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天空からの制裁

作者: とろろ昆布2

いつの頃からか、その惑星には大いなる意志が働くようになっていた。「道徳」という、公共の利益に反する行為を起こすと容赦ない制裁が下されるのだ。

例えば、武装勢力が紛争を起こそうと決起したり、テロ支援国家が武器を提供しようとしたり、軍産複合体が冷戦の厭戦気分を払拭しようと核サイロが発射シーケンスを起動すると…。

漆黒の空間から警告が発せられるのだ。


初じめは直径数センチの石質性隕石が、通信ケーブルないしは移動用車両のエンジンを撃ち抜く。

多くの指導者はこの出来事で、自ら行いを省みて計画の中止するである。

しかし、狂信的な指導者がさらに準備を進めようとすると、次の段階は警告ではなく、冷徹な制裁が実施される。

多くの場合…、とは言え、過去に数度しか行われていないが、ライフル弾の形状を模した隕鉄が到底人類では達することが出来ない速さ、秒速500キロ、でピンポイントでシャーマン気取りのバカ者の頭上を襲うのである。例え地下深くシェルターに隠れていようと、深海に潜水艦で息を潜めていようと。

質量を灼熱衝撃波と化した制裁は、どんな遮蔽物であろうと蒸発させた。

無慈悲な破壊は指導者の信者を、覚醒させるには十分すぎる効果があった。次はお前らだぞという意識を、感じずにはいられない攻撃であったからだ…。

しかし、大いなる意志を理解できず天空に向かって応射でもしようモノなら、

制裁は直ちに続けられる、光の矢が降り注ぐのだ。大気を切り裂く衝撃波は、目標が焼け落ちるまで続けられるのだ。

いつの間にか人々はこの攻撃を「天空の制裁」と呼び、日頃の無軌道な行いがついに神の怒りを買ってしまったのだと囁き、道徳的生活をいかに取り戻すのか無心した。

人々は紛争に悩むことも、理不尽な暴力に苛まれることも無くなり、徳と仁に富んだ社会を構築することになった。

ある出来事が起こるまで。


「おはようございます。」

「良いお天気ですね…。」

話しかけた相手は、自分の台詞を発しきらないうちに光の矢が蒸発させていた。

『どうして…。そうか、おはようございますを返さなかったからだ…』話しかけた人物は凍りついた…。

うっかり挨拶も出来ない、返答が様式から外れると消されるのだ…。しかし、挨拶を交わさないと、非道徳行為だと判断される…。言葉を選び、慎重に気を配らないと、何時消されるのか判らない…。

この変化は報道され、各メディアは如何にして制裁を逃れるかを発信した…。

あるメディアはこの変化に疑問を呈したが、人々に情報が伝わる頃には存在が消されていた…。


ある宗教家はこの変化を「神の国への試練」と唱え、信心する教義を声高らかに宣言した。しかし、人々が彼の存在を知ったのは、光の矢が彼に降り注いだという事実だけであった。

同時に、人々が永年信仰していた様々な施設が、建築物が、蒸発させられて行った。人々が信じていたものなど、一欠片の価値など無いというが如く撤退的に破壊は続いた。教会、寺院、小さな祠までも破壊しつくされた。


人々は心の拠り所を失い、人々は善悪の判断すら天に伺いを立てるようになり、自ら判断することを放棄していった。信心や科学など天から降り注ぐ光の矢に、何ら効果も無いのだから。

人々はただ耕し、ただ食し、漫然とその数だけを増やしていった。 家畜のように。


終わり




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