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1話 ゲーム少女誕生のプロローグ

 広くどこまでも続く暗闇。そして、どこにも行けない空間。何者も入れない世界で2人の存在が戦っていた。


 かたや悪魔と一般的に言われる存在。爛々と光る他者をもて遊ぶ紅く光る瞳。頭の脇に2本の捻じくれた角が生えており、背中にはコウモリの羽。羊の尻尾を生やしている、真っ黒で艷やかな肌をもつ者。地球でもっともポピュラーなイメージの悪魔だ。


 もう片方は6枚の蒼き粒子でできている光り輝く翼を生やした、流線型の額あて、随所に至高の輝きをもつ宝石をつけたハーフプレートアーマーを着込んだ少女。北欧神話ではヴァルキュリアと呼ばれる戦乙女だ。


 2人は永劫とも言える戦闘をその空間で行っていた。悪魔が黒き軌跡を残し、高速で戦乙女をダイヤモンドさえ、あっさりと切り裂く超常の力をもった爪で攻撃すると、戦乙女は手につけた丸い盾を的確に動かして、その攻撃を受け流す。戦乙女が槍を突きこむと、悪魔は身体を翻して回避する。そのような戦いがずっと続いていた。


 神と悪魔との戦い。第三者がその戦いを見たら、そう思うだろう。光と闇が戦っているのだと。


 しかし、それは真実ではなかった。


 槍が自らの翼を掠り、肉片が飛び散る。すぐに間合いをとって、悪魔ことデミウルゴスは驚愕していた。


「何ということだ! ありえん! あり得ない!」


 デミウルゴスは数多の世界を練り歩く最強であり、唯一の悪魔であり、神であった。既に数多の世界を渡り歩く他の存在は消滅させてきたので、己が最強であることを疑ってはいなかった。


 しかし、今、デミウルゴスは眼前の敵に屠られようとしていた。冷静でなんの感情の起伏もなく、淡々と敵を倒すべく行動する戦乙女。


 自らが生み出した敵を前に戦慄を隠せない。その強さに瞠目し、長き時間を戦い続けるその精神に驚嘆する。


 ここに至って、デミウルゴスは己が所業を省みた。



 

 デミウルゴスは2000年程前に、数多の世界で神として君臨してきた存在とその眷属を全て屠り倒してしてきた。1匹残らず、完全に殺し尽くしたデミウルゴスは、されど数多の世界を破壊したりはしなかった。混乱に落とし込み、文明を崩壊させるようなことはしてきたが、完全に滅ぼすことはしなかった。


 それはなぜか? デミウルゴスは高次元の存在だ。その存在を保つには強い精神とアイデンティティが必要である。しかし、もしも数多の世界を滅亡させたら、どうなるか? その答えは簡単である。


 退屈になるのだ。することもなく、ただただのんびりと過ごすことになるだろう。その場合、デミウルゴスは究極的に何も考えないただの概念になってしまう。


 デミウルゴスはそんな存在を多く見てきた。低次元の知的生命体に干渉を禁じて、観察だけにしてきた存在が退屈に支配されて、ただの概念となってしまったことを。


 そのようなことはデミウルゴスには耐えられない。既に他の高次元体は全て余すことなく殺してしまったのだ。最後の自分がただの概念となるのは耐えられなかった。


 そのため、退屈を紛らわすために、悪魔と呼ばれることや、神と敬われることを低次元体に対して繰り返してきた。


 そして、デミウルゴスは気まぐれに、地球という世界の日本と呼ばれる国で、低次元体の願いを叶えてやろうと考えた。数百年ぶりに地球に、そして日本に降り立ち、なかなかの文明を科学を進歩させていると感心しながら、老婆へと変身した。


 願い事を叶える相手を探したところ、日々の生活に困らず、退屈に支配されている中年男性を見つけたのだ。


 声をかけて、願い事を叶えたければ、この飴を食べてみるが良いと、軽い催眠もかけて渡したのだ。

 

 疑り深い男性であったが、催眠のせいで迷った末に、その飴を帰ってから口に入れた。

 

 どのような願いだろうか? 美女にモテたい? 叶えよう、常に修羅場となり命の危険となる願いを。世界一の金持ちになりたい? 叶えよう、あらゆる国や組織から命を狙われる金持ちへと。若くなりたい? 叶えよう、実験体としての苦しい生活が待つ世界へと。


 デミウルゴスは、その男性の願い事を素直に叶える気など、さらさらなかった。曲解をして苦しむ姿をたっぷり見て嘲笑うつもりであった。まさにそれは悪魔の所業であった。


 だが、男性の願いはそのどれでもなかった。自分のやっているゲームキャラの力を手にいれて、異世界で生活したい。しかもいつでも自分が日本に戻れる能力つきで。


 デミウルゴスは呆気にとられた。最近の低次元体は変な願い事をすると。


 しかし、その願い事も面白いと叶えることに決めた。


 どう叶えるかというと、ゲームキャラの中に、その魂を封じ込め、そのままゲームの中に電子の存在として暮らしてもらうというやつだ。


 その場合、全ての願いが叶う。ゲームキャラになり、異世界であるゲームの世界に入り、なおかつ、そのゲームは日本に常に存在していることになるのだから。


 男がゲームの住人になって、泣き叫び、いつゲームがリセットされるか恐怖する表情を思い浮かべて、デミウルゴスはニヤリと嗤った。


 早速、ゲームキャラに魂を封じ込めようとしたが、やることがある。


 さすがのデミウルゴスも単なる電子データに魂を封じ込めることは難しい。なので、まずはゲームキャラを現実化させることにした。疑似の魂を作り、亜空間にて男の魂を取り出して融合させる。そうして、受肉を解除して電子データへと戻すのだ。


 楽しそうな試みにほくそ笑み、男性が指定していたゲームキャラを現実化させた。その際に自分もそのゲームのボスキャラへと力を落とし込んだのだ。無理やりにでもやろうと思えば可能であるが、同じ存在、概念となったあとに、共通の存在、概念を作るほうが力を使わなくてすむからだった。


 そうして作り出したとき、ごっそりと自らの力が抜け出るのを感じた。嫌な予感がしながらも、目の前に受肉したゲームキャラに男の魂を入れようとしたときであった。


 目の前の少女は目を覚まし、こちらの存在を感知すると、すぐさま攻撃を仕掛けてきたのである。


 スペックではデミウルゴスが圧倒的のはずであった。しかし、相手は恐ろしい程の精妙さの超能力、美しい舞のような体捌きで、デミウルゴスへと少しずつ、少しずつダメージを与えてきた。


 ゲームでいえば、HPゲージの1ミリにも劣るダメージ。そんな少しのダメージを積み重ねていき、永劫ともいえる長い戦いの果てに、デミウルゴスは倒されようとしていた。


 本来の力であれば、蚊でも潰すように倒せたかもしれない。だがもはやそれはできない。最強であるというアイデンティティをもってから長く久しい。ここで他の手段を取るということは、そのアイデンティティを崩すことになる。自らが最強ではないと認識してしまうから。その場合、概念が変化して、最弱へと身体が変わってしまうかもしれなかったからだ。


 どうしようかと迷っている間に、デミウルゴスは倒されようとしていた。この空間から逃げて、身体を再構築する必要がある。逃げた果ての自らの存在がどうなるかはわからないが、もはやなりふりかまっていられなかった。


『次元転移』


 叫び、力を発動させて、自らの存在をこの空間から逃そうとする。


 しかし、その試みは既に遅かった。発動したはずの転移は何も起こらず、身体にはいつの間にか半透明な鎖が絡みついていたのだから。


 目の前の戦乙女が、小さく笑って告げる。鈴が鳴るような美しい声で告げてきた。


「きっとデーモンタイプのアストラル体はやられそうになれば逃げると考えていました。いつも倒す寸前で逃げるから、マテリアルも素材も経験値も手に入らないので、対応策は用意しておいたんです」


 馬鹿げたゲームだと、デミウルゴスは嘆息して諦めた。まさか、ボスキャラが逃げるなどという、そんなゲームが存在してよいのかと呆れもした。随分人間たちはたちの悪いゲームを作り上げたらしい。


「では、さようならの時間ですね。なかなか楽しめた戦闘でした」


 そう言って、戦乙女は槍を天に翳して超常の力を発揮した。


『銀河銃皇無塵』

 

 その言葉とともに、デミウルゴスの周りに戦乙女が星の数程、現れた。すべてが実体であり、眼前の戦乙女と同じ力を感じられる。


「きっと黒字ですね。間違いありません」


 そう言って、戦乙女は槍をデミウルゴスに向ける。騎士槍にも近い、美しい意匠の槍が2つに開き、中から砲門が現れる。その砲門はエネルギーが収束しており、デミウルゴスを倒すだけの力を感じられた。しかも周りには星の数ともいえる戦乙女が同様に構えている。


「シュート」


 軽い淡々とした掛け声が発せられて、全ての戦乙女から放たれた白光がデミウルゴスの身体を貫く。あっという間に、白光に包まれて貫かれて、自らの身体が消滅していき、アストラル体がエネルギーとして、戦乙女に吸収されるのを見ながら、デミウルゴスはニヤリと嗤った。


 もはや、自分が消滅するのは確定である。しかし疑似魂で作られた戦乙女も、また滅びるだろう。


 それは少し面白くない。自らを倒した者には褒美を与えるべきだ。しかも、それはデミウルゴスの娘ともいえる存在であった。


 消滅しながらも、デミウルゴスは最後の力を使って、男性の魂を戦乙女へと融合させた。魂は完全に融合して、彼女は完全体となるだろう。


 その先になにが待ち受けているのか? 彼女がどうなるかを考えて、この出会いをもたらした男の願いも叶える。すなわち、剣と魔法の世界へと、自らの作った闇の空間を繋げる。これでデミウルゴスが滅んだら、彼女は異世界に転移しているだろう。日本に戻る力も男性に与えたところで、力が尽き自らが滅びることを察知した。


「戦乙女よ。これからは、その魂との戦いになる。そなたは真の魂に打ち勝ち、無事に肉体を、魂を得る事ができるかな? ふははははは!」


 そうして、高笑いとともにデミウルゴスは滅んだ。最後の高次元の存在は娘ともいえる存在を創り出して、あっさりと滅んでいったのだった。



 その後、戦乙女と男性の魂の主導権争いが始まる。熾烈なる新たな戦い。


 ……には、ならなかった。


 えいやっと、可愛らしい掛け声でのパンチをくらい、あっさりと男性は負けて、晴れて戦乙女は現実の存在となったのだった。


 なにしろ、戦いの相手は、おっさんだったので。


 美しい戦乙女に勝てる道理はなかったのである。


 勝利した戦乙女は、そのまま異世界へと転移するのであった。

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― 新着の感想 ―
さてはこれかぁぁぁぁ!!
[良い点] 架空の存在が超越者に生み出されそれを倒し、更に本来の主人格すら乗り越え完全体となる(´Д` )なんてややこちい来歴なのこの娘さん。 [気になる点] こんだけやれる大悪魔デミウルゴスなら案外…
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