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龍神の乙女  作者: ロクイチ
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第1話 遠い日の記憶


空中を威風堂々と進む巨大な飛行物体、それは地球の航空機や飛行船とは異なるものだ。アニメ好きが

見たならばそれを”飛行戦艦だ”と言うであろう。一隻だけではない。小は全長100m程度から大は500m

ほどの空中軍艦とも呼ぶべき存在が数十隻、艦隊を組んで進軍している。もちろんここは地球ではない。

マナに満ち溢れた異世界ガイアードル、彼らはこの世界でも爛熟した魔導文明を誇る”ラミアール帝国”、

その軍の主力である魔導艦隊だ。その技術レベルは21世紀地球よりも数世紀は進んでいた。


「艦長、目標魔導レーダーに捕捉しました!」


「よし、目をつぶっても当たる距離だ。全砲門撃ち方はじめ!」


「撃ち方はじめ!」


艦長の命令一下、艦は一斉に目標に向けて砲撃を開始する。それは地球のような火薬兵器ではない。

マナエネルギーを使用した魔導光線砲だ。次の瞬間、凄まじいエネルギーの奔流が”目標”を襲う。


「全砲門命中、、、、目標に効果なし、目標に効果なしです!」


「なに、主力戦艦でも撃沈する威力だぞ!」


「うろたえるな! もう一度攻撃を・・・・」


彼らの意識はそこで暗転した。”目標”から放たれた光線は強化オリハルコンの装甲を紙のように突き破り、

艦を中央から真っ二つに切断したのである。


「戦艦ガルフォール撃沈! 地上に落下します!」


「バカなっ! 帝国最新鋭の戦艦がこうもやすやすと・・・・」


全長300mの巨大戦艦は地上に激突、都市部を巻き込んで大爆発を起こした。これだけで数千、いや数万人

の犠牲を出したことであろう。


「第1、第2駆逐艦隊を出せ。魔導弾による飽和攻撃を行う」


しかし、全長500mの旗艦”ラミアール”の艦橋で、司令官は眉ひとつ動かさず次の命令を下す。それに応え

全長100mほどの艦艇30隻ほどがその高速性能と俊敏さを存分に活用し、目標を取り囲むと一斉に魔導弾

によるつるべ撃ちを開始した。たちどころに空中に出現した大火球に目標はその禍々しい姿を消した。


「おおっ! これならいけるかも」


「さすがはレミリオ少将率いる艦隊だ。これなら勝てるぞ!」


しかし、それはぬか喜びに過ぎなかった。爆炎が晴れた後現れたのは、全く無傷の”目標”だったのだから。

そして、駆逐艦隊も目標の反撃に遭い、まるで紙屑のように地上へと落とされていった。呆然とする旗艦

ラミアールの艦橋に詰める参謀たち。


「そんな、そんな、、、、我々の攻撃が通じないなんて・・・・」


「これは何かの間違いだ。魔導文明を極めし我らの力が通用しないとは」


「”ハクレン”とは、これほどの化け物だったのか!」


その時であった。彼らの”目標”だった全長300mほどの龍、それが鳴き声を上げたのである。


”クオォォォォォォォン!”


その鳴き声は20kmほど離れたラミアール艦橋内にもはっきり響いてきた。


「くっ、なんと禍々しい鳴き声だ!」


「リットル司令、次のご命令を!」


しかし、司令官、リットルと呼ばれた男の視線は、わめき立てる参謀たちでなく”龍”へと向けられていた。

その目には恐れも怒りもない、ただ、ただ、、、、悲しみに満ちていた。


”君も泣いているのか、すまないハクレン、君との約束を守れなかった・・・・”


リットルはその視線を龍-ハクレンへと向ける。その龍も怒りではなく、悲しみに支配されているように

見えたのだ。だが彼は艦隊司令として、次の命令を下す。


「戦艦及び巡洋艦は全艦魔導障壁を展開、目標に対し一点集中で砲撃を仕掛けろ!」


リットルの命令により、陣形を整えた艦隊はハクレンへと向かっていった。


「・・・・・レンちゃん、ハクレンちゃん大丈夫なの」


「う、ううっ、カオリか・・・・」


箱根にある純日本風な木造旅館の一室、目を覚ましたハクレンに心配そうな目を向けていたのは、彼女

の友人である高橋かおり、日本国外務省のキャリア官僚だ。ヤツルギ国の使節に随行してきたハクレンは、

久々に会った日本の友人たちと共に箱根観光に訪れていたのだった。


「どうしたの、ずいぶんうなされていたわよ」


「ああ、、、昔の夢を見ていたでな」


「ねえ、私じゃ頼りにならないかもしれないけど、悩みがあるのだったら話くらい聞けるわよ」


高橋の他にも起きてきた友人たちがウンウンとうなづく。みんなハクレンを心配そうに見ていたのだ。


「心配させてすまなんだ、、、まあ、昔の夢じゃ、遠い遠い昔のな・・・・」


「ハクレンちゃん・・・・」


高橋はハクレンをギュっと抱きしめる。彼女たちにもわかってしまったのだ。この悠久の年月を生きてきた

女性が、自分たちには想像もつかない悲しい経験をしてきたのだということを。


「明日は宮ノ下の美味しいカフェ行こうよ。いっぱい、いっぱい遊ぼうね」


「うん、、、、ありがとう」


友人たちの気遣いに心からの礼を述べるハクレン。人の一生は彼女から見れば瞬きするようなものだ。

そんなわずかな時間、楽しい想い出を共有しようとする友人たちに、ハクレンはかつて愛した男の姿を

重ね合わせた。


これは遠い遠い昔に起きた、悲しい物語・・・・


前作「魔王様は今日も胃がストレスでマッハ(死語)です」のおまけ編に登場したハクレンを

主人公にしてみました。今作はコメディ要素なしのシリアスで進行します。


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