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第23話 「風と共に去りぬ」

 暗闇の中、俺の目が光る。

 実際に光っているわけじゃない。比喩だ。


 壁に飾られた丸いボードをめがけて、俺は腕を振り下ろす。

 その指から放たれるのは、一本の矢――。


 ――そして、矢は見事、中心点に突き刺さった。


 次の瞬間、辺りから喝采が起きる。


「すげえ!」

「マサムネ! お前にこんな才能があったなんて!」

「かっこいいわ!」


 フッ。

 俺は口元を緩め、そして髪をかきあげた。


「――ダブルアウト。こいつが俺の決定打フィニッシャーだ」


 その日俺は、冒険者ギルドダーツ大会で優勝した。




 もともとそんな能力があったわけではない。

 そう、俺のカードの【ロックオン】の技能だ。


 これは撃つもの投げるものなら、大体に効果があるらしい。

 すごい能力だな。ありがとうギルドラドン。


 準決勝で当たったジャックを下し、そして決勝戦。

 ダーツの王と呼ばれる大柄な冒険者と俺は対峙した。

 屈強な傭兵のように、顔に傷が走った威圧感のある男だ。


 なんでもこいつ、一日中ずっとダーツの練習ばかりしていて、一年に二度のこのダーツ大会を心待ちにしているらしい。

 この大会を14連覇しているつわものだ。


 ……冒険者なんだよな。

 なんで冒険してないんだろう……。


 ものすごい偉そうなラスボスみたいな顔をしているくせに、ランクはEらしい。

 まあその、そいつは俺の前で泣き崩れていた。


「うおおおおおおあああああああああああああ! 俺のダーツに懸けた人生があああああああああああああああああ!」


 すごく悪いことをした気がする……。


 いや、まあ、うん。

 敗者にかける言葉などは、ない。


 トロフィーを受け取り、テーブルにつく。

 するとそこにナルとキキレアがやってきた。


「すごかったね、マサムネくん! あたし見とれちゃった!」

「そうか?」

「うん、なんだか立ち振る舞いが大会慣れしているっていうか! あたしもあとちょっとで決勝戦だったんだけどなあ! ほんともうちょっと! あと4回勝ち上がれば……!」

「お前はその馬鹿力で割ったダーツボードをちゃんと弁償しろよ」

「うううううう」


 ナルの投げたダーツは俺の足元に突き刺さったり、ジャックの顔の横に突き刺さったり、散々だった。

 こいつのノーコンは竜穿に限らず、遺憾なく発揮されるらしい。

 結局、叩きつけるようにして投げた矢で、ボードが真っ二つになったしな。

 当然のように一回戦敗退だ。


 一方、キキレアは大会自体に参加していなかった。

 先ほどから手持ち無沙汰に、きゅうりっぽい野菜をかじっている。


「あのさ、マサムネ」

「ん?」


 俺が顔を向けると、こいつは目を逸らした。

 いつになく暗い顔だ。


「どうした、よほど妬ましいことがあったのか? 自分の頼んだジュースより隣の客の頼んだジュースの方が二ミリ多かった、とか」

「別にそんなの気にしないわよ……。どんだけ生きにくい人生なのよ」


 なぜかジト目を向けられる。


「で、ちょっと話があるんだけど……」

「いいぞ」


 俺が腰を据えていると、キキレアは眉根を寄せた。


「……ちょっと、外に出ない?」

「えっ、ちょっ、えっ」


 その言葉に、なぜだか隣にいるナルが慌てたように頬を染めた。

 無駄に絶世の美少女然としたエルフは、その耳をぴこぴこと揺らしながら顔を近づけてくる。


「き、キティーちゃん、そ、そうなの!? ついに、そうなの!? そういうことなの!? そういう気分になっちゃったの!?」

「ちっ、ちがうわよ!」


 いったいなにを話しているんだ、こいつらは。

 顔を突き合わせて、楽しそうだな。


 キキレアの顔も赤く染まってゆく。


「そ、そういうんじゃなくて!」

「じゃあどういうことなの!?」

「うっさいわね!」


 そういえばキキレアはナルとは仲良いよな。

 なんかむやみやたらと妬ましがったりしないし。


 そうか、ナルぐらい残念な相手だと、誰もがかわいそうものを見るような気分になってくるんだな……。

 キキレアの闇の力を相殺してしまうほどに強いアホの力か。


 ナルルース、おそるべし。


「おいマサムネ、優勝者なんだからこっち来てなんか適当に挨拶してくれよ」

「ああー?」


 そこで顔見知りの冒険者からぐいと腕を引かれた。

 キキレアはしっしっとこちらに手を振っている。


「いいわよ、もう、行きなさいよ」

「……ん、だけど話があるんじゃ」

「そうだよキティーちゃん! 勇気出して! 大丈夫だよ! ね、がんばろ!  きっとうまくいくよ! ファイトう!」

「うっさいわね! なんにもないわよ!」


 顔を真っ赤にして怒鳴るキキレア。

 おかしなやつだな……。


 俺は冒険者に手を引かれて、盛り上がっている卓へと向かう。

 ――そこでしばらく話をした後に戻ってくると、キキレアはいなかった。



 ナルがべたーっとテーブルに倒れ込んだまま、眠っている。

 さては慣れない酒でも飲んだのか。


「むにゃ、むにゃあ……マサムネくん、だいすきぃ……」

「いや、おまえ……」


 その幸せそうな寝言に、思わず顔が赤くなった。

 こ、こいつ、人前でなんてこと言ってんだよ。

 俺は思わず辺りを見回してしまう。

 誰もいなかったからよかったものの……。


「むにゃぁ……。えへへ、あたるあたるー、矢があたるー……」

「それ夢だぞ、ナル。勘違いするなよ。お前の矢はまったく当たらない。金輪際当たらないし、未来永劫これからも当たることはないだろう」

「うう……あたらない、あたらないよぉ……むにゃむにゃ……マサムネくぅん……、やがあたらないんだよぉ……」


 うなされるナルを見下ろして、俺はうなずいた。

 しかし、キキレアの話ってなんだったんだろうな。




 夕暮れ時になって、トロフィーを抱えながら帰路につく俺は、顎に手を当てていた。

 ううむ。


 なんだろう。

 最近、なにか忘れている気がする。


 頭の片隅に引っかかっていて、なかなか思い出せない。

 いったいなにを忘れているんだろう。


 金はある。

 ジャックにもらった金貨がこれからの当面の生活費だ。

 よって、あと一か月は働かずに生きていけるだろう。

 ……一か月?


 そういえば、前にジャックがジャスティス仮面として事件を起こしたのも、ちょうど一か月前ぐらいだったか。

 別に特に感慨はないけどな。


 そんな折、ひとつの光景を見た。

 居住区の一軒家。

 平和そうな家族だんらんの光景だ。


「にゃーん」

「こらこら、ニャン太郎。もう、食いしん坊だなあ」

「にゃにゃんー」


 その庭では、ゴロゴロとノドを鳴らして、少女にすり寄る白い猫が見えた。

 ああ、いいな。


 猫はいい。

 あれはとても可愛いものだ。


 しかし、毛並みの美しい猫だな。

 あんな猫、俺も飼っていた。


 あ、今なんか思い出しかけた。

 いや、気のせいか……?


 ううむ、喉まで出かかっているのだが。


 ニャン太郎と呼ばれた猫は、先ほどから餌を食らっては、少女に撫でられてご満悦の様子だ。

 この世の怠惰を満喫しているような顔である。


 だが、こいつ……。いや、待てよ。


「に゛ゃあー」


 俺の知っている白猫は、こんな丸々と太ったデブじゃないな。

 あんなふてぶてしい顔もしていない。


 そうだな、別の猫か。

 俺はその場を立ち去った。


 ――その夜のことだった。



 深夜、俺はふと目を覚ます。

 人の気配を感じたのだ。


 ふむ……。

 また懲りずに泥棒が入ってきたか。


 俺は静かに手の中にバインダを呼び出すと、――ゆっくりとベッドの下から這い出した。

 この俺の用心深さを甘く見たな。

 いいぜ、俺の金貨を奪おうというやつは、今度こそ粉みじんにしてやる。


 ライトクロスボウは手に届く距離にある。

 ロックオンがあっても闇の中では外すからな。まずはピッカラか。


 と俺がその暗闇の中でうごめく影を見ると。

 ――そいつの肌はほんのりと輝いていた。


 ……ん。


 見たことがある。

 ずっしりとした重量感で迫ってくるこの女は――。


「マサムネさぁん……。ううっ、ぐすっ、ぐすっ……」


 いや……。

 やっぱり間違いだ。

 見たことがないよ、こんなデブは。



 いや、お空には満月が輝いている。

 そうか、ミエリだ。

 光の力を取り戻し、人間の姿になったんだな。


 一か月ぶりだな。


「どうしたんだミエリ。そんな、その、豊満な肉体になって。衣からお肉がはみ出ているぞ。それにしてもどうしたんだ? お相撲部屋に入門か?」

「うううううううううううううううううう」


 ミエリは下唇を噛んで地団駄を踏む。


「やめろやめろ、床が抜けたらどうするんだ!」

「うわああああああああああああああああああん!」


 俺の適切な指摘に、ミエリは再び泣き出した。

 彼女はぐすぐすと鼻をすすりながら、俺につぶやく。


「最近、ずーっとごろごろとしていたんです……。ずーっと、ずーっと、ご飯食べてごろごろして、お昼寝してごろごろして、なでなでされてごろごろして……。割と天国な生活だったんです……」

「お、おう、楽しそうだなお前」


 そうか、そういえばずっとこいつの顔を見なかったな……。


 具体的なことを言えば、ハンニバル爺さんの【フィニッシャー】を見て以来、まったく顔を見なかったな。

 つうかこの女神、俺が汗水流して働きまわっていた最中、ずっとあんな幸せそうなおうちの飼い猫になって、だらだらしていたのか。

 許せねえ……。


 俺はミエリの腹に手を伸ばす。


「急にむちむちしやがって、この野郎」

「ふぇっ!?」


 腹の肉をつまむと、ミエリの顔が暗闇でもわかるほどに赤く染まってゆく。

 しかし、なかなかにボリュームあるな。


「なんだこれは、ああ? お前の怠惰の塊だぞ。くっそう、こんなにエネルギー蓄えやがって」

「ちょ、あの、ええっ、だ、だめえ」


 ふるふると体を震わせるミエリ。

 そのたびに、たっぷりと肉の詰まった二の腕やふとももが揺れる。

 なんだか触ると気持ちよさそうだ。

 そう思ってつついてみると、やはりちょうどいい感触が跳ね返ってきた。


 うむ、癖になる。


「あううううあうううううう」


 ミエリは目を伏せたまま、ひたすらに恥ずかしそうにしている。

 さすがにそこからは、いつものような傲岸不遜な態度はなく。


 俺にされるがままのミエリは身じろぎしながら腰をくねらせていて……。

 というか、あれ……。


「や、やぁ……もぅ、マサムネさぁん……、ああぁん……」


 もちもちとした肉に指を這わせていたら……。

 なんか、これ、あれ……。


 涙の残りあとがある潤んだ瞳でこちらを見つめてくるミエリ。

 これって、その、あれじゃない?

 いやらしいっていうか、セクシーっていうか……。

 ぽってりとしたそのむちむち感が、逆にありだな、っていうか。


 ……かわいい、ていうか……。


 ――いかん!


「このデブがあ!」

「ふにゃあ!?」


 俺がぱんと腹を叩くと、ミエリは顔を真っ赤にしておなかを押さえる。


「な、なんですかマサムネさん! いくらなんでも急に叩くとか、失礼極まりなくないですか!?」

「うるせえ! 今俺は自分の理性と戦っていたんだ! 人間の尊厳を取り戻すために必要だったんだよ!」

「意味わかりませんし……!」


 俺は自らの胸に手を当てて、動悸を押さえる。

 むっちりとしたミエリは、ソファーに座り、こちらを上目遣いに眺めてきた。


「久々の満月で人の姿に戻れたら、こんな感じになっちゃったんですよお」

「猫のときに贅沢しすぎたからだな」

「うう、否定はできません……」


 ミエリは頭を抱えていた。

 この角度だと、衣の間から胸の谷間が見えてしまう。

 俺は舌打ちしながら目を逸らした。


「くそ、ミエリのくせに……」

「どうしましょう、マサムネさん……。わたしまた一か月猫に戻ったら、今度人間の姿になるのが、すごく怖いんですけど……」

「じゃあ節制しろ」

「えー」


 えー、じゃねえよ。


 しかしこいつ、女神のくせに匂いがひどかったり。デブったり。

 本当に女神なのか。ただの頭の足りない女じゃないのか。


「女神だったら、肉体のコントロールぐらいできるだろ。それで痩せりゃあいいじゃねえか」

「なに言っているんですかマサムネさん。ファンタジーやメルヘンじゃないんですから、そんな指先ひとつで体型を変えられたりするわけないじゃないですか。頭大丈夫ですか? あーあー聞こえますか聞こえますかー? ちゃんと現実と向き合ってくださいよねー」

「そのてめえは魔力を失って猫になっているじゃねえかああああああ!」

「あっ痛い痛い痛い! 久々のヘッドロック凄い痛い! やだ痛い! そこお肉ついてませんし!」


 やはりミエリはミエリだ。

 なんだかこのやり取りも久しぶりだな。

 懐かしく思う。

 もうこの世界に来て、二か月ちょいか。


「痛い痛い痛い痛い、あっ、今回長い! 長い! なんか浸ってません!? ちょっと! 手を放してからにしましょうよ! 痛い痛い!」


 近所迷惑になるから、この辺りでやめた。



 ぜえぜえと荒い息をついてその場にぺたんと座るミエリ。

 俺は腰に手を当てたまま、見下ろす。


「まあ、地道に走ったり、汗をかいたり、食事制限をしたりするしかないだろ。猫の体なら別に困りはしないだろうが……」


 今のこのミエリを見て、信者たちはどう思うんだろうな。

 ……キキレアに見せたら、殺されるかもしれないな。


「お前、その姿のままなら世間の魔法使いたちも、雷魔法を使えるんだよな」

「えっ、は、はい、そうですね!」


 バツが悪そうな顔をして、目を逸らすミエリ。

 まあ、合わせる顔はないよな。


「月の明かりが消えるまでの時間、か」

「……そう、ですね」


 ミエリはしょんぼりとしている。


「本当は、早く人間の姿になって、マサムネさんと一緒に魔王を退治しに行きたいんですけど……でも、転移の魔法が予想以上に力を使っちゃって……」

「……ん、まあな」


 女神ミエリは魔王領域で光の力を使い切り、猫の姿になった。

 それはこの世界に降りた俺を助けるための行ないだ。

 だから正直、俺はミエリにそこまで強く言うことはできない。


「しかしそういえばお前、魔族にも信奉されているんだな。光の神なんじゃないのか?」

「魔法を司る神は、全部光の属性ですよー」

「……どういうことだ? じゃあ魔王領域では、一切の魔法は使えないのか?」

「いえ、わたしたち神は光の力を使っていますけれど、この世界の方々はそんな区分はあんまり関係ないはずです。神は地上では、純度の高い光の力がないと生きられないというだけで。高位の魔族は神に近い性質を持っているので逆に、魔王領域に近ければ近いほどに力が強いそうですが」

「なるほど」


 つまり、魔王領域から離れて戦いに来ることができるギルドラドンなんかは、あまり闇の力が関係ないやつなのか。

 どちらかというと、人間に近い、と。


 なんかミエリがこんなことを知っているなんて、びっくりだが。


「ま、じゃあそろそろ寝るか」

「えー!?」


 俺がそう言うと、ミエリは悲鳴を上げた。

 うるせえな。


「も、もっとおしゃべりしましょうよ! 久々に人間の姿になれたんですから! じゃないとわたし、言葉忘れちゃいますよ!? にゃ! にゃ! にゃ!」

「ええいうるさいうるさい! 俺は疲れているんだ! 寝かせろ! 大体お前がこんな深夜にやってくるのが悪い! 俺は寝ていたんだよ!」

「やーだーやーだー! マサムネさんと遊ぶのー! やーだー!」


 ミエリはベッドに倒れ込んだ俺の手を引っ張って、好きなように振り回す。

 う、うぜえ……。


「ほ、ほら、なんでも聞いていいですから! 聞きたいこと、たくさんありますよね!? この世界の秘密とか、魔王の正体とか、そういうのわたしたくさん知ってますよ!? ね、ね!? 興味津々でしょ、マサムネさん! キリッ!」

「別に……」

「別に!?」


 わなわなと震えるミエリを眺め、つぶやいた。


「俺は日々の暮らしが平和ならそれでいい……。おやすみ、ミエリ……。また一か月後に、な……」

「うわぁぁぁぁああああああああん! マサムネさんのばかああああああああああああ!」


 キンキンと騒ぐミエリを横目に、俺は眠りについたのだった。


 

 だが――翌朝。


 朝の光が差し込む中。


 目を覚ました俺が見たのは、ベッドで俺の隣にうずくまり、身を丸めているミエリの姿であった。


「……へ」


 人間の姿に戻っている。

 いや、ていうか痩せてる……。

 それに、猫耳に、尻尾がついているぞ。まだ完全には力を取り戻していないのか……?


 なんなんだこの不思議な生き物……。


「にゃぁ……」


 ミエリは暖を求めるかのように俺の近くにやってきて。

 そして、固まる俺に身をこすりつけてきた。


「ふにゃぁ……?」


 あ、こいつ寝ぼけていやがる。

 や、やめろ、ちょっとおい、待て。


「ミエリ、起きろ、起きろよ……お前、人間の姿に戻ってんぞ……! おい、おいってば!」

「にゃー……」


 ちょ、やめろ、ばか。

 ふざけんなよ、舐めて来ようとしているんじゃねえ、てめえ。

 青少年をなんだ思ってんだ、おい。


「起きろてめー!」

「痛ぁああああああああああああ!?」


 俺が撃ち落とした拳骨によって、ミエリは覚醒した。




 しかし、ミエリがこの世界に再び戻ったことによって、世界中の魔法使いは雷魔法が使えるようになるだろう。

 これは朗報だ。


 俺は真っ先にキキレアに報告しようと思っていた。

 あいつが元の力を取り戻せるんだ。


 だが。

 そうしたらきっと、あいつはもうどこかに行ってしまうだろう。


 もともとホープタウンに来たのは、冒険者としてもう一度やり直すためだ。

 だから、ここはあいつにふさわしい場所じゃない。


 キキレアと過ごした半月あまりの時間は、そう悪くはなかった。

 いろんなことがあった。


 ……まあ、いいさ。

 名残惜しいなんて、思っていない。


 あいつはここにいるべき人間じゃないんだ。


 だが――。



 準備を整えて冒険者ギルドに向かった俺は聞いた。


「キキレア・キキ? あいつなら昨日、『おお、すべての人に感謝を……』って言い残して旅に出たぞ。同じパーティーメンバーなのに、聞いてなかったのか?」

「――は?」


 なんだよそれ。

 俺は一言も聞いていないぞ。


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