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崎裏町の怪異  作者: 齊藤
化学研究所
18/18

ロケットストーブ

鍵を見付けた次の日、私は化学研究所の跡地へ行ってみることにした。 研究所は小高い位置にあるので町のどこからでも見えるが、実際に行ったことは一度もなかった。 山の(ふもと)から研究所に続く道は研究所へ行くための道であり、他のどこにも(つなが)っていないからだ。 何かのついでに寄れる場所ではなく、研究所に行くつもりで行かなかればならないからだ。

道の勾配(こうばい)(ゆる)やかなのは自動車で行きやすくするためだろう。 そのかわりにウネウネとした長い道が続いている。

私は自転車に乗って研究所に向かった。 よく晴れた夏の日射(ひざ)しの下を自転車で走るのはかなりの苦行で、べったりと汗に濡れた服が肌に貼り付き、ペダルを踏み込む(たび)に体中から汗の飛沫が飛び散った。

大きな水筒によく冷やした麦茶を入れて持ってきてはいたが、所々(ところどころ)にある陰で休憩するたびに中身はどんどん減っていった。

当初はどうしてこんな馬鹿げたことをしているのだろうと思ったが、次第(しだい)に頭が回らなくなってくる。 意味を考えることさえしなくなった頃にようやく研究所に辿り着いた。

研究所の門には(いま)だにはっきりと読み取れる字で会社名が刻まれていた。 意外だったのは会社名だけが刻まれていたということだった。 研究所という記載はない。

そして私が鍵を取り出しながら建物の裏側へ行くと、そこには鍵を差し込むべき鍵穴はなかった。 いや、ドアノブが、というより扉そのものがなかった。 蝶番(ちょうつがい)の残骸と思われる()びた(かたまり)がかろうじて貼り付いているのが見てとれるだけだ。

私が持っていた鍵が本当にここのものかどうかはわからないが、入ることが出来るならどちらでも良いかと思い直して入口に近付いた途端(とたん)、背中を押すように強い風が吹き抜けていた。

建物の中に入ると、中央は吹き抜けになっていて屋根に大きな丸い穴がある。 穴の場所には元々はガラスのドームでもあったのだろう。 夏の熱気で温められて建物の内部に上昇気流が出来ているのだ。 風が上に流れれば、その分の大気は入口から入るしかない。 強い風はそれが理由のようだ。

この建物の風の流れをみて、私はロケットストーブを連想していた。 あらためて建物の内部を見渡すと、火災の(あと)が明らかだった。 火災で天井に穴があけばロケットストーブのように(さら)に大きく燃え上がったことだろう。 おそらく火災を機会にしてこの建物は放棄されたのだ。

強い違和感を感じたのは部屋と通路を仕切る壁が足りないことだ。 中央の吹き抜けや壁の構造を見た感じはまるでデパートのようだ。 研究所の構造とは思えない。 私は建物の内部を歩いてみたが、建具(たてぐ)やその他の内装はほとんど残されておらず、実際にどのように使われていたのか(うかが)わせるものを見付けることは出来なかった。

建物の内部はとにかく暑くて、あまり長時間はいられなかった。 隅々(すみずみ)まで見るのは諦めてすぐに外へ出ることにした。 (すで)に水筒の中の麦茶は半分以上を消費していたので、このままだと命の危険すらあるので急いで帰ることにした。

帰り道の下り坂を自転車で走り抜けるときに感じる風に少しほっとしながら、あの建物が本当は何だったのだろうという疑問が頭の中を(うず)まいていた。


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