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貧しき社会

 自分はこの社会というのは極めて貧しいものだと思っている。自分もまた極めて貧しい人間であると思っている。


 貧しいと言えば、すぐに物質的概念が頭に浮かだろうが、言いたいのは精神の部分である。魂の部分において極めて貧しい世界に存在しており、自分もまたその一人であると思う。


 例を上げれば、ネットニュースで見た話であるが、十六歳のアイドルの女の子が自殺したそうである。アイドルの女の子が何故自殺したかと言えば、母親の言葉を見る限り、要するに、事務所に追い込まれて、思いつめて死んでしまったらしい。アイドル活動が優先という事になり、学校もまともに行けなかったそうだ。


 この件に関して、それぞれ思う所はあるだろうが、自分は社会全体の「頑張って夢を叶える!」という重圧が背後にあると思っている。しかし、アイドルというのは、そんなに大層なものか。全てを捨てても叶えなければならない夢なのか、というと、そういうものしか「理想」がない社会であるから、袋小路に入ると出られない。「アイドルになるために、今は辛いかもしれないけど頑張って!」というプレッシャーは、今の世の中では否定すべくもない。


 今のアイドルで、一番活躍している人として、例えば、AKBの指原莉乃が思い当たるが、あんな風になりたいと思うのだろうか。自分が、十二、十三の女の子だったとして(奇妙な空想だが)、ああなりたいと思うだろうか。しかし、この平たい社会では、そういうものが頂点である。異世界小説を書いて、出版する事になったら「作家の肩書きがつきました」となる。立派なものだ。夢を叶えて、大したものだ。その中身については、その内容については誰が問うのだろう。(「数」は問われるだろうが)


 他に例を上げれば、電通で過労を苦にして自殺した新入社員もいたが、電通はエリートの集う所であろう。彼らエリートが日夜働いている、立派な機関であろうが、その機関はどんな事をしているのだろう。彼らの作るもので、心から尊敬できるようなものがあっただろうか。その為に身を犠牲にしてもいいと言えるようなものがあったろうか。


 AbemaTVなんてものもある。これは色々な番組を作ってネットで流しているのだが、番組タイトルだけ見ても、俗なものの集大成である。しかし、こういうものでも、その番組に出る為に、タレントは椅子取りゲームをしているだろう。また、Abemaを作った経営者なんてものも、尊敬される存在とされかねない。ドキュメンタリーもできるかもしれない。


 こうやってつらつらと並べてきて何が言いたいかと言えば、この世界は何もない、いや、自分にとっては少なくとも何もないという事である。結局、大衆と世俗とが一致し、彼らに対して受けさえすれば、何がどうなろうと結構という、そういう世界となった。とにかくどんな汚い事をしようと、どんなろくでもない醜態を晒そうと、世間の、多数者の人間が肯定すれば「勝ち組」である。外国では、ある犯罪者がイケメンだったというだけで、このご立派な社会で、セレブの女と結婚して幸せになったという話もある。こういうものは世界的に広がっているのだろう。


 自分自身で言えば、「よしもとばなな」ぐらいの待遇の作家になったら、肩で風を切って歩けるだろう。斎藤佑樹は、野球に尽力しなくても、愉しい暮らしができるわけである。また、それを否定すべき原理も別にない。なにせ、努力して夢を叶えるのは「幸せ」になる為であって、野球それ自体が目的ではないから。文学をしている人間にとって文学は目的ではないし、映画「セッション」の主人公にとってはジャズはただ手段でしかない。このように貧しい社会では、非常に豊かなものが、横に縦に広がる事になるだろう。そしてその豊かさを得る為に、人はただもがき、努力する。そうして、この社会の貧しさはますます広く、深いものになっていく。なんでもあるが何もない世界であると思う。こんな世界でどう生きればいいか、自分には皆目見当がつかない。

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[良い点] ドフトエフスキーがどうのこうのとは違って分かりやすい [気になる点] 私は流行り者でも見る気が起きない時はそこで終わり 人と話が合わないことでも良い物は良い [一言] 社会に問題があるとし…
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