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しかし現状、世界のカタチが完全とは言い切れない。
強すぎる意志は〈悪〉を生み、神の加護は一部の人間のみが受けられる。
教会の近くでうまれたものと、そうでないもの。二者の間に生じた差を、前者は信仰心の有無による区別といい、後者はいわれのない差別と嘆く。
人口数十人、という規模の小さな村で生まれ育ったシルヴィは、言うまでもなく神の差別に苦しむ人間だった。
赤い髪を馬の尾のように揺らして、シルヴィは森を貫く道を駆ける。
左右をふさぐように立ち並ぶ木々の他には、空と雲くらいしかない景色だ。距離感を維持し続けるのは難しく、太陽の昇り具合──あるいは沈み具合から時間を読んでだいたいの距離を計算するしかない。
後ろを振り返れば、走るにつれて遠ざかっていく山々が見えるはずなのだが、シルヴィはあえてそちらに目を向けなかった。
愚直に、前を見る。
太陽はすでに真上を通りすぎ、南から西へと進路を変えている。かすかに潮の香りは漂ってくるものの、町を囲んでいるはずの外壁が見えてこないことにシルヴィは焦りを感じていた。
できることならば、町から離れた場所でロランと相対したい。しかし、二人の進路が交わる場所に着いてすぐに戦闘に入ることは避けたかった。
姿の見えない相手に対して、どのように動けばいいのか。ぎりぎりまでアンブシュールに近づくべきか、余裕をもって町から離れた場所で迎え撃つか──シルヴィの思考はいまだにまとまっていない。
今日だけで何度となく直面した二択に、もう一度ぶち当たる。今度こそ答えを出さなければと、自身を追い込むことだって今が初めてではないのだが──
「止まれ」
突如、空から声が落ちてきた。