11話 ゲーム少女は新米傭兵と話す
オーガは強敵である。その巨大な体躯から生み出される力は凶悪でベテラン傭兵でも倒されることがあるくらいだ。新米傭兵だと死を覚悟しないといけない相手であった。
現にブチーダはオーガの一撃を受けて、凄い吹き飛んだ。猫人族は身軽であるといっても限界はある。それが小石が跳ねるように、ダダンと地面を跳ねて離れた場所に倒れ伏したのであった。
ブチーダを見捨てることはできなくて、クロームと一緒にチャシャはオーガを倒すことに決めた。逃げれるかわからなかったし、見捨てることは自分が見捨てられても構わないと言っているようなものだからだ。傭兵でのその評価は致命的である。
なので、ほとんど効かない攻撃を繰り返していた。買いたての鉄製のロングソードであるが、切れ味はオーガの皮膚を傷つける程度。体力がいずれ尽きて倒されると考えて、自分はここで死ぬのだろうかと思っていた時だった。
森の中から人間族の少女が現れたのだ。人間族によくいる脆弱そうな小柄な体躯で美しい長い艷やかな黒髪の顔だちの美しい美少女であった。恐らくは森林に薬草取りにでも来たのだろうと考えて、急いで逃げるようにと叫んだのだが……。
結果はブチーダは回復魔法で治癒されて、オーガは魔法で倒された。小さい魔法の杖を振り回したと思ったら、小さい爆発音がしてオーガの頭が穴だらけになって、あっさりと倒されたのだ。
神官様だとすぐにわかった。見習いだろうか?助かったと、自分の運に感謝して、お礼を言おうとしたところ、神官様はにこやかに見惚れてしまう花のような微笑みを浮かべて、返事をしてきた。
「スキップ。報酬をください」
スキップとはなんのことだろう?神官様の挨拶かなにかだろうかと、慌てるチャシャはとりあえず自己紹介をしようと考えたのであった。
紅葉のようなちっこいおててを相手に差し出して数秒。相手がなぜか戸惑った様子で報酬を支払う様子が見えない。助けられておいて、払わないつもりかなと、これはハンター流のお話し合いが必要かなと、ぱっちりお目々を僅かに細めて警戒するアリス。
そんな警戒するアリスの様子に気づかずに、目の前のキャットニュートが頭をペコリと下げてお礼を言ってきた。
「助けて頂きありがとうございました、神官様。あ、私はチャシャと言います。こっちがクローム、倒れて癒やして頂いたのがブチーダです」
そう言ってチャシャというキャットニュートは自己紹介を始めた。銀毛のキャットニュートで耳と尻尾が生えているのが特徴だ。あとはノーマルニュートと変わらない。隣の黒毛がクローム、茶毛のぶちがブチーダらしい。皆、歳は15歳ほどだろうか。
「ぶっ。わかりやすい名前だなぁ〜。覚えやすくて良いけど、この異世界はそんな名前が流行っているのか? いや、江戸時代以前は地球も当たり前だったのかも」
相手の自己紹介を聞いて、ブツブツと呟き考え始める鏡。何を気にしているんだろうと疑問に思う。このおっさんフェアリーは常になにかくだらないことを考えているとアリスは呆れた。
人生なんて行き当たりばったりで良いのにと考えるゲーム少女である。なにしろ気が向いたら、特に脈絡なく色々な場所に行っていたのだからして。ゲームでの行動ではありがちでもある。鏡もそうだったのだから。
「わかりやすい名前で良いと思いますよ? 私の知っているハンターには、銀河帝王ああああとか、◆黒天子◆ナンダ、とかわかりにくい名前の人たちが大勢いましたし」
あれは、覚えにくいというか、ハンターとしての偽名なんだろうが暮らしにくいのではと思ったものだ。なんで帝王が名前に入っているのか。
「あぁ……。たしかにハンターの名前は自由に決められるからな。突飛な名前にアリスをしないで本当に良かった〜」
胸を撫で下ろしている鏡。私の名前を名付けたとか、また妄言を吐いているなぁと私は思った。まぁ、このおっさんフェアリーはへんてこだから仕方ない。ちっこい幼女にしかみえない3博士の一人は他の次元を開いて、自分を分離していたりと、今までも依頼者でへんてこな人たちはいたのだ。このおっさんフェアリーもそうなのだろう。
そんな鏡の様子を呆れて見ていると、ブチーダと紹介された男が地面から首を振りながら立ち上がっていた。どうやら大体回復はしたようである。救助者全員生き残ったから、報酬も高いはずだよねと、アリスはワクワクと顔を綻ばせた。救助クエストは救助が何人生き残ったかで報酬が変化することが多いのだ。
まぁ、弱そうな救助者だ。きっとHPも低かったのだろう。全快していなくても、欠損異常となっていても助けるつもりはない。理由は当然、そこは報酬に関係しないから。
ちなみに回復はどれぐらい回復したかは不明。生命力や超力は%でステータスには表示される。そして回復もダメージもだが、相手にどれぐらい与えたか、自分はどれぐらいのダメージを受けたかは数値ではわからない。全て%の記載だからである。
なんとなくこれぐらいかな?という感じだ。解析班というハンターグループがダメージ計算式を作って、色々と調べていたが、私は興味がなかった。敵を倒せる攻撃回数が少なくなれば強くなっているんだよのスタイルだったので。よく解析班はあんな面倒くさいことをすると感心していたものだ。
高価な素材、珍しい素材、付与された効果が高ければ、武器なんて強くなっているのだ。きっとそうだとアリスは信じている。なので、常にレアな武器で強い付与効果の武器を使っていた。
「あ、あの………。神官様?」
チャシャを無視しておっさんフェアリーと話していたら、おずおずと声をかけられたので、再度手を差し出す。
「スキップ、報酬ください」
どうもこの惑星では、勝手が違う。スキップと言っているのに、意味がわからないのだろうか?銀河共通法だと思うのだが。今まででスキップと返事をして、さらに話を続ける人はいなかった。それほどの共通法なんだけどと、アリスは戸惑いの表情を浮かべる。
早く報酬くれないかな。レベル上げを再開したいんだけどと、非難の目をキャットニュートへ向けるアリス。
「あ、あの……。スキップというのは挨拶なんでしょうか? 私は最近街に出てきた田舎者でしてわからないんです。ごめんなさい!」
今度は深々と頭を下げて、チャシャが謝ってくるので、アリスはため息を深く吐いた。
「ここまで辺境とは思わなかったです。仕方ありません。スキップと言うのはですね…」
丁寧に説明してあげようとしたら、鏡がまたもや私の目の前に立ち塞がって叫ぶ。
「アリス! このド田舎惑星は銀河共通法を知らないんだ! これまでの考えは捨てる必要がある!」
「マジですか? え? 面倒くさいですよね? 凄い面倒なんですが?」
衝撃の真実である。これまでの冒険でも共通法を知らない人はいなかった。それでもこの娘だけかなと思ったら、惑星全部!ありえない惑星だ。信じられない。
「だけれども、その代わりに報酬に情報などを上乗せすることが可能だ。交渉スキルがあれば儲け放題かもしれないぞ?」
「マジですか? え? そんな素晴らしい惑星があったんですか? やりましたよ、これで私の稼ぎも跳ね上がりますね!」
衝撃の真実である。これまでの冒険でもランダムクエストで報酬を上乗せできたハンターはいない。素晴らしい惑星だ!ありえない惑星だ!信じられない!やった〜!
その情報を聞いて、ニコニコ笑顔となるアリス。その可愛らしさは万人を魅了するかもしれない。
チャシャへと顔を向けて、再度微笑みを浮かべて伝える。
「ではまずはマテリアルを貰いましょうか。話はそれからです」
にっこりと笑顔を浮かべて、再度おててを差し出す。
話をスキップしないだけで、対応はまったく変わらないアリスであった。
その言葉を聞いて慌てふためくチャシャ。こちらの顔を窺うように尋ねてくる。
「あのマテリアルって、なんですか? お祈りか何かかな? どうしよう、わかりません……」
「お祈りスキルはあんまり役にはたたないので、私はとっていませんでした。というか、今はお祈りではなく、マテリアル、すなわちお金をください。助けたんですから、当然ですよね?」
ピシャリと怒って告げるアリス。小柄な身体で怒っているので、いまいち迫力がない。
ワワワと慌てふためくチャシャはクロームへと視線を向けて、傷が治ったブチーダに現状を話し始める。
ブチーダはこちらへちらりと視線を向けて驚いた表情になるが、納得したようにウンウンと頷いた。そして3人で革製の財布らしき物を出して中からゴミを取り出す。いや、ゴミではない。金貨と同じ形なので、通貨なんだろうか。色が違うけど。
「あの、カードトレードでも良いですよ? 面倒くさいですし」
現金をわざわざ出すより、カードトレードした方が全然早い。カンタンな方法である。
しかし、キャットニュートたちは、それを聞いて戸惑いながら顔を見合わせていた。
「えっと………。それがなんだかわからないんです。ごめんなさい、神官様」
今度はキャットニュート全員で頭を下げてくるので、アリスは深くため息をついて、諦観して返事をする。
「わかりました。それならば現金で良いですよ。色をつけてくれると嬉しいです」
ホッと息を吐いて、安心したように見えるチャシャが、全員分集めたのだろう、おずおずとチャラチャラとアリスのちっこいおててになにかを置いてきた。たぶんこの物が通貨なのだろうと推察して声をかける。
「では、次はこの通貨の価値と近くの街、そしてハンターが集まる酒場を教えて下さい。美味しい狩場があればそれもお願いします」
常に一気に情報を集めようとする欲張りアリスはにっこりと微笑んで告げるのだった。




