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第19話 「神具を利する者たち」

 上空を飛び回る青いドラゴンの背には一匹の黒い甲冑を身に着けた男が立っていた。

 金色のたてがみを持つ、獅子のような槍使いだ。

 槍には小さな軍旗が括り付けられており、そこにある紋章は以前に見たことのあるものだった。

 すなわち、ギルドラドンの軍団の紋章だ。


 俺たちは路地に隠れていた。

 これから所定の場所に、こっそりと向かうわけだが。


 竜の背から叫び声が降り注ぐ。


「――出て来い! タンポポの神! タン・ポ・ポウ!」


 あいつは大声でなにを言っているんだ。恥ずかしくないのか?

 タンポポの神ってなんだよ、頭がおかしいのか。


「我が兄、ギルドラドンの仇討ちに参った! 出て来い! 出て来なければ、今すぐにこの町を焼き尽くすぞ! いいや焼き尽くす! もう焼き尽くすぞー!」


 なんて我慢のないやつだ。

 まあいい。


 それにしても、ギルドラドンを倒した者の話は、ずいぶんと曲解して魔王軍に伝わっているようだな。

 別にタンポポの神がギルドラドンを倒したわけじゃないんだが……。


 ま、タンポポの神をご所望か、

 なら望み通り授けよう。


 というわけで、【タンポポ】を連打して作り上げたタンポポローブ(茎を編んで作ったものだ)を、ジャックに着せたわけだが。


「うん! 任せて!」


 ジャックははつらつとした笑顔を浮かべていた。


「僕! 悪は見過ごせないからね! わーいぶっとばしてやるぞー!」

「待て、待て待て待て」


 なんだこいつ、やべえ。

 目の焦点が合ってないぞ……。


 近くにいた弓を担いだゴルムが、気まずそうにつぶやく。


「あ、あんまりにも震えるもんだからよ……。恐怖心を取り除くポーションを与えてやったんだよ……そしたら、効果があり過ぎちまって……」

「お、おう」


 瞳孔開きっぱなしのジャックは、清々しく笑う。


「はっは! まるで世界が違って見えているようだよ、マサムネ! 僕はいったいなにを怖がっていたんだろう! 今だったらなんでもできそうな気がする! 空だって飛べる気分さ!」

「わ、わかったわかった」


 俺は小声でゴルムに問う。


(大丈夫か、これ、後遺症とかないよな……?)

(恐らくは……。だが、子供がお遊戯会で使うようなおまじない程度のポーションがここまで効くやつは初めて見たぞ……)


 頭の作りが極めて単純なジャックは、にっこりと笑ってサムズアップする。


「それじゃあいってくるね! はっは! 俺はジャックー! 悪党は許さないぜー! アイアムヒーロー! アイアムナンバーワン!」


 タンポポローブに身を包んだジャックは、飛び去って行った。

 本当に空を飛んだ――というのは比喩だが、それに見まごうような速さであった。

 あれが覚醒(剤)ジャックか。

 頼もし……いや、頼もしくはないな。こええよ。


「じゃああとはジャックに任せて、俺たちは南の平原に向かうか」

「おうー」


 俺たちはぞろぞろと町の外へと向かってゆく。

 後ろから、ねじが二億本ぐらい外れた意気揚々とした声が聞こえてきた。


「――ヒーハー! 主に会いたくばまずこの我を倒すのだなあ! 我こそがタンポポの神の第一の使徒、ポ・タン・ポなりぃいいいいいいいいいいいいいいいい!」


 いねえよ、ンなやつ。




 俺たちは平原にて、【ホール】で作った穴に隠れていた。

 塹壕ってやつだな。


 隣に座るキキレアがしみじみとつぶやく。


「ほんっとに不思議ねー、あんたの力。S級冒険者の私でも、見たことがないものばかりだわ」

「そうか?」

「ええ。まるで古の魔法使い、『賢者』みたい」


 キキレアはホールでできた穴を、物珍しそうにぺたぺたと触っている。


「いったいどの神様を信奉していたら、こんな魔法を使えるの? フラメルさま? スノティランさま? それともアルキメディスさまかしら」

「内緒だ」

「まったくもう、まったく手の内を明かしてくれないんだから。でもいいわ。いつか突き止めてやるからね。ふふふ」


 キキレアは楽しそうに笑っている。

 足元では白猫がにゃあにゃあ言いながら必死に自分を指していた。


 まあそれはいいとして、すぐにドラゴンを挑発したジャックがここにやってくるだろう。

 そのために俺たちは、思い思いの武器を手にしていた。


 弓やクロスボウに鉤爪をつけて待機している面々や、魔法使いたちだ。

 総勢、30名といったところか。

 この辺りの準備の良さは、さすが冒険者といったところか。


「どうする? またあれやる? マサムネ」


 キキレアの言っているのは、ギルドラドン戦に使ったやつだろう。

 レイズアップとダブルからの、オイル&スクリューか。


「いや、あれは魔力の消耗が著しい。俺がしばらく動けなくなっちまうからな。今回はなしにしよう」

「りょーかい」


 身を伏せて、そのときを待つ。


 さすがに普段はのんきなホープタウンの連中も、このときばかりは緊張しているようだ。

 上空を抑えられているというのは、これまで以上にない危機だもんな。

 冒険者たちからもピリピリとしたムードが漂っている。


 その中で、キキレアだけがあくびを噛み殺す。


「昨夜は遅くまで『あれ』に付き合っていたから、ちょっと疲れたわ」

「別に無理して来なくてもよかったんだけど」

「あんたがなにをしでかすか、心配だったのよ」

「さいですか」


 この余裕、さすがはS級冒険者だな。

 修羅場を潜り抜けてきただけのことはある。


「頼りにしているぞ、キキレア」

「なっ、な、なに、そんなこと言われても私は実力以上のことなんてできないわよ!? な、なんなの!? 私の財産が目的なの!? 言っとくけど一文無しだからね!?」

「一声かけるだけで、めんどくせえやつだな!」


 わあわあとわめく俺たちに「来るぞ!」の声がかかった。

 そうだ、緊張感なさすぎた。


 見上げる。すると巨大な竜がこちらに滑空してきた。

 地上に衝撃波が伝わる。草原に生えている草がなぎ倒されていった。


 もちろん、その竜を引き付けてきたのはジャックだ。

 タンポポの花飾りを頭に身に着け、タンポポローブをはためかせた、紛うことなき狂人である。

「はーっはっはっは!」という笑い声が高々と響いていた。


「その程度で! この我! タンポポ十二神将のひとり、ポ・タン・ポのタンポポ無限真拳を食らってその内部から指先にかけてタンポポに侵されタンポ死するがいいはーっはっはっは!」


 設定変わってんぞおい!

 テンションで叫んでいるんじゃねえよ、大事なとこだぞ!


 あとであいつには説教しないといけないな。

 まあいい。


「うおおおー! くそがー! なんで当たらねえんだー! じっとしていやがれー!」


 竜の上で叫んでいる男は、空中から何度も魔法を叩きつけてきた。

 見たところ風魔法か。どんどんと大地が引き裂かれてゆく。

 しかしほぼ不可視のそのすべての魔法を、ジャックはいともたやすくかわしていた。


 あいつ、何気にすごいポテンシャル持っているんじゃねえか?

 ジャックの正体も謎だよな……、まあいいか。


 ジャックは岩陰など、狭いところに隠れてゆく。

 それを追って、サンダードラゴンは地表付近へと急降下してきた。

 ――よし、今だ。


 場の札をすべて攻撃表示でいくぜ。

 俺は【ライメイン】を振り上げ、叫ぶ。


「撃てえええええええ!」


 その瞬間、雷鳴のような轟音が響き渡り、サンダードラゴンですら一瞬身を竦めた。

 このカード、使えるな!


 一斉に襲い掛かる矢や攻撃魔法。

 それらは次々と翼に打ち込まれた。


 サンダードラゴンの翼に食い込んだ矢が、竜を地面に縫いつける。

 すべて作戦通りだ。


 地上に降りてきたサンダードラゴンは、ギガントより一回り小さいぐらいか。

 それでも大した質量だ。


 もがくサンダードラゴンが上昇しそうなときに、俺は【へヴィ】を使用した。

 だが、あれほどの巨体となると、ほとんど効いている気がしないな。

 それよりはこっちのほうがいいか。


「狙い撃つぜ」


 俺はクロスボウを構えて、目を細めた。


 俺がギルドラドンから入手したカードは、【フィニッシャー(七分の一)】と、【ライメイン】。そしてもう一枚。

 クロスボウを構える手が、まるで万力かなにかで固定されているように微動だにしなくなる。


 これが身体強化のカード【ロックオン】の効果だ。

 次に撃つ飛び道具の命中率が、格段に上がるらしい。

 つまり、この俺のしょうもない腕前でも――。


 風を切って飛んだクロスボウボルトは、ドラゴンのその目に突き刺さった。


 ――ビンゴだ。


「すごいやるな、マサムネ!」

「ああ、さすがはドラゴンスレイヤーだ!」

「すばらしいじゃない!」


 あちこちから歓声が飛ぶ。


 暴れ狂うドラゴンの口から、やたらめったらにあちこちにサンダーブレスが降り注ぐが、しかし塹壕の中に身を隠す俺たちには届かない。


 だが、そろそろ全身に刺さった鉤爪が抜ける頃かな。

 ここで次の一手だ。


「いくぞ、オンリーカード・オープン! 【レイズアップ・オイル】!」


 大量の油がサンダードラゴンに降り注ぐ。

 竜はべたべたに濡れて、飛びづらそうにしているようだ。


 ――そこに。


「灼熱の女神よ、その真紅の爪先を! ファイアーアロー!」


 キキレアの火の矢が飛んできた。

 ロッドの力か、以前よりも射程が伸びている。

 これなら――。


 着弾し、爆発するかのように炎が立ち上った。

 サンダードラゴンの悲鳴とともに、肉の焦げる匂いが辺りに漂う。


 よし、これで翼を破壊した。


「あとはブレスに気を付けて、畳みかけろ!」

『おー!』


 すると、塹壕に隠れていた直接攻撃部隊が武器を掲げて現れた。

 袋叩きにしちまえー!


「あああああギルドラドンさまからいただいたサンダードラゴンがあああああああ」


 上に乗っていた槍使いは頭を抱えて叫ぶ。

 その目が俺たちを睨んだ。


「絶対に許さない、許さないぞ、許さないぞ! この俺、エディーが血祭りにあげてやるぞ!」


 槍を掲げ、エディーとやらは叫ぶ。

 そのときだった。


 エディーの叫び声に合わせて、草原の向こうからコボルトの大群が現れたのだ。

 なんだと……。


 なんて量だ。

 とんでもない砂嵐が上がっている。


 ぐっ。

 相手は大物だけだと思っていたんだぞ、こっちは!

 攻め込むなら最初から軍勢を揃えてこい!

 ひとりで血気盛んに突っ込んでくるんじゃねえ、エディー!


「コボルトが襲い掛かってきたのは、リーダーがいたからじゃなくて、こいつが率いていたからなの……?」


 キキレアが青ざめた顔でつぶやく。

 あの大群を、これだけの冒険者で相手にするのか。


 ……くそっ。


「ど、どうするマサムネ!?」

「どうしましょう!」

「馬鹿使い、次の作戦があるんでしょう!?」


 あちこちから声が飛んでくる。

 どうするか、か。

 待て、考えろ、俺。

 そうだ、またジャックを使うか。


 俺がジャックの姿を探すと、あいつは草原に倒れていた。

 ジャック、まさか囮になっている最中に、どこかで怪我をしていたのか!


 冒険者のひとりがジャックに駆けよって、こちらに叫び返してくる。


「だめだ! ポーションが変なところにキマっている! ずっと笑ってて、気持ち悪い! もう戦えそうにない!」

「そうか!」


 俺はがじがじと頭をかく。

 まああいつは予想をはるかに超えて働いた。骨は拾ってやるさ。

 刻一刻と迫り来るコボルトの群れ。――猶予はない。


 そこにエディーが襲い掛かってきた。

 冒険者たちが次々とその槍に突かれ、地に伏せてゆく。

 くそ、こいつも雑魚なわけがないよな!

 待っているだけで、戦力がどんどんと削れてゆく。


 俺は思わず叫ぶ。

 次の一手でキーカードを引くことを祈るかのように――。


「――まだか、ナルはまだ来ないか!」


 そのときだった。

 俺の足元に凄まじい速度で着弾する矢。

 それは土を舞い上げる。


 ぺっぺっと口から土を吐き出す俺。

 そこに、声が響いた。


「――天下無敵! 一騎当千! このあたしの弓に貫けぬモノ、無し!」


 平原の小高い丘の上に、そいつがいた。

 エルフ族のアーチャー、命中率ゼロパーセントの怪物、ナルルース。



「あいつが来てなんになるっていうんだ!?」


 俺を見てゴルムが青い顔で叫ぶ。

 まあ、そうだろうな。そう思うのもやむなしだ。


 だが、今のあいつは違う。

 生まれ変わったように輝いた笑顔をしていた。


 調子に乗って矢を打ち込んでくるぐらいだからな。

 お前もあとでお説教だぞ。だがその前に――。


「ナル、いけるか!」

「うん! 大丈夫!」

「よし!」


 俺は手を突き出し、指令を出す。

 今度は全員を、防御表示だ。


「全員、町まで下がれ! しんがりは俺とナルがやる! キキレア、撤退は任せたぞ!」

「えっ、ちょっ、大丈夫なの!?」

「大丈夫だとも」


 俺は力強くうなずいた。


「ナルができると言っているんだ。信じるさ――」



 そこにエディーが槍を突き出してくる。

 怒り狂った目をしていた。


「ふざけるな! たったふたりでなにができる! しねえ!」

「マサムネくんに手を触れないで!」


 ナルが割って入ってくる。

 彼女は巨大な弓を手にしていた。

 無論、竜穿だ。


「ふん! アーチャーになにができる! 前線に出てきて、でしゃばりおって! しねえ!」


 エディーは雑な動きでナルに襲い掛かる。

 完全に見くびってやがる。

 俺はなにもすることなく、ただ見守っていた。


 新生ナルルースの、その弓さばきを――。


「――は?」


 エディーの腹がぱっくりと切り裂かれていた。

 一歩で間合いに入ったナルは、再び弓を振り下ろす。


「一刀両断! 快刀乱麻!」

「ええええええええ!?」


 エディーは真っ二つになった。

 見たか。


 ――ロング竜穿ソードの力をな!



 ナルは満面の笑みだ。

 戦いで活躍できたのが嬉しいんだろう。


「やった、やったよマサムネくん! これすごいよ! これなら誰にだって勝てるよ!」

「そうだな、攻撃も当たるしな」

「えーへーへー!」


 俺の軽口にもご機嫌だ。

 しかしそこに、なにやらメソメソと泣き声がしてきた。


『うう……違うのじゃ……これ、わしの思っていたのと違うのじゃ……。わしは弓として、弓として役に立ってほしいのじゃ……』


 俺は聞こえないふりをして、笑う。


「いやあさすがナル! 完全に竜穿の性能を使いこなしているな! お前はすごいアーチャーだよ!」

「そうかなぁ~、えーへーへー」


 でれでれの顔で笑うナル。


『違う、違うのじゃ……。これアーチャーとかじゃないのじゃ……』


 今の竜穿は、下の方に柄があり、上の方に刃がつけられている。

 昨夜、突貫工事でボーンロングソードを解体し、刃をくくりつけてもらったのだ。


 ウィグレットさんもさすがに竜穿に手を入れるときはビクビクしていたな。

 神具だしな。


『わしは、わしは……かつて光喰竜を穿ったと言われる、伝説の弓……。それが、こんな、おお……こんなひどい姿に……』


 弓が泣いている……。

 まあ確かにな。曲線を描いて美しかった弓のフォルムは、今や見る影もないからな。

 まるでできそこないのおもちゃのようだ。


 だが、言ったよな、リュー。

 お前はナルとふたりで天下を取るんだ、と。

 この方法なら取れるさ、天下をな――。



 黒い影となって消えてゆくエディーから、一枚の光が浮かび上がり、それは俺のバインダの中に吸い込まれた。

 新しいカードだ。よしよし、ありがたくちょうだいしようじゃないか。


「さて、ナル。帰るとするか」

「あ、でもコボルトの大群はどうするの?」

「戦わず、門を閉めるさ。俺たちの戦いはもう終わった」

「で、でも追いつかれちゃうよ! やっとく? 打っとく?」


 そわそわした顔で弓を構えようとするナル。

 いや、今のそれバランスもめちゃくちゃだから一億発打っても当たらないと思うぞ。

 弓としての機能は完全に死んでいるからな。


「まあ打ちたいなら好きなだけ打てばいい」

「はーい!」


 俺は俺で準備をしよう。

 コボルトには【ライメイン】が効くからな。


 残り魔力もちょうどいいだろうし、ここで決めるか。


 ナルが地面に竜穿を突き刺し、渾身の力で弦を引く。

 出現した矢は攻城兵器のようにそそりたち、コボルトを向いていた。


「乾坤一擲! 一騎当千! 我がこの弓に、貫けぬものなーし――!」


 矢は当然のようにあらぬ方向に吹っ飛んでいくだろう。

 それでもナルは嬉しそうだ。

 敵を倒すというよりは、竜穿を操ることが好きなんだろうな。

 爽快な笑顔は見ていて、なかなかに気持ちよくなる。


 ま、それじゃ倒せないんだけどな。

 俺はバインダを手にし、コボルトに向けた。


 同時に――矢が発射される。


「いくぜ、これが俺の決定打フィニッシャー――【レイズアップ・ライメイン】!」


 遠くで、凄まじい爆音が響いた。

 耳を塞いでいなかったナルは、しばらくクラクラしていた。

 それほどの威力だ。消費MPも結構なものである。

 多用はできないな、これ……。


 見ての通り、コボルトたちは皆、目を回している。

 ここを攻め込めば、一網打尽だったんだろうけど。

 まあ、そんな危ない賭けに、冒険者全員を付き合わせるわけにはいかん。

 俺たちふたりだけなら、最悪逃げ切ることもできただろうからな。


 さて、帰ろうじゃないか。

 俺たちのホープタウンにな。



 門を閉めると、一発キツいのを食らったコボルトたちは散り散りになって逃げ出していった。

 プレイヤーを倒したなら、場のカードなんて相手にする必要はないからな。

 これが正解だったんだ。




 三度も町を救った英雄。

 そんな評価を望んでいたわけではないが。


 町に帰ってきた俺たちを待っていたのは、苦情の嵐であった。


「ちょっと、さっきの轟音でうちの子が起きちゃったんだけど!」

「なんなのあの大きな音! あんたたちがやったんでしょ! うちのおじいちゃんがびっくりして階段から転げ落ちたんだけど、責任取ってくれるの!?」

「今の爆音で窓ガラスが割れました。訴訟」

「大いなる災いが地に割れんばかりの時の砂浜に流れ彩られるは鎖帷子!」


 最後のはよくわからないがもう、ひどい剣幕であった。

 サンダードラゴンが暴れたらもっともっと被害が出ていたのだというと、彼らは納得してくれたようだったけれど。


 しかし。町の近くではもう、レイズアップ・ライメインは使えないな……。

 別に衝動的に使ったわけじゃなかったんだが、これは完全に失念していた。


 幸い、被害総額はすべて冒険者ギルドが払ってくれるようだったので、一安心だ。

 町を救って借金が増えるだなんて、勘弁だ。

 サンダードラゴンの亡骸を回収し、再び焼肉パーティーも開催された。

 今回は冒険者全員での分配だから、大した素材はもらえなかったが、まあいい。新しいカードも手に入ったしな。


 ナルはあれからますます元気でやっている。

 新たな近接戦闘用竜穿は非常にお気に入りのようだ。


 ――そして今、俺の手には二枚目の【フィニッシャー】があった。


 ふたりの仲は改善したわけだからな、当たり前だな。

 ナルはこれからもずっと竜穿を使いたいと言っているし、竜穿もそのおかげで数々の戦果をあげられるだろうから、


 うむ! いいこと尽くめだな。


 なぜか俺がナルと一緒にいると、どこかからリューの泣き声が聞こえてくることがあるが、きっと気のせいだろう。

 これからもふたりは仲良くやっていけるさ。

 俺のおかげでな。




 そんな日々がしばらく続いた後のこと――。


「ねえ、そういえば最近ジャックを見てなくない?」

「ん、そういえばそうか」


 俺がいつものように冒険者ギルドでぼーっとしていると、キキレアがそんなことを言ってきた。

 確かにそういえばそうだな。


 こないだのポーション飲んでぶっ倒れてから、見てないな。

 と、そこに――。


 あの仮面をつけた爺さんが、現れた。

 ジャスティス仮面二号だ。

 ……久しぶりの活動だな。


 巨漢の爺さんの怪しげな格好にざわめく冒険者ギルドの中を、突っ切ってこちらにやってくる

 表情のけわしさが仮面の上からでもわかる気がする。

 嫌な予感がする。


「……マサムネさま」

「ん」


 やはり俺に用なのか……。


 爺さんはそこに跪いて、こう言った。


「……ジャックさまが、お倒れになりました。お力を貸してはいただけませんか」


 その顔を上げた爺さんの仮面の額には、一枚のカードが埋め込まれていた。

 三枚目の――【フィニッシャー】が。


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