的に優しい娘になるはずだと固く信じていた。たちの悪いことに。


「あかさたなは先日私がこの惑星に所有権があることを示すために申請しました。惑星名はあかさたな、です」


 シャドウバタフライの翅をパタパタと動かすサービスぶりも見せちゃうアリス。そのサービス精神あふれる態度に太平洋連合の首脳たちはもちろん気を利かせてくれてありがとうとは返さなかった。


 リモートでなければ、もっと騒然となったであろう騒ぎへと発展した。アリスは覚えやすい良い名前だと思うのですがとその騒ぎを平然と見つめていた。



 大和大統領は頭を抱えたいところであったが、毅然とした態度を崩さなかった。トップが動揺すれば、部下たちは混乱するからだ。


 モニターに移るロボットであろう蝶の形をした機械は平然ととんでもないことを口にした。


「これは明らかに侵略行為だ!」

「私たちの尊厳を奪うつもりだ」

「断固として抗議をしなければなるまい!」


 大臣たちは激昂して怒鳴るか、青褪めてどうするか、それぞれ善後策を話し合っているが、まったく意味がないと大和は理解していた。モニターに映る各国の首脳たちも苦々しい表情だが言葉を発さない。


 銀河連盟の話は聞いていたが、まさか銃弾一発放たないで終わる侵略戦争があるなど信じられない話だ。彼の者は行商人だと言っていたが、その行為に反するのではなかろうかと考えて、ふと一つの疑問が浮かぶ。推測だがそのとおりだとすると、突破口はあるかもしれないと口を開く。


「申請と言いましたな? その申請は通りましたか?」


「いえ、申請は通っていません。今は審査中ですね。だいたい1か月はかかりますので」


 隠すこともせずに正直すぎる異星人の言葉にやはりなと椅子に凭れかかる。大臣たちもその言葉を聞いて難しい表情で黙りこくり、静かになった。


 これは政治の駆け引きだと気づいたのだ。


「申請は通りそうですか? ワーさん」


「惑星名は第一発見者なので通るでしょう。ですが惑星の所有権は却下されると思います。駄目元で申請したので」


 惑星名は決まりなのかと、頭をクラクラしてしまうが仕方ない。とりあえずはこの話は置いておく。


「つまりは、自分が第一発見者であり、以降に訪れる者たちへの牽制の意味で申請したと考えてよろしいか?」


「………」


 黙る異星人。その沈黙が予想が正しいことを示していた。たしか行商人と言っていた。ならば利益を求めての行動なのだ。自分では扱いきれない物でも、見つけたのは私なのでと言えば、僅かでもロイヤリティが入るかもしれないと考えての行動なのだろう。ならば却下されても計算の内なのだ。どこの世界でも同じような思考をするものだと安堵の息を吐く。


 ギャラクシーライブラリとやらへの申請の問題は最優先事項となるだろうと記憶に留めておく。この問題は太平洋連合のみでの話ではないのだから。


 次の問題へと気を取り直し移ることにする。


「この話は、あらためてする必要があるでしょう。では、次なのだが、宇宙から落下してきた植物の種子。あれは君が落としたのだろうか?」


 昆虫型異星人。恐らくは植物を主食としており、地球を同じような環境にするため落下させたのだと、学者共は言っているが、どうにもピンとこない。彼らは生物として当然のことをしていると訴えていたが、宇宙を旅する知性あるものがそんなに単純であるわけがない。


 ここには人類が住んでおり、必ず反発があるとわかっている。本能で生きているわけではないのだ。学者たちはエイリアン侵略戦争物の映画を見過ぎだ。何かしら人類が対抗できる弱みを持っていると思っている節がある。馬鹿らしい。風邪や水虫に弱いとでも考えているのだろうか。


 予想通り、いや、予想の中では最悪の答えが異星人からは発せられた。


 即ち、偶然であり、落下してきた種子は宇宙を旅するエイリアンだと。壮大すぎて、圧倒されてしまう話だ。


「……君たちがやってきて、少ししてこの種子たちはやってきた。偶然とは思えないが?」


「私は恐らくマテリアルロードがこの星系に流れ始めたためと予想しています」


 蝶の異星人は翅をバタつかせて答えてくる。


「マテリアルロードとはなにかね?」


「マテリアルロードはエネルギーの流れ。貴方たちが言う……そうですね、地脈とか龍脈みたいなものです。川と呼んでも良いでしょう。そのエネルギーを使い、私たちはローコストでワープなどを行います。もちろんエネルギーですので、エイリアンたちもその流れに集まってきます。例えて言えば不毛の大地に一本の河川が流れ始め、草木が繁茂し始めようとしていると言った感じでしょうか」


「……なるほど。君たちは新たにできた川を下ってきた。その先に何があるかと。もちろん植物も繁茂するために種子が流れ込み始めたと言うことか。わかりやすい説明をありがとう」


 シンとしてその話を聞いていた大臣や他国の首脳たちが再び騒ぎ始める。その説明だと、他の宇宙人も遅かれ早かれやって来ることは間違いないのだ。


 そして不毛の大地に資源があると知ったら、彼らはどうするのだろうか? 先住民を支援して、その文明が向上するように手を差し伸べてくれるのだろうか?


 答えは否だと考えねばなるまい。それは地球の過去の大航海時代が、そして目の前の傍若無人に地球を闊歩している行商人から証明されている。


 恐らくは先住民など気にせずに資源を取ろうと、その大地を耕そうとするに違いない。悲観的すぎるが、政治家は楽観的に思考をしてはならないことからも、最悪の状況を考えねばなるまい。


 地球が植民地化、いや、植民地化されればまだ良い。人類を害虫駆除のように殺そうとする者たちもいる可能性があることを。


 そして敵は科学力が高い異星人だけではなく、外来のウイルスや生物が来ることも。そちらの方が怖いかもしれない。何しろ話し合いをすることもできないのだ。今回の種子のように。


 宇宙を旅する種子……他にもたくさんのそういった生物がいるのだろう。地球人は己が孤独ではないことを知ったわけだ。だが、このような形で知るとは思ってもいなかっただろうと大和は口元を皮肉げに歪める。


「この種子は名称はフラワンと全体で呼称されています。正式名称はフラワニクススターイーターン。普通はフラワンと呼ばれていますね。しばしば辺境に現れてはその駆除費用に頭を悩ませる植物です」


「あぁ、あのような形で落ちてくればそうだろう。辺境と言ったね? ……もしかして列強と呼ばれる国々があったりするのかな?」


「もちろんありますし、そのような国は対宇宙兵器も宇宙艦隊も揃えているので、フラワンは星に落下もできません」


 やはりあるのかと苦笑してしまう。さて、私たち人間と同じような種族はいるのだろうか? いや、同じ種族ならばこそもっとも危険な相手かもしれない。


「フラワンは辺境の貧乏くさい軍隊では対抗できない場合が多いのです。どうでしょう、ここは私たちが駆除を請負ましょう。安心格安で有名な私なら簡単に除草して見せます。お代はフラワンの全てと、フラワンが落下した場所の半径1キロの土地の半年間の占有で良いです」


 除草業者をしてくれるらしい。つくづく異星人との会談らしくない会話だと大和は苦笑してしまう。ちょっと貴方のお家にシロアリがいるようなので駆除しますよと現れる悪徳業者に思えてしまう。


 そしてその報酬は安いと言わざるをえまい。払うことが難しいわけではない。


「フラワンの生態系を教えてほしい。科学者が除草される草でも興味を持ってしまってね」


「あれは栄養がある場所に落下して、調査を行います。住みやすいと考えれば種子が発芽。辺りを侵食していきます。早めの対応が必要です。他の国々にも同様の取り引きを私は求めたいと考えますがどうでしょうか」


 簡単な説明に終わる。私たちにとっては有り難いが科学者共は膨れるだろう。素人は害のある物か、そうでないかを知っていれば良いと異星人の除草業者は考えているに違いない。


 チラリと大臣たちを見ると、首を横に振ってくる。答えは決まっているということだ。


「時間が欲しい。私たちでも対応できるかもしれないですから。来月までには返答ができると思います」


 日本の政治の十八番。時間をください。善処します、だ。苛立ちを覚えるが、まだ危機というレベルでもないので、強権を持って決めることはできない。


「……そうですか。素人が除草をするのはおすすめしませんが、それならばそれで良いでしょう。ただし、先程提示した報酬は現時点でということをお忘れなく。植物が広がったあとは、報酬は現時点とは比べ物になりません。そこは忠告しておきます」


 無機質な機械昆虫の複眼がこちらを見る。その冷たさに背筋をゾッとさせてしまう。


「あの花により犠牲者は出たが、SRなら駆除が簡単にできると既にわかっておりましてな。申し訳ありませんが、軍部がこの取引を良しとしないでしょう」


 申し訳なさそうに手を広げてオーバーアクション気味に謝罪をする。あの花は未知の力で敵を切り裂いてくるが、その射程は100メートルもなく、装甲車の装甲も傷つける程度で、破壊はできないとわかっているからだ。


 自分の家に生えた雑草はお父さんが頑張って草取りをすると言い張っていると言うわけだ。


「ふふっ。そうですか。どの辺境も最初の選択肢は同じですね。国の将軍は精鋭部隊ならば倒せると自信を持っているものです。わかりました。それでは各国に伝えることを忘れずにお願いします。まぁ、この会話は漏洩しているようなので……そうですね、除草を求めている国はインターネットに広告でも出してください。フラワンの除草を求めますと」


 ギクリとその何気ない言葉に動揺する。漏洩している? リモートでの会談であるために、その内容が漏洩しないように気をつけたはずなのだが。


「それでは本日の取り引きは実りあるものでした。では、さようなら」


「あ、あぁ。お時間を取っていただいたことに感謝を」


 そうして異星人はその場から姿を消し、大和大統領は疲れて椅子に凭れかかる。不吉な物言いを異星人はしてきた。


 あの種子はそんなに危険なものなのだろうか?


 先程の取引を受けておくべきだったかもしれない。


 これから忙しくなるだろうとため息をつく。


 まずは異星人の存在を公開しなければなるまい。


 ふと、先程の異星人の笑いを思い出す。女性的な笑いであったなと。

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― 新着の感想 ―
[一言] 敵を過小評価するのは危険って話ですね。 アリスがカナタに語った「惑星全体を植物で覆う」とか「銀河連盟設立初期からの頭痛の種」とか聞いたら判断も違ったかもしれませんが今の情報の段階ではこうなる…
[良い点] ああ( ˊ̱ωˋ̱ )1/2の賭けで裏目を引いたか!やはりどれだけやり手に見えてもオッさんはオッさん、バッド先生ワールドにおいては圧倒的な負け組になるのは自然な流れナリ。 まさしく地の文…
[一言] 残念ながらその植物ただの斥候なんですよ。
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