両思いのジンクスの実践
その日の帰り道。 落日峠を上ろうとしたところで後から声をかけられた。
「おーい! サヤも今帰るとこ?」
ユウヤだった。
「あれっ? 今日は部活ないんだ?」
「顧問の先生が用事でいないんだ。 普段通りのメニューで練習するだけだから勝手にやろうと思ってたんだけど、何かあったときの学校の責任がどうたらで休みになった。 あの先生は練習を見に来たこともないのに」
「顧問の先生って誰? っていうかユウヤは何部だったっけ? 運動部なのは知ってるけど」
「マジで⁉ うわぁ冷たい奴だな。 俺ら友達じゃないのか。 サッカー部だよ。 んでもって顧問は三枝先生だよ」
「国語の三枝にサッカーの指導が出来るわけないじゃん。 それでも何か有ったときには責任を持つつもりがあるんだから真面だよ。 部活の顧問なんて基本的に只働きなんだからさ」
私立校では部活指導にも手当が設定されていたりすることもあるらしいが、公立校では教師の善意のみで成り立っているのが実状というのだから最低限の責任を持ってくれるだけでも僥倖というものだろう。
「それと、以前はともかく、今はほとんど接点もない私とユウヤが友達っていうのは無理があるんじゃね? いかにも理系のインテリメガネだったあんたが熱血サッカー野郎になったら人間関係だって変わるっつーの。 なんでまたサッカーなんか始めたのよ」
「いやぁ。 サッカーで活躍したらモテるかと思って」
「で、思ったほどモテなかったってワケ?」
「部活を見物に来てる女子は結構いるけど…。 それくらいかな」
「適当な可愛い娘に声をかけりゃいいじゃん」
「誰でもいいってわけじゃないんだよ」
「ふーん。 本命がいるんだ」
「まあね。 そういえば、話は変わるけど、この峠のジンクスって知ってる?」
「今日アユミから聞いたよ」
そして、アユミに話したのと同じようにジンクスについての推理を説明した。
「それじゃあ、その、サヤもちょっとはその…」
なるほど。 ユウヤの本命というのは私だったのか。
言い淀みながら赤面するユウヤを少し可愛いいと思ってしまった。
「私の推理は間違ってたみたいね。 このジンクスってユウヤが考えたんでしょ。 ジンクスを利用して私にユウヤを意識させるのが狙いってところかな」
「えっ! 何で…。 何でそんなことがわかった?」
「仕込みが甘いよ。 アユミに言えば私に伝わるのは確実で、今日の内に決行すれば友達の少ない私には裏を取る暇もないと思ったんだろうけどね。 この手の噂は友達に聞くまでもないんだよ」
そう言って携帯電話を開いて見せる。
「いわゆる学校裏サイトって奴。 あんたが熱血サッカー野郎になってる間に私は引きこもりネットサーファーになってたワケ。 サイトで全く話題になってなかった噂をアユミから聞いたから、ここ数日のうちに出来た噂と確信できたの。 そんなマイナーなジンクスをあんたが知ってるなんて、あんたが考えたジンクスとしか考えられないわ」
「バレバレかぁ〜。 考えたつもりだったんだけどな」
「学校中に噂を行き渡らせてからだったら気付かなかったかもね」
「で、結局サヤは俺のことどう思ってんのか聞かせてよ」
「あんたはギャルゲーとかやったことないの? ステータスを上げるにしてもヒロインによって評価のされ方が違うんだよ。 私なら部活での活躍なんかより、成績上位の方がポイント高いね。 それと、狙いをつけたらとにかくその娘に話しかけまくるとイベントに繋がり易かったりね。 接点が無きゃ好きにも嫌いにもなりようがないもん。 今回の回りくどいアプローチは真剣に考えたのがわかるから少し高感度プラスって感じ。 ま、今後に期待ってことで」
「サッカーに注ぎ込んだ時間が全部無駄だったか…」
すぐに何か変わるわけじゃないだろうけど、これからの私とユウヤがどうなるかを少し楽しみにしている。 これはもしかすると、少しユウヤを好きになっているということなんだろうか。 いずれはこのジンクスが本物になることもあるかもね。




