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崎裏町の怪異  作者: 齊藤
三枝教諭
9/18

殺人事件発生

月曜日は憂鬱(ゆううつ)だ。 退屈な授業を次の休日まで毎日受けなければいけないと思うとうんざりする。 ましてや来週は最初の定期テストなので聞き流すわけにもいかない。

そんな気分でアユミと雑談しながら始業時刻を待っていたのだが、始業チャイムと同時に担任教師が(あわただ)しくやってきて欠席者のチェックをするといつもの定型的な伝達事項とは違うことを口にした。

「えー。 今日は諸事情により緊急教職員会議のため一時限目は自習となります。 どうせお前らは真面目に自習なんぞせんだろうが、教室の外でうろついたり騒がしくしたりしない程度の分別(ふんべつ)はあると信じているので先生の期待を裏切らないように頼むでー。」

担任教師は早口でそう言うとすぐに出ていった。

突然のことで教室内にはどよめきが起きたが、戸惑(とまど)いのどよめきはすぐに喜びのどよめきに変わった。 年間の総合的な授業時間は決まっているはずなのでどこかで辻褄合わせの授業が追加されるはずだが、それを知っていてなお退屈な授業の回避は嬉しいと感じてしまうのだ。 四字熟語で言うところの朝三暮四というやつだ。 私自身も気持は同じなので笑えないけれど。

しばらくすると仲の良いグループで集って雑談に興じたり机に突っ伏して寝たりと、まるでいつもの昼休みのような雰囲気になった。 (とな)りの教室からも少し声が聞こえるので、似たような状況なのだろう。

「緊急会議って、何かあったのかな…」

アユミが(つぶや)くが、現時点では情報が少なすぎる。

三枝(さえぐさ)のことが私の脳内をよぎったが、もしあの噂が本当であれば学校としては生徒に知られないようにこっそりと解決を図るだろう。 放課後まで待てないほどの緊急性があるとすれば学外に話が漏れている場合だ。 生徒の保護者から何か言われれば学校としては急いで事実確認して対応を検討する必要がある。

「さぁね。 生徒が何か問題を起こしたんじゃないの」

私は気がない風に返事を返すが、実際のところ一番ありそうな可能性はこれだ。 暴力事件とか盗難とか、そんなところだろう。

そんな風に考えていると窓際に陣取っていた一団が騒がしくなった。

「パトカー来てるぞー」

窓の外を見ると、モノクロカラーでパトランプが付いた車両が見えた。 しかも数台。

さすがにこれは本当に深刻なことが起きたらしいと教室の中にはざわめきが広がり、何が起きたのかを予想する声がそこかしこで聞こえる。

ざわつきが収まらないまま三時限目の時刻になり、更に三十分ほど過ぎて、つまり昼前になってようやく担任教師がやってきた。 収まらないざわめきの中で教師は出席簿で机を叩いて声を張り上げる。

「静かにしてちゅうもーく。 説明するから静かにしてー」

五秒ほど待って静かになると、教師は真面目な表情で話し始めた。

「えー、本校に警察の方々が来ていることは既に気付いているようですが、校内で大事件が起きました。 殺人です」

生徒達に動揺が広がる。 気の弱い何人かはこの説明を聞いただけで顔色が悪くなっていく。

「我が校にとっては前代未聞のことなので警察と相談して対応を検討したのですが、正直(しょうじき)に言うと授業どころでないので今日から明後日(あさって)までは臨時休校となります。 その後も状況に応じて授業時間を短縮することがあるかもしれません。 今は事件の詳細を話せないことになっていますし、調査中のこともありますが、数日中には一部の情報を開示することになるでしょう。 警察が諸君から聞き取りすることもあると思いますので、その場合は協力して下さい」

そこまで説明を聞いたところで生徒のひとりから質問が出た。

「先生、死んだのは誰なんですか?」

「それも含めて話せないことになってます。 今日か明日には公式発表があると思うのでテレビを見て下さい。 それと、これが一番大事なことですが、現時点では犯人が誰だか分かっていません。 付近に潜伏している可能性もあるので休校だからと言って遊び歩いたりしないように。 危険を感じるようなことがあれば遠慮せず申し出ること。 ご家族の方に車で迎えにきてもらえるようならなるべくそうして下さい。 では解散! 速やかに帰宅して下さい」

この学校への通学は自転車を使っている生徒が大半だ。 バスも本数が少ないし順路も網羅的ではないのでバス停からそれなりに歩かなければならない。 武器を持った犯人が潜んでいる可能性を考えると自動車で迎えにきてもらえるならそれに越したことはないだろう。

この時間は家に母がいる。 連絡すれば来てもらえるはずだ。 ユウヤの両親は共働きなはずなので、ユウヤも乗り合わせるようにすればいい。

とりあえず教室を出ると、他のクラスの教室からも生徒が出てくるところだった。 私はユウヤを探すが、ユウヤも私を探していたようで、すぐに見付かった。

「ユウヤの親は今日いないよね。 私は今から家に連絡して母さんに迎えにきてもらうつもりなんだけど、一緒に乗ってく?」

「ああ、頼む」

校舎内での携帯電話の使用は校則で禁止されていることになっているが、この規則は有名無実になっている。 そこら(じゅう)であたりまえのように携帯電話は使われている。 教師もいちいち(とが)めたりはしない。

「もしもし、学校内で事件があって今日から臨時休校だって」

『事件?』

「そ、殺人事件。 で、犯人が捕まってないからなるべく車で迎えにきてもらえってことになった」

『えぇーっ! 殺人! 犯人逃げたってこと?』

「いや、犯人はわかってないって言ってた。 詳しいことは教えてくれなかったけど。 そんなわけだから迎えにきてね。 あと、ユウヤも一緒だから」

『わかった。 すぐ行くから待ってて』

石段しかない落日峠(らくじつとうげ)を自動車は通れない。 自動車では遠まわりせざるを得ないが、それでも五キロメートルかそこらなので、のんびり走っても十分もすれば着くだろう。

校舎を出ると体育館の付近が黄色のテープで囲まれているのが見えた。 なるほど、体育館が事件(じけん)現場(げんじょう)か。


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