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第104話 「まさかのファーストキス」

「は?」


 キキレアの凍るような視線が俺を貫く。こわい。


「いやだから、キスをしろ、って……」

「は?」

「いやだから」

「は?」

「ナルと」

「は?」

「って聞けよてめえ!」


 俺はキキレアの頭を掴んでぐわんぐわんと前後に揺らす。


「それが発動条件っつってんだから、仕方ねえだろうが! なんだてめえは! は?星人か!」

「だいたいなんでナルなのよ! おかしくない!? 私でもよくない!?」

「お前、竜穿使えないだろ!?」

「使えないけど! 先に私とキスしてもいいんじゃないの!?」

「えっ?」


 えっ、そこ?


 キキレアの剣幕に押されて、俺は後ずさりした。


「いや、まあ、別にカードの効果とは関係なくてもいいなら……」

「待ってキティー!」


 横からナルが飛び出してきた。


「今は一刻も争うんだよ! こんな言い争いをしている場合じゃないんだって! だからほら早く行こう、マサムネくん!」

「う、うん」


 ナルの言う通りだ。手を引かれてそちらに歩いて行こうとするも、反対側の腕がキキレアに捕まれてしまった。


「待ちなさいよナル! キスぐらいすぐ済むから! マサムネだってまんざらでもない顔しているじゃない!」

「そうなの!? マサムネくん! あたしよりキティーのがいいの!?」

「そうよ! 目がそう叫んでいるでしょ! だからほら、顔よこしなさいよ!」


 俺はナルとキキレアに挟まれて冷や汗をかく。なんでこんなことになってしまっているのか。俺はただナルにキスをして【シューター】の力を使いたいだけなのに。


 ベルゼゴールが控えめに手を挙げる。


「あのー……、戦いは……」

「あんたは、黙っていなさい!」

「今大切なお話をしているの!」

「は、はい……」


 ベルゼゴールを怒鳴って黙らせた女傑のおふたりは、俺をキッと見据える。


 よし、とりあえず考え方を変えてみよう。そうだ、俺は今モテているんだ。ハーレムメンバーのふたりから取り合いをされているんだと考えよう。ナルはまだハーレムメンバー入りを了承してくれたわけじゃないんだけど。


 そう考えたら心が軽くなった。なんだこれ。なんか俺がすごいモテ男みたいになっているんですけど。やばいな、俺の時代来たな。まあもう二度と童貞は卒業できないんだけど。でもモッテモテで困っちゃうな、俺。


 俺は髪をかき上げた。


「まあ、待ってくれ、ふたりとも。俺の体はひとつしかないんだ。ファーストキスはどちらかにしか捧げることができない。そうだろうベイビー?」

「言っていることは間違っていないけど、あんたのその顔は殺意が湧くレベルでムカつくわね……」


 ハーレムのご主人様に殺意とか言うのやめてくれないかな、こわいから。


「ごめんキティー、ここだけは譲れないから!」

「むむむ、ナルも珍しく頑固ね……!」


 女子同士の争いが白熱している間に、状況には変化が訪れていた。


 そう、このホールへと続く扉から、魔物の援軍が現れていたのだ。奇襲に気づいた魔王軍が外からベルゼゴールの助太刀に来たのだろう。


 扉の外を守っていた冒険者もこのホールに避難してきている。行く方はベルゼゴールが、帰る方は魔物たちが押し寄せてきて、俺たちは閉じ込められた形になる。


 ジャックとディーネがふたりで必死に現れる魔物たちをさばいているのが見えた。


「うおー! なんでもいいから早くしてくれマサムネー!」

「ああっ、ジャラハドさまが! あんな硬いものであんなところを叩かれちゃう! ウォーターボール! ウォーターボール! ウォーターボール!」


 そんな喧騒をよそに、俺とキキレアとナルは目の前の一番大事な問題に取り組んでいた。いわばディスカッションだ。


「じゃ、じゃあふたりでじゃんけんしてくれよ! 勝ったほうと先にキスするからさ!」

「はあ!? そんな大事なこと、じゃんけんで決められるはずないでしょ!」

「そうだよ! だいたい、マサムネくんはどっちとファーストキスしたいの!? ねえ!?」

「えっ!?」


 いや、そんな、いや、そんな……。


 どっち、って聞かれると、角が立つっていうか、こう……ね? ふたりの好感度をバランスよく保って、どちらの爆弾も爆発させたくないっていうか……。


 そもそも俺ふたりとも好きだし、正直どっちでもいいっていうか……。


 いや、どっちでもいいっていう言い方はよくないな。そう、どっちでも俺は嬉しいんだ。どっちが相手でも俺は後悔しないだろう。そう言い換えよう。まあ、こんな言葉でナルとキキレアと説得できるとは思えないんだが……。


 ミエリはチラチラとこっちを見ている。


「あのー、早くいかないとフラメルが主神になっちゃうんですけどー……」

「なあミエリ、俺はどっちと先にキスすればいいと思う!?」

「えっ!? それわたしに聞くんです!?」


 ミエリは驚きに目を見張った。それから少しだけ顎に手を当てて考え込む。


「そうですね、わたしは雷と転生の女神。思慮深さにおいては、右に並ぶものがいないと思っております。このわたしがジャッジを下してあげましょう」

「いいから早くしてくれー!」


 今の叫び声はジャックのものだ。たくさんの魔物に取り囲まれて剣を振るっている。うるせえな。こっちは取り込み中なんだよ。


 ミエリは手を打った。


「わかりました。そんなファーストキスなるものがあるからよくないんです。そんなものがあるから争いの種が生まれるのです。それはわたしが没収してあげましょう」


 女神さまは第三の解決策を提案してきた。驚きである。


「というわけでマサムネさん、ほら、こっちに来て下さあ痛、いたたたたたたちょっと二人とも!? わたし女神さまですよ!?」


 したり顔で告げたミエリは、キキレアとナルにシメられていた。女神の浅知恵であった。


「ああもうわかったよ!」


 俺は腕を振り上げた。そろそろジャックも限界そうだしな。いや、あっちは別にどうでもいいんだが、これ以上経つと魔王が倒されちまう。


 俺は指を三つ立てて、叫んだ。


「三人でしよう!」

「えっ」

「えっ」



 俺はバインダから二枚のカードを取り出した。【シューター】の発動条件はキスをすることだったが、【フェイス】はいったいなんだったのかと見れば、【フェイス】も対象にキスをすることが条件だった。おいゼノス、手抜きしているんじゃねえよ!


 だったらもう、まとめて使っちまおう。【フェイス】と【シューター】だ。キキレアに【フェイス】を、そしてナルに【シューター】を使う。逆だとまったく意味ないからな。


 ナルとキキレアは互いにもじもじとして、顔を赤らめていた。


「あの、今さらになって恥ずかしくなってきたんだけど……」

「あたしも……、だってここ、いろんな人に見られているし」

「だったらやめるか?」

『やる』


 ふたりは声を揃えてうなずいた。


 冒険者と魔物の争いは激しさを増している。ジャックは頭に剣を突き刺されながら「うおおおおお生きるうううううううう!」と叫んでいた。ディーネは泣きながら戦っていた。外野がすごいうるさい。ムードとか皆無だな。まあ仕方ない。


 俺は最後に尋ねる。


「……いいんだな? ふたりとも」


 ふたりは即答した。


「うん、もちろん!」

「ええ、いいわ」


 よし。


 俺はナルとキキレアの肩にそれぞれ、そっと手を置く。


 しかし、一抹の不安が脳裏をよぎる。これが『女性といざ事に及ぼうとすると』の範疇だったらどうしよう……。


 ……いや、さすがにそれはないよな。だったら『キスしろ』だなんてカードをくれるはずないもんな。罠すぎるだろ。うん。


 さすがに大丈夫だろう。今だけは信じるからなゼノス。お前はフェアな男だよなゼノス。頼むからなゼノス。


 深呼吸する。ふたりと目が合った。キキレアもナルも期待と興奮が入り交じったような、濡れた瞳をしている。恐らく俺も似たような表情をしているのだろう。


「いくぞ」

「……うん」

「きて、マサムネくん」


 よし……。


 俺はゆっくりとふたりに顔を近づけてゆく。三人でキスするためには、みんなが頬をくっつけて、ちょっとずつ唇を突き出さなければならない。なんか少し間抜けな光景かもしれないが、これはふたりにとっては神聖な儀式であると俺は理解している。


 しかしこれ、女の子同士もキスするみたいな感じだけど、ナルとキキレアはそれでいいのかな。まあいいか、親友みたいだし。


 徐々にふたりとの距離がゼロに近づいてゆく。


 あと少しで唇が触れ合う――というそのときだった。


 横からぐいと伸びた手が、俺の首をぐぎと無理矢理ひねってみせた。


「ぬがっ?」


 視界いっぱいに美女の顔が広がる。ミエリだった。


 彼女は俺の頬を掴むと、あっという間に距離を詰めてきた。強く目を瞑ったミエリは少し背伸びをして、俺の顔にその唇を重ねてくる。


 唇に押しつけられた感触は非常に柔らかく、ぷるぷるしていて、それでいてわずかにひんやりとして心地よかった。


 って。


「!?」

「!?」


 キキレアとナルが固まっている。


 俺のファーストキスはミエリに奪われたのであった。


『ウオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアア!!!』という謎の天の声が俺の脳裏に響き渡ったような気がしたが、俺はそれどころではなかった。



 ばっ、とミエリが俺の頭を離す。


 そうして笑いながら、彼女は自らの髪を払った。


「ふ、ふふふふ、ど、どうですかマサムネさん! わたしだってやるときはやるんですからね! 女神さまをないがしろにしたバツです! さあ、人の子らよ! これでふたりが分け合うといいですよ! わたしは今、争いの種を排除してあげたのです! キリッ!」


 ナルが竜穿を構えて、キキレアがその両手に炎を宿す。


「あれっ、えっ、ふたりともなんでそんなに怒っているんですか!? いいじゃないですか、どうせマサムネさんのファーストキスですよ! 今はほら、早く魔王を倒しに行きましょうよ、ほら、ほら! ね!?」


 ミエリが必死に叫ぶ。今おそらくあいつはこれまでに味わったことのない恐怖を感じているのだろう。ナルとキキレアの殺気はそれほどまでに凄まじいものだった。


 しかしナルとキキレアはすぐに怒気を霧散させた。ふたりとも地面に突っ伏して、うめく。


「まさか、ミエリなんかに先を越されるなんて……」

「うう、ファーストキスが、マサムネくんのが……、こんなだったら、監禁している間に奪っておけばよかったぁ……」


 そうか、ミエリに先を越されたことがそんなにショックだったのか……。


 ふたりがこんなに落ち込んでいるのを見て、ナルとキキレアへの対抗心だけでこんな暴挙に出たミエリもまた、おろおろしていた。


「あ、えと、わたしそんなに悪いことしました!? だってマサムネさんですよ!? たかがマサムネさんですよ! 泥水で口をすすぐようなものじゃないですか!」

「てめえぶっ飛ばすぞ」


 くそう、モノの価値を知らない女神め……!


 とかなんとか思っていたのだが、よく考えたらトライアングルキスをしてもキキレアとナルがなんかわちゃわちゃ言う可能性を考えたら、これはこれでいい気がしてきた。


 しかし、俺のファーストキスの相手がミエリか……。


 ミエリかー……。


「な、なんですかそんなにじっと見て。な、なんか文句でもあるんですか……!?」

「いやあ」


 俺は頭をかく。


 思いのままにつぶやいた。


「意外っていうか、あーやっぱりかーっていうか、なんかそんな感じ」

「そ、そうなんですか?」


 俺が思い出したように自らの唇を撫でると、ミエリもまた徐々に顔を赤らめていった。今さらになって彼女は自分がやったことの大胆さに気づいたようだ。


「ちょ、ちょっとなんでそんなに見るんですか!? マサムネさん、見つめ続けてもわたし別に面白い顔とかしませんよ!? 恥ずかしいんですけど

!」

「いやあ」


 恥ずかしがるミエリを見ると、なんか俺もめっちゃ照れてきた。


 あのミエリとキスをしたのか……。いや、大したことじゃないのはわかってんだよ。わかってんだけど、健康的な男子高校生にとって、意識しないっていうのは無理な話なわけで……。


「なんやかんやあって言いそびれていたけど……、俺、お前のことも好きだよ、ミエリ」


 ミエリの顔が爆発するように赤くなった。


「――っ、べ、別にわたしも神様としては、マサムネさんのことが嫌いってわけじゃなくて、この地に生きとし生けるすべての人を見守る神様になるんですからね、わ、わたしも! だから、その、マサムネさんのことも好きっていうか、そういうんじゃなくて、と、とにかくわたしは主神になるんですから! すべてはそれからなんですからっ」

「ああ、それもあとちょっとだな」

「むむむ……」


 俺に頭を撫でられると、ミエリは下唇を噛み締めながら俺を上目遣いに睨んでいた。だがその顔は耳まで真っ赤だったのだ。


 しかし、こいつは本当に素直じゃないな。キキレアとはまた違う意地っ張りなミエリに、俺はどうやらただの悪友だけでは済まされない感情を抱いているようだ。


 しかし、それはおそらくミエリも同じなのだろう。


 俺とミエリは向かい合いながら、なんとなく視線を合わせて、目を逸らし。


 そうして改めて、はにかむような表情で見つめあったのであった。



 ちなみにそうこうしている間にナルとキキレアは悲しそうに何度も地面を叩き、ベルゼゴールは暇そうに突っ立っていて、そして魔物の軍勢が次々と扉を狙って迫ってきていて冒険者は必死の抵抗を続け、ジャックは血まみれで倒れてぴくぴくしていて、「ジャラハドさまー! ジャラハドさまー!」と泣きながら叫ぶディーネに回復魔法を唱えてもらっていた。


 端的に言って地獄絵図であった。


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