表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤黒サウダージ  作者: 射月アキラ
一 死・満ちる
2/22

02

 ここにあるのは、破壊と蹂躙のあとだけだった。

 辛うじて生き延びているのは、シルヴィひとり。

 そして──もうひとつ。

 背にコウモリの翼を生やした人影が、シルヴィの前方にたたずんでいた。

 影がそのまま立ちあがったかのような、光すら吸収する黒い体。対して、翼だけがぬらぬらと周囲の赤い光を反射している。

 シルヴィは、人影のかつての姿を記憶している。短く刈り込まれた暗褐色の髪と、日に焼けた肌を記憶している。背負った業に似合わない、人懐っこい笑みを記憶している。指導の厳しさと、大きな掌の優しさを記憶している。

「ロ、ラン……」

 その名を、記憶している。

 しかし、振り返った人影の瞳に、かつての色は残っていなかった。炎と夕日の逆光を背負ってなお赤く輝く瞳に、人間らしさなど微塵もない。人格を形成する理性と感情が抜け落ちた、獣のような瞳。

「ロラン……!」

 シルヴィは拳を握りしめて、もう一度名を呼ぶ。

 『彼』が、その声に応えることはない。その声を知覚することはあっても、内容を理解することはない。少女の声の弱さも切実さも、感じることはない。

 理解してなお、シルヴィはヒトであったものの名を呼んだ。

 今度こそ、明確に、獣の瞳がシルヴィを見とめる。ひとりの少女としてではなく、ひとつの破壊対象として。

 赤い瞳から放たれる狂気的な色に、シルヴィが思わず身をひく。

 直後。ロランであったものは凶器と化した爪を振るい、その切っ先は人外の速度でシルヴィの右目へ──

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ