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「藍紗、何途方に暮れているのさ」
人気のなくなったグランドから俺は出ることができなかった。これで俺の大学野球人生は終わってしまったのだ。
「藍紗、かっこよかったよ」
「由良……」
「ん?なに?」
「やっぱ、悔しいな」
涙をこらえ、俺は呟く。俺の打った球は、センターのグローブにきっちりと修まった。フライだ。
「そうだね。負けたもんね。でも、夢は忘れないで」
「ああ」
由良が優しく俺の背を叩く。俺の夢。メジャーリーガーになると言う夢は捨てたけど……。
「少年よ、大志を抱け。未来は明るいぞ」
ふざけたように由良が言う。
「そうだな」
俺は苦笑を隠せなかった。由良に語った夢。自分には無理だと諦めたけど、やっぱりメジャーリーグへの憧れは尽きない。
「さあ、帰ったら勉強が待っている」
「嫌なこと思い出させるなよ。試合で疲れたって言うのに」
「甘いこと言ってんじゃないわよ。この時代、教員試験がどんなに大変かわかっているの!!」
俺は自分が捨ててしまった夢を、子供たちに託すことにした。自分には無理だったからと言い訳することもできる。でも、俺は本心から教え子たちにメジャーリーガーになった欲しいと願っている。ああ、胸を張って言える。
今の俺の夢。この手で、メジャーリーガーを育てること。
最高だろ夢を見ることはタダだから、精一杯大きな夢をい見ることにしているんだ。幼い頃と同じ気持ちで夢を見ることはできない。それでも、俺は由良に支えられ、大きな夢を描いていけるんだ。
「そう言えば、由良。由良の大好きな人って誰?」
「……内緒。本当に鈍いんだから」
The happy end.
丁度、春の甲子園の季節ですね。
以前書いて、どこにも投稿していなかった小説を発掘しました。
頑張っている姿を応援するのはいいですよね。
ちなみに、この話はAqua Timezの『決意の朝に』を聞いて思いついた話です。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。