04
人類の天敵にすら勝ちたいと願ってしまうほど無鉄砲で、ある意味まっすぐな少女だった。
〈悪使い〉の力を手にしてからも、それは変わらない。村を守る、という大義名分はあったものの、本当の目的は強い存在に打ち勝つことだった。
ある日、村を訪れたもう一人の〈悪使い〉──ロランに師事を求めたのも、より強くなるための手段にすぎない。
いつかは師を超える。〈悪〉を殺すために創られた天使すら超える。
ひたすらに強さを求め続けたシルヴィが〈悪堕ち〉という壁に突き当たったのは、三日前のことだった。
*
連撃の合間をぬって、拳は〈悪堕ち〉の顎へ突きささった。
クリーンヒット。硬質な音と共に〈悪堕ち〉の体が吹き飛び、両手の爪からシルヴィの血が線を描く。
肩を落とし、シルヴィは荒く息を吐き出した。
全てを破壊して殺しつくす〈悪〉の衝動が、〈悪堕ち〉に向けられた結果として、今の拳が命中したと言ってもいい。内側から溢れでる破壊衝動を抑えきれない。
加えて、世界を赤く染めあげながら沈む太陽が、もうすでに地平の底に埋まりかかっていた。
あと数分もしない内に、天使の軍勢がシルヴィと〈悪堕ち〉を滅ぼしにかかるだろう。
手詰まりなのか。いまだに断定ではなく疑問形を使うのは、シルヴィの最後のあがきとも言えた。断定に変わった瞬間、シルヴィは〈悪〉の衝動に自我を食らいつくされる。
──壊セ。
そんな幻聴すら、聞こえてくる。
精神の奥底でそそのかす〈悪〉の声なのか、あるいは〈悪〉に食われかけた自分の意志の声なのか、シルヴィには判断がつかない。
ただ、その声はとても心地よかった。
ふつり、ふつりと湧きあがる感情に戸惑いながらも、シルヴィは笑う。心地よさと同時、懐かしさすら感じる声に押され、シルヴィは〈悪〉に──〈悪堕ち〉に近い存在になっていく。




