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崎裏町の怪異  作者: 齊藤
化学研究所
17/18

夏休みに入った。 特にやることもない。

積んであった本を崩し、だらだらと適当な小説を読んだ。 吸血鬼になってしまった少女が様々な困難を乗り越えていくという物語だ。 最後には日常に帰っていくのだが、吸血鬼としての性質は残ったままで、日常でありながら元の日常ではないという場面で終わる。 後味(あとあじ)の悪い結末である。

この物語ほどのことではないが、ありふれた日常にも不可逆な変化はありふれているじゃないかということに思いを馳せた。 今日という一日を過ぎれば一日分だけ歳をとる。 だからと言って一日一日を充実して過ごそうというほど私は生真面目(きまじめ)ではなく、やっぱりだらだらと過ごしてしまうわけだが。

あまりにもやることが無さすぎて、本の並びを変えてみたり、机の引出しを順番に開けてみたりもした。

すると、ふと、鍵が目についた。 十年ほど前に道端(みちばた)で拾って何気なく引出しに突っ込んだままにしていた鍵だ。 資材搬入口と書かれたタグがついている。 崎裏(さきうら)町は住宅街なので工場はなく、資材搬入口があるような建物は基本的にない。

別の町の建物の鍵かもしれないし、誰が落としたものかもわからないので、どこの鍵か突き止めることは出来ないだろうと思っていたのだが、久々に見ると唐突(とうとつ)(ひらめ)いた。 山の上の方に化学研究所の跡地があるのだ。 四崎(よつさき)崎裏(さきうら)(へだ)てる山とは逆側の山の中腹にある。 研究所はどこかの化学系の企業が建てたが、私が産まれるよりも前に閉鎖されている。 細菌やウイルスも扱うので、万が一の事故に備えるという理由でこんな田舎が選ばれたのだという。 窓がほとんどないのも、細菌やウイルスが外に漏れないように配慮したからだろう。 そんな研究所に何某(なにがし)かの資材を持込む必要があることだってあるだろうし、資材搬入口があってもおかしくない。

どうせ(ひま)なのだ。 鍵がそこの物か確かめに行ってみよう。


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