第八章、思いやり
この物語はフィクションで、登場する人物や建物は実際には、存在いたしません。
尚この技は架空であり、実際に物理的に出来る技では有りません。
今日の仕事は午後からで、午前中の出来事である。
玲菜は竜彦の自宅のリビングのソファーに座り、
携帯電話で電話を掛けていた。
玲菜、「うん、今は落ち着いてる。
そう横浜の住宅街。
来週にはお母さんに竜彦君を紹介するから。
うん幸せよ。
へ、スーパーで偶然会ったの。
そうやっぱりまだ諦めてないのね。
聞かれたんだ。
それなら安心よ。
私はまだ浜松市に居ると思っている様なら」。
母からの電話で、玲菜の安否を確認している様であった。
母親が近所のスーパーで買い物をしている最中、
コーチと出くわして母は嘘を付いて玲菜は未だ、
浜松市の何処かで働いていると告げていたが、
具体的な職場は告げなかった様である。
母にはまだ竜彦を見せしてはいないが、
事情は告げていたのであった。
母も一人でアパートで暮らして居るよりも、
同姓はしているが、竜彦の両親が離婚して残して行った豪華な、
セキュリティー万全の、この邸宅で暮らしている方が安全と考え、
同姓を許可している様であった。
有田 裕子、元玲菜のフィギュアスケートのコーチは、
玲菜をオリンピック代表選手に、
伸し上げる事を諦めてはいない様で、
玲菜のストーカー行為に走る裕子を、
母の力では止められなかった。
従い逃避行する玲菜を見守るしかなかった。
危険な技アクセルスクリューは、世界中で確認されている中でも、
玲菜しか出来ない技である。
世の中にお披露目されていなかった玲菜の技が、
目立たない古びたスケートリンクでは在ったが、
横浜市内だけではあるが、広く確認されてしまった故に、
有田 裕子の耳に入るのも、時間の問題である。
だがあえて竜彦は勝負を掛けた。
逃げ回るだけでは玲菜に対する、
有田 裕子のストーカー行為は止まないと踏んだ竜彦は、
有田 裕子を誘い出し、自ら玲菜との仲に入り話し合うつもりであった。
玲菜は十二時前には、秋山が経営する喫茶店サファイヤに出向き、
厨房に入って料理の手伝いをしていた。
隣で料理を作っている明子が玲菜に、「助かるわー。
店の即戦力に成ってくれて」と、礼を言うと玲菜は、
パスタをフライパンで炒めながら、
「昔から飲食店に勤めるのが好きだったから、
明子さんの手伝いが出来て光栄です」と、
告げると明子は微笑み、「竜彦君良かったわね。
こんな真面目な子を彼女に出来て、私も嬉しいわ」と、
称えると玲菜はその時、微笑んだのであった。
喫茶店の客が入るピークは十二時半を過ぎてからである。
今までは夫婦二人と明子の母親で賄っていた喫茶店が、
一人増える事でかなりペース配分が円滑に成り、
経営者達は玲菜が店で働いてくれる事を、心から感謝していた。
尚且つ素直で真面目な玲菜である為に、玲菜が店を手伝ってくれる事に、
心から喜びを感じていたのであった。
要約ピークが過ぎて落ち着いた、喫茶店サファイヤであった。
すると秋山がテーブルを布巾で拭いている玲菜に、
「ご苦労さん助かったよ。
玲菜ちゃん今まで飲食店に、勤めて貰っていて感謝してるよ。
いやー 本と助かった」と、胸を撫で下ろした。
玲菜、「こちらこそ有難う御座います。
要約横浜で知り合いが出来ましたから」と、玲菜も感謝した。
秋山、「もっと早く玲菜ちゃんに、手伝って貰えば良かったな。
開業から四年目、この時間をどう切り盛りするかで、
今まで四苦八苦だったよ。
明子のお袋だって若く無いし、ガキのおもりも疎かにして、
店を手伝わせて忙しい毎日だったから、
そろそろ休ませないと、どうかなっちまうと心配でいた所に、
妖精が現れたよ有り難う」と、秋山も感謝した。
その時、玲菜はてれながら、
「妖精だなんて大層な者では無いけど、
これから頑張って働きますので、
宜しくお願いします」と、一つ頭を下げた。
それを聞いた秋山は感動して、「いいねー いいねー、
あいつは良い嫁を貰ったねー」と、羨ましそうに答えた。
玲菜はまたてれながら、
「私はまだ婚約すらしてませんよ」と、否定すると秋山は、
「もう竜彦の新妻みたいなもんだぜ。
一つ屋根の下で暮らしてるのだから。
あの強力竜彦と、暮らしているなら安心だろ」と、悟った。
玲菜は微笑んで、「はい頼もしいです」と、喜んだのであった。
すると急に弘美が店の奥からやって来て、弘美は秋山に、
「ねえねえね、今日は横浜のテーマパークで、
秘密戦隊ユガマイザーのショーが有るんだよ」と、
叫んで手に持っていた広告を見せた。
それを聞いた秋山は、「ユガレンジャーのショーお」と、首を傾げた。
弘美は首を振り、「違うの違うのユガマイザーだよ」と、否定した。
秋山は弱った顔で、「お前今日は兄ちゃんは作品を出品する為に、
美術商に行ってるし、婆ちゃんもママも晩に掛けて、
メニューの仕込みに入るしだな。
買い物にも行かないといけないしだな」と、
ぶつぶつ呟いていると玲菜が、
「今日はスケートリンクが休みなんです。
もしお時間頂ける様でしたら、
私が弘美ちゃんをテーマパークに、
連れて行きますが」と、応じると秋山は申し訳無さそうに、
「弘美、お前お姉ちゃんに我侭言うんじゃねーぞ」そう言って、
ズボンの後ろのポケットから、財布を出すと。
大胆にも財布に入っている、
一万円札を全て出して玲菜に差し出した。
十万円は有った。
それを見た玲菜は驚いて、
「そ、そんなお金は私が出しますから」と、
突っぱねたが秋山は顔が強張り、「いいって、いいんだって。
玲菜ちゃんは真面目だから、
この子に償いたい気持ちも有るんだろ。
弘美から兄ちゃんを横取りしたって。
そんなんじゃねーのは俺も解っちゃいるけど。
玲菜ちゃんの思いが俺にも伝わるし、
何より玲菜ちゃんも、この子が可愛いのはよく知ってんだ。
それにだな、これからこの店を手伝ってくれるお礼として、
一緒にそのゴガレンジャーを見て楽しんできな」と、
そんな秋山の粋な計らいに玲菜は素直に、
「はい、有難う御座います」と、
頭を下げ金を受け取ったのであった。
その時、弘美は、「ゴガレンジャーじゃないよ、
ユガマイザーだよ」と、強く秋山の言い間違いを指摘したのであった。
早速電車で山下埠頭近くの、開港広場前駅で降りると、
そこから小規模のテーマパークが見えた。
テーマパークに歩いて行くと、
山下ベイシティーランドと、
書かれた看板を目にした二人ははしゃいだ。
入り口には大きく秘密戦隊ユガマイザーショーと、
看板が立て掛けてあった。
それを見るなりはしゃぐ弘美だった。
玲菜も嬉しそうに、弘美を連れてチケット売り場の窓口に並ぶと、
玲菜は窓口の係員に、二人分のチケットを頼み購入した。
早速場内に入場すると、子供と手を繋いだ母親が多かった。
皆ユガマイザーショーが目的の様で、
案内が無くても子連れの親子と、同じ方向に歩いて行けば、
ショーを行う場所に辿り着ける様であった。
弘美と手を繋いでいた玲菜は、入場者達と一緒に自然と、
同じ方向に歩いて行くのであった。
そして人々が集まっている場所で足を止めた二人は、
並んだ所が二列目なので、前列は座ってくれていた為に、
舞台がよく見えたのであった。
するとテーマ曲が流れ、ショーの始まりを告げていた。
五分程度テーマ曲が流れてから、
ヒーロー特有のポーズを決めながら、
舞台裏からヒーローが登場すると、
子供達は手を叩いてヒーローの名を呼んだ。
弘美も同じく興奮しながら、自分が好きなヒーローの名を呼んでいた。
普段は生意気な弘美ではあったが、
この時ばかりは無邪気な子供で有る事を表していた。
ショーの流れで悪役が出てくると、弘美の興奮は更にエキサイトした。
片方の腕を前に突き出して、拳を握り締めヒーローを応援すると、
周りの子供達も同調して、同じ様に片方の腕を前に突き出して、
ヒーローの名前を呼んで、ヒーローを応援していた。
そんな弘美を見ていると、
何だか玲菜も童心に返り顔が綻ぶのであった。
ショーが終わると飲食店に入り、
ソフトクリームを食べる二人であった。
食べ終えると今度はジェットコースターに乗り、
奇声を上げながら堪能していた。
メリーゴーランドに魔法のじゅうたん、
海賊船と次々にアトラクションを楽しむ二人だった。
最後に落ち着くアトラクションは、やはり観覧車であった。
早速観覧車に乗り込む二人は、今まで激しい乗り物だっただけに、
観覧車の中では、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
すると弘美が玲菜を見詰めて、「お姉ちゃんちっちゃい頃は、
何処の遊園地に遊びに行ったの」と、
聞かれると弱ってしまった玲菜であった。
玲菜、「お姉ちゃんね、小さい頃は親に遊園地に、
連れて行って貰った事が無いの。
お父さんが早く亡くなったから、
普段はお母さんが仕事に出ていて、
土日はお母さんは仕事に疲れて、
家で寝ていたから、遊園地なんて行く元気が無かったの。
初めて遊園地に行ったのは、
小学校四年生の遠足の時だったの」と、
生い立ちを語ると、弘美は切ない顔になった。
そして弘美は、「私と同じだね。
私が産まれて直ぐに、お店が忙しく成って来たから、
パパとママに遊園地なんて、連れて行って貰った事が無いの。
いつも竜彦兄ちゃんに連れて行って貰ってた」と、
語ると玲菜は、「兄ちゃん優しいね。
今度は兄ちゃんに代わって、私が仕事の合間にいっぱい色んな所、
連れて行って上げるからね」と、
優しく告げると弘美は微笑んだのであった。
すると弘美は、「お姉ちゃん、兄ちゃんに甘えてるの」と、
尋ねられると玲菜は微笑んで、「いつも甘えてばかりだよ。
もっと私は強く成らなければいけないのに、
兄ちゃんがそこに居るといつも、
頼ってばかりなの」と、自省した。
弘美は、「兄ちゃん昔は今よりも、
もっと怖い顔付きだったんだよ。
でも急に変わった。
お姉ちゃんが現れた時から、急に顔が怖くなくなったの。
お姉ちゃんをスケート場で起こして上げた時から、
よく解らないけど急に、帰りの自動車の中で何か考えていた。
その時から顔が怖く無くなったの。
お姉ちゃんやっぱり妖精なんだよ。
兄ちゃんを怖い顔に、させなくする魔法を掛けた妖精。
私もお姉ちゃんと会ってから、何だか気持ちが楽に成ったの。
お姉ちゃんはパパもママも、
真理姉ちゃんも変えて行く、魔法を掛けた妖精。
真理姉ちゃんも急に怖く無くなったし、
亮兄ちゃんには魔法が利かないみたいで、前と変わらないけど、
雄太や翔太も同じ事を言ってたよ。
お姉ちゃんが来てから急に皆んな、優しく成ったって」と、
語ると玲菜は急に弘美が愛しくなり、
座っていた椅子から放れて突然弘美を、抱きしめたのであった。
玲菜は一頻り、弘美を抱きしめたまま、「有難う私は弘美ちゃんを、
天使だと思っているの。
弘美ちゃんが、兄ちゃんをスケートに誘わなかったら、
私は兄ちゃんと出会えなかった。
弘美ちゃんが居たから今の私が有るの。
幸を得た私がここに居る。
有難う私の天使、ずっと私の側に居て欲しい。
私を闇の世界から救ってくれたのはあなたよ。
だからずっと私の天使でいてね」と、自分の思いを伝えると、
玲菜は泣いた。
その時、そっと弘美は玲菜の涙を指で拭って上げると、
弘美もその玲菜の気持ちが伝わって行く。
誰も居ない二人だけのこの空間は、
二人だけが感じる互いの思いやりであった。
二人は今心が一つに成っていた。
幼い頃、同じ境遇で寂しい思いを分かち合うかの様に。
そして同じ男性から優しさを与えられた二人は、
天使と妖精に変わった事は、言うまでも無かった。
今万感な思いを胸に秘めた二人は、
心が通じ合う掛け替えの無い、心の友に成った様である。
遊園地を満喫した弘美と玲菜は、
店に戻る頃にはもう日が暮れていた。
店内に入るとカウンターには入り口から見て、
真理、竜彦、亮の順に座っていた。
カウンターの中には秋山と明子が立っていた。
玲菜は店の扉を開けて、
先に弘美を店内に入れて、自分はその後から入った。
すると一斉に、「お帰り」と、声を掛けてくれた。
弘美は上機嫌で空いてるカウンターの椅子に座り、
足をブラブラさせていた。
玲菜は、「只今帰りました」と、
カウンター越に秋山と明子に頭を下げると、
明子が、「玲菜ちゃんに、弘美のおもりさせてごめんね」と、
謝ると秋山も、「悪りーな、店だけじゃなく、
娘のおもりまでさせて」と、面目無さそうであった。
玲菜は笑顔で、「いえ、おもりだなんて。
私も楽しませて貰いましたから」と、謙遜した。
すると玲菜は秋山から貰った、
お小遣いの余りを秋山に差し出した。
八万円残っていた。
それを見た秋山は、「だからとっときなって」と、
言われると明子も、「それはこれから、ここで働いて貰う為の、
手付金だと思って取っておいて」と、労われた。
玲菜は一つまた頭を下げて、「有難う御座います」と、礼を述べた。
その時、皆微笑んだのであった。
真理、「弘美御機嫌だね。
お姉ちゃんに甘えて来たな」と、勘繰ると弘美は、
「兄ちゃん良い女を見つけたよ、
兄ちゃんにはもったいない」と、生意気な口を聞くと、
竜彦は、「ったく誰に仕込まれたか、生意気なガキが」と、
怒ると弘美は、「兄ちゃんだって同じだよ。
ちっちゃい頃は生意気だった癖に」と、言い返した。
真理、「おーおまた始まったか、
相変わらず仲が良いね」と、からかった。
亮、「恋敵が拗ねてるのか」と、やはりからかうと、
明子は、「拗ねてる訳じゃなく、
てれながら褒めてるのよ」と、悟った。
秋山、「竜彦と弘美はお互い素直じゃねーんだよ。
お互いストレートに褒めるのがてれ臭せーから、
どこか茶々入れて褒めねーと、気が済まねーんだよ」と、
悟ると明子が、「それは父親譲りだね」と、断言した。
秋山も、「俺はそんなに捻くれてねーよ、母親譲りだろ」と、
言い返すと明子は、「あんたは昔から、
全て世間から逆らって生きて来たんだから、
あんたのせいだよ」と、強調した。
秋山は、「おめーに言われたかーねーなー。
泣く子も黙る浜ではワルで有名だったヘッド噛ましてた、
野田の明子姉さんがよー」と、対抗すると呆れた真理が、
「だから両親譲りでしょ。
だいたい竜彦が幼い時から今まで、面倒見たのは秋山の兄貴でしょう。
それに竜彦と弘美は、年の離れた兄弟みたいなものよ。
それと明子さんだって未だに浜では、一目置かれている存在よ。
暴走族サファイア、レディースヘッドの明子と呼ばれて」と、
咎めると二人は、大人しくなってしまった。
それを見た竜彦が、「兄貴、人の事言えない立場だから、
もう昔の事で争うの止めろよ」と、忠告した。
秋山は、「もう兄貴と呼ぶな、
マスターと呼べマスターと」と、咎めると亮が、
「なんか未だにマスターと呼べないんだよな。
だから精一杯秋山さんだな」と、首を傾げて弱ってしまった。
真理は、「私も兄貴の方が馴染んでるけどね」と、やはり首を傾げた。
竜彦、「それよりも、この間もそうだったが、
弘美が玲菜の事を褒める時は、
お互いの気持ちを、確かめ合った時ではないのか」と、悟った。
玲菜は真理の横の椅子に腰掛けて、「うん、
全て今この環境を与えてくれた切欠は、弘美ちゃんだから、
観覧車の中で感謝したの」と、告げると皆思いに更けた。
明子、「そうだね、弘美が兄ちゃんをスケートに誘わなければ、
一生竜彦君と出会えなかった訳だから。
玲菜ちゃんは弘美に感謝したいよね」と、
感じると真理は、「真面目だよね玲菜は。
でも不思議に玲菜 一人ここに置くだけで、
皆んなの過去の蟠りが解けて行く様な気がする。
それは玲菜も含めてだけど、何だか以前よりも皆んな、
穏やかに成って行く様な気がして成らないの」と、感じた。
亮が、「そう言えばそうだな。
以前は弘美も真理も竜彦も秋山さんも明子さんも、
仕事や対人関係や親の事ででイライラしていたのに、
玲菜ちゃんが俺達の仲に入ると、
自然と綻んだ様な気がするな確かに」と、悟った。
秋山、「だから玲菜ちゃんは妖精なんだよ」と、
確信すると弘美が秋山に同調して、「だからお姉ちゃんは皆んなに、
笑顔に成る魔法を掛けたんだよ」と、強調した。
そんないたいけな表現に皆、感銘を受けたのであった。
オリジナル:http://blogs.yahoo.co.jp/kome125/folder/1536491.html




