第8話 初の実戦
「わあ、すごい艦だよ」
「ああ、さすが我が王国の誇る新鋭巡洋艦だ」
翌日、スタン達は乗船予定の巡洋艦グラフレックスを間近にして、感嘆の声を上げていた。巡洋艦として
初めて全長200mに達し、一世代前の戦艦に匹敵する連装魔導光線砲4基を装備、更には魔導演算装置
の改良により、これまでは不可能だった遠・中・近距離への複数の目標を同時に100発100中の精度で
攻撃可能な新世代の艦であった。
「士官学校の諸君、ようこそこのグラフレックスへ、私が艦長のベリートだ」
「士官学校1回生30名、貴艦へと参りました!」
艦長の挨拶にリフォンが代表して敬礼で答える。
「うむ、いい敬礼だ。平和な時なら楽しい空中ピクニックだが、今はあいにく余計な客が訪問中でな。貴官
らの安全も保証はできない。降りたい者は遠慮なく申し出てかまわないぞ」
しかし、乗船を辞退する者は1人もいなかった。ベリートは彼らの覚悟を感じ取り、満足そうに頷く。
「よし、これより貴官らはこのグラフレックスの乗組員だ。不埒な侵略者の手から共に王国を、王国の民を
守ろうではないか!」
「「「「「「「ははっ!」」」」」」」
ベリートの檄にスタン達も一斉に敬礼で答えた。とはいってもまだまだ未熟な彼らに魔導光線砲を撃ったり
とかはできない。あくまでも戦場の空気を感じ取ってもらうのが目的だ。出撃時刻になり、イエルス率いる
王国最強の第1打撃艦隊は、王国民の歓呼に見送られながらバスクへと向かっていった。
「む、あれは・・・・」
”霧の森”最深部の神殿内、ハクレンは頭上を通過していく王国艦隊に気がついた。
「あの中にスタンもいるのか。どうか無事に帰ってくるのじゃぞ」
普段なら頼もしささえ感じる王国艦隊の威容、しかし、彼女は胸騒ぎを抑えることができなかった。
「リットル司令、間もなく第2打撃艦隊と合流いたします」
「よし、魔通信回線を開け」
イエルスはサイレと協議の上、翌日公国軍領に強襲をかけることに決定した。
「ははは、いつもはあいつらに攻め込まれてばかりだからな。たまにはお返しをしてやらねばな」
彼はサイレに獰猛な笑顔を見せていた。王国軍随一の猛将の顔だ。翌日、第1、第2統合打撃艦隊は
夜明け前に殴り込みをかけたのである。
「さあ諸君、公国の連中に朝のご挨拶といこうじゃないか。全艦第1戦速で突撃開始!」
「司令、全観第1戦速で突撃開始します!」
イエルスの指揮の元、戦艦15、巡洋艦40、駆逐艦150の大艦隊は一斉に公国領に進行を開始した。
「魔導レーダーに反応はありません」
「よし、お寝坊さんに目覚ましをプレゼントするぞ。目標、公国軍前線基地、主砲照準合わせ!」
「主砲照準合わせ完了、撃ち方始め!」
戦艦、巡洋艦の主砲から一斉にマナエネルギーが放たれる。それは瞬時に公国前線基地に着弾した。
「何事だ!」
「王国艦隊の攻撃です! 機甲竜格納庫は壊滅です!」
「すぐに迎撃させ・・・・」
彼らの意識はそこで暗転した。次の攻撃が着弾し、前線基地はその機能を停止したのである。
「公国軍の反撃は確認できません」
「よし、魔導波遮蔽システムはうまく稼働したな」
王国側もこの戦いに新兵器を投入していた。魔導レーダーに探知されないいわばステルス機能を開発
していたのだ。ただし、攻撃時にはそれを解除しなければいけないのが欠点である。これで公国側にも
艦隊の存在は発覚した。戦はこれからが本番だ。
「司令、レミオル近郊の前線基地が王国軍の奇襲を受け壊滅、現在王国軍は公都に向かって侵攻中です」
「なに、魔導レーダーが故障していたのか」
「・・・・それが、どうしたわけかレーダーには探知できませんで」
「そうか、邪教徒どもも新兵器を開発していたのか。まあいい、予定は早まったが例の作戦を開始するぞ。
くくく、やつらの驚くさまが楽しみだ」
公国側も決戦に向けて、秘策を練っているようだった。その頃王国艦隊は公国の辺境都市レミオルを攻撃、
それを灰塵に帰した。
「スタン、レミオルが焼野原だよ」
「バスクの敵討ちだよ。いい気味だ」
現代の地球なら民間人を対象にした攻撃は建前上とはいえ、忌避されることなのだが、すでにラミアール
王国とベリヤ公国の長年の確執は、お互い殺し殺される関係になっていた。これを終わらせるのはどちらか
が根絶やしにされるしかなかったのだ。
「リットル司令、魔導レーダーに公国軍のメタルワイバーンが探知されました。その数約四千騎です!」
「やつらも全力できたか。よし、歓迎会の準備をするぞ。これを抜ければ後は公都だ!」
王国と公国との、互いの運命を賭けた決戦が始まろうとしていた。一方その頃、ハクレンの住まう神殿では
ちょっとした異変が起きていたのである。
「・・・・ッ!」
特に地震でもないのに、机上の花瓶が落ちて割れてしまったのだ。彼女は言いようのない不安に襲われて
しまった。
「イエルスが付いておるから大丈夫だとは思うが、なんじゃ、この悪しき気は・・・・」
一瞬、200年前のように王国軍に加勢しようかと思った彼女だが、すぐさまその考えを振り払った。現代に
おいてもハクレンの力は規格外過ぎるのだ。ベリヤ公国どころか世界を滅ぼしかねないほどに。
「妾は、どうすればよいのじゃ・・・・」
彼女の呟きは、深い霧の森の中へと消えていった。
多忙につき当分亀更新となります。すみません。