03
しかし、効率的な行動というものは得てして読みやすい。かがんだ体勢になっていたシルヴィは、背の翼で〈悪〉の爪を受け止めて払う。うまく力を乗せられていない一撃は、それだけであっさりと弾かれた。
〈悪〉の槍を手にしたシルヴィは、無防備になった胸に切っ先を突き立てる。貫通に特化した凶器は硬い体を貫き、〈悪〉はあっけなく絶命。致命傷となった胸の傷から亀裂が広がり、無機物じみた硬さをもつ骸は渇いた音をたてて砕け散った。
「──最悪な朝だ」
〈悪〉の残骸を赤い瞳で一瞥して、シルヴィが呟く。
大きいもので握り拳程度の欠片になった〈悪〉は、時間が経過すれば砂粒大にまで崩れて土と同化する。周囲に悪影響を与えることもないので放置しても構わないのだが、シルヴィはしばらく黒髪赤目、黒い翼を生やした姿を保ったまま周囲を警戒していた。
安全を確認すると、ようやく力を抜いて一息。〈悪〉の力を解放していることを示す容姿は元の赤毛と赤褐色の瞳に戻り、背の翼も消失する。
体を伸ばす際に空を見上げ、シルヴィはもう一度──今度は呆れの色が強い──息を吐き出した。
すでに、日はかなり高いところまで昇っている。〈悪〉が活発化する夜を避けて眠ったとはいえ、「朝」というには少々遅すぎた。
朝から昼までの間は眠ることができたと軽く考え、シルヴィは体をほぐしてから土が露出した道に出る。慣れてもいない野宿に準備なしで挑んだ割に、調子はそれほど悪くない──もっとも、その程度のことで音をあげていられる状況でもないのだが。
頭上から降り注ぐ陽光に目を細め、シルヴィは道の先を睨む。村を焼かれてから、シルヴィの歩く方角は変わっていない。