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〈悪〉と同じように理性を欠落させてしまったかつての師、ロランを追い続けてすでに三日。
疲れることもなく進み続ける存在を追うことは、生身なうえに手負いのシルヴィには厳しいものがあったが、あのような状態になったものが近づく場所といったら目星がついた。
破壊衝動を解消するにはちょうどいい、多くの命を殺せる場所が近くにある。
港町アンブシュール。大陸の北端に位置する商業の中心地だ。
広い流域面積をもつリヴィエール川の河口に位置するために、荷物の運搬などに陸路が利用されることはほとんどない。代わりにシルヴィの歩く街道──というには少々素っ気ないが──は、周辺の村とアンブシュールを繋ぐ最短のルートとして活用されている。量よりも速さを求める場合や、大きな儲けを狙わない個人の行商人が利用する程度のものだが、その地理的特徴はシルヴィにとってありがたいものだった。
人目に触れる可能性が少ない。何より人の足で進むには最適の道だし、うまくいけばアンブシュールの手前でロランの進路に先回りできる。
だからといって、のんびりしている暇があるのかと言えばそんなことはない。
元々の速度が違うのだから、当然のことだ。シルヴィはもう一度空を見上げ、太陽の位置から方角を推測して進むべき方向を見定めると、北へと進路をとって走り出した。
ロランの移動能力を考えると、夜半すぎにはアンブシュールに辿りついてしまう。その前に、シルヴィは彼の前に立ちふさがる必要があった。
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聖典に曰く、神は全知全能の存在である。
世界を創り、生命を創り、その全てを細部に至るまで支配していた。支配に飽きると、創りだした数多の生命ひとつひとつに意志を与えるということまでやってのけた。
それだけを聞けば、なるほど、全知全能でなければできないことではある。