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俺の好きな人

「ピール、往診いってくるから」

「はい、先生、行ってらっしゃい」

俺はピール・イルザード。小さな診療所の看護師をしています。

さっき出掛けていったのはこの診療所の院長、アンナ・ナディクスさん。

実はもう一人ここに住んでいる人がいますが、今はいないので紹介はまた後で。


この国の一部の人は呪いにかかっています。俺も先生もその一部に入っています。

俺は負の感情が見える呪いにかかっているので対策用の眼鏡を掛けています。先生は成長が止まってしまう呪い。なので、見た目が子供のままなんです。


「ピール!忘れ物しちゃった!」

「はい!あっ!これですね!」

先生は患者さんの薬を忘れたようです。渡すとまたすぐに出掛けていきました。

先生は小さくてかわいいので、患者さんに人気です。……そう、小さくて、とてもかわいいんです。俺が出会ったときから、姿は変わっていません。俺は、出会った頃から先生が……、アンナさんが好きなんです。




「ピール、私ちょっと昼寝するから何かあったらよろしくね」

うちの診療所は基本的に入院患者はいないので、午前と午後で往診に行っています。

今は合間の休憩時間です。

ソファで寝ているアンナさんがとてもかわいくて、たまにどうしたらいいのかよくわからなくなります。

「……あんた、よくわからない表情してるわよ?」

「うえっ!?は、はい!?すみません!!!」

「何で謝ってるの?」

「何でもないです!!!」

こんな風に目撃されるととても焦ります。でも、アンナさんは深く言及してこないので助かります。




気づいてしまいました……。アンナさんは最近、夜中にこっそりあやしいサイトを見ているみたいです……。

いかがわしい動画サイトや道具のサイトの検索履歴が共用のパソコンに残っています……。俺はいったいどうしたら……。

「あ゛っ」

「……先生……?なに検索してるんですか……」

俺は思わず尋ねてしまいました。

「ち、違うのよ!私じゃなくて、ニルスが……」

「ニルスさんですか?」

ニルスさんはもう一人の同居人です。今は学校に行っているのでいません。

「そうなの。なんか最近恋人でもできたんじゃないかしら」

「そうだったんですか……」

恋人……いいなあ。俺も……

「……アンナさん、俺じゃ、ダメなんですか……?」

「……あんた懲りないわね。今のままでもいいじゃない」

アンナさんは俺のことを相手にしてくれません……。

実は俺、何度もアンナさんにアタックしています。でも、今みたいに軽くあしらわれてしまいます。

「どうしてですか?俺が頼りないからですか?」

「違うわよ。あなたのことは頼りにしてる。でも、私はあなたのこと、弟としか見られないのよ」

「……」

そう、いつも、弟って言われる……。

「いつも……いつも弟って……俺はアンナさんの弟じゃないです」

「気にしてたの……?」

「当たり前じゃないですか……!俺は!ずっと前からアンナさんのことが好きなのに……!」

「……ごめん」

ごめんで済むなら……俺だって……

「アンナさん、ごめんなさい、でも、俺だって……男なんですよ?」

アンナさんは小さくて、とても軽いです。簡単に抱えられるし、押さえ込むこともできます。

「えっ……、ちょっと、本気なのっ!?」

ソファの上で俺は、アンナさんの自由を奪って……越えてはいけないものを越えようとしてるんじゃないでしょうか……?

「やだ……!やめてよ……!!私……」

アンナさんは……涙目で、俺は……

「……ごめんなさい」

手を離した瞬間、アンナさんの平手打ちをくらいました。

「……アンナさ」

「どきなさいよ、バカ」

平手打ちで眼鏡が飛んでしまったので、アンナさんの負の感情が見えます。

たくさんの「こわい」「バカ」「アホ」「(自主規制)」「(自主規制)」のなかに少しだけ「ごめん」が見えました。

「何でごめんなんですか?」

「なんの話?私は早く退きなさいって言ってんの!」

「あ、すみません」

本気で大事なところを蹴られかねないので、アンナさんの上から退きます。自分でやったとはいえ、精神的ダメージが大きいです……。

「はあ……」

「バカねー。あんた、何となくこうなることわかってたんじゃないの?」

アンナさんはいつも通りに俺に声をかけます。

「……いいわよ、先生って呼ばなくて。アンナって呼びなさい」

「……でも」

「アンナちゃんはダメよ!あんたが変な目で見られるからね!」

「へっ?」

「あー……呼び捨てもやめた方がいいわね、さん付けで」

「は、はい」

なんだかよくわかりません。

「ピール、顔あげて」

ソファに俯いてる俺は言われた通り顔を上げます。眼鏡は飛んでいったままですが、アンナさんに負の感情は見えません。

手で、顔を挟まれてなぜか二人で見つめあっています。

「……あ、あの」

「黙って!目つぶって!」

「は、はい!」

目を閉じて、しばらくの沈黙の後、頬になにか柔らかい感触が。

えっあの、えっウソちょっと目開けてもいいですか!?

「ピール」

「はい!目開けてもいいですか!?」

「……勝手にしなさいよ」

目を開けると、顔が真っ赤のアンナさんの姿がありました。

「……これで我慢しなさい」

「うっ……は、はいいい……!」

「何で泣いてんのよ!?意味わかんないんだけど!?」

俺は焦りすぎてたのかもしれません。でも、弟からはきっと抜け出せたはず。

いつか、きっと関係が変わるときが来るかもしれません。だから、そのときまで、今のままで。

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