令嬢達は闇に囁く
「メル・スライク!! 君との婚約は破棄する!!」
私の婚約者の第三王子ネトル・べオス様が結婚発表パーティの場で高らかに宣言されました。
「そして私はヘレネ・ペセウス男爵令嬢と婚約する」
ざわざわと城のパーティに招待された客たちがざわめく。
ダンスの音楽も止まっている。
本当なら私とネトル様が、一番最初にダンスを踊る手はずになっていたのだが。
まあ無理もない。
私とネトル様との結婚発表のはずがとんだ茶番劇を見せらせそうだからだ。
「理由をうかがってもよろしいですか?」
「理由を聞きたいと!! 良かろう。私は真実の愛を見つけた。そしてお前の非道の数々をここに晒そう」
男爵令嬢をぎゅっと抱きしめる。
フルフルと震える男爵令嬢はチワワみたいで可愛らしですが、貴族の立ち振る舞いではありませんね。
「メルさん!! 謝ってください。そうすればわたし許します」
空気の読めないチワワちゃんがキャンキャン吠えてます。
「お前がヘレネにした悪逆非道の振る舞い!! 証拠も証人もいるんだぞ!!」
「ではお伺いします。私がそのヘレネさんにいつ悪逆非道を行ったのでしょう?」
「〇月×日△時 ヘレネの教科書を破いた!!」
「その時間ベイティ国の皇太子と王妃様と三人でのお茶会がございました。ネトル様はそちらの男爵令嬢と街にお忍びで出かけられていましたね。警護の者の報告も上がっております」
王子は少しひるんだがまだまだ証拠があるのだろう。鼻息が荒い。
「■月△日〇時 ヘレネのドレスを破いた。お前のハンカチが落ちていた」
王子は得意げにハンカチを突きつける。
「そのハンカチは私のものではありません。私のハンカチはルルーシュ産の高級絹を使った物です。その安物のビビり産の物などイマージュ帝都学園で使うものなど誰一人居りませんわ。それに私刺繡は得意ですの。そんなドタドタの縫目を人目にさらすなど。恥ずかしくて燃やしてしまいますわ」
何故か?ヘレネさんの顔が赤くなる。
あら嫌だ。貴方が刺繡したんですの?勉強もダンスも刺繡もダメですの?
「〇月□日〇時 ヘレネを階段から突き落とした」
「二週間前から大叔母が危篤で私領地に帰っておりました。葬儀をすませ今日帰ってきたばかりですの」
「噓を申すな!!」
私はため息をついた。
「嘘だと思いでしたら護衛の記録をお調べになっては如何ですか?王子も私も常に護衛の者に警護されております。彼らが王族に噓をつくことは精霊契約で出来ません」
「これは何の騒ぎだ?」
王様と王妃様の登場です。
「父上!! この女が嘘ばかり……」
「黙れ!! すまない。ネトルが迷惑をかけたな」
「いえ。」
「そう言えばそなたの大叔母が身罷られそうだな。お悔やみを申そう」
「畏れ多いことでございます」
私はあらと声を漏らした。
「いかがいたした?」
「いえ……今の出来事が大叔母が亡くなる前に話してくれた話にそくっりなんで驚いたのです」
「そちの大叔母マエイア伯爵夫人は昔タタイ国に留学していたな」
「はい。三十年前の話ですが」
私は叔母から聞いた話を語った。
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三十年前。
タタイ国の王太子と、とある伯爵令嬢との婚約が破棄されました。
王太子は男爵令嬢を王妃にすると宣言したそうです。
それに伴い王太子の取り巻きの高位貴族達の婚約も破棄されたそうです。
大叔母もその中に含まれていて、たいそう腹を立てました。
男爵令嬢を虐めてなどいなかったからです。
伯爵令嬢は婚約破棄された貴族令嬢五人を屋敷の地下室に招き入れて、そこの魔法陣を使って男爵令嬢に呪いをかけました。
何でも昔お抱え魔導士が作った魔法陣で魂に呪いをかける事ができるそうです。
呪いが発動する条件は人の婚約者を盗んだら腐れ死ぬとか。
みんな冗談半分だったようですが。
大叔母は次の日この国に帰国しました。
しばらくして婚約を破棄された伯爵令嬢が賊に襲われ舘ごと、一族もろとも焼き殺されたそうです。
あの地下室も舘ごと崩れ落ち見る影もなかったそうです。
婚約破棄された令嬢達は、ある者は修道院に入れられ過労死。
ある者は病死し。
ある者は領地に帰る途中魔物に襲われ死に。
ある者は家から追い出され娼婦に身を落としたそうです。
それからしばらくして王太子と男爵令嬢との結婚式が華々しく挙げられました。
でも……男爵令嬢は王太子と結ばれる事は無かった。
突然の病で亡くなりました。
なんでも結婚式の途中で腐れ死んだとか……
それが彼女達が悪ふざけでかけた呪いが効いたのか?
ただの偶然だったのかは、分からりません。
最後の生き残りだった大叔母も亡くなりました。
真相は藪の中。
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「あら?どうしました?ヘレネさん顔色が悪いですよ」
「そ……その呪いを解く方法はあるの?」
「ええ。ありますよ」
「どんな方法なの?」
「呪いをかけた魔法陣で、呪いをかけた五人が大精霊に呪いを解く事を懇願すれば、呪いは簡単に解けます」
「貴女言ったわよね。魔方陣がある館は焼け落ちたと」
「ええ。大叔母が調べたところによると掘り返しても復元は無理そうですよ。それを作った魔導士もとっくの昔に亡くなっているとか」
「五人は……」
「ええ。最後の一人である大叔母も身罷られました」
「転生すれば?」
「魂に刻み付けられたものですから。自殺して転生しても意味はありません」
「そんな……そんな……」
「あら?簡単な方法があるわよ」
「そ……それは……」
「人の婚約者を取らなければ良いだけよ」
私は嗤う。
「あら?ヘレネさんお顔どうなさったの?」
「えっ?顔……?」
ヘレネは顔に手をやる。
ずるりと触った所の肉が腐り落ちる。
「えっ?いや……いや……いやあああぁぁぁぁ!!」
ヘレネさんはがくがくと頭を抱えて震え始める。
ゴッソリと髪の毛が抜ける。抜けた髪の毛を掴んだ手が腐れ落ちた。
「ひぃひぃひぃ……」
ぐにゃり
ヘレネの足が腐り倒れ伏す。
口をパクパクしてネトル王子に手を差し出すが、舌が腐って大理石の床に落ちた。
目が耳が床に糸を引いて落ちる。
悲鳴が上がる。阿鼻叫喚地獄のような騒がしさだ。
彼女の手を取るものはいない。
王様と王妃様や王子様取り巻き連中も後ずさる。
騎士達が王達を守ろうと前に出る。
王様と王妃様が後ずさるのは分かるけどネトル王子、あなたまで後ずさってどうする。
真の愛とやらはどうした?
「ひゅーひゅー」
言葉を紡ぐことなくただ空気だけが漏れる。
やがて沈黙が訪れて。
それがヘレネの最後だった。
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「とんだ結婚発表パーティだったね」
魔法学科の教師が私が作った、クッキーを齧りながら嗤う。
「まさか彼女に二度も婚約者を取られる事になるなんて思ってもみなかった。大伯母さまと話している時、前世の記憶を思い出したのは幸運だったわ。禄でもない死に方だったけど」
そう私はタタイ国の王太子を取られて賊に殺された伯爵令嬢の生まれ変わりだ。
「縁と言うやつか?」
「縁なら。あなたもよね~」
私はお茶を彼のカップに注ぐ。
「まさか死んだアデソン家お抱え魔導士が、転生してこの学園の先生しているなんて!! びっくりよ!!」
「ははははは……しかしわしが作った魔法陣にあれほどの力は無かったはずじゃが。せいぜい一回こっきりじゃ」
「わっ!!しゃべり方が爺臭い~」
私も一口お茶を飲む。
「あれはね追加の呪いが上乗せされたのよ」
「追加の呪い?」
「そう私達はブリアンナに殺された」
「へー」
「前世の屋敷に押し入ったのはタタイ国の騎士団よ。お父様とお母様と兄弟姉妹は私の目の前で殺されて私はタタイ国の騎士団に犯され。あの女は笑いながら見ていた。足の筋を切られ動けなくなった私に油をかけて火を付けた。恐らく他の令嬢も手にかけたんでしょうね。大伯母さまの所にも暗殺者が来たそうよ。まあ返り討ちにしたそうだけど」
「凄い業だね」
「後五回くらいは腐れ死にしそう」
「で……結局第三王子とは婚約解消になったんだろ」
「ええ。王様と王妃様は渋ってたけど、お父様がきっぱりと解消したわ」
「おー訳あり物件になっちまったか」
「ん~そこで先生私を貰ってくれない?今なら王家から賠償金たらふく分捕ったから研究費出せるわよ」
「研究費!!!! なんて魅惑的!! 悩むな~」
「婚約指輪は要らないわ。その代わり永遠の愛を誓う魔法陣を作ってよ」
「また難しい注文するね~そんな物を作らなくても私は君に夢中なのに?」
彼は立ち上がり私の側に来ると精霊を呼びだし愛を誓う。
「私 クリストフィー・二トワはメル・スライクに永久の愛を誓う」
「私 メル・スライクはクリストフィー・二トワに永久の愛を誓う」
花と光と小さな精霊たちが私達を祝福してくれた。
~ Fin ~
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2018/4/17 『小説家になろう』 どんC
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★メル・スライク 17歳
ネトル王子の婚約者。転生者でもある。
★ネトル・べオス 21歳
第三王子。メル・スライクが嫌い。
ヘレネが好き。
★ヘレネ・ペセウス 18歳
王太子狙い。ネトルは踏み台。
後5回は腐れ死にしそう。
前世の名はブリアンナ。
★ルチア・マエイア伯爵夫人 47歳
メルの大叔母。
30年前タタイ国に留学していた。
無実なのに婚約破棄され怒って呪いをかけた。
悪評のせいで妾になるが正妻が死んで後釜に収まる。
★ クリストフィー・二トワ(魔術士・教師) 27歳
いろいろやらかしていた人。転生してメルが通う学園の先生。
これからもやらかすんだろうな~(笑)