闇夜に忍び寄る黒い猫
ヤツはいつも俺が帰宅する頃合いを見計らってやって来る。仔猫を咥えて忍び寄って来るその猫は執念深かった。親仔とも真っ黒で実に薄気味悪い。
その日、仕事を終えた俺は午後九時少し前に自宅マンションに帰った。夏も真っ盛り。この時間になってもクーラーのスイッチを入れたばかりの部屋は蒸し暑く、俺は冷蔵庫から缶ビールをひっぱり出した。無造作にプルキャップを開けたその時だった。
かすかに足音が聞こえてきた。
(ヤツだ!)
周りの住民には気づかれぬよう、不気味なくらい静かな足音で近寄ってくる。俺は気持ちを落ち着けようと思い、ビールを一口、ゴクリと飲みこんで玄関ドアに目を向けた。
ほどなくインターホンが鳴り、しゃがれた声が聞こえてきた。
「宅急便で~す。毎度お世話になってまーす」
俺は急いでドアを開けた。
「どうもご苦労様です。いつもこんな時間に届けてもらってすいませんねえ」
「いえいえ仕事ですから。じゃあここにサインしてください」
お中元が届いたのだ。今の季節、きっと日本中で夜遅くまでクロネコが駆け回っているに違いない。