10話 ゲーム少女は新米傭兵を救う
きゃーと布を切り裂く女性の声が森の中から聞こえてきたので、アリスは走った。いつもの聞き慣れた悲鳴だ。小金稼ぎになるねと、ランランとスキップもしながらの移動である。どう見ても救いに行く人には見えない。
「急がないの? ねぇ、急がないの? アリスさんや?」
鏡がアリスの走り方を見て、焦った様子で顔に詰め寄ってくる。
ちょっとおっさんがここまで顔に近づくのはNGですよと、ペチンと弾いて返答する。なにげに触れると知って、なおかつ殺すことはないとわかってから、おっさんフェアリーの対応が雑になるアリス。仕方ないのだ。鏡がこれまでやってきたゲームの行動を反映しているので。
おっさんには厳しく、女子供には優しくの精神なのだからして。特に美少女には優しくしてきた。王女とか皇女とかには特に。
なにせ高報酬をくれるのだから、一石二鳥なのである。なにが一石二鳥かはアリスのみしか知らないのである。
そうしてふらふらとしながら、少し離れたおっさんフェアリー。
「くそっ! たしかに近寄りすぎるNPCはアリスに触るんじゃないと、殴るモーションをしていたけど、自分がそうなるとはっ!」
なんか鏡が悔しがっているけど意味がわからないので、とりあえず教えてあげるアリス。
「慌てなくても大丈夫です。私が行くまでなぜかピンチになっている人は死なないんです。近づいたら傷を負っていくので、早く助けないといけませんけどね」
フンスと息を吐いて、ドヤ顔で言うアリス。こういうのは腐るほどやってきたのだから、問題はないのですとの返答だ。
「この惑星では違うんだ! 間に合わないと死んじゃうよ!」
おっさんフェアリーの焦った言葉で、驚愕するアリス。この長期クエストを受けてから、驚きの連続だ。
「そうすると、助けることができません! 私はお金をもらい損ねますよ?」
「いや、そこは救助者が死んじゃうとか言えよ! 気持ちはわかりすぎるほどわかるけど!」
焦りながら、怒鳴り合う2人であった。2人の焦る理由は違うが。
「急ぎます!」
前傾姿勢になり、全力ダッシュする。先程と違い、速度が全然違う。
草木をほいっと、上手く躱しながら突き進む。汗を少しかきながら移動すると、3人の戦士らしき人と3メートルぐらいの巨体のアストラル体が戦っていた。すでに1人は倒れ伏しており、残りの2人で戦っている様子だ。
戦士の装備からハンターでは無いとすぐに判断した。ハンターなら救援要請が自分のステータスボードに出るからだ。救援要請が無い以上、彼らは一般人である。多分、国の兵士とかなのではなかろうか? だが、この惑星は異常である。なので、素早くアリスは声をかけた。
「救援要請ですか? 横殴り可能ですか? その場合はそのアストラル体のアイテムは私が貰いますよ!」
救援要請時は経験値は入らない。なので、アイテムのみとなるし、その場合救援した者の物となるのだが、念の為に確認する。
その声にびっくりして、こちらを見る2人。若いキャットニュートだ。男女1人ずつで、ボロいロングソードを持っている。
女のキャットニュートの方が、アリスを見てびっくりしたあとに鬼気迫る感じで怒鳴った。
「逃げて! ここから早く逃げて!」
え〜?とアリスは予想外の返答に戸惑った。いつもなら、おぉ、バウンティハンターか!援護を頼む!とか助けてくれ!とかなのに、逃げてとは斬新な返答だと唖然とした。死にそうじゃないのかな?
「あの? 本当に良いんですか? 助けたほうが良いと思いますけど?」
誰か別のハンターのイベントなのかなぁと、呑気に聞き返して、外れだったかと移動しようとする。小金を稼ぎ逃したねと。
「待て! あれはこの惑星のわかりにくい救援クエストだ! 助ければ色々良いことがあるかもだぞ?」
鏡がサポートキャラとしての発言をしてくるので、
「なんと! そんな救援クエストがあるんですか! 気をつけないといけませんね」
頷いて、キャットニュートの相手を観察する。
丸太を担いだ3メートルのアストラル体。上半身裸の巨人。額にちっこい角を生やしている。見覚えがあるアストラル体だ。
「オーガアストラル体ですね。雑魚っぽいです」
自分の勘では、同じぐらい強いと感じている。まぁ、よくあることですねとアリスは慌てない。
『解析』
すぐさま敵の解析を行う。
『戦闘力105』
雑魚である。盗賊の親玉より弱い。だが戦闘力とはあくまで指針の1つ。ステータスと武器防具の総合なので、筋力と体力に極振りしている敵などは想定外のダメージを受ける場合がある。きっとHPも高いだろう。
だが問題はない。この程度の戦闘力で極振りしていても、たかが知れている。
まずは救援対象が誰も死なないようにしないとなるまい。即座に倒れているキャットニュートへと治癒術をかける。
『ヒール』
ぽわんと倒れているキャットニュートを淡い光が包む。低レベルの回復術だ。ミニポーションぐらいの回復をしてくれる懐に優しい術である。
その光で、倒れていたキャットニュートは僅かに身じろぎしたのを確認してから、アリスはオーガへと向き直った。
「神官様だったの!」
それをちらりと戦いながら見ていた女のキャットニュートが驚きの表情を浮かべる。
まぁ、治癒術をアンロックするにはなにかの古代神を信仰しなければならないし、アリスはイベントをクリアしていたので、クラスも特別枢機卿とかいうやつだ。信仰しているのは古代神『宇宙樹』。信仰内容はたまに適当に善行をしなさいだ。あと、なんかあったような感じがあるが忘れた。ようは治癒術を使えれば良いので。
でも信仰するのは簡単だ。適当にどこかの神殿に10万MPを寄付すればいいだけである。初期では意外ときつい金額だが、これで薬代が無くなると思えば安いものだ。ただ、術の増やし方が寄付とクエストクリアという罠であったが。
その時はなんと神殿は美味しい商売をしているものだと感心したものだ。自分もしたかったけど、枢機卿になってから、大神殿へと自由な入場と、隠されていた聖地へと入れるようになっただけであった。私も神殿でゴロゴロしながら暮らしたかったのに。
術も500レベルから上は私とか他の凄腕ハンターしか覚えていなかった。何しろクエストが聖地奥だったので。それなのに神殿に自分の部屋も用意されなかったのだ。神官とはなんぞや。
まぁ、それはともかく目の前のオーガを倒すことにする。レベル上げ中のハンターならソロでは苦戦するかもしれない。しかし私はレベルがダウンしているだけで、これまでの体験は覚えているのだ。敵のハメ技とか、裏技とか。
なので、オーガなんぞ楽勝である。
スタスタとオーガへと近づく。無限ハンドガンの最高ダメージは10メートル以内に敵がいることだ。それ以上離れるとダメージが減衰するので、近寄って倒すのである。
キャットニュートたちは、アリスが近寄って来るのを見て、叫ぶ。
「神官様! 援護をお願いします! 回復を貰えたら戦えますので!」
「あぁ! 回復さえあれば勝てるぜ!」
調子の良いことを言う救助者だとアリスは思う。たしかにオーガはそこかしこに傷を負っているので、回復の援護ありなら、このキャットニュートも倒せるかもしれない。
でも救助者には絶対に敵へのトドメを刺させないのは、ハンターの鉄則である。
救援したはずなのに、救助者が敵へトドメを刺したら、危なかったな!と返事をして報酬を支払うことをしない人がたまにいるのだ。
だいたいはギャラクシーライブラリーに訴えると、誤魔化すのを止めて支払ってくれるが、ギャラクシーライブラリーは即座に対応してくれない。ハンターのその時の対応を調べたあとに救助者に注意をするので、小金程度でそんなに時間はかけられないと諦めるハンターがだいたいなのだから。
もちろん私は諦めないので、その場合はじっくりと待つが。しかしてここはギャラクシーライブラリーの通信不可の辺境だ。もしかしたら報酬を支払うことなく、逃げられるかもしれない。
なので、私が倒す一択である。
スタスタと平然とした表情で、恐怖の色も緊張の顔も見せないで歩み寄るアリスに、キャットニュートたちは慌てる。どうやらこちらにタゲを取らせないようにしているのだろう。盛んにオーガへと攻撃をし始める。
だが、そんなのは無視である。アリスは目を細めて、銃を持っていない左手をオーガに向けて
『マインドショック』
精神術を使った。パシリと一瞬オーガの頭が光に弾かれたようになる。そして両腕をだらんとおろしてふらふらと身体を揺らす。
無防備状態。精神抵抗が失敗すれば、3秒だけ敵を朦朧とさせる術。短いが強力だ。何しろ無防備状態だとクリティカル発生率が大幅にアップする。しかも頭をヘッドショットすれば、ダメージ倍率ドンだ。
脳筋な敵へのハメ技。レベル30あたりから効かなくなるが、たまに効くので戦闘中気休め程度に絶対にハンターが好んで使う術だ。
すぐさまアリスは銃を持っている腕を持ち上げて、もちろんオーガの頭を狙い
『クイックドロー』
全弾発射の銃技を、発動させる。ふらふらとしていたオーガの頭へと6発の銃から放たれた銃弾は向かい、あっさりとオーガの頭に命中して、顔が潰れて血の花を咲かせるのであった。
ずずんと地面に倒れ伏すオーガを見て、やっぱりこのコンボは低レベルでは最強だなぁと口元を小さく微笑ませて、目の前の驚いて剣を持ち上げたままの2人のキャットニュートへと声をかける。
「スキップ。報酬ください」
ランダムクエストの話の内容はスキップして、報酬を貰うことにする。いつもの対応であるアリス。
「え? スキップって、なんですか?」
その言葉に硬直が解けて、オロオロするキャットニュート。
そんな態度を見ても一顧だにしないアリスは、この報酬はなんだろうとドキドキワクワクと微笑みを浮かべるのであった。




