試験、始まります
タイトルには始まるって書いてありますけどまだ始まりはしないです。
春斗はシャワーの音がして目が覚めた。隣には桜が寝ている。ということは今メディがシャワーを浴びているのだ。トイレに行きたいが、もしメディがシャワーから出てきてばったり会う可能性が高かったのでおとなしくメディが出てきたときに行くことにした。
数分後、シャワーの音が止み、メディが服を着た状態で、髪をタオルで拭きながら出てきた。
「おお、起きたか。ならすぐ出られるように用意をしておけよ。」
「うん。わかった。」
春斗はそう返したが実際、用意するものも特にないので、することと言えばまだベッドで寝ている桜を起こすことくらいだった。
トイレから出て春斗は桜を起こす。声をかけても寝返りをするだけで起きなかったので、肩を揺らすとようやく目を開けた。
「おはよう。」
「…おはよう。」
そう言い、体を起こした桜を見ると、着物が少しはだけていて右肩から鎖骨まで見える状態になっていた。
「あ、あの…桜?着物直してくれないかな…。」
「?ああ、ごめんね。」
春斗が視線を真下に向けながら言うと彼女は微笑みながら着物を直した。
「もう準備はできたか?」
春斗の後ろからメディが声をかけてくる。
「うん。大丈夫だよ。」
「そうか、なら出よう。」
そう言い、メディは狼を連れて部屋を出る。その後に続いて春斗たちも部屋に置いてあった水を一口だけ飲んで部屋を出た。
ラブh…宿から出てメディは、朝食を食べようと言い、宿から3軒ほどまたいだ店に入った。
店は喫茶店のような感じで、紅茶の香りが店の中を漂っていた。
テーブルに座るとメディはメニュー表と思われるものを春斗に手渡した。しかし春斗にはこの世界の文字が読めないので、メディに同じものを頼むよう言った。するとメディは40代くらいの見た目をした、太った女性を呼び
「これを3つくれ。」
と、メニュー票を指さしながら言った。するとまず、紅茶が運ばれてきて次にパン、キノコの入ったシチューが運ばれてきた。
春斗の元居た世界でも見たことのある料理なのでこっちの世界と向こうの世界の食生活は似通っているのかもしれないと春斗は思った。
「春斗はさ、大丈夫なの?試験。防具も何か着込んでいるように見えないし、武器も持ってない。ゴブリン相手に腰抜かしてたんだからどうせ魔法も使えないんでしょう?」
3人ともパンとシチューを食べ終え、紅茶を飲んでゆっくりしていると、メディが春斗に聞いてきた。
確かにそうだ。春斗は今病院に居た時にたまにはいていたズボンとたまに来ていたシャツ、そしてよく着ていたパーカーを着ているだけでメディの言う防具なんて着ていない。武器も同じように持ってない。
魔法なんてもってのほかだ。そんなもの見たことない。その存在を少し前まで知らなかったのだから。
「まあまあメディちゃん。安心して?春斗君には私がいるから大丈夫よ。」
「…私はお前の方も心配なんだがな。」
口をはさんできた桜を目を細くして見ながらメディはそう言った。
三人とも紅茶を飲み干し店を出て学園を目指した。その行く先は人が多く、誰もが学園に向かって歩いていた。
黒いローブを着て、とんがり帽子を着ている女や、腰に刀を携えている人、銃を携えている人、さらには尻尾が生えている人などいろんな人がいた。そんなたくさん人がいる中でも武器を何か携え、鎧を全身に身をまとった人が多かった。
そんな多種多様な人を見て歩いていると人が溜まっている場所に着いた。ずっと先の方から、
「一列に並んでくださーい!」
と、大きな声で叫んでいるのが聞こえた。だが、その声を聴いても春斗の周りの人たちは一列になろうとする様子もなく、春斗たちもどのような形で並べばいいかわからなかったので、一列にはなれなかった。
春斗はところどころ倒れそうになったが桜やメディに肩を貸してもらいながらなんとか頑張った。
人の波に押されていきだんだんと前に進んでいった春斗たちはようやく列をなしているところを見つけ、そこに並んだ。その列はだんだん前へと進んでいき、少しすると門の前に机が見えた。机の前に行くと紙が置かれていて、何と書いてあるのか春斗にはわからない文字の羅列の下に、名前を書くようなところがあった。
「ねえ、メディ。これなんて書いてあるの?」
「この試験でもし命を落としても学園は一切責任を持ちませんって書いてある。同意書だよ。」
春斗はなんとなく歩いていた人たちの装備を見て危険なものだとはなんとなくわかっていたので特に驚きはしなかった。
「メディ。僕名前の書き方がわからない。」
「…お前、フルネームは」
メディに聞かれ、春斗が答えると、メディは自分の手にこの世界の文字と思われるものを書き出した。
「ほら、これがお前の名前の書き方だ。」
そう言われメディの腕に書かれた文字を春斗は書き写した。そしてその名前を書いた紙を持ってさらに進んでいくと、男がいて、みんなその人に紙を渡していた。
春斗も同じように紙をその男性に渡して進むと、後ろについてきていた桜が呼び止められた。
「おい、お前同意書は?」
「私、この子と契約している身だから。」
「そうか。」
桜がそう言うと男は桜をすんなり通してくれた。
「ねえ、桜、契約って何?」
春斗は桜の口から身に覚えのない言葉が飛び出したので聞くと、
「そのうち話すわ。」
と、言って、答えは教えてくれなかった。
門をくぐると壁が道を作るかのように二つ、広く幅を取って建ってあった。見てみると500mくらい先にカーブがあるだけでそのほかには特に何もなかった。
後ろからはどんどんと人が来て、波が収まったころにはもうさっきまでは500mくらい先にあったカーブが3、400mくらいの距離になっていた。
波が収まった2分後くらいにあーあー、とマイクテストするかのような声が聞こえてきた。
「このメイドリック学園にご入学希望の皆様。こんにちは。」
大きな声だったが、マイクを使った時のようなノイズは全くしてなかった。
「さて、いきなりですが試験のお話をさせていただきます。この試験は障害物競争となっており、約4kmほど走っていただきます。ああ、4kmすべての場所に障害物を設置しているわけではございませんのでご安心を。あと、競争と言ってもちゃんとゴールできればそれで合格です。ですが、上位に入った方からクラスなどを決めます。注意事項としましては、この壁の上に登ったらアウト。何をしても基本大丈夫、といったところです。」
4kmも走れるのかととても不安になったが、よく考えれば狼に乗っているので楽勝ではないかと考えた。障害物も網があってその下を潜り抜けていくものだろうと思った。
「それではもう間もなくスタート、ということになりますが皆様のスタート地点は先頭の方の前に紐が張ってありますよね。そこより後ろとなっております。」
そう説明を受け終わった時、春斗は隣にいた一人の少女の存在に目がいった。つまらなさそうな顔をしている少女に。その少女を少し見ているとその子はこちらを向いて目が合った。
春斗は何か変な目で見られていると思われるのもいやなので、目をそらさず、笑った。すると少女は何か驚いたような顔をした。
「私も連れてってください。」
そう言って少女は微笑みながら春斗の方に手を伸ばした。春斗はその手を繋いだ。
「あら、春斗くん。可愛らしい子を拾ったのね。」
そう後ろに立っている桜が春斗に言う。
「うん。ねえ、メディ。この子も連れて行って大丈夫だよね。」
春斗はその前に立っているメディに問いかけた。
「ああ、問題ない。」
「さて皆様。準備はいいでしょうか。」
メディが答え終わったのと同時にアナウンスが聞こえてきた。
「それでは行きます。」
周りにいるほとんどの人がすぐに走れる体勢を取り始める。
「3、2、1、スタート!」
そうアナウンスが言うと、みんな一斉に走り出した。
皆さんは幼女から差し出された手を簡単に取れますか?私は無理ですね。「キャー!へんたーい!」って言われたらいやですから。あ、でもそれをご褒美として捉える人もいるんですよね、すごいですね。