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アイスの行方

今日はアンナさんは往診に行っています。そして俺は診療所で留守番をしています。

「ただいまー」

3時半頃、ニルスさんが帰ってきました。手にはビニール袋を持っています。

「ニルスさん、おかえりなさい」

「今日アンナさん往診だよね」

「はい、そうですけど」

「ふふふふふ……」

ニルスさんが怪しく笑っています……。

「アンナさんには内緒な?な?」

ニルスさんはビニール袋の中からお高めのカップアイスを2個、取り出しました。

「ニルスさん……何で2個なんですか……バレたら怒られるの俺じゃないですか……」

「しょうがないだろ?安売りしてて最後の2個だったんだ。ばれなきゃいいんだよ!早く食べちゃおう!」

アイスはバニラといちごの2種類。もしかしたらアンナさんが帰ってきて、俺のアイスを奪い取るかもしれないので、アンナさんが好きな方を選びましょう。

「じゃあ、いちごにします」

「じゃあ、俺バニラね。いただきまーす」

ニルスさんは俺の向かいの席に座り、アイスのふたをあけます。まだカチカチで食べられなさそうです。

「まだ固くて食べられないな。……これ、ある意味すごいスリル味わえない?」

ニルスさんはスプーンでアイスの表面をペチペチ叩きながら、玄関の方をチラチラ見ています。アンナさんの往診はだいたい4時半ごろ終わるので、あと45分くらい。ただ、診察の状況によっては遅くも早くもなります。

「俺はそんなスリル味わいたくないです……」

ニルスさんもぶちギレてるアンナさんに遭遇したことはあるのに、どうして……あ、そうだ、ニルスさんは煽りグセがあるんだった。

5分ほど経って、アイスが溶けて食べやすくなりました。まだアンナさんは帰ってきません。

「改めましていただきまーす」

ニルスさんはアイスを食べ始めました。

「じゃあ、俺もいただきます」

ふたをあけて、スプーンでいちごのアイスをすくいます。ああ……たまにしか食べられないから、一口目からじっくり……

「ただいまー」

「えっ!?うそ、早くない!?」

アンナさんが帰ってきてきました!!まだ4時です!いつもより大分早い!?

「なによ、私が帰ってきたらダメみたいじゃない」

アンナさんはカバンを部屋に片付けに行きました。まだ アイスのことは気づいていないようです。

「……ピール、あとはよろしく」

「えっ!?に、ニルスさん!?」

ニルスさんはアイスを持って部屋に戻っていきました。

「……ヤバイですね……?」

「何がヤバイのよ。あれ?ニルスは?」

「ひぃえ!?あ、はい、部屋に戻りました!」

「ねえピール、このアイスどうしたの?」

アンナさんはニルスさんの座っていた席に座ります。

「ニルスさんが買ってきてくれて……」

「私のぶんは?」

「……無いんです」

「……」

……この無言の間……怖すぎる……。

「……素直に打ち明けたのはほめてあげるわ。でもね、私のいないうちに食べて何も無かったようにしようとした魂胆がみえみえなのよ。……ニルスは?ニルスも食べてるんでしょ?アイス」

……アンナさん、真顔だ……。こ、こわ、怖すぎる……アイスくらいでそんな怒らなくてもいいんじゃないでしょうか……!?

すみません、ニルスさん……俺一人でここはしのげません……!!

「……はい、部屋に……持っていきました……」

「よし、殴ろう」

「ま、待ってアンナさん!暴力反対です……!!」

立ち上がってニルスさんの部屋に向かおうとするアンナさん。何とかして引き留めないと!!

「あの煽り属性王子一発殴らないと気がすまない」

「煽り属性関係ないです……!!」

肩を押さえると身長差と体重差でアンナさんの動きは止められます。

「離しなさいよ!!」

「ダメです!ニルスさん元とはいえ王子なんですから!!」

「それがなんだって言うのよ!うちに居候してる限り、適用されるのはうちルールよ!」

「そんなルールはじめて聞きま……、痛い!!」

振り向き様に一発平手打ちを食らって、アンナさんの肩から手が離れてしまいました。アンナさんはニルスさんの部屋に行ってしまいます。

ああ……ごめんなさい、ニルスさん……

ばたばたという物音のあと、転がるようにして、ニルスさんが部屋から出てきました。

「ピール……!!よろしくって言ったのに……!!」

「そう言われましても……」

ニルスさんはすでにひっぱたかれているようです。顔にアンナさんの手の跡がついています。

「はー、気が済んだ。ニルス!!次はちゃんと私のぶんも買ってくるのよ!」

「わ、わかった……!買って来るから!!」

今日はグーがでなかったので、そこまで不機嫌ではなかったようです。

ニルスさんは氷嚢を作って自分の部屋に戻っていきました。

テーブルの上には、俺の食べかけのアイスが残っています。3分の1くらい溶けていますが、今から冷やして固め直すのも微妙です。

席に戻ってどうするか考えていると、アンナさんも席に戻って来ました。

「……ピール、それちょうだい」

「えっ、でも溶けちゃってますよ?」

「いいわよべつに」

「俺がすでに一口食べちゃってますけど……」

「気にしないわよ、ほら、あーん」

「……はい?」

アンナさんは口をあけて待機しています。……これは、俺がアンナさんに、食べさせてあげるってことでしょうか、そうですよね……。

「ちょうだいって言ったじゃない。あーん」

「は、は、はい」

溶けたアイスをこぼさないように、そっとアンナさんの口元にスプーンを持っていきます。アンナさんはスプーンを口に入れると、さっき怒っていたのが嘘のように顔を綻ばせました。……かわいい。

「うぅん、美味しい……さすがの味だわ……!!」

「お高いですからね」

「何で2個なのよ!うちは3人いるってわかってるじゃない!!」

「ラスト2個だったって言ってましたよ?」

「聞いたわ。2個買うくらいならいっそ買わないか、1個どこかで買い足しなさいよってことよ!」

アンナさんはまたプリプリ怒りながら俺にアイスを催促します。

何度かアンナさんの口にスプーンを持っていってパクパク食べている様子を見つめていると、不意にアンナさんが俺の顔を見上げました。

「ピールにも一口あげる」

アンナさんは俺からスプーンを奪います。

「このアイス俺のなんですけど」

「あ?」

「いえ、何でもないです……」

「はい、あーん」

差し出されたスプーンを口に入れても、緊張となんかいろいろあれで全然味がわかりません。

「なによ、美味しくないの?」

どうやら顔に出てしまっていたようです。

「え、いえ、そんなことないです」

「はいじゃあもう一口」

「え、いいんですか?」

「だってあんたのでしょ、このアイス」

「それはそうなんですけど……」

「はい、あーん」

今度はちゃんと味がします。ひんやりしてて甘酸っぱいいちごの味にミルクのまろやかさが絡みます。

「どうしていちご選んだの?あんた、バニラ派でしょ?」

「えっ?」

「まあおおかたニルスが先に好きな方選んだんだろうけど」

本当は俺がアンナさんが好きないちごを先に選んだんですが、これは言わなくてもいい情報でしょう。

「あ、はい、そうです」


結局、アイスは全部アンナさんに食べられてしまいました。とても幸せそうにアイスを食べていたのでなにも言えなくなってしまったんです。

「あ、ごめん。ほんとに全部食べちゃった」

「いいんです、ちょっともらえましたし」

「そう」

ちょっと気が強くてすぐ手が出てしまうけど、俺はアンナさんがそれだけじゃないことを知っています。

俺たちの関係性はしばらくこのままだろうけど、俺は今のこの距離感も意外と好きなんです。

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