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1ー6 策略


 時間は遡り、結と別れた後、桜は一人イーターの気配を追っていた。


「見つけたっ!」


  桜は木々の生い茂る中庭でイーターと思われる影を見つけるが


「なに、それ……」


  桜の見つけたイーターは大きさで言えば二メートル以下程度しかないものだったが問題なのはその姿だった。


「ググ?ほう幻操師か、それもなかなか強そうだな」


「言語を理解している!?」


  そのイーターは二本の腕に二本の足、黒のコートを着た胴体、そしてどこから見ても人間(・・)にしか見えない顔。つまりそれは


「人型イーター……」


 イーターは生き物の形を象ったものが多い、蛸や熊、そういった形をしたイーターは多く報告されている。


 しかし長い間報告される個体が明らかに少ない種類があった、それが人型。


  イーターは大抵本能のようなものしかなく、理性と呼ばれるものがなくなっている。


 しかしこの人型は言葉を発した、つまり理性があるということだ。


 イーターはもともと幻操師よりも大きな力を持っている、しかしその力を制御し効率的に使う頭がないため気を付けていればどうにかすることができる。


 しかしこいつには理性がある、イーターとしての大きな力とそれを扱う知能を持つ個体はSランク以上の戦闘能力を持つと言われている。仮にそんなイーターに出会ったら逃げろと教わっているしかし


(逃げたら他の生徒に被害が出ちゃうかもしれない、あたしがここで会長達が来るまで足止め、いやここで討伐してみせるっ!!)


「行くっ!!」


 桜は両袖から一本ずつ計二本のナイフ型法具を取り出すと身体強化を発動し、身体能力にブーストをかけつつ、人型イーターに向かって突撃した。


「ググ、正面から突撃か。まだまだ若いな」


  人型イーターは右腕を手刀の様に構えると腕が変化していき腕を延長したかのような剣の形になっていた。


  桜がナイフを上段から下段に振り下ろすと、人型は剣に変化させた右腕で受け止め、もう一方の腕も剣に変化させ桜の心臓を貫こうと突きを繰り出した。


  桜は突きを左手のナイフで左に逸らしながら、体を反時計回りに回すと相手の突きの威力を利用して回転速度を上げ一回転するとそのまま左手のナイフを並行に振るった。


「ググ、甘い甘い」


 人型は上空に飛び上がると剣に変化させた両腕を頭の前でバツ印のように合わせると、空中を蹴り(・・・・・)スピードを上げると、桜目掛けて空中から突撃した。


「あっぶなっ、あれは当たったら流石にやばいよっ!?」


  桜は反射的に後ろに飛んでそれを避けると、地面に突撃する形になってしまい盛大な土煙の舞わせることになった人型イーターの気配を追い、まだ土埃も晴れぬうちに正確に人型目掛けて両手のナイフを投げつけた。


 ギンッ


  鈍い金属音が聞こえると同時に土煙が晴れていきその中には無傷の人型イーターが立っていた。


 どうやら桜の投げたナイフは人型の変化した両腕によって弾かれ、人型の遥か後方に飛ばされてしまっているようだった。


「ググ、武器を失ったな小娘」


  ナイフを失った今を好機と判断したのか、人型は体制を低くし前方に両手を角の様に構えると凄まじいスピードで桜に突撃を始めた。


「失う?なんのことかなっ!!」


  桜はその場で両腕を引くような動作をすると、人型の後ろに落ちていたナイフ型法具が、まるで桜に引き寄せられるようにすごい早さで刃先を人型の背中に向けて飛んでいっていた。


「まだまだっ!!『火速』『火爆(かばく)』」


  ナイフの柄頭から火が噴き出し、まるでジェットエンジンのようなその推進力を使って、ナイフはさらにスピードを上げると、ナイフが後ろから飛んで来るとは思わずに、反応が遅れてしまった人型の背中に突き刺さっていた。


 そして、突き刺さるだけで終わることは無く、なんと当たると同時に次の術が発動し、ナイフから爆発が起こっていた。


「やったっ!!」


  桜は自信ありげにガッツポーズをすると、爆発によって出来た土煙から一筋の影が飛び出し、そのままその影は桜を吹き飛ばしてしまっていた。


「がっ……」


  桜は近くに生えていた木に激突していた。


 凄まじいスピードで叩きつけられたため、そのまま意識を持っていかれそうになるが


(き、気絶してたまるもんか……あたしはAランク幻操師、雨宮桜だっ!!)


  Aランクという誇り、プライド、そして責任感で意識を守りつつ、どうにか交戦しようと思い、立ち上がろうとするのだが。


(あれ?足、動かないや)


 足にダメージがきているのか、桜は立てずに、それどころかその場にへたり込んでしまっていた。


「くっ……まさか、あたしがこんな様とはね、情けない」


  桜が自虐的な言葉を口にすると、どうにか動く右腕を思いっきり引いた。


  先程と同じようにナイフが一本人型イーター目掛けて飛んでいくが


 キンッ


  術によって強化がなにもされていないナイフは金属音を響かせてそのまま地面に落ちてしまっていた。


  もちろんと言うべきか人型イーターに傷を付けることはできていなかった。


「ググ、この程度か……ならば仕方あるまい主のため、ここで倒れろ」


  人型イーターは無慈悲にも腕を振り上げ、桜目掛けて振り下ろそうとしていた。


(あーぁ、これであたしも終わりかぁ、もっとみんなといたかったな、もっと喋ったり、ふざけあったり、自分を高め合ったり、せっかくゆっちや楓とも仲良く慣れたのになぁ。そういえば、楓のあだ名、まだ考えてなかったなぁー。ごめんね楓、もう考えてあげられそうにないよ。ごめんね会長、ごめんねみんな、ごめんねゆっち)


 覚悟を決め、せめて最後ぐらいは笑顔でいようと、無理やり笑顔になる桜だったが、その目からは一筋の涙が零れていた。


 そして人型イーターの腕は振り下ろされた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「えっ?」


  終わると思った瞬間、思わず目をつぶってしまった桜に自身が思っていた衝撃とは違う、何処か優しげな衝撃、そして浮遊感を感じたところで違和感が確信へと変わり思わず目を開けた桜が見たものは


「ゆっち?」


  全身から怖いぐらい冷たく、鋭い殺気を放つ結の姿があった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ふう、やっと終わったな」


  蛇型イーターを仕留めた結はジャンクションをとりあえず解除するとふっと一息休んでいた。


「ふぁー、桜は大丈夫かな?」


  大きな欠伸をしつつ先程二手に別れた桜の安否が気になり気配を追う結だったが感じたのは


「っ!?桜の気配が小さくなってる!!」


 気配が小さくなっていく、つまり桜が死へと近付いているということだ。


『ジャンクション=カナ』


「……間に合って『火速』」


  結は急いで両手を合わせジャンクションを発動すると全力で火速を発動し、桜の元へと急いだ。


「……桜!?」


  駆け付けた結が目にしたのは、木に寄り掛かり、力なくへたり込んで、今まさにトドメを刺されそうになっている桜の姿だった。


「……間に合って」


  結は銃の出力を上げスピードを上昇させると、桜に向って一直線に飛び銃を懐にしまうと桜の背中と膝の裏に手を滑り込ませて、そのまま抱き上げていた。


 つまり結は俗に言うお姫様抱っこをしながらその場から飛び抜け、桜を救出していた。


「ゆっち?」


  いつもの元気は何処にいってしまったのか、結の腕の上にはしおらしく驚いた表情になっている桜の姿があった。


「大丈夫か?桜」


  最後の急速な力の消耗でジャンクションが解けてしまった結は、優しく桜を地面に降ろすとその頭を優しく撫でた。


「ちょっ撫でないでよ……」


  桜は結に撫でられて恥ずかしそうにしながらも嫌がらずにされるがままになっていたのだが、まだ体に力が入らないのか、その場に崩れ落ちてしまっていた。


「おっと」


  崩れ切る前に結が支えてやり、近くに生えてある木に優しく寄りかかせると


「すぐ片す、待ってて」


「えっ……だめ、あれは別格……」


「大丈夫だから安心して」


  結のことを心配する桜に軽くウインクをすると結は「だめ……」と呟く桜を横目で見た後、ただ両手を合わせることはせずに左手の甲を上に向けるように拳をつくりその甲に右手の平を重ねるように添えるとそのまま両手の親指を繋げるというあまりにも独特の構え……いやポーズをとった。


『フルジャンクション=ルナ』


「僕の仲間を傷付けた代償は君の心で清算してあげる」


  結は純白の剣を二本呼び出すとそれらを順手にそれぞれ持ち、人型イーターの懐に一気に飛び込んだ。


「散れっ!!」


  結は懐に入ると、即座に腰の両サイドに右太刀と左太刀をそれぞれ居合いのように構えるとアルファベットのXをなぞるように切り上げた。


「ググッ!?」


  人型イーターは体を引いて避けようとするが胸の部分を微かに切られてしまっていた。


 人型は切られた瞬間微かに顔を歪ませながらも、咄嗟に両手を開きガラ空きになっている結の顔に向かって膝蹴りを繰り出した。


 結はそれをバク転によって避けるとバク転によって稼ぐことの出来た時間を使い、右手の剣から手を離し両手で剣を握り額を守るように構えると、あえて人型の膝蹴りを握り締めた剣でバク転しつつも受け、その衝撃を利用してバク転の速力を一気に上げると、足で先ほど手離した剣を思いっきり蹴り上げた。これは先ほど桜がやっていたカウンターと同じ原理の技だ。


「ググッ!?」


 人型はこの不意打ちさえも体を逸らすことによって、致命的なダメージを避けると、近距離戦は分が悪いと判断したのか、バックステップし結から距離をとっていた。


「あれ?思ったより強いんだね、良かったこっちにしておいて」


  結はそう言う人型イーターの目の前だというのに剣から左手を離し自分の顔を覆うよう左手で構えるとそのまま両目を瞑った。


「ググ?舐めているのか、人間っ!!」


  人型は知能があるがゆえに結の行動に怒りを覚えたのか、結がやったように両腕を居合いの様に構えると、全力で結との距離を詰めた。


「舐めてる?誰が?僕はただ、僕はただ君をーー」


  結は人型のとった行動に小さく笑うと己が浅はかなことをしていることに気が付いたのか人型が立ち止まり距離を取ろうと後ろに飛ぶがーー


「刈る準備をしてるだけだよ」


  結は右手で握っていた刀を地面に突き立てると左手でそのまま顔を覆い目を開くと空いた右手でさっと自分の髪をすいた。


「ググ、なんだそれは……」


  結がなぞったところから髪がいつもの少し長めの黒から長い綺麗な水色の髪へと染まっていき、その目もまた髪とお揃いで水のような輝きと色を宿していた。


「これが、僕がルナだよ。そして君を刈る者の名だよ」


  結は地面に刺していた剣を抜くと、その場で屈むように足を曲げ、一瞬で飛び跳ねると、距離を取って様子を見ていた人型の左腕を切り飛ばそうと刀を振るうが


「ググ、俺の体は鋼鉄よりも硬いのだ。そう簡単には切れぬぞ小僧っ!!」


  刀は弾かれてしまい、それはルナの巧みな技術があっても人型の体を切り裂くことは出来なかった。


 結が己を切れないことがわかった人型イーターはさっきまでとは一転して強気になり、両腕の剣を交互に結の心臓を貫くために突き出すが結はその全てを見切りギリギリで躱していた。


「たしかに君は硬い、言う通り鋼鉄よりも硬いんだろうね。でもね」


  結は人型の剣を躱しながら余裕ありげに話しかけると


「今の僕は鋼鉄よりも硬いものだとしても……」


  結の言葉に怯えそうになりながらも必死に恐怖を抑え込み結に剣を突き出す人型イーターを結が睨み付けると


「刈れるよ」


『六月法=斬月(ざんげつ)


 結の持つ剣が銀色に輝く、月の光を纏うと結は一心の迷いなくその剣を振るった。


「ググッ!?」


  結の剣は鋼鉄よりも硬いという人型イーターの左腕を容易く切り裂くと、人型イーターは健在の右腕で左腕が無くなったことを確認するようにさするとその目を歪めた。


「ググ、グガァァァア」


 人型は大きな遠吠えを上げると完全に頭に血が上っているのか何の策も無しにただ無謀に結へと突進を始めた。


「じゃあね、哀れな存在よ。これがあなたの報いだよ」


 結は自分に向かって全力で走る人型イーターに背を向けるとなんの警戒もせずに桜へと近寄った。


「ごめんね。怪我させちゃって」


 結は日陰で休ませている桜の頬を軽く撫でると悲しそうな目で桜を見ていた。


「グガァァァアッ!!」


 結の後ろにはすでに人型イーターがその剣となった腕を振り上げて今まさに結を貫こうと腕を振り下ろした。


 グサッ


「ググ……」


 腕を結に振り下ろそうとしていた人型イーターの胸には純白の剣が突き刺さっていた。その刀身には月のような輝きを放っていた。


「ググ、な……んだと?」


「『六月法=斬月』だよ。月の光をその刃に纏わせ切断力を飛躍的に上昇させる技。さっきもその腕を切り裂いて見せたでしょ?」


 人型は結の事を信じられないような目で見ていた。その理由は己が斬られたからではないすでに腕を斬られている以上それに驚くことはないならなにに驚いたのかそれは結の才能だ。


 何故なら今己の胸に突き刺さっている剣は今結が持っている剣とは別の剣(・・・)だからだ。


 それはつまり結の姿が変化する前にバク転と同時に蹴り上げたもう一本が今になって人型に突き刺さっているということだ。


「あぁ、そっかその剣についてが信じられないのか。そだよそれはバク転の時に蹴り上げたものだよ」


 ありえない。


 知性を持つ人型は目の前にいる人物に生まれてから三度目・ ・・になる恐怖を感じていた。


僕達・・はね。平時は幻操師でもない一般人とほとんど変わらないんだ。なんせ僕のランクはF。君に言ってもわからないと思うけど才能の無い劣等生なんだよ。一般人で無ければ幻操師でもない中途半端な存在。それが僕達なんだ。」


「ググ……才能が……無いだと?」


 人型は結の才能が無いという言葉に驚きを隠せなかった。


 結の領域は完全に才能ある者の領域だと人型はその身をもって感じていたからだ。


「説明してあげる必要もないけどまぁいいや。消える君に教えてあげるよ」


 結はいつもの姿に戻ると、同時にジャンクションも解除し、もうすぐ消える人型に向かって、自分について話し始めた。


「俺は元々幻操師としての才能がなかったんだ。あったとしてもそれは平均程度、それが俺の才能だった。人間には自分でも気がつかないような才能を持っていることが多い。そしてその才能を見つけることのできた人間こそ世の中で勝ち組と呼ばれる人達だ。俺は自分の才能がわからなかった。だから」


 結はそこで話を一旦切ると気絶している桜の頭をもう一度撫でる横目で人型が動けないことを確認するとクルッと回って桜の隣に座り込んだ。


「全ての才能を捨てたんだ」


「っ!?」


 才能を捨てる。人型には理解できなかった。人型の知能は正直な話人間と全く変わりがないただ種族が人間ではなくイーターというだけだ。


 だから才能の必要というものが分かっていた。


 才能があるからうまく行く才能を無くしてしまったらそれは地獄だろう。


 なにをやってもうまくいかない。


 結の目を見て人型は気が付いた。


 結の言う才能とは天才という意味ではなくその能力のことだ。


 それを行うにあっての最低限の実力、結はそれを全て捨てたと言ったのだと理解した。


「正確には変更だな。己の才能とやらを全て数値化してそれを全てある分野に振り分ける。例えば拳銃を扱う才能、剣術の才能、体術の才能、幻操術の才能、己を高める才能、自分を繋ぎ合わせる才能、溢れるほどの力と頭脳を持つ才能、ありとあらゆる経験と知識、技術を持つ才能、才能を操る才能とかな」


 人型には理解することが出来なかった目の前の人間がなにを言っているのか。……いや、理解はしていた。ただ認めたくなかったんだ。その恐ろしい考えを。


「あんたが見たのは俺の才能を全て拳銃を扱う才能に変えた状態、そして、あんたの腕を切り裂きその胸に剣を突き刺した剣術の才能に変えた状態とかだ。今の俺、音無結の才能は平均以下だが、全ての力を持ち。そして才能を一分野に特化させることのできる才能を持った人格だ」


 基本状態では日常生活に支障が無い程度の才能と才能を変える才能だけを持ち必要に応じて幻操術を使うことによって全才能を一分野に割り振る。


 そして割り振った状態に名を付けることによって制御する。


 多重人格であり多重人格ではない嘘の多重人格。つまり己の才能さえも騙してしまうほどの強力な思い込みの力。それが結の作り出したジャンクション、幻多重人格だ。


「ググ」


 人型は理解した。


 才能がないと言っているのにあれほどの力を持つ理由。


 一時的とは言え全てを捨て去ることによって一つだけ超人的な才能を引き起こす、つまりハイリスク、ハイリターンの能力。


『ジャンクション=カナ』


 結はジャンクション=カナを発動すると手に持ったままでいた剣を右手一本で持ち人型に向かって振り下ろした。


「ばいばい」


 自分のことを話したからだろうか、敵対するイーターである人型に対して微かに寂しさを感じながら剣を振り下ろす結だった。


「ググ、……もうして……わけない……りーー様」


「っ!?待ってっ今なんて言ったのっ!!」


 消えながら呟く人型に問いただす結だったが、人型は返事を返す前に人型は小さく笑うと完全に消えていった。


「くっ」


 結はジャンクションを解除すると、ざわめく心を感じながらも、寝かせている桜の元に急いでいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 人型イーターを倒した後、人型の最後に残した言葉はひとまず自分の心だけにとどめて置く事にした結は、安心した顔して気絶している桜の隣に腰掛け、会長達のやってくる足音を聞きながら眠りについていた。


「桜っ音無君っ!?」


  傷を負って眠っている桜と隣で眠っている結達二人を見て慌てる会長だったが二人の顔が、特に桜の顔が安心した様な顔がだったため、ふぅーっと溜め息をつくと、優しい顔になり二人の頭を撫でる会長だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  人型イーターを含め六体のイーターが現れた次の日。


  結はまた保健室のベットの上で眠っていた。


 ルナの力をいつも以上に発揮した結はジャンクションの回数と発動時間が少なかったにも関わらず反動によって動けなくなってしまっていた。


「あぁー、暇だー」


  保健室で出来る事なんてたかが知れてるため結は退屈な時間を過ごしていた。


「ゆっちー、体調はどーだい?」


  暇してる結に声を掛けたのは昨日結構なダメージを受けていたため、会長から強制的に隣のベットに寝かせられている桜だった。


「体調は平気なんだが、なんつうかあれだ体が思うように動かないだけだからな、なにより暇だ」


「あはっ、確かに暇だよねぇ」


  結と桜は隣同士のベットに勝手に動けないようにという会長のお心によってベルトでベットに体を固定されているためすることがない……というよりなにもできなかった。


  とは言え固定されてなかったとしても二人とも体の不調でなにも出来なかったと思うが。


「あら、二人とも起きてたの」


  暇してる二人のところに来たのはF•G中等部二年代表とも言える美少女、美花会長だった。


「あっ、会長〜このベルト外せよー」


「会長っベルト外してぇー」


「二人とも暴れると取らないわよ?」


「……」「……」


 会長のお叱りを受けてだんまりになる二人だったが会長の次の言葉で桜が弱々しく答えた。


「人型が出たってほんと?」


「……はい」


  会長の言葉に昨日、出現した人型にボロボロにやられてしまった桜は、その時の自分の無力さを悔しく思っているのか、弱々しくそして悔しそうにそう答えた。


「……桜、人型と対峙してどうだった?」


「……怖かった」


  桜の口から出たのは桜とは思えないほど弱々しく儚い言葉だった。


「ここで終わっちゃうのかなとか、あたし無力だなとか、あたしが消えたらみんな……みんな悲しんでくれるのかなとか、そんなこと……考えたら怖くなったよ」


  桜はそこまで言葉を紡ぐと静かに涙を零した。


  いつもは生十会の一人としてその責任を背負いつつ、強く皆を先導する側の者としての覚悟を持っていた桜だったが、やはり桜もまだまだ十代の少女だ。自分の無力さを思い知らされ、己の心が壊れるかもしれない恐怖、心の死をあれだけ目の前で見せられてしまった桜の心には小さくない傷が付いてしまっていた。


「桜」


  静かに泣き出した桜に声を始めに掛けたのは会長ではなく結だった。


「そんな落ち込むなよ。まだまだ若いんだしさ、晩熟型だけなのかもしれねえだろ?まだまだこれから伸びるさ」


「……ふぇ?」


  結はこの前、桜に負け落ち込んでいた男子生徒に桜自身が言った励ましの言葉を言った。


「桜だってそう言ってたじゃねえか。まだまだ限界じゃねえだろ?」


「そうよ、桜だって一年生の時と比べたらこの一年間でだいぶ強くなったじゃない、まだまだ成長期よ」


  結はもう一度励ましの言葉をかけ、会長も会長で桜に励ましの言葉をかけていた。


  会長は静かに横になっている桜の頭を優しく撫で始めていた。


 桜は恥ずかしそうに頬を赤くしながらも、嫌がる素振りを見せることはなく会長に頭を撫でてもらっていた。


「世の中には才能が無くて努力してもBランクになることも出来ないやつがいるんだぞ?そんなやつらは絶望なんかしないで足掻いて足掻いてさらに努力する奴だっているんだぞ?それに比べて桜は十三歳でAランクになるほどの才能があるんだからよそれでも自分は弱いと言ってたらたらそいつらに失礼だぞ?」


「え?それって?」


「じゃ、俺は寝るから。おやすみ」


  結は苦笑いしながらそう言うと、桜に背中を向け、さっさと寝る体制に入っていた。


「ありがと、ゆっち」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 結が寝た後も会長と桜は二人で話をしていた。


 さっきまで弱気になっていた桜の表情は二人の励ましのおかげでいつもの元気な笑顔に戻っており、すでに会長も頭を撫でるのはやめて隣に座わっていた。


「ねぇ、会長どう思う?」


「なんのこと?」


  桜は暗い表情をしながら会長に話しかけた、会長は突然桜の雰囲気が暗くなったため驚きながらも桜がなにを言いたいのか言うように促した。


「ゆっちのさっきの言葉」


「才能がどうたらって話?大丈夫よ結が言う通り桜は才能あるわよ。だから暗くなる必要なんてーー」


「あたしの事じゃなくてっ!!」


  桜は会長の言葉に少し強い言葉を重ねると自分の感じた違和感を会長に話した。


「あの時のゆっち、まるで自分のことを言っているような感じがしたの」


「そりゃあの年で人型を倒せるほどなんだから才能あるんでしょ?だったら違和感はないと思うわよ?」


  会長は桜の言葉にどこに違和感があるのかわからずにいた。そんな会長をもどかしく思いながらも桜は説明すべく言葉を繋いだ。


「あたしも最初はそう思ったんだけどね、思い出すとあの時のゆっち、どこか悔しそうな顔してたから」


「悔しそうな顔?」


「あのタイミングであんな顔するってことはもしかしてゆっちは才能がないんじゃないかな?」


「そんなわけ……」


  そんなわけないと言おうとした会長だったがここまで桜の意見を聞いて会長もまた結の力に違和感を感じ始めていた。


「本来、幻操術は心が生み出す力の幻力を対価にすることによって発動するもの、リスクは幻力のみ。それに比べてゆっちは全力なのかはわからないけど一定以上の力を発揮すると今みたいに動けなくなってしまう」


 桜はそっと視線を結に向けた。会長もつられて結を見つめ始めた。


「それになによりゆっちのランクはF、つまりそれだけ幻力総量と幻操領域が少ないことを表している」


「……そういえば、音無君ってFランクだったわね」


  剛木との模擬戦、中型イーター、人型イーターとの戦闘で見せた高い戦闘能力に気を取られて忘れていたが結のランクはF。


  つまりそこだけを見ても結は劣等生なのだ。


「そんなゆっちがAランクのあたし以上の実力を持ってるんだよ?違和感……ない?」


  桜はまるで結がなにかを隠しているとでも言いたげな顔をしていた。


 その顔を見て出した会長の答えは


「だからなに?」


「へ?」


  気にしないという答えに思わず驚き振り向いてしまう桜だった。


「あたしも多分音無君はなにかを隠していると確信にも似たものを感じてるわ。だからなに?音無君は音無君じゃない、日向兄妹やあなたを助けた恩人であることには変わりないわ。それに」


  会長は言葉を切って桜の目を己の覚悟を表すかのようにジッと見つめると言葉を紡いだ。


「音無君ならいつか話してくれるわよ」


「あはは、そうだよねゆっちなら話してくれるよね」


 会長の答えに苦笑いをしつつも、賛同してしまう自分を可笑しいと思い笑ってしまう桜だったが


「それに裏のなにかを背負ってる男ってまるで物語の主人公みたいでかっこいいじゃない」


  会長の次の言葉で完全に笑ってしまうのであった。











「……ありがと会長、桜」


  結の言葉は二人に聞こえることはなく消えていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  イーター同時出現事件から、さらに三日が経っていた。


「失礼しまーす」


  体が完全に回復した結はイーター討伐による報酬を受け取るために生十会に来ていた。


「やっときたわね。早く座りなさい」


  報酬を貰うはずじゃないのか?と思いつつも、結はいつも通り、会長の命令通りに渋々いつもの席に座っていた。


  他の席には復帰した桜を含め残り九人が皆すでに集まっていた。


(おい。なんで楓は当然のようにいるんだ?)


「それで報酬のことなのだけど」


  会長はそこで言葉を切ると、怪しい笑みを浮かべ、他のメンバーに目配せをし、皆が頷くのを確認すると結にとってまったく想像していなかったことを言った。


「報酬として生十風紀会への入会手続きを全てこちらで肩代わりさせてもらったわっ!!」


「へー…………はぁ!?」


  会長はドドーンと効果音が付きそうな感じで取り出したのは、なんといつ撮ったのかわからない写真を張った結の生十風紀会の会員証明書だった。


「ちなみに教務科にはすでに連絡済みだからキャンセルは不可よ」


「うそ……だろ?」


  結が驚きの余り呆然としている中他のメンバーは一斉に立ち上がると拍手を始め会長の号令の元ある言葉を発した。


「ようこそっ生十風紀会へっ!!」


「はは……」


  こうして結は正式に生十風紀会のメンバーとなった。


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