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「大きくなったら、僕はメジャーリーガーになる!!」
どうして、幼い頃はあんなに無邪気に広大な夢を描けたのだろう。幼い頃書いた将来の夢を見て笑う。
今、将来の夢を書けと言われたって、なんと書けばいいのかわからない。真っ白な画用紙を前に頭を悩ませる。メジャーリガ―になることは疾うの昔に諦めた。今は、そんな夢を見ている暇はない。
「ねぇ、藍紗。何書いた?」
「由良か。何にも。真っ白のまま。由良は?」
わいわいと騒がしい教室で、声をかけられた。
「私?へへ。見て」
照れくさそうに見せられた画用紙には……。
『大好きな人と結婚して、幸せな家庭を作る』
朧気で、でも、叶いそうな夢が書いてある。素敵な夢だ。
「へぇ。由良らしくていいんじゃない」
かっこつけることもなく、本当にいいと思った。俺には見ることのできない夢。でも、高校生が見るには少し幼い夢。
「藍紗、メジャーリーガーになる夢は?」
「とっくの昔に諦めたよ」
幼い頃は何でもできると信じていた。でも、少しずつ年を取ることによって、夢を見ることができなくなっていたんだ。
「なんで?野球好きなんでしょ?」
「まさか。仮に好きだとしても、俺には無理な世界なんだって」