第9話 公国の秘密兵器
「リットル司令、公国軍はメタルワイバーンを千騎ほどに分けてます」
「そうか、間断なく対艦ランスを投射する目論見だな」
王国艦隊旗艦”トロッペンアドロ”の艦橋で、イエルスは公国軍の作戦を予想していた。物量はあちらが
勝っている。飽和攻撃をかけてくるのも織り込み済みだ。
「リットル司令、各艦とも目標への照準割り振り完了しました」
「よし、各艦に通達しろ。蚊トンボどもは入れ食い状態だ。今日は大漁だぞとな」
「了解です」
こうして、公国第二の都市レナウ近郊で、後にレナウ戦役と名付けられた激戦の火ぶたが切って落とされた。
先制したのは射程に勝る王国艦隊だ。対艦ランスを投射される前に、一斉射撃で削れるだけ削ろうとする
作戦だ。
「うわあっ! 邪教徒どもが撃ってきたぞ!」
「全騎散開! 散開しろ!」
第一派の部隊長が指示を出すが、地球のイージスシステムより優秀な魔導演算装置に捕捉された公国の
メタルワイバーンは、最初の一撃で数十騎を失った。その後も間断なく続く王国艦隊の迎撃で、公国軍
第一波は総戦力の8割以上を喪失したのである。
「リットル司令、第二派が対艦ランスを投射しました!」
「これからが本番だな。各艦対艦ランス迎撃開始せよ!」
第一派の生き残りと合わせ、約1200発の対艦ランスが王国艦隊に殺到する。迎撃を担う巡洋艦、駆逐艦
は魔導砲による弾幕を張り、次々と対艦ランスを撃ち落としていく。
「リフォンすごいよ。百発百中で撃ち落としているよ」
「さすが王国の新鋭巡洋艦だ。もう公国は敵じゃない!」
スタンたちの乗船するグラフレックスは他の艦に比べても、2倍以上の命中率で対艦ランスを迎撃していた。
楽勝気分も漂い始めたスタンたちだが、彼らが本当の戦場の苛烈さを実感するのはこれからである。
「戦艦ニコラペルシャイド被弾! 機関出力70%に低下です!」
「駆逐艦ジンマー撃沈です!」
王国艦隊の迎撃を潜り抜けた対艦ランスが命中し始める。そして、それはグラフレックスにも迫ってきた
のである。
「対艦ランス接近! 魔導砲の迎撃間に合いません!」
「全員対ショック姿勢をとれ!」
その直後、凄まじい衝撃がスタンたちを襲う。それまで楽勝気分だった彼らは、自分たちの考えがあまり
にも能天気だったことに気がつくのであった。
「あ、ああ・・・・」
「レミリオ大丈夫か。しっかりしろ!」
初めて戦場の洗礼を受けた士官候補生の1人が真っ青な顔でへたり込む。その股間は水浸しだ。しかし、
公国の攻撃はこれからが本番なのだ。
「左舷前部に被弾、機関に影響ありません」
「そうか、次の攻撃に備えよ、、、、、さて、士官候補生諸君、何を震えているのかな。敵は待ってはくれ
ないぞ。どんなに泣こうが喚こうが、やつらは容赦してくれんぞ。気を確かに持て!」
「「「「「「は、はい!」」」」」」
ベリートが怖気づきはじめたスタンたちを叱咤する。彼の言葉通り公国軍第一派、二派の生き残りは至近
距離からブレス攻撃を開始し、第三派が対艦ランスを投射する。戦いはこれから佳境を迎えるのだ。
「ふむ、、、、おかしいな」
「リットル司令、どうなされましたか?」
激戦のさなか、イエルスは公国軍の動きに疑問を抱く。
「いや、第四派がやけに後方にいると思ってな。普段なら即座に対艦ランスを投射するはずだが、あの位置
だと第一派みたいにこちらの主砲で全滅するぞ」
「なにか、企んでいるかもしれませんね」
「もしかすると、伏兵がおるやもしれぬ、全観に伝達! 魔導レーダーと目視での見張りを厳とせよ!」
「了解です!」
しかし、イエルスの指示もむなしく次の瞬間、凄まじいマナエネルギーの奔流が王国艦隊を襲った。
「魔導光線と思わしき攻撃、ニコラペルシャイドを直撃! 爆沈します!」
「なんだと! 戦艦の主砲以上の威力だぞ!」
「右方向魔導レーダーに感あり、スクリーンに映します!」
そして、スクリーンの映像を見てイエルスたちは呆然としてしまう。
「あれは、まさか・・・・」
「いや、そんなバカなことが起きるものか!」
それは、スタンたちの乗船するグラフレックスでも確認できた。
「見てよスタン、あれ・・・・」
「そんな! ハクレン様じゃないか!」
彼らが見た物体、それは龍化したハクレンそのものの姿だった・・・・