106話 再び天才少女に出会うゲーム少女
筑波研究学園都市。軍事技術から日用品まで、様々な研究をしている研究者が集まる大都市である。超電導を利用したリニアトレイン、リニアバスが都市に走り回り、現金はほとんど出回らずにカード払いは当たり前、太平洋連合の科学者が集まる科学者たちの夢と希望、利権と勢力争いが絶えない都市だ。
「利権と勢力争い。私はどこの派閥につけば良いのでしょうか? なるべくカオスルートはやめておきたいのですが、報酬によっては考えますよ? ウルトラレアアイテムなら善処します」
恋する乙女のように目を輝かせて呟くのは、善処するだけで、強奪しようと考えているアリスである。カオスルートの敵なら倒しても正義の人だと有名になるから一石二鳥であると考えていた。利権と勢力争いという言葉が大好きなゲーム少女である。クエストがたくさん発生する場所なのだからして。
「こら、アリス。大人しくしておけよ? あんまり……いや、全然まったく目立たなくていいからな? ぐるぐる眼鏡装備しておかない?」
コツンとアリスの頭を軽く小突いて注意をおっさんこと鏡がする。本日はおっさんウサギに憑依しています。筑波まで移動時間も含めて6時間の制限時間が切れないだろうなと恐れていたりもする。
「ぐるぐる眼鏡は知力補正がかかると言われていますが、ステータスに知力の項目はないですし効果はないと思います。目立たないようにするのはわかりました。とりあえずは秘密の研究所とか探して良いですよね? 放棄された機動兵器とか貰っても良いですよね?」
バウンティハンターの基本だよねと、落ちている物はバウンティハンターの物なアリスである。もちろん現実世界の常識ではない。
ふんすふんすと鼻息荒くリニアトレインの窓にへばりついて外を眺める美少女。幼い容姿のアリスのはしゃぐ姿に電車の乗客はほっこりしている。
「アリスちゃん、私の古武術の出番かな? 一子相伝見せるとき? あぁ〜、テロリストっていつ頃来るのかなぁ」
両手を組んで祈る乙女なカナタ。こちらは現実世界の住人の癖にアリスと同じぐらいの非常識である。
「はぁ〜。やれやれ、この筑波研究学園都市は太平洋連合の中でも重要拠点。テロリストなんか来るわけ無いだろ?」
やれやれと常にやれやれと言いたいおっさんは肩をすくめて口元をニヤけさせる。もちろん常識人のおっさんはテロリストが現れるなんて思っていない。とりあえずはフラグだけ立てておく。人生は刺激が必要だよな。
3人共が非常識な人間であるが、全員が自分は常識人だと信じる一行は鶴城母に紹介された研究学園都市の科学者に会いに来ていた。
アリス的には断る理由はないし、カナタはこんなイベントを外さない。おっさんは保護者としてついてきて、鶴城母は急な用事が入ったというので来ていない。
これもよくあることですねと、イベントではこういった紹介だけして放置する人が多かったんですとアリスは気にしていなかったが、鏡は紹介者がいなくていいのかよと少し不満です。人見知りではないけど、少しこういうのって怖じ気づくよね?
シュイーンとリニアは走っていき、駅と到着して案内された場所にトコトコと移動する。
アリスはほうほうと周りを見て、そこそこ発展していますねと感心する。この都市は辺境にしては交通の便もよく、進歩しておりなかなかだ。なんでマテリアルを使用していないんだろうと首を傾げててこてこと進む。
カナタもキョロキョロと初めて来た研究学園都市を前に、物珍しそうに眺めている。おっさんはつまらなそうに鼻を鳴らして進む。
「ここはエリートだけが集まる都市だ。あらゆる部門の天才が集まっている」
「そういうの良いので、クエストはまだですかね? 風船を持った子供はどこですか?」
フッとクールに呟くおっさんに情け容赦なくバッサリと切ってアリスは答える。肩を切りながら、俺はなにか謎があるおっさんだぜ演技を始める鏡を放置して、移動の際にクエストは発生しないかなとキョロキョロしちゃう。
「ねぇ、少しのってくれてもいいんじゃね? 天才だけどこの都市には来なかったクールでダンディなおっさんをしたかったんだけど」
「クール便でダストボックスに運ばれれば良いと思いますよ。で、ここですか?」
むろん、成功した投資家という肩書以外は平凡なおっさんには過去のバックボーンはない。ちょっとやってみたかったのだ。
「おぉ、鏡さん、歳の割にはお茶目なんですね」
「少しだけ言ってみたかったんだ。仕方ないだろ?」
カナタの言葉におっさんは不貞腐れるが、おっさんなのでそのような絵面いりません。
とはいえ、ようやく到着したのは要塞みたいなビルであった。この都市でも一際大きな敷地に建てられている建物だ。
窓があまりないコンクリート製のビル群。グラウンドが広く用意されており、そこには研究用なのか装甲が所々剥がれた超電導機動兵器SR六文銭がドシンドシンと歩いている。
それに……。
「壁には超電導シールド、屋上にはスナイパーに目立たない所に兵士たち。六文銭もまともな物が格納庫に設置されています」
壁に設置された監視カメラにクラッキングをしたアリスは深い光を目に宿して、この地のマップから戦力までを即行で把握した。フロンティアは科学が発展していない惑星の為にバウンティハンターの力は半減以下とも言えるが、中途半端な科学力を持つ惑星では圧倒的な力を使えるのだ。
もはやレベル70を超えたアリス。電子学もせっせと上げておいたので、そのクラッキング能力は数メートル内の機械にアクセスできるのである。
ネットワーク接続は制限している? 決められたIPしか入れないし、パスワードもある? 電気を使っているでしょう? ネットワーク接続はされているでしょう? ならばすべてのファイアウォールを無視して接続できるのが、バウンティハンターの科学力なのだ。卑怯なゲーム仕様とも言える。
「どうやら、ここは厳重すぎるぐらいに厳重に警備されていますね。むろんこの惑星レベルですが」
「ふっ、そうだなアリス。この惑星にしては。クックックッ」
この厨二病的会話に乗らないでどうするんだと、おっさんもそれっぽく話に加わる。こういう会話って憧れていたんだよと。
「ま、とりあえずは科学者さんとやらに会いに行きますかね。すいませーん、ここで面会の約束取り付けている啓馬と言うんですけど〜?」
とりあえずは受付に行こうかと、鏡を先頭に建物に入る。その建物はロボット学研究所と看板に書かれていた。
受付にスマフォを預けて金属探知機を使われて、カタカタと戸籍を確認されて、ようやく足を踏み入れる。警備厳重すぎだろとは思うが、軍事施設とも言えるのだ、仕方ないかなと諦める。スキップスキップとアリスは口を尖らせて面倒なチェックを回避しようとしていたが。
応接間に入って、カランと氷の入ったアイスコーヒーをテーブルに置かれて、しばしソファに座り待つ。
「会う人はなんという名前の人だっけ、アリスちゃん?」
「なんとかという人ですね。ここにいればわかるはずです」
カナタの問いかけに重要キャラしか名前を覚えないアリスはきっぱりと答える。
「ああっと、たしかサラスって女性だな。太平洋連合の天才科学者らしいぞ」
いつものことだと気にせずに、鏡がカナタに教えると
「おー。サラス・バルティアと申しま〜す。どなたが私と会える程の知性の持ち主ですか〜」
バーンとドアを開けて、ブルンと巨乳を揺らして褐色の女性が楽しそうに現れたのである。
「そこの一番小柄な少女だよ、サラス。彼女は歴代最高点を叩き出す天才だね」
元気なサラスの後ろからぴょこんと顔を出して、面白そうに言ってくるのは盾野守里。総合科学者として有名な天才少女である。
サラスは興味深げにアリスを下から上までジロジロと眺めて、守里はニヤニヤと面白そうに笑い腕組みをして二人ともソファに対面に座った。おっさんはチラチラとサラスの胸を覗き見るが、とりあえずは通報すれば良いだろう。
「私は太平洋連合の兵器部門の部門長のサラス・バルティアでーす。天才少女ちゃんのお名前はなんですか〜?」
「私は安心格安、確実に依頼をこなすどんなイベントなのか期待している銀河を跨ぐバウンティハンター魔風アリスと言います」
ハッハッーとエセ外国人のような喋り方で挨拶をしてくるサラスに、ふんすふんすとアリスも対抗する。おっさんはもうアリスの挨拶に諦めた。やめる気絶対ないので。
「俺は啓馬鏡だ」
「私は鶴城カナタで〜す」
「総合科学者の盾野守里だ。よろしく頼むよ」
鏡とカナダも自己紹介をして、守里も普通に挨拶を返す。
「お〜。銀河を跨ぐバウンティハンターかっこいいね! 天才ちゃんは何でもできるのですか〜?」
ちっちゃな少女に目線を合わせて楽しそうに言うサラスにアリスはトンと胸を叩く。
「敵の殲滅から、落とした指輪まで。報酬と引き換えにどんな仕事もやりますよ。どこの敵対組織を倒せば良いですか?」
ノリノリの厨二病患者に見えるアリスにニヤリと面白そうにサラスは笑う。
「貴女が天才とは聞きましたが、どうなんでしょー? なにか試しても良いですか〜?」
「もちろんです、イベント前のチュートリアルですよね。雑魚いクエストでも何でもしますのでどうぞ?」
その自信のありそうなアリスに、ニヤニヤと悪戯そうにサラスは笑い、守里は苦笑を隠さない。アリスは二人の様子を見て、わたしの力をわかっていないようですねと、薄く笑う。人を試すクエストは星の数とも言えるほど受けてきたアリスだ。まったく問題はない。
「では、開発作業室にいきましょー。天才少女ちゃんが驚くものがたくさんありますよ〜? 人も物も」
「驚くような物……。もしかして古代人とか、古代遺物でしょうか? 先史時代の物とかですかね?」
それは凄いことですねとワクワクしちゃうゲーム少女である。その言葉を聞いて、ブハッと吹き出して腹を抱えてサラスは笑う。
「とことん厨二病なのですね〜? まぁ、面白い物がたくさんありますよ〜?」
そうしてぞろぞろと開発作業室とやらに移動する。移動ばっかりで厳重なセキュリティのチェックに少しうんざりである。
開発作業室とやらはパソコンが並び、シミュレーション用のゲーム筐体のような物が置かれて、内部が剥き出しになった六文銭の腕がコードをつけられて置いてあったりする。研究者たちが白衣を着てなにやら忙しそうにしている。
「問題でーす。このCD。既存の六文銭のOSが入っているのですが、起動しませーん。これを直すことができますか?」
胸からCDの入ったジャケットを取り出してフリフリと言ってくるので、その程度ですかと思いながらニッコリと笑う。
「チュートリアルですものね。わかりました、バウンティハンターアリスにお任せください」
こんなのは簡単だと、バウンティハンターアリスは応えるのであった。
そしておっさんはこの人は胸から取り出したよと、現実でそんなことができるのかと驚いていたが、どうでも良いことだろう。




