第7話 初陣
「第2打撃艦隊サイレ司令より報告です。公国軍は兵力の4割を失い国境線まで後退しました!」
「そうか、して我が方の損害は」
ラミアール王国王都ヨシュア、王城内ではラティス王の前で軍議が行われている。一見勝利のように見える
結果だが、参加者に勝利の高揚感は見られない。こちらの損害も無視できないものだったからだ。
「戦艦中破1、小破2、巡洋艦喪失1、大破1、中破2、駆逐艦喪失4、中破6の損害です」
「思った以上の損害だな・・・・」
「駆逐艦の被害が大きすぎる。次に同規模の対艦ランスで攻撃されたら、防ぎきれないぞ」
軍議を黙って聞いていたラティスが、口を開いた。
「では諸君、次の一手はどうすればよいか、意見はあるか」
「はっ、意見を述べてもよろしいでしょうか」
「リットルか、許可するぞ」
ラティスの問いに真っ先に手を挙げたのは、スタンの父イエルスだ。ラティスは彼に続きを促した。
「はい、第1打撃艦隊をバスクに送り、公国軍を殲滅すべきです」
「なぜそう思ったのだ」
「ええ、第2打撃艦隊にこれだけの損害を与えながら、あっさり引き下がったのはまだまだ余力があると
予想されます。諜報部の調べではメタルワイバーンは5千騎は存在しております。第2打撃艦隊が擦り
潰されれば、第1打撃艦隊と王都防衛艦隊だけで公国軍に対峙せねばなりません。戦力の逐次投入は
こちらに不利であると愚考いたします」
イエルスの意見に半数は賛成し、半数はまだ敵の出方を見るべきだ、と反対であった。ラティスはしばし
瞑目し、決断をくだす。
「よし、リットルの意見を取り入れることとしよう。どちらにせよ第2打撃艦隊が壊滅すればバスクとその
周辺地域は公国の手に落ちてしまう。そうなれば奪還は相当困難だからな。リットルよ、そなたの艦隊に
王国の運命がかかっていること、忘れるでないぞ」
「はい陛下、全力を尽くします」
第1打撃艦隊の司令でもあるリットルは、ラティスの言葉に気負いなく答えた。軍議の後、反対派の将軍が
リットルに話しかける。
「リットル卿、私が反対したのは公国が何か途轍もないものを隠している気がしたからです。60年前やつら
が対艦ランスを初めて投入した時と、同じような感じがしたのですよ」
「ええ、自分も公国が主力をおびき出そうとしていることは、薄々感じております。しかし、だからといって
二の足を踏んでいれば、それこそベリヤ公国の思うつぼでしょう。このイエルス自分の命を引き換えにして
も、公国の野望を打ち砕いてみせましょうぞ」
「ははは、あなたがいなくなれば王国の大損失だ。ご武運をお祈りしておりますぞ」
そういう彼も、魔導騎兵団主力を率いてバスクに出撃する予定だ。2人はお互いの健闘を祈りつつ王城を
後にした。
「えっ! 士官学校の生徒を参加させるのですか」
「ああ、すでに陛下の許可もいただいておる。これは決定事項だ」
これまでにも実戦に生徒たちを参加させることは多々あった。しかし。それはほとんど小競り合いレベルの
時だ。今回のように全面的な戦争に訓練は受けているとはいえ、まだひよっこレベルの士官候補生を参加
させるのは初めてであった。
「宰相殿、今回は相当な激戦が予想されます。リフォン殿下の安全は保証できませんぞ」
「リットル卿、それは陛下も承知の上だ。昨今の情勢を鑑みるに、いずれ公国とは決着をつけねばならぬ
時が近づいていると思われるからな。いずれは殿下も戦場に立たねばならぬ。それが少し早まるだけの
ことだ、とおっしゃられてな・・・・」
「それであれば、自分は命令に従うのみです。殿下たちはグラフレックスに乗艦していただきましょう」
「おお、あの新鋭巡洋艦か」
「はい、一世代前の戦艦級とほぼ同じ攻撃力、王国艦隊中一番の速力を誇っています。艦長には私から
話しておきましょう」
「苦労をかけてすまぬ。頼んだぞ」
こうしてスタン達の初陣が決まった。出撃前日に彼はまた友人を伴って、ハクレンの神殿に遊びに来ていた。
「そうか、そなた達も出陣するのか・・・・」
「はい、明日の午前バスクに向かいます!」
そう元気に答えるスタンだが、ハクレンはとても心配気な表情だ。
「スタンよ、戦場というのは遊び場ではない。相手はそなたを殺すためにかかってくるのじゃぞ。どうも
そなたを見ていると、ふわふわしておるようで妾には不安しか感じられないのじゃ」
「えー、そんなことありませんよー」
「ええ、ようやく戦場に立つことができるのです。憎き公国に目にもの見せてやりますよ」
ハクレンの言葉にスタンは口を尖らせて反論するが、どこかピクニック気分でいることは否めなかった。
それは彼だけでなく、同行していたリフォンも同様である。
「では、公国軍をやっつけたら、また遊びにきますからねー」
「スタンよ、今妾の脳内にはなぜか”ふらぐ”という単語が浮かんだぞ・・・・」
ハクレンは、手を振りながら去っていくスタン達を、不安そうな表情で見送るのであった。