第六章、バースデー
十二月に入り、浜辺は白波が立つ程海は荒れていた。
今日は玲菜の誕生日。
竜彦は玲菜を連れて、電車で東京都内に足を運んだ。
そこはオーダーメードで、スケートシューズを作る店であった。
玲菜の気に入った靴と、
最新のエッジが付いたシューズを求める為に。
玲菜は嬉しそうに、足の寸法を測って貰っていた。
事細かな足の形状を取ると、
一ヶ月位で特別注文のシューズが、完成する運びに成る様であった。
そして二人は店を出て、渋谷のユニホーム専門店に足を運ぶと、
ここでも自分が気に入るユニホームを、
オーダーして貰いに来た。
画家である竜彦は、事前に玲菜が気に入るユニホームを、
スケッチブックに描いていて、
それをオーダーする事に決めていた。
三着のユニホームを注文する玲菜。
全てブルーがメインのユニホームであった。
ショップでボディーサイズを測ると、
玲菜は嬉しそうに竜彦に寄り添った。
それから渋谷のレストランで、食事を済ませた二人は、
スカイツリーの最上階に上り、
都内を見下ろして空街でショッピングを楽しむと、
地元に戻り竜彦の自宅へと足を運んだ。
玲菜は今日初めて竜彦の自宅を訪れる。
親が残した竜彦の自宅は高級住宅で、
竜彦は玲菜をリビングに案内すると、
リビングには竜彦が描き掛けの、
複数の張り上げキャンバスが、イーゼルに乗せられていた。
玲菜はそれを一枚一枚じっくり見ていた。
竜彦は台所に行き、コーヒーを入れていた。
茅ヶ崎の夕日が沈む浜辺やサファーの姿。
海に浮かぶヨット。
海辺ではしゃぐ子供達や 一羽のかもめ。
住宅街を走る江ノ島電鉄。
普段何気ない風景でも、竜彦がキャンパスで表現すると、
何処か切なく見えた。
いくつか置かれた作品を見ていると、一枚の作品を見詰めた玲菜。
それは女性のスケーターが、リンクで高く宙に舞い上がり、
光り輝く天を仰ぐ姿だった。
すると玲菜は 一滴の涙が頬を伝った。
竜彦がリビングに姿を現し、
テーブルにコーヒーカップを二つ置いた。
そして玲菜の所に来て、玲菜の背中からそっと、
玲菜の両肩に両手を置いた。
竜彦、「オリンピックで輝かなくても、君はこの横浜で輝けるさ。
寂れたスケートリンクに、花を咲かせ始めている。
浜では噂が広まり、あの寂れたリンクに君を人目見ようと、
訪れる客が増えている」と、語ると玲菜は振り向いて、
自ら竜彦に抱き付いた。
そして玲菜は、「有難う私の天使、有難う私を愛してくれて。
こうしてあなたの愛情に包まれて、
私は暗の世界から輝ける舞台に降り立てた。
二十歳の誕生日のプレゼントそれは、この温もり。
あの時リンクで手を差し伸べられた時から、
私を天国へと導いてくれたあなたは、私の天使よ。
追いかけて来る悪夢から、闇雲に逃亡して辿り着いた先で、
あなたに導かれ、天使達が待つ世界に連れて行ってくれた」。
そして二人は見詰め合った。
万感の思いでキスをした。
二人だけのこの空間に竜彦からの、
愛のメッセージをプレゼントされる様であった。
最高のプレゼントそれは、今結ばれ様とする二人。
形で有る事寄りも最高のプレゼントそれは、愛し合う事である。
あ な た の 海に 浮 か べ て...
作詞 Shiny Pastel Moon
愛しい人が隣で眠る毎日を
I who hope 心に刻むの
朝、顔を近づけ見つめると
深い眠りに落ちていた彼が愛しくて..
私は、その頬にキスをした
さり気ない事が、幸せと感じた時
心を満たす何かが有るのだろう
今満たされる私の思いを感じてくれたあなたは
迷うことなく心と共に捧げるの
この世に生まれて一番愛した貴方に
捧げた喜びをI do not forget it
I cut it in heart I never forget it
(ギターとインストラメンタル間奏)
彼は少し眼を開け、私を抱き寄せた。
私は目を瞑る彼に
愛してるって聞いたら眠ってた
一人じゃない私を感じていたいの
何時までも遠く輝く星の様にwish it to God
あなたに問いかけた
Friend of your heart be only me何時までも..
ささやかな恋の行方は、あなたの心の海へ解けて行く、
そんな時が続く毎日が欲しいの
あなたの広い心の海に、私を浮かべて居て欲しい
沈まないように、荒れない様に
優しく包んでそして
穏やかの海を演じて欲しい…
そう..あなたが私を見つけたの
やるせない世界からから私を
もう雨でもいい、闇でもいい
側にいて居て私を抱いていてくれればいい
大人しくしてるから
あなたの温もりさえあれば
優しいあなたがいれば何もいらない
I believe eternal love ….
ベッドで営みを終えた二人は、竜彦は玲菜を見詰めていた。
玲菜は竜彦の胸に頬を付けて目を瞑っていた。
すると一滴の涙が竜彦の胸に落ちた。
玲菜は瞼をそっと開いて、落ちた涙を人差し指でいじっていた。
いじりながら玲菜は切ない顔で、「ごめんなさい、
ベッドで泣く女の子なんて魅力ないよね。
私は今まで男性の経験が無いの、
だからあなたを、満足させる様な事は出来ない」と、
嘆くと竜彦は玲菜の髪をなでながら、「そんな事考えるなよ、
今日は玲菜の誕生日なんだから、
俺が君を満足させるのが勤めだ」そう言うと、
玲菜は竜彦の胸の中で甘えた。
玲菜、「今までずっと夢中で、スケートばかりを追いかけて来たの。
だから恋愛なんて眼中に無かった。
甘えられる人も居ない、自分だけが頼りな毎日を送って来た。
コーチに求められそれた事を、叶える事で満足していた私は、
求めると言う事が出来ないまま、追われる立場に変わって行った」。
竜彦、「玲菜は身も心も俺とは違う。
俺は今まで逆らう事しか頭に無かった。
十五で無免許でバイクに乗り、夜な夜なバイクで飛ばすと、
警察に捕まりブラックリストさ。
街ではワルとレッテルを張られ、悪友だけが俺の周りを囲んだ。
浜の壁中落書きをして回り、いつしかその仲間が群れて、
ワルの集団の誰かが粋がってネームを付けた。
デスアローゼ。
粋がる集団は身も心も汚れて行った。
ドラッグに溺れて行く連中が跡を立たなかった。
エスカレートすれば詐欺や喧嘩リンチ、
車の盗難や車内のカーステレオやカーナビを外し、
ネットオークションで売り捌いて金を得ていた。
俺はそんな仲間と縁を切りたくて、真っ当な人生を歩みたく成り、
サーフショップで働いたが、
ワルは俺みたいな喧嘩の強い奴を片棒にすれば、
闇金融でも取り立てるのに有利と考えて、
ブラックなビジネスを俺に持ち掛けた。
俺は頑なに断り続けたが、ワルは名が通っている奴をどうしても、
ビジネスに参加させたく成り、集団で俺に脅かしを掛けて来た。
『テメーの家族や知り合い共々、どうなるか解っているのか』と。
気が弱ければその時点で警察に相談するが、
気が強い俺は、そいつらのアジトに一人で乗り込み、
素手でボコボコにした。
噂通り十対一で。
それから俺は浜ではどんな悪党からも、
一目置かれる様な存在に成ったが、
そう成ると地元では働く所を失った俺だった。
ワルで名高い俺は路頭に迷う。
するとそんな俺を拾ってくれた、知り合いが居たんだ。
秋山 清二さん。
そう喫茶店サファイアのオーナーさ。
あの人は昔は地元でバンド活動に励み、
若い頃は俺と同じで相当ワルだった様だ。
俺が小学生の時の話だ。
家も近所であった為に、よく遊んでくれた。
俺が今のあのやんちゃなガキ共にしている様に。
秋山さんは当時、今の俺みたいに皮ジャンを来て、
アメリカンバイクを乗り回し、リーゼントヘアーでライブハウスで、
地元の粋なロックンロールバンドのボーカルだった。
俺はそんな秋山さんに憧れていたが、
秋山さんもロックだけでは食べて行けず。
喫茶店を経営する事にした。
そして今の奥さんである明子さんと結婚した。
十年越しの愛を実らせた末にね。
何度も別れては、また付き合う事を繰り返して。
子供が出来たらバンドを解散して、今の喫茶店一本で営んでいる。
その秋山さんが知り合いの、
絵画鑑定士の水野と言う人に、俺がいたずらに街で壁に描いた、
落書きの写真を見せたら、絶賛してくれた。
それから俺は見る見る内に、
その才能が認められて今があるんだ」と、語り終えると、
玲菜は、「そしてあなたは私をこうして、愛の世界へと導いてくれた。
男性から誕生日を祝って貰えるのも、
プレゼントを貰えるのも初めて。
こうして愛されるのも」と、言ってまた竜彦の胸で甘えた。
そんな玲菜が急に切なく、そして愛しく感じた竜彦は、
玲菜を急に強く抱きしめて、激しい愛の世界へと誘った。
もだえる玲菜は二十歳の誕生日に、初めて心の底から愛した男性に、
抱かれた喜びを噛締めるのであった。
男性経験は未熟だと言うも、
竜彦の激しい愛に少女から、大人の女にさせられて行く玲菜。
今目覚めようとする性に、時より玲菜は激しく体を仰け反らした。
玲菜は初めてこの時、女である喜びを噛締めたのであった。
何時間眠っていたのだろうか。
玲菜は目を覚ますとベッドの上の、
白熱電球の電気スタンドだけが点いていた。
ふとベッドの回りを探したが、竜彦は居ない。
窓の外は既に暗くなっていた。
急に孤独に襲われたが、
ベッドの上の電気スタンドの辺をよく見ると、
紙に何か書かれていた。
その紙を持って読むと、[お目覚めかい、俺はキッチンに居るから、
部屋を出て廊下の突き当たりだ]と、書かれていた。
玲菜は部屋を見回すと、自分の着けていた下着と衣服が、
椅子の上に畳んで置かれていた。
玲菜は裸のまま掛け布団を身に纏い、
そのまま部屋のドアを開けて、廊下をそっと歩いて行った。
台所の扉を開けるとテーブルには手料理と、
その真ん中にはケーキが置かれていた。
竜彦はそんな玲菜の姿を見て、「服着て来なかったのか、
分る様に椅子に畳んで置いて有ったぜ」と、問いかけると、
玲菜は微笑んで、「いつも家ではこうなの。
起きたては掛け布団巻いてふらふらしてるから」と、
告げると竜彦は笑いながら、「いつも裸で床につくのか、
そんな悩ましい女には見えないけどな」と、からかうと玲菜は、
「裸で掛け布団を体に巻いて寝るのが好きなの。
でもこれから竜彦君と 一緒に寝る時は、
巻いて寝るの止めるわ。
私を包んでくれるから」と、意味し気に答えた。
竜彦、「それは 悩ましいね。
でも風邪引かない程度にしてくれよ」と、注意すると玲菜は、
「私を抱いて寝てくれれば、風邪なんて引かないわ。
あなたの温もりで温まるから」と、
逆らうと竜彦は敬遠気味に、
「オイオイ俺を湯たんぽ代わりにするなよ。
俺が風邪を引くぜ」と、遠慮をした。
すると玲菜は、「氷の妖精と付き合う時は、
覚悟しないといけないわね」と、笑った。
竜彦は、「それは氷の妖精ではなく雪女だぜ」と、
言い返すと玲菜は笑いながら、「雪女よりも、
氷の妖精の方が体は冷たいわ」と、対抗した。
竜彦は呆れ顔で、「負けたよ玲菜には」と、
言ってテーブルの椅子を引くと、玲菜を椅子に座らせた。
椅子に座った玲菜は俯き、「優しいのね。
私が目覚めた時、孤独を感じてしまう事に気づいたから、
書置きしたのね」と、尋ねた。
すると竜彦は、「俺も同じさ目が覚めると孤独になる。
一夜限りの女を抱いて、ホテルで朝目が覚めると女は居ない。
そんな思いをさせたくなくて、書いて置いた」と、
告げると玲菜はこの時、竜彦の真の愛を感じた。
そして思いに更けると玲菜は、「ごめんなさい、
私はあなたに何もして上げられなくて、
私が最初にあなたを愛したのに、
私から正式に交際を申し込んだのに、
今の私はあなたに頼りきりで何も出来ない」と、
嘆くと竜彦は、「俺にもくれたろ。
地元ではこんなワルで名高い俺と、付き合ってくれた」と、
その恩を玲菜に告げると、「今は有名な画家でしょう。
もうとっくに、ワルなんてレッテルは剥がれているわ」と、称えた。
竜彦、「そうでもないさ。
ワルの女と囁かれているぜきっと」と、自分を悪く言うと、
玲菜は急に感情的になり、「構わない、誰に何を言われ様とも、
私はあたなと生きるつもり、生きて行きたいの。
私はあなたを信じてる。
もうあたはワルには成らない。
あなたはただ、流されていただけに過ぎない。
でも自力でワルから這い上がったの。
もうこれからはすばらしい画家として、
名を馳せるわ」と、強く信じた。
それを聞いた竜彦は、「安心したよ。
君は強い心の持ち主だ。
それだけで俺は満足だ。
これから俺の支えに成るのは君だ。
そのお返しに今日誕生日を祝よ。
おめでとう二十歳の君へ。
そして束縛されない自由な世界にようこそ。
氷の上のやんちゃな妖精さん。
アイスエルフィン」そう言うと、テーブルに置いてあった、
シャンパンクーラーからシャンパンを出して、
冷えたシャンパンのコルクを親指で抜くと。
置かれていた二つのグラスに注ぎ、一つを玲菜に渡した。
玲菜は渡されたグラスを持ち、
竜彦は玲菜の持っているグラスにそっと、
自分が持っているグラスに当てて、「乾杯」と、
答えると玲菜も「乾杯」と答えた。
今宵二人は闇の人生から解放された思いを、
互いに分かち合う様であった。
オリジナル:http://blogs.yahoo.co.jp/kome125/folder/1536491.html




