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第43話 「戦友との別れ(切ない)」

 俺がベッドに寝転んでいると、どこかから声がする。

 これは、宿の外……? いや、廊下のほうからか。


 ふたつとも聞き覚えのある声だ。もしかしたら俺を呼んでいるのだろうか。だが俺はきょう三時間の昼寝をすると決めていたため、鉄血の意志を持って目を瞑っていた。つらいが仕方ない。初志貫徹を貫くのも、賢者の務めだ。


「だから、ミエリさまもそれでいいんですか!? あれはどこからどう見てもクズでしょ!? クズの伝説、テイルズオブクズでしょ!?」

「確かにわたしもそう思いますけどぉ、でもあんなんでもわたしが選んで連れてきた人ですから、きっといつか、そのうち、やる気になってくれるって思っているんですけど……」

「それ完全にダメ亭主を支える奥さんの言い分だわ! ちょっとミエリ、いい? よく聞いてね!」

「あれ!? タメ口に!?」


 どうやらキキレアとミエリが話しているようだ。

 内容は世間話だろうか、どこかにクズがいるらしい。大変だな、身の回りにクズがいて。そんなクズに付き合わされているなんて同情するよ。


「あれ、キティーとミエリさま? どうしたのー?」

「あ、ナル。ちょうどよかった、あんたにも声を掛けようとしていたのよ」

「?」

「ほらほら、ふたりともこっちにきて、きて」

「よくわかんないけどわかったー」

「はぁい」


 廊下の声は急にひそひそ声に変わる。断片的にだけ伝わってきた。


「だから、つまり……、あいつを……」

「……ふんふん……」

「こういう手で…………で、……ね」

「……なるほど……」

「騙して……、意外と抜け目ないから……、そこをうまく……、どう?」

「えっ、でもそれって、キティーがパーティー抜けちゃわない?」

「ううん、そうならないようにするのよ。それに、これがあいつのためになるわ。ね、そうでしょう? ナル」

「ううーん」


 ナルは難色を示しているようだ。だがそれを辛抱強く説得するキキレア。声からヒートアップしてきたのがわかる。


「いい? あいつはああ見えてやるときはやるわ。それで何度も命を救われたし、ちょっと信じられないような奇跡を見せてもらったことだってある。そんなあいつがこのまま腐ったドブ川に沈んでゆくように自堕落な一生を終えるのは、見ていて忍びないでしょう? もったいないのよ。でもこのままじゃあいつは動かないわ。私たちがどうにかしないといけないのよ」


 どこかの誰か、すごい言われているな。きっとよっぽど面白いやつなんだろう。一度会ったら思いっきり馬鹿にしてやりたいものだ。

 まあ俺には関係ないが。


 しばらく経った後、ミエリとナルの返事が聞こえた。


「……そっかあ、わかったよ、キティー。気が進まないけど……、でも、あたしにできることがあったら、協力するよ」

「はい。わたしも……、うまくいくかどうかわかりませんけど、マサムネさんのためなら」

「ありがとう、ふたりとも」


 キキレアの安堵のため息が聞こえてくる。

 なんだかよくわからないが、話は決まったようだ。

 よかったな、キキレア。


 しかし、ううむ。

 俺は寝返りを打ちながら、ほんの少しだけ思う。


 キキレアやナルや、あとまあポンコツ女神たちに、あんな風に想ってもらっている男がいるとしたら。

 そいつはきっと、それなりに幸せなやつなんだろうな、と。


 柄じゃないかもしれないが、思うだけなら自由だろう。

 そうして俺は、夢の中へと落ちていったのだった。




 そして翌日、俺はジャックに呼び出されて、城へと向かっていた。

 そういえばジャックに会うのは久しぶりだな。あいつ最近じゃすっかり、城で王子様っぽいことをしているらしいし。


 なんとなく、ジャックはこのままパーティーから抜けちまうんだろうな、と俺は考えていた。まあもともと住んでいる世界が違う男だったわけだし、仕方ないな。

 パラディンとして覚醒したあいつがいなくなるのは少し痛いが、代わりに俺も前衛ができるようになったからな。問題はないさ。


「あっ、マサムネさん! きょうはどうも!」

「おう、しっかりと働けよ」

「ういっす!」


 城の手前で門番に挨拶を交わす。ちなみにこの門番、なんと俺たちとともに働いたあの六つ子のひとりなのである。

 六つ子はその功績をたたえられて、イクリピアに雇ってもらえることになった。彼らが冒険者をやめて安定した収入を求めるようになった理由を聞いたところ、


『冒険者っていうのは、マサムネさんとかキキレアさんとかナルルースさんとか、ああいうファンキーでクレイジーな人たちじゃないと続けていけない職業なんだと思いまして……。だったら引退して、まっとうに稼いでいこうかなと思いまして……』


 と、わけのわからないことを答えていた。俺だっていつもあんな無茶な作戦を立てているわけじゃないよ。薬草摘みとかちゃんとやっていたよ。


 まあそんなこんなで、てくてくと城へと足を踏み入れる。騎士団たちの中では俺はもう有名人だ。この地方では、黒髪黒目が珍しいというのもあるんだろう。手を挙げて挨拶すると、みなが立ち止まって俺に敬礼をする。そんなに硬くならなくてもいいんだけどな。


「マサムネさん、本日はいかがいたしましたか?」

「ああ、ちょっとジャック……ジャラハドに呼び出されてな」

「なるほど、ジャラハドさまでしたら、本日は書庫にいらっしゃるはずです。ご案内いたしましょう」

「ああ、悪いな」


 そう言って俺を先導してくれるこの髭を生やしたナイスミドルは、雷魔法騎士団の副団長である。

 魔法塔を破壊し、ミエリが元の姿に戻ったことによって、雷魔法騎士団は再び雷魔法を覚え直すことができた。するとどうしたことだろう。バーバリアンそのものだった彼らは、なぜかすぐに元の姿に戻ってしまったのだと言う。猿が文化を得たように。誠に奇怪な事件だ。


 スラッとした長身の男に、俺は思わず尋ねてしまう。


「あの、副団長さんさ」

「なんでしょう」

「こないだまで、上半身裸で手斧振り回していたよな」

「ふふふ、昔のことは忘れました」


 笑ってごまかす副団長。騎士団内部でも絶対に騒がれていると思うが、真相は闇の中だ。イクリピア七不思議のひとつに数えられるだろう。あとこの関連のお話はおそらく伏線でもなんでもないので、忘れてもらっても構わない。俺も早く忘れようと思う。


 城の書庫に案内される。そういえばこんなところに来るのは初めてだな。副団長に別れを告げ、俺は中に足を踏み入れた。


 大きなホールの所狭しと本が詰め込まれている。ドーム状の建物のようだ。

 こういうところを見ると、ミエリと初めて会ったときのことを思い出すな。あれも図書館みたいなところだった。


 ランプの光と魔法の明かりが交互に揺れている。中はそれなりに明るかった。あちこちに可動式の梯子があり、そのうちのひとつにジャックが立っていた。


「来たぞ、ジャック」

「ん……ああ、マサムネくんか。呼び出して悪かったね」

「いいさ、暇だからな」

「そんなに暇だったら、ホープタウンに帰ったりはしないのかい?」

「んー」


 ジャックは手に本を抱えて梯子から降りてきた。俺は頬をかく。それも考えてはいたんだけどな。


「ハンニバルから屋敷をもらえるみたいだし、別に帰ってもいいんだが」

「心残りでも?」

「まあちっとある」


 実は、ただ帰るだけなら簡単なのだ。なんといってもミエリがいる。あいつにゲートを開いてもらえばいいだけだ。行きはかなりの時間がかかったけれど、帰りは一瞬で済むからな。

 だが、それをするのもなんとなく抵抗があった。

 一度戻ったら、ここに来るまでしばらく時間がかかるしな。


「僕はイクリピアにとどまるよ」

「ん」


 ジャックは机に本を置きながらそう言った。


「もともと武者修行のためにホープタウンに行ったわけだし。でも、こんな僕にもようやく自信がついたから。まだ自分が人の上に立つような器だとは思わないけれど、しばらくはイクリピアで改めて学び直そうと思っているよ」

「そうか」

「今まで君には世話になったね。感謝しているよ。君がいなければ僕は、今もあのホープタウンでうだうだと管を巻くだけの人生を送っていたと思う」

「そんなことはないだろ」


 あんまり人に持ち上げられるのもこそばゆい。俺は首を振った。


「イクリピアを助けに行こうって言い出したのはお前だ。俺はモノに釣られてここまでやってきただけだよ。お前は俺がいなくたって、ひとりでもイクリピアに向かったさ。大したもんだよ」

「……そうかな?」

「ああ。あと男が頬を赤く染めるなよ、気持ち悪いぞ」

「そ、そんなつもりはない!」


 ジャックはムキになって否定をしてきた。


 しかし、なんとなくわかっていたことだが、ジャックはイクリピアにとどまるのか。まあそうだよな、王子様だしな。


「話ってのはそのことだったのか?」

「いいや、これからが本題さ。僕が自分の話をしたのは、君との話をスムーズに行なうためだよ。マサムネくんはこれからどうしようと思っているんだい?」

「……俺か?」

「ああ、もう三か月もイクリピアにとどまっているだろう。心配してもらってすまないが、もうそろそろ僕たちも大丈夫だ」


 ジャックは真剣な顔でなにかを言い出した。俺は眉をひそめる。


「……ん?」

「わかっているよ。魔王軍が再びイクリピアに攻め込んでくることを危惧して、だから君がこの町にとどまってくれていたんだろう。フィンたちはすぐに出発しちゃったからね。その代わりにさ。不自由をさせて、君には迷惑をかけたな」


 いやそんな君のことはお見通しだよフフフ、みたいな感じで言われても。

 別に……。ぐーたらしていただけなんだが……。


「だから、もう平気だ。君には君の道があるだろう。魔王を倒しに行くというのなら、行ってくれ。今からではフィンたちに追いつくのも大変かもしれないが」

「う、うん」


 どうしよう、この雰囲気。なんかものすごい誤解されている。

 ていうかこいつ、ホープタウンで俺のなにを見ていたんだ。どこからどう見てもそんなことをするようなやつじゃないだろ、俺。パラディンになったからって心までおめでたいやつになっちまったのか。俺を持ち上げるのはナルだけで十分だぞ。


 だいたい魔王退治だって、な。

 俺にはフィニッシャーというカードがある。


 現在、フィニッシャーの欠片は四枚集まっている。

 ギルドラドンから入手した一枚。竜穿からもらった一枚。ハンニバルからもらった一枚。そして、ビガデスを倒して手に入れた一枚。計四枚だ。


 フィニッシャーははっきり言ってチートカードだ。発動した瞬間に魔王を即死させるという。


 このカードが七枚集まれば――つまり、あと三枚集まれば、魔王は倒せるということだ。

 だったら別に焦る必要なんてないんじゃないだろうか。ひょんな調子でフィニッシャーを手に入れられるかもしれないしさ。

 とかなんとか思っている俺がいるわけだ。

 俺は慎重派だからな。強い魔物に挑むよりは、町の人の悩みを解決してフィニッシャーを集めたいと思っているのだ。


 ま、ミエリのことは言ったけれど、フィニッシャーのことはまだ皆には告げていない。さすがに信じてもらえないと思うしな。


 で、ジャックだ。

 こいつは『君のことならなんでもわかっているさ。友達だからね』という顔をして俺を見つめている。魔王軍との戦いの前にたった一晩酒を飲んだだけで、なにを言っているんだ……。


「ひょっとしてお前、友達がいないのか?」

「え!?」


 ジャックは意外そうにこちらを見ると、わざとらしく咳ばらいをした。


「まあ、一応僕は王族で、特別な教育を受けて育ったからね。同年代で仲良くしてくれる人はほとんどいなかった。いつも兄の後ろを追いかけていたよ。それがなにか? 別に君が初めての友人ってわけじゃない。これまでにも友人はいたよ。鳥とか、犬とか……、ま、まあ、人間としての友達は君が初めてかもしれないけど」

「そ、そうかあ」

「あれ、待ってよ、どうして一歩離れるんだい? ちょっと待ってくれ!」

「いや、あの、気にしないで。じゃあ俺これで」

「バカを言うんじゃない! 君はなにか誤解しているだろう! とても不本意な誤解をだ! いいか、僕には心に決めた人がいるんだ! マーニーさんっていう、笑顔がとても素敵な受付嬢なんだぞ! 君なんかとは比べ物にならないな!」


 それも俺なんだよなあ!!


 さすがに叫ぶわけにはいかない。俺は理性の力でその一言を口の中に押しとどめた。くっそう、すげーなマーニー。王子様に見初められてんぞ。玉の輿だな。やったな!(やけくそ)


「まあマーニーさんのことはいい……。もし君がどうしようかと迷っているのならば、僕から提案があるんだ」

「……提案?」

「ああ」


 ジャックは先ほど梯子の上から取ってきた本を開く。それはこの辺りの地図のようだった。


「イクリピアから北に行けば魔王領域だが、その間にはいくつかの村や街がある。最前線がこのロードストーン。そこから南下してゆくと、……ここに、ホットランドという町があるんだ」

「そう書いてあるな」


 ジャックは地図を指差し、語る。


「実はこのホットランドは今、領主が不在でね。先日に攻めてきた魔王三軍との戦いで、町を守って討ち死にしてしまったんだ」

「立派なやつだ」

「そう。今は代わりにイクリピアの魔法騎士団が駐屯していて治めているわけだけど、いつまでもそうするわけにはいかない。というわけで、よかったら君たちにこの町を見ていてほしいんだ。代わりの領主が決まるまでで構わない」

「……おお?」


 つまり、どういうことだ。


「冒険者をやめて、俺に領主になれっていうのか?」

「そこまでは言わない。騎士団の教育や治安維持や税の取り立てなど、領主の仕事は多岐にわたるからね。それは僕の送った事務官が行なう。君たちにはただ住んでもらうだけでいいんだ。住まいはハンニバルに用意させる。魔王三軍を返り討ちにした君がいてくれるだけで、住人たちは安心するだろう。やりたいんだったらそのまま領主を任せても構わないが……恐らく君はそういうのを面倒がるだろう?」

「ふむ」


 よくわかってんじゃないか、ジャック。

 俺は顎を撫でる。しかしホットランドか。より魔王領域に近づいてしまうわけだな。


 別にホットランドに行っても、やることは特にない。それでいて住んでいるだけでいいなら、楽ではあるな。暇だったら領主としての仕事に首を突っ込んでやってもいい。なんだか楽しそうだな。


「慎重に判断をさせてもらいたいが、まあ悪くない話だな」

「そうだろう。ちなみにホットランドという名前の由来だけど」

「ん」


 ジャックはぱらりとまた本をめくった。

 そこには一枚の絵があった。それはまさしく……。


「この町には、温泉がある」


 ……悪くない話だな。



 一応、書庫を出た後、騎士団のやつらとかにもホットランドの話を聞いてみた。すると、皆が口をそろえてあそこはいいところだと言う。温泉がたくさんあり、観光地だから村人も裕福で平和で幸福で争いがなくて親切で幸福で誰もが全身全霊に幸福を感じながら神に感謝して幸福に過ごしているのだと。

 なかなか不安になってきたのでハンニバルやランスロットにも聞いてみたが、客観的にもいい話を聞けた。確かに雪国だけあって不便だが、それでも悪いところではないと。


 俺は珍しくその日のうちに、ジャックに返事を済ませた。


 急いでいる理由があったわけじゃないが、イクリピアに三か月もいたのだ。もうこれ以上慎重になる必要はないだろう。


 俺自身気づいていなかったが……、どうにも俺がホープタウンに帰りたくなかったのは、魔王領域から離れてしまうことが原因だったようだ。

 せっかくここまでやってきたのだ。どうせなら魔王とやらの姿も見てみたい。これは俺が慎重だからだとか、俺が冷静だからとか、そういうのとは関係ない。ちゃんとした理由がある。


 オンリー・キングダムの舞台はファンタジー世界だった。そこには魔王がいて、勇者がいて、エルフがいてドワーフがいて、それに様々なモンスターがいた。

 数ある多くのカードゲームの中からオンキンを選んだのは、それが世界でもっとも流行っていたから、というだけではない。

 俺がファンタジーを好きだったからだ。


 だったらファンタジー好きとして、魔王がいるんだったらそこから逃げてしまうのは、少し惜しい。一度ぐらい見てみたい。なんだったらフィニッシャーを完成させてから魔王に会いにいって、魔王を脅したりビビらせたりしてみたい。コケにしてさんざんおちょくって帰ってきたい。とても楽しそうだ。


 というわけで胸の中でもやもやしていたものの正体がわかった俺は、その日のうちにジャックに返事を出したというわけだ。


 なんだか心の中は晴れ晴れとしていた。

 うむ、これでこそ俺だな。


『慎重』と『優柔不断』は違う。俺は慎重だが、優柔不断ではない。ビビリでも臆病でもない。やるときはやるのさ。



 というわけで、宿に帰った俺を待っていたのは、キキレアだった。

 部屋に帰るなり、赤髪ツインテールの娘は俺に指を突きつけて、こう言った。


「マサムネ……、きょう限り、あんたのパーティーを抜けさせてもらうわ!」

「はあ」


 部屋にはミエリもナルもいた。

 どちらも神妙な顔をして、こちらをうなずいている。

 なんだなんだ急に。藪から棒に。


「私はね、世界に私の名前を轟かせたいの。そのために、あんたとグズグズしている暇はないのよ。だからね、あんたのパーティーを抜けて、私はダンジョンに向かうわ!」

「ほう」


 キキレアが紙を突きつけてきた。

 うん、ダンジョン攻略のクエストだ。場所はこのイクリピアの近くらしい。なるほど。


「いい? 私はひとりでもこのダンジョンに向かうわ。あんたなんていなくたって大丈夫よ、何か月かかったって攻略してみせるわ。あんたがずっとこの宿でウダウダしている間に、私はもっともっと先へ行くからね! 悔しいでしょう? でもそれがあんたの選んだ道なんでしょ!」

「そうか、がんばれキキレア」


 俺はキキレアの肩をぽんと叩く。

 こいつはなぜか口の端を吊り上げて、まるで『予想通りだ』とでも言いたげな顔で笑う。


「いいわよ! あんたなんかこの宿で一生ゴロ寝していればいいでしょう。ふふふ、他のパーティー連中と仲良くなって、さらに強くなった私が帰ってきたときに『あら、マサムネ? あまりにも戦闘力が低すぎて眼中になかったわ、ごめんあそばせ』とか言ってあげるんだから。悔しいでしょう? さぞかし悔しいでしょう? 私にゴミを見るような目で見下ろされるのよ。ふふふっ。その日を楽しみにしていなさいよ、マサムネ」

「それはいいとして、なあナル、ミエリ」


 俺はふたりに声をかけた。


「明日、ホットランドに向かうぞ。ここから馬車で一週間かかるらしいから、身支度は明日の朝のうちに済ませよう」

「え?」


 キキレアが目を丸くして振り返ってきた。先ほどの自信満々の態度とは大違いだ。

 俺はナルとミエリにきょうあったことを説明する。すると彼女たちは嬉しそうに手を挙げた。


「はーい! やったー! あたし温泉って初めて! 楽しそうー!」

「わぁい温泉、ミエリ温泉好きー!」

「え、ちょ、あんたたち、まっ――え゛っ!?」


 俺は改めて、キキレアの肩をぽんと叩く。

 別れは惜しいが、仕方ない。キキレアはもともと野心溢れる女だったしな。いつかはこう言い出すんじゃないかって覚悟はしていた。


「というわけだ。キキレア、お前はお前の道をがんばってくれ。俺たちは温泉に行ってくるから」

「――っ」


 キキレアの顔が真っ赤になった。

 俺を突き飛ばして、外へと駆けてゆく。


「――こんなはずじゃなかったのにマサムネのばかあああああああああああああああああああ!」


 誰がバカだ、誰が。




 こうして俺たちのパーティーから、ジャックとキキレアが離脱した。


 今までずっと戦いを共にしてきた戦友との別れは、少し切ないな。

 でも仕方ない。皆が皆の人生を生きているんだ。強制なんてできないさ。


 生きてさえいれば、いつかはまた、どこかで会えるだろう。

 だから――ジャック、キキレア、お前たちはそれぞれの道を進み、立派になるんだぞ。


 俺もぬくぬく温泉に浸かって、がんばるからさ!


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