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第29話 「か、勘違いするなよ」

 俺は冒険者ギルド近くのいつもの空き地にて、二枚のカードを掲げていた。

 片方はユズハに快く譲ってもらった【ゴーレム】のカード。


 魔王を倒すという目的のために、ユズハは俺に貴重なクリーチャーカードを託してくれたのだ。

 今思えば、あいつはなんて健気なやつだったんだろう。

 別れ際もわんわんと泣いていたしな。


 まあ、そのゴーレム。体長2メートルと50センチぐらいのストーンゴーレムを召喚することができる。

 なかなかコストが重いカードではあるが、しかし俺はさらにこれにカードをプラスする。


 そう、【ダブル】だ。

 無限の可能性のひとつを試そうじゃないか。


「オンリーカード・オープン――」


 俺の声は世界を変革し、このカードは奇跡を起こす。

 全身から魔力が抜け出てゆく――が、まだまだ耐えられる。


 さあ来い、俺のしもべよ。


「【ゴーレム&マシェーラ】!」


 次の瞬間、土中から起き上がるようにして現れたゴーレム。

 その頭部は――フサフサの髪を生やしていた。


 武骨なゴーレム。岩でできたこの無機物は今――。

 シャンプーのCMに出てくる美女のように、綺麗な黒髪を生やしていた。


 サラサラだ。

 近くにいると、いい匂いがする。

 これがマシェーラゴーレム。

 うん。


 すごい。

 すんごい。


「……すんごい、どうでもいいな」


 俺はわずかにけだるい頭に手を当て、ゴーレムを帰還させた。

 これが役に立つことは生涯ないだろう。




 というわけで、好奇心を満足させて今日の仕事を終えた俺は、うまいジュースを飲みに冒険者ギルドにやってきていた。

 やれやれ、MPを使ったあとの一杯は最高だな。


 俺はせわしなくギルドを出入りする新人たちを眺める。

 最近は新しくやってくる奴らが増えたなー。


「冒険者になりたがるやつが増えているんだろうな」


 ゴルムだ。

 五厘刈りのゴツいオッサンは、俺の前の席に座る。


 俺は頬をかいた。


「需要が高まっているのかもしれないな」

「じゅよう?」

「ああ、あちこちでモンスターが活発化しているとか、モンスターの数が増えているとかで、『これは儲かる!』と思ってやってきているのかもしれないな」


 そう思いながら、受付のババア相手にビビっている新米冒険者を眺める。

 ゴルムがグラスを掲げながら怒鳴った。


「へへ! 腰抜けが来やがって! 冒険者ギルドはそんなに甘くねえぞ!」

「おいおい、ゴルム」


 柄が悪いなこいつ。

 俺がたしなめると、ゴルムは首を振った。


「これぐらいで尻込みするようなやつには冒険者は向いていねえよ。遅かれ早かれ死んじまうのが落ちだ。だったらここで振り落としてやるのが、先輩冒険者の優しさってやつだろ? 必要悪ってもんだ」

「ほう」


 なるほど、一理あるな。

 意味なく喧嘩を吹っかけているわけじゃないんだな。


「たまにやり返されることもあるけどな。でもそれぐらい腕の立つ冒険者が入ってきてくれるってことは、嬉しいもんさ」

「ふうむ……」


 色々と考えていたんだな。

 そうか、じゃあ俺もやってみるか。


 仕事終わりか、くたびれた顔でやってきた新米冒険者ふたりがテーブルにつく。

 よし、あいつらにしよう。


 その片割れがミルクを注文したそのとき、俺はにやりと笑って彼らを罵倒した。


「おいおい、冒険者ギルドでミルクなんて頼んでいやがるぜ。ダッセぇやつらだな。ガキどもはおうちに帰ってママのおっぱいでもしゃぶってろ!」


 その直後だ。


 新米冒険者のひとりが愕然とした顔をして、立ち上がった。

 もうひとりも青い顔でこちらを見つめている。


 ……様子がおかしい。


「ひ、ひい……すみませんでした!」

「やべえ、マサムネさんに目をつけられた……もうおしまいだ……うわあああああああ!」


 え?


 彼らは恐慌をきたしたように、ダッシュで逃げてゆく。

 遅れてミルクを持ってきたエマが、ぽかーんとその後姿を見つめていた。

 いくらなんでもビビりすぎだろうが。


「根性のねえやつらだな」


 と俺が呟いた途端、ゴルムが俺の肩に手を置いた。

 彼はゆっくりと首を振る。


「今のはダメだろ、マサムネ……」

「なんでだ!?」


 呆れた顔でエマが俺たちのテーブルにミルクを置いた。


「あんたみたいなのに凄まれたら、誰だって逃げ出すに決まっているすよ……」

「冒険者ギルドに入ったらラスボスがいた、ってレベルだしな……」

「!?」


 なんだこいつら、なにいっているんだ。

 ゴルムの真似をしただけなのに……。


「しょうがないからちゃんとあんたたちが飲んでくださいすよ。特別にチップはまけてあげまっすから」


 こうして俺たちのテーブルにミルクが置かれた。


「おっ、あいつら冒険者ギルドでミルク頼んでやがるぞ!」

「ぎゃはははは! おうちに帰ってママのおっぱいでも吸ってな!」


 顔見知りのベテラン冒険者たちが挨拶のように俺たちをからかってくる。

 俺は憮然とした顔で、ミルクに口をつける。

 なに頼んでもいいだろうが。ちくしょうが。


 ミルクは新鮮で、うまかった。




 そんな和やかな日々を過ごしている最中。

 夜の道を、泊まっている宿へと歩いていると、だしぬけに頭の中に声が響いた。


『マサムネよ――。マサムネ――』


 ……ん。

 それは、カードを入手するときに俺の頭の中に響く、あの声だった。


 辺りを見回すが、人の姿はない。

 どこで見ていやがるんだ。


『聞こえておりますね、マサムネ――。マサムネ――』


 いや、聞こえているけれど……。


 なんだよ、こっちから何度聞いても返事をしなかったくせに。

 俺はそういう自分を対等に見ない人間と、取引をしないようにしているんだ。


『この世界には、今、危機が迫っております――。マサムネ――』


 いや、それもう知っているし。

 そのために俺がやってきたんだろう。


 このバインダの力を使って、闇を祓うためにな。

 闇を祓うために……。


『あなたはもうこの世界に来て、三か月が経ちましたね――。最初は確かに順調でした――』


 ああ、そうだ。

 俺はここにやってきて一か月足らずで、七羅将のひとりギルドラドンを退治した。

 実に見事な戦果だったと、自らをほめたたえてしまいたくなるほどだ。


『ですが、そこからの生活は、目に余るものです――』


 いやいやちょっと待て。

 よく考えてみてくれよ、そんなことないだろ?


 ギルドラドンの弟のエディーも倒したし。

 それに、ホープタウンの冒険者ギルドも存続させた。


 あとはそう、キキレアの暴走を止めてやったし……。

 突っかかってきたユズハを、コテンパンにして、カードも奪ってやった……。


『……』


 いや、待って、なんか言えよ。

 ほら、俺って人生スロースターターだしね?


『やる気に満ちていたかつてのあなたの面影は、もはやありません……』


 最初もそんなにやる気があったわけじゃないけど……。

 ほら、判断材料的に言えば、俺はまだまだこの世界にいるべきだって、そう判断しているんだよ。


 そうだ、何事も衝動的にはいけないよな、うん。


『思い出したかのように……』


 まあまあ。これからだよ、これから。

 フィニッシャーだって着々と揃っているんだ。今に見ててくれ、謎の声。


 俺はてくてくと夜の道を歩きながら、肩を竦める。

 口を開いて、返した。


「だいたいな、今まで放置していたくせに、俺がサボり出した途端に叱咤しに来るって言うのは、なんかちょっとずるいぞ。それだったらもうちょっと導いてくれててもよかったじゃないか。あんなポンコツ女神とふたりで落とされてさ、こっちだって苦労してたんだよ」


 その言葉には、返事がなかった。

 代わりに――。


『危機が迫っているのです――』

「それはさっき聞いた」

『もう一刻の猶予もありません――。旅立つのです、マサムネ――』

「そう言われてもなあ……」


 俺が首を傾げると、声が遠ざかってゆく気配がした。

 そして、それきりだ。


 危機が迫っていて、猶予がないって言われてもねえ。

 俺は夜道を歩きながら、空を見上げた。


 夜空には、満天の星が輝いている。

 その一粒一粒が大きく、とても現代日本ではお目にかかれないような、美しい景色だ。


 こんな世界に危機が迫っているだなんて言われても。

 俺にはまるで実感がなかった。

 少なくとも、ホープタウンは尋常ではないほどに平和だったから。



 その翌日、ジャックが「イクリピアに向かう」と言い出した。

 いつになく真剣な顔であった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「帝都イクリピアに行く?」

「ああ」


 昼前の冒険者ギルドはざわざわと賑わっている。

 俺たちのテーブルには、久しぶりにパーティーメンバーが全員集合していた。

 すなわち、俺、キキレア、ナル、ミエリ、そして立って皆を見回しているジャックだ。


「帝都イクリピアから全国各地のギルドに救援依頼が出ているんだものね」

「なんだそれ?」


 尋ねると、キキレアに白い目を向けられた。


「あんた、毎日冒険者ギルドでだらだらしているくせに、なんで知らないのよ。毎日なにしてんの?」

「後進の育成だな。昨日はミルクを頼んだ新米冒険者に『おうちに帰ってママのおっぱいでもしゃぶってな』ってアドバイスしていたよ」

「あんたどこまでゲスになってんの!?」


 耳元で叫ばれて、俺は顔をしかめた。

 心外だな、キキレア。これも優しさだってのに……。


「救援依頼ってことは、七転八倒、孤立無援のピンチになっちゃっているってことだよね?」

「そうなんだよ、ナルルースくん」


 ジャックが偉そうにうなずく。


「イクリピアがここまでの危機に陥るということは、これまでの歴史上類を見ない事態だ。魔王軍は集中攻撃を仕掛けて、イクリピアを攻め落とす気だ」


 なるほど。

 喧騒に耳を傾ければ、皆、イクリピアに向かうかどうかと議論をしているようだ。


「しかし、ホープタウンがピンチになっても助けに来なかったのに、イクリピアの救助依頼は世界各地に発信されるんだな」

「当然だよ」「当然でしょ」


 ジャックとキキレアが同時に口を開いた。

 熱のこもった口調で、ジャックが語り出す。


「イクリピアは全世界の人間の中心だよ。あそこが落とされたら、魔王軍に立ち向かうことは本当に難しいことになるだろう。これまでは数々の防衛地点で魔王軍を防いで、イクリピアには決して侵入を許さなかったのに」

「魔王軍も本気になったってことか」

「七羅将が三人同時に仕掛けてきているらしいわ。勝負をかけてきているんでしょうね」

「なるほど」


 昨夜、俺に話しかけてきた謎の声の言っていた『危機』とはまさしくこのことだろう。

 もう一刻の猶予もないって言っていた。


 だが、どうも危機の重さに俺だけが鈍感になっている気がする。

 現実感がないんだ。


 ジャックとキキレアは行く気満々だろう。

 俺はちらりとナルを見た。


「ナル、お前はどうする?」

「どうって?」

「いや、イクリピアに向かうかどうか、なんだが」

「えっ、マサムネくん、行かないつもりなの?」


 逆に聞き返されてしまった。

 いや、俺は。


 腕組みをする俺を、一同はなにか言いたげな目で見ていた。


 そもそもフィニッシャーを集めれば魔王は倒せるんだ。

 だったら俺がわざわざ危険な場所に向かう必要は、なくないか?


 キキレアは俺の様子をわざと無視して、言う。


「言っちゃ悪いけど、ホープタウンはのどかなクソ田舎よ。ここからイクリピアに向かうとなると、海を越えなきゃいけないわ。出るのは早い方がいい。明日出発にしましょう」

「わかったよ」


 うなずいたのはジャックひとりだった。

 ナルは心配そうに俺を見つめている。


「……マサムネくん、いかないの?」

「いやあ」


 俺はぽりぽりと頭をかいた。

 なんだかここで決めるのは、衝動的なような気がして。


 俺は、歩いて去ってゆくジャックとキキレアの後ろ姿を眺めていた。

 未だ残っていたナルは寂しそうな顔をしている。


「あたしも、お世話になった人たちにいったん挨拶して来ないといけないから……。また、あとでね! マサムネくん!」

「……ああ」


 俺はうなずかずに手を振る。

 まったく、どうしたもんかな。


 そこでふと気づいた。

 今までずっと黙っていたままのミエリだ。


 てっきり寝ているのかと思ったのだが。

 彼女は俯いたまま、ぷるぷると拳を震わせていた。


「どうした、ミエ……ニャン太郎?」

「帝都イクリピアって……」


 ぶん、とまるで風を切るような動きでミエリは俺を見た。

 そのまま叫ぶ。


「イクリピアって、お父様の――、創造主ゼノスさまの神殿がある場所ですよ!」



 それがどういう意味を持つのかわからず聞き返した俺に。

 ミエリは一気にまくし立ててゆく。


「お父様の神殿、ゼノス神殿はありとあらゆる光の力の源泉です! それがもし破壊されることになれば、この世界は文字通り闇に包まれてしまいます! それは――この世界の、終わりですよ!」


 ミエリの叫び声は、冒険者ギルドに満ちた。

 一瞬だけしーんとした挙句、しかし冒険者ギルドは再び喧騒を取り戻す。

 ミエリがおかしなことを言うのはいつものことだからだ。

 ニャン太郎とか名乗っているしな。


 だが、あんまりにもここで騒がれても困る。

 俺はミエリを引っ張って冒険者ギルドの外に出た。


「あんなところで叫び出すなよ」

「だって、だって!」


 ミエリはふるふると首を振る。

 その目には、いっぱいに涙がたまっていた。


「お父様の神殿が壊されちゃったら、わたしたちもう、試練が失敗になってしまいますし、この世界も大変なことになっちゃいますし……」

「ふむ」

「マサムネさんはいつだって冷静ですね! もう! 血も涙もないんですから! マサムネさんの冷血動物!」

「そう言われてもなあ」


 自分が行ってどうなるものか、というのもある。

 大変な戦争が繰り広げられているって言うじゃないか。

 

 それなのに、俺ひとり加わったところで、なあ……。


「もう、マサムネさんのばか! それだったらわたしもいっちゃいますよ! みんなといっちゃいますからね! マサムネさんひとりっきりですよ!」

「ひとりきり、か」


 顎を撫で、俺は斜め上を見つめる。

 のんびりと雲が流れていた。

 いい天気だ。


「なんかそれはそれで、せいせいするな」

「マサムネさんのばかあああああああああああああああああ!」


 ミエリは泣きながら走ってゆく。

 俺はぽりぽりと首の裏をかいて、それを見届けた。


 ……ったく。

 危ないことは、したくないんだよな。


 ずっと俺はそうだったじゃねえか。

 この世界に転移してきたときだって、あの岩場にずっと隠れていられたらよかったんだよな。


 それが、まったく。


 どうしてこうなっちまったんだか。

 俺は再び空を見上げた。


 さっきまでのんびりしていると思っていた白い雲は、どこかに消えていた。

 青空はしかし、先ほどまでとは違う、寂しげなブルーを映し出していた。




 俺はまっすぐ宿には帰らず、辺りを散歩していた。

 商業区の入口である、屋台が並んでいる通りに足を踏み入れた時。

 俺の前に、見慣れた爺さんが現れた。


 仮面をつけた大柄な爺さん。

 ハンニバルが、恭しく腰を折り、じっと俺の目を見た。


「本日はお迎えに上がりました。マサムネさま」

「イクリピアにか」

「ええ」

「俺は」


 いかない、と答えかけて。

 しかし、そう口に出すことに抵抗感のある自分に気づく。


「迷っていらっしゃるんですね?」

「……どうかな」

「わかります。本日はあなたの背中を押そうと思ってやって参りました」

「……ふん」


 俺は改めて爺さんを見返した。

 爺さんの瞳には、意思の輝きがある。

 なんとなく俺は負けそうな気がした。


「彼らのパーティーメンバーをもっともうまく使えるのは、マサムネさま。あなたでしょう? それなのにあなたがいかなければ、彼らはイクリピアで戦死してしまうかもしれません」

「……それは」


 俺はすぐに目を逸らした。

 考えていたことだ。

 あいつらは揃いも揃って馬鹿どもである。

 もう本当に、なんでそんなミスをするのか、というヘマをやらかす。

 俺がいてやらなければ……と思う。

 思うのだが――。


「素直に認めるのは恥ずかしい、そういうことですな?」

「……」


 俺は舌打ちした。


 そんなわけがないだろう、と言いたかったのだが。

 この爺さんには、なにもかも見透かされている気がする。

 かもしれない。

 こんな俺が世界平和のために旅に出る!なんて言い出すのは、少し気恥ずかしかったのだ。


 そこでハンニバルは片手を上げた。

 持っているものは、鍵だ。


「実は、あの家を売り払おうと思っておりましてな」

「はあ?」


 だしぬけに、なにを言い出しているんだ。


 あの豪邸を売るってか。

 好きにすればいいだろう、金持ちの事情なんて知るかよ。


 爺さんはニコニコと笑っている。


「ジャック様がイクリピアにおかえりになられるのなら、もう必要ありませんのでな」

「おかえりって……あいつ、もともと帝都の育ちなのか」

「ふふ、というわけで、この鍵と豪邸の権利書ですが」


 ハンニバルは俺をじっと見つめている。

 なぜだろうか、蜘蛛の巣に絡め取られたような気がした。


 爺さんはとんでもないことを言い出したのだ。


「もしあなたがジャック様のお力になってくれるというのなら、すべてが終わった暁に、お譲りいたしましょう――」


 あの豪邸を丸ごと?

 マジで。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 朝早く。ホープタウンの門の前に、四人がいた。

 ジャック、キキレア、ナル、そしてミエリだ。


 一同は旅支度を済ませ、鞄を背負っていた。

 誰かを探しているように、ナルはそわそわしている。


 キキレアはため息をつく。


「あきらめなさいよ、ナル。あいつは見た目通り根性のない男だったのよ」

「でもー……」


 ナルは泣きそうな顔だ。

 しかし叱咤するキキレアも、どことなく覇気がない。


 馬車の用意が整ったとジャックが皆に告げる。

 そのときだ。


 ミエリが彼方を見つめて、「あっ!」と声をあげた。

 つられたように、一同もその先を見る。


 そこからは憮然とした顔でこちらに歩いてくるマサムネがいた。

 彼もまた、大したことのない量だが、荷物を抱えている。


 視線を集めながら、目を逸らす彼は、小さくつぶやいた。


「べ、別に、お前らのために一緒に行くわけじゃない。か、勘違いするなよ。すべては金のためだからな」


 その言葉は紛れもない事実であったのだが――。


「マサムネくん、信じてたよ!」

「わっ、な、ナル!」

「そうですとも! マサムネさんは一緒に来てくれるって思ってましたとも! なんだかんだで最後にはお優しいんですからもう! もう! キリッ」

「ち、ちげえっつっているだろう!」


 怒鳴るマサムネの肩にぽんと手を置くジャック。


「わかっているとも。キミは確かに屑だが屑の中の屑ではなく、どちらかというと屑界でもちゃんちゃらおかしい、仲間を大切にする系の屑。屑界の風上にもおけないね。そんな屑のキミがきてくれて、僕は嬉しいよ」

「ぶっ飛ばすぞてめえ」

「なんでもいいけど、さっさといきましょ。道のりは長いんだから」

「ああ」


 普段通りにしていたキキレアも、ほんの少しだけ口元がにまにまとしていた。



 こうして一同は旅立つ。

 北の海を越え、遠く帝都イクリピアへと。


 その先になにが待つのか。

 それはまだ、誰もわからなかった――。


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