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第10話 「素晴らしき焼肉パーティー」

 その夜、ギルドでは祝宴が開かれていた。

 辺りには肉の焼けるすごく良い匂いが充満している。

 ――そう、焼肉パーティーだ。



 物語は少し前にさかのぼる。


 血まみれで帰ってきた俺たちを迎えた門番のおっちゃんは、非常に驚いた顔をしていた。

 そうして叫ぶ。


「まさか、本当にギガントドラゴンを退治したというのか! お前たちが、そんな、なんてことだ……そんなに血だらけになるほど戦って! 俺は、俺は自分が恥ずかしい……! お前たちみたいな子供に戦わせるだなんて!」


 ひとりですごい盛り上がっているな。

 ナルは気分良さそうに胸を張っていた。


「へへ、あたしだけでは勝てなかったけどね。でも、それをしてくれたのはここにいるマサムネくんなんだよ。このお兄ちゃんは大したものだよ」


 カッ、とおっちゃんは目を見開いた。


「ああ、ああ、マサムネさま……。ありがたや、ありがたや……」


 拝まれている……。

 やめてくれ……。


「さあみんな! マサムネくんの偉業をたたえて、拍手―!」


 ナルが両手を広げると、町の門の前に並んでいた商人や木こりたちも、『おー』と拍手を浴びせてくる。

 なんだこれ……。


 冒険者ギルドに帰ってきた俺を見た受付ババアも、似たような反応をした。

 ギガントドラゴンの死体を確認しにゆくために使者が走ってゆき、俺たちは少し待たされた後、ギルドの中にある職員用の風呂へと案内された。


 この世界にもどうやら風呂はあるらしい。

 ありがたい話だ。


 男女それぞれ分かれていたので、俺とナルは別々の風呂へ。

 猫ミエリも当然ナルのほうへと走っていった。


 木を繋ぎ合わせたその風呂は、大人四人は余裕で入れそうなものだった。

 慌てて風呂を入れてくれたらしく、水は透き通っていて綺麗だ。

 血やらなにやらで汚してしまうのが申し訳ないが……仕方ない。


 じゃぶじゃぶと体をあがって出ると、着替えまで用意してくれたようだ。

 シャツとズボンのはき心地はなかなか。下着も現代日本のとは違うが、あんまり違和感があるわけじゃない。


 風呂を出て少し待つと、廊下にナルもやってきた。

「お待たせしました」と言う彼女の濡れ髪は、艶やかで非常に美しい。

 光に反射してキラキラと輝いている。

 さすがエルフだ。これが屑屑カードだとは思えないな。


「……なんか、変なことを考えているでしょ」

「考えている」

「うっそだー、やらしいんだからぁ……って、え!? 考えているの!? やだ、だめだってそういうの!?」


 ナルは顔を真っ赤にして自らの体を両手で隠す。

 俺はため息をついて、彼女の横を通り過ぎた。


 ま、いいじゃないか。

 今回は死ぬような思いをしたが、その結果、金貨をもらえるのなら。

 終わり良ければなんとやら、だ。


 そんなことを思いながら、受付へと戻る。

 大歓声が、俺たちを出迎えた。



「いやあまさか、ギガントドラゴンを倒してしまうなんて!」

「あっぱれじゃ!」

「いやー、すげーよ、すげーよ。これはこれはすげー新入りが入ったもんだなー!」


 そんなわけで、焼肉パーティーである。

 肉は、ギガントドラゴンのものだ。


 焼けた肉を一口ほおばると、ジューシーな肉汁が口の中に溢れた。

 食感はとろけるほどに柔らかく、旨みがぎっしりと詰まっている感じだ。


「うお、うまいな……」


 なんだこれ、ドラゴンの肉ってこんなにうまいのか……。

 牛よりもずっと柔らかくて、味が濃くて、体中に染み渡るような……。


 感動に打ち震えながら顔をあげると、足元にいた猫ミエリも「~~~っ!」と目を白黒させていた。

 そうか、うまいか、良かったな。


 バラバラになった死体を回収してきた職員たちは、俺たちを褒め称えた後に、ギガントドラゴンの処分を聞いてきたのである。

 これはギルドクエスト達成報酬とは、どうやら別のものらしい。


 死体のパーツの半分はギルドのものだが、しかし残りの半分は俺たちふたりで好きにするといい、と言われてしまった。

 なんでも皮は装備品に、骨は武器に、内臓は薬に、そして肉はウマいと言われたので、加工屋に引き取ってもらったりなんだりして、そのおススメ通りにやってみた。


 だが、ギガントドラゴンの肉は大量だ。

 俺とナル、それにミエリで食べきれる量ではない。

 というわけで、今までギガントドラゴンに苦しめられてきた人々を呼んで、盛大に供養すべきだと思ったのだ。


 すなわち、焼肉パーティーだ。

 町の人総出の、焼肉フェスティバルの開催である。


 鉄板は皆が持ち寄り、なけなしの薪を放り込んで火を焚いている。

 だが心配することはない。

 森にいた魔物は退治されたんだ。

 これからいくらでも、薪を取れるだろう。


 人々の顔には笑顔があふれている。

 だってこんなにうまい肉がタダで食えるんだもんな。

 しかも自分たちの生活を脅かしてきた憎き魔物の肉だ。

 そりゃうまいに決まっている。


 あの陰気な受付ババアも、今だけは幸せそうに舌鼓を打っている。

 うん、なんか、あれだな。

 もしかしたら俺たち、いいことをしたのかもしれない、って思うよな。


 と、俺は見たことのある顔を見つけて、その場を離れた。


 そこにいたのは禿げ頭の男、ゴルムだ。

 彼は俺に気づくと、ムスッとした顔になる。


「よう、食べてる?」

「……お前か」

「ギガントドラゴンの肉、すごいよな。俺、余った分は燻製とかにして、宿屋に保管してもらおうと思っているんだ」

「……大したやつだよ、お前は」


 見れば、ゴルムは手に皿もなにも持っていない。

 こんなにおいしいのに、食べていないのか。もったいないな。


 俺は手伝ってくれている町娘に声をかけて、皿とフォークを持ってきてもらう。

 そしてそれを、男に押しつけた。


「ほら」

「……なんのつもりだよ」

「いや、別に。でもおいしいぞ?」

「……変わったやつだな、お前は」


 じろじろと変な目で見られた。

 そうかね?


「……ラッセルの仇を討ってくれて、ありがとな」

「いやあ、まあ」


 俺は頭をかいた。

 なんだかんだでギガントドラゴンから逃げ延びることができたのも、【ラッセル】のおかげだったしな。


「これからはよろしくな、冒険者の先輩」

「……ああ」


 まだ彼は浮かない顔だった。

 すぐに切り替えるというわけにはいかないんだろうな。


 ゴルムは焼肉を一口頬張る。

 すると……。


「……うまいな」

「だろう」


 驚いた顔をした彼に向かって、俺はにやりと笑う。

 ゴルムはやはり怒ったような顔で、そっぽを向いたのだった。

 ギガントドラゴンの肉はうまい。俺はすぐに腹いっぱいになってしまった。




 宴もたけなわとなった頃。

 俺たちは金貨八枚を分け合った。


 きらきらとしていて、綺麗だな、これ。

 さすがは金貨といったところか。


 ナルはさっきから、そわそわとしている。


「ね、ねえ、そういえば、森の中で約束したよね?」

「ああ?」

「ドラゴン退治が終わったら、特別なお礼がしたい、って」

「言ってたな……」


 あの頃はナルも戦力になると思っていたんだよな。

 するとナルは、嬉しそうに自らの胸を叩いた。


「キミもこれから冒険者として生きていくんでしょ? だったら、あたしがキミの力になるよ! たぶん、あたしを一番上手に使えるのは、キミだと思うから……ねっ。このアーチャーの力、キミのために存分に役立てるから! これからよろしくね!」

「嫌だ」

「嫌だ!? あ、これ二度目だ! ひどい!」


 愕然として震えるナルはさておいて。


「さ、帰るかミエリ」

「にゃーん」


 疲れたー、とばかりに首を回すミエリ。

 いや、別にお前なにもしてないけどな。


 宿を探すのは面倒だし、昨夜泊まったところでいいや。

 ふう、お金が手に入ると、ちょっと安心するな。

 きょうは早く寝よう。


「あ、あたしは普段は冒険者ギルドにいるからねー!」


 後ろから叫んでくるナルに手を振りつつ、俺たちは帰路につく。


 さて、なにを買うか楽しみだな。

 まずは服か、あるいは防具か。それに武器もほしい。

 宿も少しグレードの高いところに引っ越してもいいかもな。

 しばらくは自堕落に過ごそう。


 屑屑カードのせいで、大変な目にあったからな!




 その夜だ。

 宿で目を瞑っていた俺は、なかなか眠れなかった。


 だめだ。

 天井を見上げて、俺はため息をつく。


 なんだよ、今さらになって手が震えてきた。

 そうか、あと一歩で死ぬところだったんだよな。

 急に実感が沸き上がってきた。


 火の中で暴れ狂うギガントドラゴンの光景だとか。

 ギガントドラゴンがこちらを睨んで、その爪が振り下ろされる瞬間が、何度も何度もリフレインした。

 ったく……。


 わかっていたさ、ここは異世界。

 常に命のやり取りが行われているんだ。


 これからもこんなことが何度も起きるだろう。

 胸が妙にドキドキする。

 そんなとき、だ。


「にゃあ」と鳴いて、ミエリがやってきた。

 なんだお前、ソファの上で寝ていたんじゃないのか。


 ミエリは尻尾をぺしぺしと俺の顔にかぶせる。

 なにやろうとしているんだ。


「腹でも減ったのか。あんだけ肉食ったのに」

「にゃー」


 首を振られた。

 まさかとは思うが。


「……お前、慰めてくれようとしているのか」

「にゃ」


 ぽんぽん、と尻尾が頬を撫でる。

 はあ、こいつがねえ……。


 俺はなんとなく、ミエリの背中を撫でてみた。

 元は生意気な女神とはいえ、今は猫の体だ。

 柔らかくて、ふわふわで、気持ちがいい。

 アニマルセラピーってやつか、これ。


「……ミエリ」

「にゃ?」


 トクベツに背中を撫でさせてやっているんだぜ、とばかりにドヤ顔をしていたミエリは、首を傾げた。

 俺は彼女をじっと見つめる。


「……にゃ?」


 なぜか妙にそわそわし始める女神。

 俺は迷ったが、小さくつぶやく。


「ミエリお前、その格好って結局、全裸なんだよな……。だから尻尾を持ち上げると、色々と、その……」

「に゛ゃああああああああああああああ!」


 猫の悲鳴とともに、俺は寝返りを打った。


 ま、なんとか寝れそうだよ。

 サンキューな、ミエリ。




 翌日。

【ラッセル】のカードに頼り切った弊害か、地獄のような筋肉痛で目覚めると、ドアにはこんなカードが貼り付けてあった。


 そこには――。


『金貨四枚、確かにいただきました。

 ――銀の怪盗 ジャスティス仮面より』


 ふざけんなあああああああああああああああああ!


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