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間もなくして佐藤が作ったスマホ専用のAI搭載のアプリが配信
された。「AIによるあなたの将来予測」とサブタイトルがあって
、なんとタイトルは「一炊の夢」だった。そしてこれまでの占いシ
リーズで使われていたコミカルなキャラクターが一変して劇画調で
描かれていた。間近に卒業シーズンを控えていたこともあって、進
路の選択を迫られた若者たちからのダウンロードが瞬く間に激増し
た。それはすぐに業界でも話題になり、ネット上にはAI搭載アプ
リの可能性についての記事が殺到していた。おれはしたり顔の佐藤
を思い浮かべながら何度か祝福のメールを送ったが一度も返信して
来なかった。多分忙しくてそれどころではないのだろうと思って気
に掛けなかった。数日後、いつものように仕事帰りの電車の中で、
すでに空席が目立つ車両の座席に腰を下ろして、スマホでニュース
を見ようとして、一つの見出しに目がいった。
「生保の個人データ200万件流出、売買目的か?関係者を聴取」
おれはすぐに佐藤がつぶやいた言葉を思い出した。
「とにかくデータが欲しいんだ、それも個人の」
早速ニュースの内容を確かめると、流出したのはデータベース化さ
れた個人情報で、そのデータから特定の個人に辿り着くことは出来
なかった。ただ、それこそが佐藤が欲しがっていたデータに他なら
なかった。おれは停車した途中の駅で下車して佐藤にデンワをした
が繋がらなかった。彼の嫁さんの久美ちゃんにもデンワをしたが繋
がらなかった。そして「間違いない」、佐藤に違いないと思ってホ
ームの階段を下って、佐藤の家に行くために反対側のホームの階段
を駆け上がった。
(つづく)