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喧嘩屋

「……防具を付けてた、なんて訳ないですよねぇ」


「ええ、むしろタンクトップ一枚の軽装だったと聞いています。暑いですからね、今の時期。それに鉄パイプだけではなく、コンクリートブロックで頭を殴られても無傷だったらしいです」


皮膚よりも硬い物を叩きつけられて尚、損傷は一切無し。およそ全うな人体でないのは確かだ。石頭なんて言葉があるが、それだけで片付けられる状況でもない。


「十中八九、シンカですね、それ。倣司さんもそう思ってるんじゃないですか?」


「はい。私もそう思います。あり得ない事態ですから、ほぼ間違いないでしょう。当人も、まるで誇示するように攻撃を受け止めていたそうですから。恐らく能力を見せ付けたかったのでしょう。けれど例外として、刃物では傷が付いたみたいです」


刃物、ナイフだろうね。日本みたいにガチガチに法律で固めた国でも、探せばそんなものは誰でも簡単に手に入る。


「普通にナイフ持ってるとか、物騒な話ですねぇ。でも妙だな……何でナイフでは傷付いたんだろ」


「確かに妙ですね。考えられるとすれば、鋭さ、でしょうか。面では効果が無くとも、線は別」


つまり、襲いかかる面積の問題。広ければ無効に出来て、狭ければ無効に出来ない。


「完全な鉄壁人間では無いって事か。じゃあ、警察でも対処できるレベルですね」


シンカの中には警察ではどうする事も出来ず、軍を呼ばなければならない奴もいる。海外でいくつか、その手のニュースを聞いた事がある。日本では自衛隊になるのだが、今のところそういう事態はうちの妹しか起こしちゃいない。……まぁ、それでも彼女に対して為す術なかったのだが。

そこまで事が進んでしまうと、更に上に存在する極秘機関が動き出す。クロちゃんはその一員だ。自衛隊数十名に及ぶ交戦を難なく無に帰す妹を、クロちゃんはたった一人で制圧。恐ろしいぜクロちゃん、あんたこそ人間じゃないぜクロちゃん。


因みに何で俺が知ってるかと言えば、やはり俺に対しての脅しである。


「そう願う限りです。しかし問題がもう一つ。――二人組みたいなのです」


「もう一人、いるんですか……!?」


「ええ。そのもう一人も無傷なのですが、先に述べたのとは対称的に、攻撃を全て避けていたそうです」


「今度は避ける……む、それだけでシンカってのは考えすぎじゃないですか?」


例えば格闘技を習った者、彼らからすれば素人の動きなんて丸わかりらしい。


「数人に囲まれたうえに背後からの奇襲すらですよ?」


「シンカですね」


断定。もうそいつもシンカだわ。納得いかないという意見があるならばどうぞ体験して下さい。


「そいつ、後頭部に目でも付いてるんですかね」


「無くはない、ですね。他に考えられるとすれば、直感とか」


「直感ですか?」


「はい。直感です。体験した事ありませんか。例えば、ここは嫌な感じだなとか、何か来そうだなとか、――後ろが気になるなとか。ふと感じるこの感覚は、人間に備わる動物的な本能に、経験と観察によって得た情報を足したようなものです。無意識に危険を察知し、回避する体勢を整える為の準備。大抵が外れますが、当たる事もある筈です」


確かに、言われてみればそんな記憶はある。


中学生の頃にエロ本を眺めて鼻息荒くしていると、ふと人の気配を感じてベッドの下に放り投げた瞬間に妹が部屋のドアをぶち破って来た時とか。数学の先生のムチムチのタイトスカートをいやらしく見つめていると、そろそろ振り向くんじゃないかと思って目線を変えた瞬間に此方を向いた時とか。

……誰だエロガキっつった奴。中学生はみんなエロの門をエスカレーター式に通るんだよ!


「シンカならば、そういった部分が進化していてもおかしくはありません。とはいえ予想ですから、何とも言えませんけど」


「受けて無傷と避けて無傷……仲が良ろしいこって。友達なのか知らないけど、シンカ同士でつるんでるなんて聞いた事ないですよ」


「私もです。最悪の事態にならないよう祈るばかりです。詩乃くんも気を付けて下さい。君が巻き込まれたとなると、私は……」


よよよ、と倣司さんは頭を下げる。


「大丈夫ですって。そんなの首突っ込みたくないし。悪い友達もいないし」


比劇が高校生の時にブイブイ云わせていたけど、今は平和な学生やってるから面倒ごとは起こさないだろう。

何より、俺は今の日常を崩したくない。ただ普通に生きて、ただ普通に暮らして、ただ普通に死にたい。面白みも何もないただの日常。それだけでいい。


――俺はただ普通にいたいだけ。普通じゃない身体だから、だから普通でありたい。そうする事で、本当に普通の人達と同じでいられる気がするから。


なので、その日常を侵害しようとする奴は許さない。偶々遭遇した奴には悪いが、日常を犯しうるのならば容赦はしない。自分から足を踏み入れる真似もしない。





おれの、ただの、しがない日常の為に。

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