110話 研究所護衛クエストをするゲーム少女
辺りは殺気だっており、銃声が響き渡り、硝煙の匂いが立ち込める。筑波研究学園都市は現在戦争状態になっていた。
「大丈夫ですか? バウンティハンター、バウンティハンターのアリスが助けますので。安心格安、確実に依頼をこなす今日は護衛日和のバウンティハンター魔風アリスが助けますので、私のあとについてきてください」
研究所内を走りながら、右往左往する研究員に声をかけて合流させる。救助すればするほど、クエストの報酬が高くなるのだ。誰一人として死なせませんと、溢れんばかりの善なる心から、人々を助ける美少女アリスである。
その姿は政治家に近い。即ち立派な人格者ということだ。しかも幼気な愛らしい美少女である。美少女が頑張ってと声を掛けてくるので、落ち着きを取り戻して次々と研究員は合流してきた。一部の研究員はこの危機的状況で救助されるという吊橋効果が加わり、新たなる扉を開こうとしていたので将来が心配である。
「鏡、これはボーナスクエストですよ。このクエストは救助人数が増えれば増えるほどボーナス報酬がアップします。久しぶりのギャラクシーライブラリからの報酬です」
フンフンと鼻息荒く、後ろから止めようとする護衛たちを振り切って疾走するオリンピック強化選手レベルの足の速さを見せるアリスは興奮気味に言う。
「ギャラクシーライブラリからの報酬ってなぁに?」
カナタがアリスの言葉に疑問を問いかける。さすがは辺境惑星、常識を知らないですねとアリスは教えて上げることにする。
「大規模な救助活動や戦争、偉大なことをしたハンターに、世界の守護者たるギャラクシーライブラリが直接アイテムをくれるんです。その報酬は通常では手に入らない貴重なものばかりなんですよ。20人助けるようにと言われていますので、マックスまで絶対に助けます」
ギャラクシーライブラリの報酬は低レベルでも、採取や製造不可のアイテムばかりなのだ。その中でも強化マテリアルがあらゆるアイテムの強化をできて嬉しいので、強化マテリアル希望と張り切るアリスである。
「ギャラクシーライブラリって、アリスちゃんのいる星の名前?」
「いえ、世界の安寧を護る理の守護者です。善悪はなく、世界の秩序だけを守ります。とはいえ、善よりなんですが」
「へぇ〜。やっぱり宇宙って凄いんだね!」
本当に理解しているのか不明なカナタ。宇宙は何でもあるねと簡単に納得する残念さを見せてくれていた。たぶん、エイリアンが攻めてきても、面白くなってきたねと楽しむだけだろう。
「クエストかぁ……なんか都合良すぎだよなぁ……このクエストってアリスか俺の意思をただ反映しているだけのような……でも、俺たちの知らない情報もクエストには表示される……。う〜ん……よくわからん」
走りながら鏡が難しそうな表情で考え込むが、このおっさんウサギはいつも難しそうな表情で益体もないことを考え込むので、アリスは放置した。
そしてこの会話は3人だけが聞こえていた。後ろの護衛は追いつけなかったし、日頃運動をしないひ弱な守里たち研究員は遥か後方でぜぇぜぇと息を切らして、汗だくになっていたので。
護衛とはなんぞやという感じだが、アリス的には正しい行動だ。護衛とは護衛対象が視界に入るぎりぎり後方にいてもらうものなのだ。敵が現れると護衛が傷つくので、先行して倒すのがバウンティハンターの常識なのである。
ゲームでの常識であるのは言うまでもない。護衛がある地点に到着すると突如としてポップする敵がいるので、視界に入るぎりぎりにはいてもらうのである。
現実の護衛が聞いたら、なんだそりゃと呆れる仕様だが、ゲームなので仕方ない。そしてゲームの理論で解決をしちゃうのがアリスなのだからして。
『空間把握』
空間術のチート技の一つ、迷宮や施設のマップを敵も合わせて把握する超術を定期的にアリスは使う。モニターに表れたマップの黒塗り部分があっという間に詳細なマップへと切り替わる。
空間把握は50レベルで覚えられる。超術など隠蔽系での対抗策をとらない限り敵の姿は半径500メートルまで丸見えともなる術であった。
敵の位置する場所、味方の動きをすべて把握して安全なルートを選ぶ。護衛クエストは欲をかきすぎてはいけないのだ。敵をついでに倒そうとか考えてはいけないのである。
「護衛対象が死んだら困りますから、エンカウントゼロで行きます」
アリスは護衛対象を一番に考えて、真剣な表情で鏡たちに伝える。正義のバウンティハンターアリスなのだ。
「エンカウントゼロのボーナス報酬もあるもんな」
「エンカウントゼロはかなり難しいですからね。私も数えるほどしか達成したことありませんし」
ジト目の鏡に悪びれずにしれっと答える。護衛クエストって難しいですよねと。いつもどおりのアリスであった。エンカウントゼロはかなり難しいクエストで、突発的に現れるパターンがあると不可能なこともあり、アリスもクリアしたことはあまりないので張り切っていた。
電子の海へと意識を飛ばし、盗賊たちの進行方向にある防火隔壁を操作して降ろしていく。カメラには侵入者が隔壁を前に悔しそうに叩く姿が見えている。その後ろから研究所の兵士たちが追いつくのも。
「開発作業室と研究員の宿舎に移動しようとしているようですね。カナタさんが倒した盗賊たちは斥候だったのでしょう」
トテテと走りながらひとりごちる。敵の目的は研究員の殺害、もしくは拉致。カナタが気づいていなかったら、開発作業室までのルートを確保されていたはずだ。
そう考えると、カナタはサポートキャラとして完璧なる動きでしたと満足する。敵との接敵に際してサポートキャラが戦いを始めてクエストの始まりを告げる。サポートキャラを連れてきて良かったですと、ホクホク顔になる。幸せそうな嬉しそうにする美少女が何を考えているのかは、鏡だけがこいつまた変なことを考えているんだろうなという視線で見抜いていた。
少し走ると、兵士たちが部屋の前で小銃を構えて警戒している姿が目に入ってきた。
「止まれっ! 何者だっ!」
兵士たちがこちらへと小銃を向けて、誰何をしてくるので、片手を挙げてアリスも答える。
「バウンティハンターのアリスです! 護衛クエストを受けています!」
いつもすぎる返答をするアリスであった。クエストクリアを目指すアリスは平然と言ってはいけないことを口にした。
ヒィとムンクのように両手で頬を抑える青ざめるおっさん。カナタは特に気にしない。たぶん宇宙人の超技術でなんとでもなると思っているのだろう。カナタの中の宇宙人のイメージを尋ねるのが怖いところです。
兵士たちはその返答に、キョトンとしたあとに苦笑する。アリスの後ろから見知った顔がいたこともある。
「そうか、嬢ちゃん、護衛クエストご苦労さん。中でお茶でも飲んでくれ」
「ありがとうございます。クエストクリアになりました。報酬は……属性強化キューブですか、中身は雷……武器に+3。仕舞っておきましょう。ボーナス報酬はオートヒールの指輪。3秒間で1回復。序盤クエストだからこんなものですか。初心者ハンターに売れますね」
何もない空間をポチポチと叩いて、やったねと喜ぶアリスの姿に、へんてこな娘だなと兵士たちは呆れる。
アリスは大切な強化アイテムだと仕舞って間違って使わないようにロックしておく。いつか使う予定なのだ。そのいつかは誰にもわからないが。希少な強化アイテムは最高レベルの装備にしか使わなかったケチなアリスであるからして。
「待ちなさいと言ったでしょう? 敵に出会ったらどうするつもりだったんですか!」
護衛の女性が気色ばんで怒鳴ってくる。幼い少女が何も考えずに、走っていったと考えているのは明らかだ。カナタはウキウキとした表情だし、アリスもワクワクとした祭りかなにかだと勘違いしていそうなウキウキとした表情なので、怒るのは当たり前だ。鏡は二人の子供を止められない駄目な保護者だと蔑まれていたりした。おっさんの評価はどうでも良い。
「出会ったら、仕方ないので殲滅します。盗賊たちは弱そうで、連鎖クエストでよく出てくる序盤の盗賊みたいですし」
ケロリとした表情で、侵入者たちを撃破しますと答えるアリスに、顔に手をあてて護衛は疲れたように息を吐きながら、キッと責める目つきで鏡を睨む。サッとあらぬ方向へと顔を背けるおっさん。アリスをおっさんが止められる訳ないのだ。
それにこの地球には日本には流行っている病気があるのだ。その患者さんがアリス。もはや末期的だと言っても問題はないはず。
「き、君たちは強化、きょ、強化人間じゃないよね?」
ぜぇぜぇとブービー賞をとった守里が息を切らせて話しかけてくるが、強化人間とはどういう意味なのだろうか。
「強化人間って、なんですか? もしかしてメタルヒューマンのことですか?」
身体を完全にロボット化して魂をコアに宿す種族、高い身体能力と機械操作能力を持っているが超術に弱いし、使用する超術の効果も大幅に弱くなる種族のことかと問いかける。
メタルヒューマンはアリス的には外れの種族である。戦闘にも生産にもペナルティが酷すぎて、使えない種族なのだ。良いことは不死なところかといえば、コアを破壊されると終わりであるので、以前に肉の身体に戻せる神殿が発見されて以来、一部の物好き以外にはいなくなったほぼ滅亡した種族でもある。
「いやはや、そこまで厨二病を徹底しているのは、ある意味凄いですね〜。強化人間とは遺伝子操作された人のことでーす。30年前にその技術が流行って10年ほど前から下火になりました〜」
サラスが汗を拭きつつ話に加わる。
「だが、遺伝子操作というのは難しくてね。頭を良くしようとすれば精神崩壊どころか、獣のようになって考えることもできなくなり、肉体を強化しようとすれば、体の各所で筋肉断裂が発生してすぐに死ぬ。そして強化人間から産まれる子供は死産か奇形児……。成功しても人間としては他の人よりかは性能が高いが、機械には敵わない。非人道的であることに加えて、そんな結果になったので、すぐに廃れた技術さ。それでも兵士たちとして運用しようと他国の中では密かに研究されているらしいけどね」
「あぁ、肉体改造系統ですか。あれは強いですがペナルティもでかいですからね。私は使わないです」
ステータスアップのイベントの中で改造系統は嫌いなアリスは素っ気なく答える。あれは他のステータス低下や弱点追加がされるし、改造しなければ、『自然派ハンター』の隠しスキルが手に入る。超術やSPに大幅補正が入る現在のハンターの主流でもある。
だが、アリスはカメラにて映し出されている戦闘で、明らかに他の兵士よりも素早い敵を見つけていた。あれが強化人間というやつなのだろう。
ハンガーに向かっている盗賊たちの部隊が圧倒的な身体能力で兵士たちを倒していくので、目的は六文銭改とやらに違いあるまい。
それならば、次の行動をとりますかと、皆が休んでいる間にこっそりと移動するゲーム少女であった。




