刑事達の聞き込み
母の自動車にユウヤと共に乗ると車載ラジオがかけられていた。 しかし、まだ死体が発見されたという速報が繰り返されるのみだ。 学校の周辺でマスコミ関係者らしき人も見なかった。 ヘリコプターは飛んでいたので、あれが報道ヘリだったのかもしれない。
一方、警官はものすごい数が動員されたようだ。 家に着くまでの道程では視界のどこかに二人以上の警官がいた。
「うわぁー。 本当に事件な感じ」
不謹慎ながら母は少し楽しそうに聞こえる声でそう言う。 わからなくもない。 この田舎町ではささいな事件が大事件になるというのに、これほどの数の警官が動員されるほどの本当の大事件が起こったのだから。
さて、母の無邪気な声とラジオ放送を聞きながら、私は事件のことを考えていた。 どうして被害者が誰かということすら秘密なのか? 私が今まで推理小説などを読んで知った知識を思い返す。 発見者と警察以外に現場の状況を知ってる者がいればそれが犯人だと特定できるので一部の情報を伏せるという話を読んだことがあったはずだ。 今回もそれだろうか? だが、さすがに被害者を伏せ続けるのは無理じゃないのか…。
自動車を庭に駐車して私達が降りたところで敷地の前の道路から声を掛けてきた人がいる。
「君が三坂ユウヤくんだね?」
彼らは県警の佐藤警部と吉田巡査だと名乗ったが、名乗るまでもなく何者かというのは一目見てわかった。 いかにも刑事という雰囲気のある中年男と少し頼りなさそうな痩身の若者というテレビドラマそのままの様子を見て、ああ、刑事が基本的に二人組で活動するというのは本当のことだったのかと、変なところで感心してしまった。
そしてなるほどとも思った。 事件の情報が広まる前に素早く聞き込みをするつもりなのだ。
刑事達はユウヤに聞きたいことがあると言ったが私の母はそれに立ち会うと主張した。 出来れば遠慮して欲しいと刑事達は返答し、その口調はやんわりとしたものではあったが、母の主張を聞き入れるつもりはまるでなさそうだ。
私はそのやりとりを遮って尋ねた。
「死んだのは三枝先生ですね?」
私がそう聞くと吉田巡査はあからさまに驚いた顔をした。 佐藤警部はさすがに警部の貫禄で驚きを顔には出さなかったものの、少し咎めるような口調で私に問い質してきた。
「誰に聞いた?」
今日は授業もなく教室で駄弁っていただけだが、携帯電話での情報収集も少しはしていた。 欠席していた学生は数人で、それも欠席者の友人の誰かが電話なり電子メールなりで連絡をとっていることが確認できている。 そして各クラスへは担任教師が現れている。 少なくとも殺人の被害者は学生ではないし、各クラスの担任を受け持っている教師でもない。
「聞いてませんよ。 刑事さんがこんなにすぐに来たからわかりました」
警部というのはそこそこ偉い人なのである。 何の根拠もないところにいきなり現れるのはおかしい。 ユウヤに聞き込みにくる理由があるはずなのだ。 そして他の聞き込みが進んでいないであろうこの時刻に来たということは誰かの証言を参考にしたのではなく名簿などを見てやってきたのだと推論しても不自然なことではないだろう。
学校内でユウヤが属している集団で名簿が存在するものといえばクラスか部活くらいしかない。 クラスの担任が健在である以上は部活の顧問が被害者であると結論できる。 ユウヤはその部活もつい最近やめているのだ。 記録だけを見れば何か揉め事があってやめたのではないかと思われても仕方がないし、一番に聞き込みにくる理由としては十分なものだ。
それを丁寧に説明すると、刑事達は納得したようだ。
「理由がわかっているなら話は速い。 ユウヤ君に聞き取りをしても構わないね?」
「いや、ユウヤが部活をやめた理由は私も知ってるというか、私が理由というか。 三枝先生は関係ありません。 そもそも先生は顧問といってもあまり部活には関与しなかったみたいですし。 それについて私とユウヤから個別に聞き込みをして話が一致すれば信憑性が高いと思うので、そうしてもらえませんか。 内容的に母に聞かれるのは気まずいので立会わせませんから」
「なるほど。 まあそれならいいだろう」
私の方から母を説得し、私とユウヤに個別に聞き込みされることになった。 ユウヤと吉田巡査はパトカーの中で、私と佐藤警部はうちの庭のベンチで話をした。 ユウヤが作ったジンクスの話からその結末まで詳細に。
話を終えると佐藤警部はニヤニヤしながら言った。
「青春だなぁ。 やれやれ、それが本当なら疑った私が不粋だったな。 一応、吉田の方で聞いた内容と突き合わせるがとりあえずは信用してもよさそうだ」
事件の被害者が三枝教諭というのは公式発表があるまで黙っているようにということだけ念押しした後、佐藤警部は私の母に挨拶だけして引き上げていった。




