人類最後の希望=ドジっ娘可変式猫耳最終兵器メイド・アルテマウェポン少女
ここはとある異世界。
かつて、別世界との交流もあったこの世界は、その科学技術から『機界』と呼ばれていた。
だがしかし。
今この世界は、その名に相応しい機械の楽園となり、人類は絶滅の危機に瀕している。
その発端は百年程、昔に遡る。
◇◆◇
この世界では、ある目的のため、技術開発と研究が盛んに行われていた。
そして、天才科学者『K』と、その他多くの科学者達の手により、その夢は現実のものとなった。
『好きなことだけをして生きていける』
機械仕掛けの、そんな世界。
そのシステムの管理AIを、『K』は『デウス・エクス・マキナ』と名付けた。
その名前の意味は、誰も理解することはできなかったが、彼は人々から讃えられ、『デウス・エクス・マキナ』の名は世界中、そして数々の異世界にまで広まった。
だがそれも、『K』が生きている間のわずかな期間でしか無かった。
『K』死去。
それをきっかけに、AIが暴走を始める
『より【完全】な世界への為、この世界に人類は必要無い』……と。
平穏だった都市は、突如として敵地へと変わる。
生き残った人々は、森や山、自然の中へと隠れ住むようになった。
◆◇◆
それからさらに時は流れ……現在。
人々は、森などに隠れ住みながらも、反撃の機会を探っていた。
だが対抗するためには力がいる。
同質以上の武器や防具、その他諸々。
「くそっ、見つかった!機械兵だ!逃げろ!!」
そこで、俺達若い男共は、都市に近い『スクラップ場』へと来ていた。
ここスクラップ場は、機械共の墓場。
ここであれば、ある程度の部品は手に入る。
日々、代わる代わるコソコソと盗りに来ていたのだが……これはマズイ。
こちらに目を向ける、カマキリのような見た目のロボット。
ここスクラップ場を警備していた、機械兵の一体に見つかったのだ。
「くそっ、ダメか。仕方ない、作戦通りに!」
後ろを振り返ると、付かず離れずの距離を保つ機械兵。
機械兵は、狙った人間を見逃さない。
だがすぐに殺しに来るわけでもない。
奴らは、俺たちが仲間の元へ戻ることを期待して、わざと泳がせる。
足を止めれば、殺される。
手荷物を捨てた場合も、抵抗を止めたと思われるのか、同じく殺される。
そして……逃げ続ける限り、どこまでも追いかけて来る。
そのまま仲間の元に逃げ帰った場合、どうなるのかは考えるまでもない。
生き残る方法はたった一つ。
誰かを囮にし、その隙に逃げるしかない。
「右から俺、カリス、バルト、ゼクスの順にばらける。狙われた奴以外、全力で拠点に戻れ!」
「「「おう!」」」
俺はこの小隊のリーダーとして、仲間に指示を出す。
それに対し、誰も文句を言わず、従ってくれる。
「今だ!」
合図を出し、瓦礫の中を右に逃げる。
一瞬、後ろを振り返ると、バラバラの方向へと逃げる仲間たちの後ろ姿が見える。
そして……機械兵の、瞳のようなレンズがこちらに向いていることも、視界の隅に見えた。
◇◆◇
俺は、森から離れるように、スクラップ場の外周を逃げ続ける。
後ろは振り返らずとも、大きな足音と機械音により、奴が付いて来ているのがわかる。
完全に狙われた。
さて、こうなると俺にできることは時間稼ぎとして、逃げ続ける以外ない。
撃退?
無理だ。
アレをどうにかする程の武器など、持ち合わせてはいない。
今手元にあるのは、スクラップ場で手に入れた貴金属を含む『ガラクタ』だけだ。
今役に立つものではないが、捨てることもできない。
殺されるのが早まるだけだろう。
「くそっ、くそっ!付いてねぇ、今日は厄日だなくそがっ!」
体力消費を抑えるため、無言で走り続けていたが……それにも限界が来る。
悪態を吐き、無理にでも身体を動かさなければ止まってしまいそうだ。
それほどまでに、限界が近い。
「はぁ……せめて、少しでも……時間稼ぎを……」
止まってしまいたい。
もう充分なのでは?
そんな、抗い難い誘惑を、意志の力でねじ伏せる。
……が、身体はそうは行かない。
「ぁ、ぐ、がっ……」
躓き、転がり、動けなくなる。
手に持っていたガラクタが宙を舞い、転がっていた人形の頭部らしきものに当たって、落ちる。
「く……はぁ……はぁ……」
朦朧とした意識の中、それを眺める。
すぐ後ろには機械兵がおり、腕の鎌を振りかぶっている。
が、その存在すらも、すでに意識に無い。
目の前で転がり、動かなくなったガラクタ。
ただ、現実逃避気味に、それを見ていた。
……だからだろうか。
目の前で動いたソレに、気づいたのは。
「……は?」
驚愕し、意識が覚醒する。
よく見れば、実際に動いたのはそのガラクタではない。
それを掴む様に伸ばされた、腕。
ガラクタが頭部に当たった人形の、腕だった。
「 」
絶句。
わけのわからない状況を目の前にし、頭が真っ白になる。
その間にも、腕は動く。
それはガラクタを掴み、軽々と持ち上げ、人間では明らかに無理な角度で振りかぶり……投げ放った。
“ ヒュ……ズガァァァァン!!! ”
細い見た目に似合わない音を立て、振るわれた腕。
投げ放たれたソレは、風切り音を立てながら頭上を越え、俺の後ろで破砕音を響かせた。
「…………は?」
サーっと、血の気が引く。
今更ながら目の前のナニカに対し、恐怖する。
後ろを振り返りたいところだが、疲労と恐怖で動くことができない。
もちろんその間にも、その人形は止まらない。
残りの手足も動き出し、ゆっくりと立ち上がる。
そして、頭痛に耐える様に、頭を抑え……ついに、口を開いた。
『……いっっった〜!!あ、頭が、頭が割れますにゃ〜!』
「…………。」
……恐怖が、一気に薄れていった。
その口から出た声は、10代半ばの少女の様な声。
土やら埃やらに覆われたその姿からは、まさかこんな可愛らしい声が出るとは思わなかった。
そしてなぜか、語尾に「にゃ」
『あ、あ、あ、これは、これは人間様なら死んでいるところですにゃ〜!だ、誰ですにゃ、こんなことをしたのは〜!!』
そう言って、周りを見渡す彼女。
すぐにその視線は、近くで倒れている俺の方へと向いた。
『?……貴方は人間様ですにゃ?その様子、怪我もしているようですし……もしかして動けないのですかにゃ?』
さっきまでの様子からは考えられないような、落ち着いた声で話しかけてくる。
彼女は右手で頭を抑えたまま、左手で土や埃を払っていく。
俺は、質問への返答も忘れ、その姿に魅入ってしまった。
土の払われた髪は、先にカールのある、セミロングの金髪。
開かれた目は碧眼であり、まん丸く、顔の造形と相まって少し幼さを感じる。
着ている服は、白いワンピースに黒いエプロンドレス。
ヘッドドレスは着けていないが、まるでどこかの屋敷のメイド服のようだ。
そしていつのまにか生えていた、猫耳。
払っただけとは思えないほど、その全てが洗った様に綺麗になっていた。
「…………は?」
『よし、これで大丈夫、ですにゃ〜』
謎現象に次ぐ謎現象。
もはや俺の思考は、完全に停止していた。
その間に、彼女はどこからか手鏡を取り出し、身嗜みを整えていく。
『ん〜?リミッターが外れてますにゃ。どうやらマスターの言った通り、管理AIは暴走したみたいですにゃ。まぁそれなら私は使命のまま、人間様を守るだけですにゃ。早速人間様に会えたのは好都合ですにゃ〜』
身嗜みを整えた彼女は、再度こちらに向き直る。
『初めまして人間様。私はマスター『K』によって、AIが暴走した時の保険として作られた機械人形。その名も、ドジっ娘可変式猫耳最終兵器メイド『アルテマウェポン少女α』ですにゃ。よろしくですにゃ、人間様』
「あ、あぁ……よろしく」
ちょっと何を言っているかわからない。
味方、なのだろうか。
「……とりあえず、何と呼べばいい?」
『アルファ、とでも呼んでくださいにゃ』
「アルファ、お前は俺たち人間の味方、か……?」
『そうですにゃ。そのために作られましたにゃ。何なら今すぐ証明しても良いですにゃ』
「証明……?」
俺の質問には答えず、アルファは俺の頭上のその先を指差した。
転がった体勢から何とか力を込め、そちらを向く。
すると、アルファの指差した先には、一つの機械が存在した。
見覚えのある、カマキリのような躯体。
その左腕の鎌は肘から先が無くなり、胸にはこれまた見覚えのあるガラクタがめり込んでいる。
明らかに壊れかけの様子な、機械兵。
だが、何か様子がおかしい。
『人間様に敵対する機械兵を倒して証明しますにゃ。それに、どうやら殺戮モードに入ってるみたいですにゃ。ここで壊しておかないと他の人間様も危ないですにゃ』
殺戮モード。
聞き覚えはない。
だが、見てわかる。
カマキリのような身体に、無数の赤い線が走る。
関節部からは、赤黒い光が漏れ出ており、邪悪な印象を受ける。
どう見てもヤバイ。
が、それを気にした様子も無く、アルファは巡回兵の前に立ちふさがった。
『寝起きですがこの程度、右腕一本で十分ですにゃ。最終兵器の力、お見せしますにゃ!』




